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「普通に頑張れば、来られると思ったんですけど」
「片道三時間をいけると判断するな。というか、まあ来たとしても、帰宅時間を考えろ。何に巻き込まれるか解ったもんじゃねえだろうが」
懇々と説教をされる大介は、ぐうの音も出ないようだ。鯨は「まあまあ」と仲裁に入る。
「この子も反省してるみたいだし。とにかく無事に家に帰すことを考えましょうよ」
「家に帰すっつっても、この距離じゃ一人で行かせるわけにはいかねえだろうが。つか、このあたりの地区で中学生一人放り出しましたなんて知れたら、大事になるぜ」
「じゃあ、パトカー出して送ります?」
「お前何年この仕事やってんだ。今までそんな事情でパトカー引っ張りだしたことなんか無かっただろ。こういう時は保護者に引取り来てもらうんだよ」
すると大介が、「え」と声をあげた。
「それは困ります」
「は? なんで?」
「俺、塾に行くって嘘ついて出てきちゃったので」
「嘘?」
「はい。俺、来週学校でテストがあるんです。だから、お姉ちゃんはサーカスなんて絶対許してくれないと思って、俺は“塾で自習する”って嘘つきました。悪いと思ったけど、このサーカス、今回で日本の公演は終わるみたいだったから。俺、どうしても行きたくて……だから、お姉ちゃん呼ばれたら、嘘がバレてものすごく困ります」
大介は淡々と説明するが、今までののんびりした様子よりも、若干口早になっていた。本当に焦っているらしい。鯨が「この子、事情でお姉さんと二人暮らししてるそうです」と鬼に伝えると、彼はじと目で大介を見た。
「つっても、そんなの自業自得だろ」
すると大介はすぐに、「じゃあいいです」と席を立った。
「俺、一人で帰ります」
「馬鹿か、無理だって――ちょっと、マジで帰ろうとすんな! 鯨、捕まえとけ!」
命じられた鯨は、大介の制服の首根っこを掴んだ。無表情でじたばたとする大介に、鯨は嘆息する。
「……ていうか、もう良くないですか?」
「はあ?」
「保護者呼ばなくても」
「じゃあどうすんだよ」
「俺が送ってきますよ、電車とかで。……だって、お姉さんと二人暮らしってことは、大介君を迎えに来るのはお姉さん一人ってことでしょう。女性だけでここまで来てもらうなんて、危ないですよ。……それに、この時間ですしね」
ううん、と鬼は唸った。気乗りしない様子であるが、鯨は笑みを作る。
「大丈夫でしょう。……多分、今日も異常ありませんよ。いざとなったら、応援でも呼んでください」
鬼は暫し黙っていたが、無表情の大介にじっと見つめられ、結局溜息をついた。髪をガシガシと掻いた彼は、「解ったよ」と言った。
「確かに、女一人でこっち来させるのはまずいしな」
「呼ばないでくれますか」
「言っとくけど、別にお前のサボリ云々に合わせたわけじゃねえからな」
「それでも助かる。ありがとうございます」
頭を下げる大介に、鯨は「もうサボったりするなよ」と言った。無表情でこっくり頷くそのさまに、鬼が「お前はミミズクか何かの生まれ変わりか?」と真顔で聞いていた。