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定期テスト開始 1

第19話

 あれから数日間ずっと勉強漬けの日々が続き、とうとう定期テスト当日となった。これから一週間をかけて筆記、実技のテストが行われる。

 余談だが、テスト問題は期限ギリギリで提出されたとかされていないとか。そのせいで、とある講師が色々と苦労したとかしないとか。

 何はともあれ、定期テスト当日の朝。今にも死にそうな顔をしているアシュラと、眠そうな顔をしているグレイ、余裕綽々な顔をしているエルシアが教室に入る。

 担当講師は当然キャサリンなのだが、規則に則り、時間になるまでは教室に姿を現さない。

 その間、アシュラが机に教科書を広げながら最後の大詰めをしていた。


「あぁぁぁぁ……。やべぇぇ……」

「もう。うるさいわよアシュラ。ていうか、これで赤点取ったら本気でしばくわよ」

「そうだよな。俺らがどれだけお前の勉強に付き合ってやったか」

「うぐっ……。わかってんよそれくらい……。意地でも赤点は回避してやる……つもり、だ」

「おいおい、弱気になってんなよ」


 どんどん語尾が小さくなるアシュラに不安を抱くグレイとエルシアだったが、今更彼らにしてやれることはなく、どうか自分達の苦労が無駄にならないよう祈るばかりであった。


 ちょうどその頃。《プレミアム》以外のクラスの者達も似たような緊張感を放っていた。


 火の属性を持つ生徒達のクラス、《イフリート》では。


「さあ、あんた達。アタシがみっちり教え込んであげたんだから赤点なんて取ったら許さないからね!」

「ぐへぇ……。そ、そりゃあ勿論オイラだって赤点なんて取りたくはないッスけど……」

「やれるだけのことはやるよ……。うん……」


 一人熱く燃えているアスカを半分死んだような目で返事するゴーギャンとメイラン。

 その様子をクラス代表、レオンはやや苦笑しながら眺めていた。

 アスカは他人に教えることはそこまで苦手ではないはずだが、その方法は少しハード過ぎるところも確かにある。メイランとゴーギャンが疲れきっているのはそのせいだろう。

 しかしその目は半分死んではいたが、もう半分には微かな自信も浮かんでいた。

 成績上位者になれるかはともかく、赤点だけは何とか回避出来そうだな、とレオンは密かに安堵し、アスカに心の中で礼を言った。


 一方、水属性の生徒達のクラス、《セイレーン》では。


「それじゃあ賭けをしない? この中で一番成績悪かった人は、他の三人の言うことを何でも一つ聞くこと!」

「ふん。そんなくだらない賭け事、やる意味はない」

「激しく不本意ですが、私もクロードと同意見です」

「なんです。二人とも。折角面白そうでしたのに」


 このクラスの序列上位四人は全員そこそ頭が良い。特に序列一位であるアルベローナは幼い頃から英才教育を受けており、既に今回のテスト範囲は完全に覚えている。負ける要素は微塵もなかった。


 故にその賭けとやらには何の抵抗もないのだが、頭の固いクロードとラピスの二人は賭けという行為事態を嫌がった。

 しかし、底意地の悪いエコーはニマニマ笑いながらその二人を挑発した。


「おんやぁ~? まさか二人とも、眼鏡キャラのくせに自分の学力に自信がないのかな~? そんなんじゃキャラがぶれちゃうよ。それともやっぱりエコーに負けるのが怖いのかなぁ~? なら正直にそう言いなよ~。エコーだって鬼じゃないからね。ガクブルしてる二人にそんな無理強いなんかしないからさっ」


 はは~ん、と笑うエコーのムカつく顔を見て、クロードとラピスの額に青筋が浮かび上がる。


「ほう? 貴様がそこまで言うならとことんまでやってやろうではないか」

「そのムカつく表情を二度と出来ないように徹底的に叩き潰してやります」


 全く、安い挑発に乗る二人だな。思考回路までそっくりとは扱いやすくて助かる、とエコーは内心で不敵に笑い、筆記テストのみの順位で競うというルールを決め、この四人のみで賭けテストが始まろうとしていた。

 そしてエコーは自分が勝った時、二人にどういう命令をしようかと、少し気の早い想像をし始めるのであった。


 そして、風の属性の生徒達のクラス、《ハーピィ》では。


 このクラスの生徒の一人であるシャルルが、未だ頭に疑問符を浮かべながら最後の悪あがきをしていた。


「むむむむむ……。ややこしいでござるぅ……」

「ここはこの公式を当てはめるんだよ。他のもそう。だからこの公式だけ何とか覚えておけば大丈夫だから。ね?」


 そのシャルルに最後のアドバイスを与えているのは、シャルルの親友、コノハだ。

 どうもシャルルは今までは学校というものに通ったことはないらしく、文字の読み書きは問題なく出来るそうなのだが、計算問題などが壊滅的で、どうにも苦戦しているらしかった。


 そんな二人の様子を遠くから見ているのはカインとソーマである。二人は既に教科書を鞄の中に直していた。それは余裕から出ているものと諦めからきているものの二つがあった。


「今更足掻いても無駄だってのに、頑張るねえあいつら」

「ソーマ。そう言う君はそんなので本当に大丈夫なのか? 赤点取ったら大会出られないんだぞ?」

「いや、そもそも大会自体めんどいし、テストはそれ以上にめんどくさいんだよ。勉強とかやってられるか」

「おいおい……」


 カインはやる気の見られないソーマに呆れるも、ソーマは一切気にしない。


「やれやれ。赤点になれば夏期休暇に補講もあるっていうのに、随分余裕なんだな」

「…………えっ?」

「え?」


 ソーマがそんなの初耳だ、と言わんばかりの驚愕の表情を見せ、思わずカインも聞き返す。見るとソーマの表情はみるみる暗くなり、すぐさま鞄から教科書を取り出した。


「それを早く言えよ!!」

「え? 知らなかったのか? 普通に先生方が言ってただろう?」

「知らねえよ!」


 聞いていないはずはないんだが、と思うカインだったが、そう言えば講師がテストの説明をしている際、ソーマは机に突っ伏して寝ていたことを思い出した。

 つまるところ、ただのソーマの自業自得である。


「くっそ! 最低だっ! 補講とか何よりめんどくせえじゃねえかよ!」

「馬鹿だな、ソーマ。ていうか、今更やったところで無駄なんじゃなかったのか?」

「はあっ!? 諦めたらそこで終わりだろうがっ!!」


 さっきと言ってることがまるっきり違っていた。台詞自体は格好良く聞こえるが、言っている人物とその状況を見てどうにも格好が付かない。仕方がないのでカインは要点だけを重点的に教え、最後の悪あがきに付き合ってやることにした。


 ところ変わって、土の属性を持つ生徒達のクラス、《ドワーフ》では。


 他のクラスとは違い、生徒達は騒がずに最後の追い上げをしていた。


「ここは、うん。大丈夫。覚えてる」


 その内の一人、マルコシウスは何度も何度も同じ問題を繰り返し解き、復習をしていた。

 そして、今度は別の教科の勉強をしようとしていると、近くから甘ったるい声が聞こえてきた。


「代表~。わたし、この問題わからないの。教えてぇ~」

「ふむ。そこはここをこうしてだな──」

「うわぁ、わかりやす~い。流石代表っ。ありがとうございますぅ」

「あ、あぁ。これくらいなんということはない」


 クラス代表、ウォーロックはクラスメイトであるクリムの扱いに少々苦労していた。

 何でもクリムはウォーロックに好意を抱いているようで、ウォーロックを前にすると口調と性格が変わるのだ。

 そのことをウォーロックは知っていることなのだが、何故かクリム本人のみ気付かれていることに気付いていない。

 

 マルコシウスはそんなクリムを見て小さく溜め息を吐く。


「どしたんだいマルコ。溜め息なんか」

「あぁ、カナちゃん。ううん何でもないよ。ただクリムちゃんがいつも通り斜め上方向に暴走してるなぁって」


 カナちゃん。もといカナリアはマルコシウスの指す方向にいるクリムを見て「あぁ……」と苦笑混じりに頷いた。


「人って、あそこまで変われるもんなんだねぇ」

「は、はは……」


 そんなことを言われているとは露ほども思っていないクリムはウォーロックにテストでいい点数が取れたら町に一緒に出掛けてもらえないか、と誘い、ウォーロックはたじろぎながら了承した。


「おっしゃあ!! 燃えてきたでぇ~!!」

「素が出ちゃってるね」

「あれで気付かれてることに気付かないんだから、重症だね。あれかい? 恋は盲目、ってやつなのかねぇ」


 俄然やる気が出てきたクリムをマルコシウスとカナリアは、色々思うことはあるけれど、上手くいくといいな、とも思うのであった。


 そしてとうとう運命のチャイムが鳴り響き、全学年全クラス一斉に筆記テストが始まった。

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