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革命神話  作者: karon
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序章

 ポツンと小さな墓標の前に一人の少女が立ち尽くしていた。

 長い金と銀の中間色の髪は風になぶられて揺れていた。

 まだ幼児といってもいいその年頃の少女はただ風に吹かれるままたった一人で立ち尽くしていた。

 少女の家族はまず第一に墓標の中に眠る父親。そしてまだ生きている母親と二人の姉。

 その三人はここにはいない。

 少女はたった一人で墓標の前に立ち尽くしている。

 顔の向きを変えると、風が少女の顔にかかっていた髪を吹き払う。

 白い顔に目が大きく目立つ顔立ち。

 だがその目が問題だった。

 右が紫、左が金色。世にも豪華なオッドアイだった。

 猫のように釣りあがった眼はそれだけで見る者を不穏な気持ちにさせる。

 そのためか、父親以外の家族は少女を遠巻きにしていた。

 いつまでも墓地で風に吹かれ続けているわけにはいかない。

 少女はのろのろと墓標に背を向け、歩き出した。


「狼羅、いつまでそんなところにいるの」

 とげとげしい声で、少女に呼びかけたのは二番目の姉だった。

 年長の姉は何も言わない。何もしない。いいことも悪いこともせず沈黙を守るだけだ。しかしこの二番目の姉は違う。とにかく攻撃的なのだ。姉妹の中で一番攻撃的な性格をしているのではないかと思われる。

「浪蓮、お父様にご挨拶しないの」

 小さく首をかしげて見せる。このしぐさは姉が一番気に入らないしぐさだ。だからわざとそうしてみせる。

「死んだ人にあいさつなんてどうでもいいでしょう」

 ずいぶん前から、家族は父親派と母親派には分かれていた。少女、狼羅は父親派だったし、姉二人はどちらかというと母親についていた。

 そしてつい昨日父親が死んだ。

 狼羅は今更母親のもとに行こうとは思っていなかった。

 父が生きている時も母親は決して狼羅に近寄ろうとしなかった。

 だから、狼羅は家族のもとに戻るつもりはなかった。

「さよなら」

 唐突に言われた言葉に浪蓮は怪訝そうな顔をした。

 父親について自分たちをいやな目で見ていた妹、打が頼みとする父親が死んだ今この子は自分たちに従うほかないと信じていた。

 それ以外の道はないはずなのだ。

 長い髪が、風に舞う。

 かっちりと結いあげられて、編まれた浪蓮の髪は決して風になびいたりしない。

 妹は異形めいた眼でまっすぐに自分を見た。

「さよなら」

 はっきりと言う。

「どこに行く気?」

「お葬式でね、伯父さんがうちにおいでって言ってくれたの」

「そんなの、母さんが許すはずが」

「狼羅がいいならそれでいいって言ってたよ」

 浪蓮はめまいを覚えた。まさか母親が、目の前の妹を捨てようとするほど疎んじていたことに気がつかなかった。

 そのまま少女は歩いて行く。家とは反対方向に、そして見慣れない車に乗って少女はそのまま姿を消した。


 少女が向かった伯父の所在地が、謎の壊滅を遂げたのはそれからわずかひと月後のことだった。

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