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学生の本分 4

 寮に戻った後、キャサリンからの長々としたお説教を受けた三人。最後には「いい加減泣きますよ」という謎の脅しを受けた。

 そのため次の日は大人しく授業が終わったあと、教室でテストに向けての勉強をしていた。


「はぁ……。テストとか消えてなくなればいいんだ……」

「何よその全国の学生が言いそうな台詞。あんたがいくら文句言ったとしてもテストはなくならないわよ」

「ぐへぇ……」

「ほら、さっさとペンを取れドアホ。せめてアホくらいにはレベルアップしろよ」

「グレイてめえ……。後で覚えてろよ」

「あっ、じゃあもう教えんのやめるわ」

「すんませんっした!!」


 アシュラは手のひらを返すようにすぐさま土下座した。そのいっそ清々しさすら感じるその土下座をグレイとエルシアは冷たい目で見下ろしていた。


 勉強が嫌いなアシュラがプライドを圧し殺してまでグレイ達に勉強を教わるには理由があった。と、言うのも今月の月別大会では定期テストの成績が関係してくるからだ。


 定期テストは筆記と実技の二種類がある。アシュラほどの実力ならば実技テストは学年上位になるのはほぼ確定的と言っていい。

 だが筆記テストの方となると話は別だ。

 アシュラは最近になるまで、まともに文字の読み書きも出来なかった本物の馬鹿だ。

 勿論それには彼の様々な事情が関係してはいるのだが、彼自身勉強が嫌いなので自業自得な部分もあった。

 しかし今回のテストで赤点を取ってしまえばその時点で大会出場権を失い、夏期休暇に補講も行われる。それだけは何としてでも避けねばならなかった。

 だからこそ、アシュラは下げたくもない頭を下げているのであった。


「くそ……。最悪だぜ。グレイに頭を下げなければならなくなる日が来るなんて……」

「何でナチュラルに罵倒してんだこいつ。自分の状況わかってないだろ」

「だからこその馬鹿なんでしょ」


 何とも辛辣な言葉を浴びながらもアシュラはもう一度ペンを握り直す。


「あぁ~。ったく、嫌なシステムだぜ。魔術師は戦ってなんぼだろ。筆記テストなんていらねえって」

「何言ってんのよ。魔術師ってのは脳筋じゃやっていけないのよ。力と知識、両方持ち合わせてこそ真の魔術師といえるの。そう思うとよく考えられているシステムよね」

「エルシアの言う通りだ。知ってるのと知らないのとでは戦闘において生死を分けることもある極めて重要なファクターだ。舐めてると死ぬぞ?」

「そういうあんたも授業中よく寝てるでしょうが」


 エルシアはやれやれと溜め息を吐きながら教科書を開く。


「じゃ問題。エレメンタルとは何?」

「は? ……普通に魔法、とかじゃねえのか?」

「はずれ。確かにそう呼ぶ人もいるけど、正式には四大元素のこと。つまり火、水、風、土の四つの属性のことを総称して指す言葉のことよ」

「ん? でもよ。俺らはその四属性のどれでもねえのに、魔力中枢(エレメンタル・コア)やら魔法武器(エレメンタル・アーク)って言うのかよ」


 無知なアシュラは腕を組みながら首を傾げる。それも知らないのか、もしくは忘れたのだろうと、エルシアは頭痛のしてくる頭を抱えながら説明する。


「そうね。確かにそうだわ。でも私達の魔力、《プレミアム・レア》は超稀少で滅多なことでは生まれてこないってことは知ってるでしょ。だから魔力の属性はずっと四つだけだと思われてきた。そのため初めて《プレミアム・レア》が発見された頃には既にエレメンタルという名が定着してしまっていたのよ」


 更に《プレミアム・レア》は百年に一度生まれてくるか来ないか、というくらいの稀少度であるため、今更エレメンタルという名を変更する必要もないとされ、そのままその名で確定することとなった、という説明を付けたした。


「んじゃ、次の問題。魔力、及び魔術師の稀少度の名称を上から順に答えよ」

「なんじゃそりゃ? まあ、一番上ってのはやっぱ《プレミアム・レア》のことだろ? その下とかあったのか?」

「あぁ、これも知らねえのな。……もう諦めて赤点取れば?」

「諦めんじゃねえよ!!」


 アシュラは必死の形相で食らいつく。グレイもまた頭を悩ませながらも答え合わせをする。


「正解は《プレミアム・レア》、《ウルトラ・レア》、《スーパー・レア》、《レア》の順だ」

「ほうほう。で? その違いは何だよ」

「《プレミアム》は俺達みたいな未確認、もしくは超稀少な魔力を持つ者。《ウルトラ》は属性を二つ持っている者。《スーパー》は派生型の魔力を持つ者。《レア》は魔力を持つ者だ」


 つまり、水属性の派生型、氷属性を持つキャサリンは《スーパー・レア》の魔術師ということになる。《ウルトラ・レア》は四属性のうち、二つの属性を持つ者を指し、これも《プレミアム・レア》とほぼ同等の稀少度である。


「ほう。知らなかったぜ。二つの属性を持つ奴もいるんだな」

「そうだ。ま、それも滅多にいないけど、お前はそういう奴がいるってことを知らなかっただろ? その無知が命取りになる状況もあるんだ。だからこそ──」

「わかったわかった。だから今こうして勉強してんだろ?」

「今勉強してる理由はあんたが月別大会にどうしても出たいって言ってきたからだったはずだけど?」

「うっせ。揚げ足を取るんじゃねえっての」


 アシュラは苦い顔をしながら教科書に視線を落とす。


「ん~。じゃこれは何だ?」


 そう言ってアシュラが教科書を二人に見せてきた。


「《ギフト》のことか?」

「ていうか教科書に書いてあると思うんだけど?」

「教科書読んで全部理解出来りゃお前らなんかいらねえよ」

「……帰っていいのかしら?」

「誠に申し訳ございませんでしたっ!」


 何だか土下座が軽くなってきたような気がしないでもなかったが、勉強を教わる礼としてここ最近の外食は全てアシュラの奢りとしてきたので、今だけは許してやろうとグレイとエルシアは顔を見合わせながら、何度目かわからない溜め息を吐いた。


「《ギフト》っていうのは、教科書に書いてあるように、魔術師の家系でない家に生まれた魔力を持つ子供のことよ」

「で、そのような子供が生まれる要因としては、遠い先祖の中に魔術師がいた可能性と、突然変異の二つがある。そのどちらもがかなり珍しい事象で、別名『精霊に愛された者』って呼ばれてる」


 今の世の中は昔ほどではないが、魔術師が強い権力を握っている。そのため、《ギフト》が生まれた家は、大層その子供を大切にする。


「確か、《イフリート》のメイランがその《ギフト》だって話を聞いたな」

「へえ、そうなの…………って!? そんな話いつしたのよ!?」


 寝耳に水の話を聞かされ、エルシアはグレイに食って掛かる。そのグレイは何で怒鳴られるのかわからないまま話す。


「この間図書館に行った時に偶然会ったんだよ。何でも『ボクがここにいるなんてアスカは気付かないだろうからね』とか何とか言ってたな。で、その時色々とな」


 そしてその後やって来た、同じく《イフリート》の生徒であるアスカに連れ去られていった。

 何故かそのアスカは凄まじい表情をしていたが、触れるとこちらに飛び火してきそうだったので、グレイは静かに合掌しながらメイランが連れ去られるのを見守ったのだった。


「へぇ~。ふ~ん。そうなんだ~」


 グレイは包み隠すことなく事実を話したのだが、何故かエルシアの機嫌は更に悪くなった。


「随分と仲良くなったものね。そんなことまで話すだなんて」

「仲良く……? まあ、確かに悪くはないけどな。今度一緒に出掛ける約束もしたし」

「はっ? ………………はぁああっ!?」


 エルシアは思いきり椅子から立ち上がり、その反動で椅子は倒れる。が、エルシアはそんなこと気にも留めずにグレイに詰め寄った。


「何でそんなことになってるのよ!?」

「そんなこと、って言われてもな。覚えてるだろ? この間やった決闘の時の借りを返したいってことで、飯奢ってもらうことになったんだよ」


 グレイは冷や汗を流しながら説明する。

 グレイは先月メイランと決闘を行い、メイランに貸しを作っていた。

 図書館で会った時にその借りを返したいとメイランが言ってきたのだが、別に何か頼みたいことも無かったので適当に飯でも奢ってくれ、と頼んだのだ。


「あ、あんたねぇ……!」

「ちょ、何で怒られてんの!?」

「知らないわよ!」


 そう吐き捨てるとエルシアは鞄を持ってそのまま教室を出る。


「お、おい! 俺の勉強──」

「知らんっ!」

「ええっ!? ちょい、エリー!?」


 エルシアはアシュラの言葉を無視し、バタンッ! と勢いよく教室の扉を閉めた後、そのまま立ち去っていった。


「何なんだよ、ほんと……?」


 一人訳のわからないまま、呆然とするグレイを見てアシュラは、グレイの鈍感さとエルシアのツンデレさ、そして、勉強を教えてくれる人物が減った、という三つの理由を混ぜ込んだ溜め息を盛大に吐いた。

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