表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
二章 エレメンタル・トレジャーウォーズ
83/237

魔術師の宝 3

「おいこら。言っとくがそのトロフィーは俺が大量にマス解放に貢献したからこそ取れたんだからな! 自惚れんじゃねえぞ!」

「そうよ。あんた一人じゃ取れなかった賞なんだから調子乗らないでよね」

「自惚れてねえし調子にも乗らねえっての。てか、これよく見てみろ」


 アシュラとエルシアは帰ってきたグレイにぶつぶつと小言を言ったが、グレイが手渡してきたトロフィーを見て二人は何故グレイがトロフィーを獲得したのかを理解した。


「なるほどな。ははっ。こりゃあいいや」

「確かにそうね。てか、むしろ当然かしら」

「だな。これなら二人とも文句ないだろ? にしても、あの人も粋なことをしてくれるもんだな」


 三人全員が納得した理由。それはトロフィーに刻まれた名前にあった。


 そのトロフィーにはこう刻まれていたのである。


『MVP《プレミアム》ミュウ=ノーヴァス』と。


~~~


「俺に秘策がある」


 時は遡り、トレジャーウォーズ前日。《プレミアム》の寮の一階。


 グレイ、アシュラ、エルシアの三人は明日の大会の作戦を考えていた。そこでグレイがいたずらを思い付いたような無邪気な笑顔を浮かべていた。


「秘策? 何よそれ。説明しなさい」

「ああ。わかってるって。つっても別に難しいことじゃない。宝探しチームとマス解放チームに分かれるんだ」

「はぁ? ただでさえ三人しかいないのに更に分けんのかよ」

「三人? 何言ってんだよ。なぁ──ミュウ」

「はい。わたしを合わせて、合計四人です」

「「……えっ?!」」


 グレイの呼び掛けに答えるミュウ。それだけだと何もおかしなことはない。

 にも関わらずエルシア達が驚いたのには理由がある。何故なら、ミュウの姿がどこにも見当たらなかったからだ。

 しかし、声はすぐ近くから聞こえた。キョロキョロと辺りを見渡す二人だったが、やはりミュウの姿は全く見えなかった。


「ほう。すげえな。無属性の魔力を唯一感じ取れる二人にすら見えないんなら、この魔法の力は本物だな。よし。もう魔法解いていいぞ」

「わかりました」


 そう言うと、ミュウの姿が突然現れる。そのミュウはグレイのすぐ隣でちょこんと正座していた。

 そんないきなり現れたミュウに驚きながら、エルシアが恐る恐るミュウに尋ねる。


「えっと……? ミュウちゃん。もしやとは思うけど、ずっとそこに座ってたの?」

「はい。マスターがお二人で魔法の実験をする、と言ってたので、ここでじっと座ってました」

「マジか……。全然気付かなかったぞ。どういうことだよグレイ?」


 心底驚いたような顔をする二人に問い詰められ、グレイはタネを明かした。


「新しい魔法だ。この一週間の練習で貯まった分の魔力で作られたみたいなんだ」


 グレイのアーク、ミュウ。彼女はアークでありながらも自身のアークを所持していた。

 そのアーク、《空虚なる魔導書エンプティ・グリモワール》は、蓄えた魔力を使用し魔法やアークを作り出すアークである。

 今、ミュウの姿を見えなくしていたのは、その新たな魔法の力だったのだ。


「──てことは、アークも新しいのが出来たのか?」

「そう、だな。いや、でもやっぱり少し違うかもな。この魔法は《蜃気楼の聖衣(ミラージュ・ローブ)》のもう一つの能力と言った方が正しいかもしれない」


 そう言うとグレイは立ち上がり、《空虚なる魔導書》を顕現させた。


「んじゃ、まずは実際に見せてやるよ。《特注顕現オーダーメイド 隠密の聖衣(ステルス・ローブ)》」

受諾アクセプト


 グレイの呼び掛けにミュウが答え、《空虚なる魔導書》から無色の魔力が溢れだし、グレイの体を包み込む。


 そして現れたのは視認することがかなり困難な半透明の聖衣。それがグレイが手に入れた新たなアークであった。


「全て等しく隠し透せ。《ステルス・ゼロ》」


 そしてそのアークの能力は透明化。《ミラージュ・ゼロ》とは違い、完全に姿を消し去ることが出来るが、実体は消えておらず、こちらから攻撃を当てられるが、逆に相手の攻撃も当たるデメリットも存在する。


 しかしその隠密性は非常に高く、今言った通り無属性の魔力を感じ取れる唯一の存在である二人にすら、その姿を認識されなかった。


 気配、呼吸音、足音、声などは消せないが、気を付けさえすれば存在を認識されることなく相手に奇襲を仕掛けることだって可能である。そしてグレイやミュウだけは互いに透明化している相手を見ることが出来るので連携することも出来る。


 相変わらず攻撃力のある魔法ではないが、これもまた使い所の多い有能な魔法でもある。


「それにこの魔法は《ミラージュ・ゼロ》と比べて魔力消費量も少ない。だからこれを駆使してミュウにも宝探しに協力してもらうことにする」

「なるほど。つまり俺とエリーで暴れまわって地図のマス目を稼いで、グレイとミュウちゃんで宝を回収するわけだな」

「そうだ。それに俺とミュウなら《ステルス・ゼロ》を使わなくても魔力を感じ取られることもないから、隠密行動に長けてる。エルシアの速さで宝箱を運ぶのも一つの手ではあるけど、その分目立つことにもなるからな。それなら戦いに専念して、偶然宝箱を見つけるようなことがあったらそれを持って全力で逃げに徹するようにしてくれ」

「はいはい。了解したわ」


 その後、三人はじゃんけんでリーダーを決めた。ちなみに、今回はグレイが勝ったので、グレイがリーダーである。

 そのことにアシュラが「負けたら承知しねえ」と釘を刺し、エルシアが「ま、宝探しを専門にするんだから戦闘は最低限に抑えてよね」と忠告した。


 何はともあれ、作戦がだいたい固まってきた。後は──。


「マスター。わたしは、何をすればいいのですか……?」


 グレイは小首をかしげるミュウに一晩かけて大会のルールと地図の読み方を教えた。幸いミュウは学習能力が高く、一日で地図が読めるようになった。代償として睡眠時間はほとんど取れなかったが……。


~~~


 そして当日。大会が始まってすぐにグレイはミュウを呼び出した。しかし、ミュウを呼び出す際、アークとして顕現させたわけではない。

 謎の多いミュウは何故か本人の意思で自在に出入りすることが出来るらしく、そうやって出てくる場合、最初だけはグレイの魔力を多少使うが、それ以降は本人が保有している魔力を使って外に出続けることになる。

 そうすることによって、グレイの魔力消費量を抑え、自由行動を取れるようにした。ちなみにデメリットとして、その場合ではグレイの身体能力や魔力は強化されない。


 ミュウを呼び出した後、グレイ達はミュウに三枚中二枚の地図を渡した。ミュウはグレイのアーク。つまりグレイの魔力を有しているため、彼女にも地図が読めるのであった。

 そしてグレイ、アシュラ、エルシアは、一つ宝箱を手に入れるまでは一緒に行動することにして、その後は好き勝手に大会に挑む。という作戦を決行させた。


 アシュラは序列上位者達と戦って勝つために。

 エルシアは各クラスの敵情視察を行うために。

 グレイは魔獣を倒して地図を更新するために。


 そして宝探しを命じられたミュウは無表情ながらも張り切っていた。

 誰にも見つからないように注意しながら他クラスの生徒を倒したり、道すがらの魔獣を倒したりしながら宝箱を探した。


 そうして二枚の地図はどんどん更新されていき、二つの宝箱を回収して陣地へと運んだ。ちなみに一つ目を運んできた時にはもうグレイの運んできた宝箱が一つあった。


 そして更にもう一つ、《セイレーン》と《ドワーフ》の生徒が争っている場面に割り込み、横から宝箱を奪い去ったりもした。


 その宝箱を運んでいる途中、《ドワーフ》の序列二位が木々を薙ぎ倒しながら当てずっぽうでミュウへと迫ってきたので、《ステルス・ゼロ》を発動させた状態で不意討ちし撃退したりもした。


 それにより、ミュウが集めた宝箱は計三個になった。ミュウは、これならマスターも喜ぶはず、と思いながらも更に宝箱を集めるために地図を見る。

 そこで洞穴に宝箱の在処を示すマークがあり、向かっていると《空虚なる魔導書》が顕現されたことに気付き、急いでその魔導書の魔力を感じる方向へと走った。


 ようやくグレイの元に辿り着くと、グレイはBランクの魔獣と対峙していた。

 そのすぐ近くには《ハーピィ》の序列一位のカインがいたのですぐさま《ステルス・ゼロ》で姿を消してから、グレイを手助けするために魔獣の攻撃を殴って弾いた。

 その後、グレイのアイコンタクトを受けてカインを気絶させて、二人がかりで魔獣を倒し、更にもう一つ宝箱を回収。


 結果として、魔獣大量撃破。他クラス生徒数人撃破。《ドワーフ》序列二位撃破。《ハーピィ》序列一位撃破。Bランク魔獣撃破。宝箱四つを一人で獲得。


 これほどの成績を叩き出したミュウがMVPになるのは当然の結果であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ