最悪の再会
薄く色のついた眼鏡をかけたまま狼羅はしばらく相手を値踏みしていた。
男は狼羅の顔をなめるように見ている。
そして狼羅から漂ってくる花の香りをかいでいる。
鳥肌物の気持ち悪さだ。狼羅にとってそれがありがたいが、人を殺すときの良心の呵責を感じずに済むから。
狼羅は太いぶよぶよした首に手をかけた。そして微笑む。
そのしぐさでどうやら狼羅の素性を誤解したようだ。もともと誤解されるためにしたことなのでそれでいいが。
すでに二人っきりになっている。
狼羅は眼鏡をはずした。
眼鏡の蔓を引くと簡単に外れるようになっている。そして外れた場所から極細の針が飛び出した。
眼鏡を持った手はそのまま相手の方においてある。そしてそれはゆっくりと首筋に進んだ。
針が細いのと狼羅が手早いので痛みはほとんど感じなかったろう。
眼鏡の蔓を元に戻し、それから手に持っていることにした。
さすがに落としておいて誰かに拾われたらまずい。
男はしばらく立っていた。そして朽木が倒れるようにゆっくりと倒れていく。
さて、ちょっと悲鳴でも上げてみようか、そう思いつつ。男の手をつかんでまだ柔らかいその手を添えて自分の服を引き裂く。
これで、未成年者を襲おうとして心臓発作を起こした相手の出来上がりだ。
「きゃあああああ」
適当に悲鳴を上げてみる。
毒針は極細だ、きっちり解剖して調べないと痕跡は見つからないだろう。
そして、こんな不名誉な死に方をした人間の死因をわざわざ調べる可能性も低い。
そして、部屋の隅っこで適当に鳴きまねをしていると、どやどやと人が入ってきた。
引きちぎった服の断片を握った男が倒れている。
引きちぎられた服を着た少女が泣いている。
一+一は二と誰もが考えるであろう。
床に顔を伏せほくそ笑んでいると、不意に聞き覚えのある声がした。
もしかしたら聞き間違いかもしれないと思ったが、あの妙に粘っこい声は異様に脳内の記憶を引きずり出す。
おずおずと視線を上げれば、真っ白なつま先まで隠れるスカートが見えた。
スカートの上には引き締まった腰が、そして、狼羅は顔を直視する勇気がなかった。
瑯杏の声だ。
いまさらながら自分の特徴のありすぎる顔を恨んだ。
もしかしたら自分の顔など忘れているかもしれないが、それでも紫と金のオッドアイという珍しすぎる特徴を忘れるほど頭が残念ではなかったと思う。
「どうしたの、顔をあげなさい」
あげられるかと突っ込んでも通じないだろう。
「ヒ、ヒック」
しゃくりあげるような声を出してごまかす。
とにかく今自分は一切の行動ができないと言い張るのだ。
しばらく狼羅を見下ろしているような気配を感じたが、頑として顔を上げない。
「瑯杏様、こちらに」
さすがにしたいと同じ場所に置くのはまずいと思ったのか騒いでいた男の一人がそう言って出ていくよう水を向ける。
「早く出て行って」
唇だけでそうつぶやいた。




