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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
二章 エレメンタル・トレジャーウォーズ
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魔術師の宝 2

 あれから、グレイ達三人はリールリッドによる大会の終了宣言が森に響き渡るまでずっと眠ったままだった。それどころか動けないキャサリンの代理の講師が呼びに来るまで起きる気配すら見せなかった。


 大会終了宣言の後、生徒全員が最初に集まった集合場所に戻ってきた。見れば全員がボロボロでふらついていた。

 その中でも一際ズタボロになっていたのは各クラスの序列上位者達だった。


 そして、やや遅れてグレイがエルシアをおぶり、アシュラを引きずりながら戻ってきた。


「あっ、ちょっと! さっさと下ろしなさいよ! 歩けるまでは回復してるって言ってんでしょ!」

「ちょっ、まっ、ぐえっ! く、くそっ。さっさと手ェ離せグレイ! 首締まって窒息すんだろがっ! つかお前、いつもいつも俺の扱い雑過ぎだろ!」

「うるさい……。眠気を押して運んでやってんだからせめて静かにしておこうっていう優しさはねえのか?」

「なら下ろせばいいでしょうがっ!」

「だから手ェ離せって散々言ってんだろが!」


 三人は大会が終わって疲れきっているはずだというのに、いつものようにぎゃいぎゃいと騒がしかった。


 ようやく生徒全員が戻ってきたことを確認し、リールリッドが壇上に上がり、咳払いを一つしてから話し始めた。


「やあ、おかえり。私の愛する生徒諸君。まずはお疲れさまと言っておこうか。今年度の一年生は例年よりも優秀な生徒が多く、非常に見応えのある大会だったよ」


 リールリッドは生徒達を賞賛するが、そんな生徒達の表情はどこか暗い。その原因は明らかである。そんな中、一人の生徒が代表して立ち上がった。


「学院長。お話しの途中、大変恐縮なのですが、質問の許可を頂きたい」

「ほう? 何だね、ウォーロック君」


 リールリッドはウォーロックの名を呼び、質問を促す。ウォーロックは一礼してから、ずっと気になっていたことを口にする。そしてそれはアレ(・ ・)と遭遇した生徒全員が聞きたかったことでもあった。


「我々は大会の途中、Bランク相当の魔獣と対峙しました。しかし、この森にはBランク相当の魔獣は出没しないのではなかったのですか?」

「ふむ……そのことか」


 リールリッドはわざと考えるような素振りを見せる。事情を知っている講師はリールリッドはどのように話すのかをハラハラとしながらじっと待つ。

 そしてリールリッドは不敵な笑みでこう言った。


「確かに私はこの森にはFからDランクの魔獣しか出ないと言ったな。だが──あれは嘘だっ!!」

「「「………………はああああああっ!?」」」


 リールリッドの発言を聞いた全生徒が、一瞬黙り込み、次に一斉に叫んだ。しかし、生徒を黙らせてからリールリッドは説明を始めた。


「そもそも最初に私はこうも言ったはずだ。この大会は実戦を想定してのものであると。なら、情報にない敵の出現する可能性だって十分にある。それこそ、予想外の強さを持つ魔獣が現れたりな。違うかね? ウォーロック君?」


 その言葉に黙り込む生徒達、その中でずっと立ったままリールリッドを見つめていたウォーロックに問いかける。ウォーロックはしばし考え、やがて首を縦に振った。


「確かに。実戦ではいつ、どこで、何が起こるかわからない。予測は出来ても断定は出来ない。学院長の仰る通り、不測の事態などよくある話でしょう。そう言うことなら、こちらからは何も言うことはありません」

「そうか。納得してもらえたようで何よりだ」


 リールリッドはこの場でも大胆に嘘を吐く。魔獣襲来の本当の意味を包み隠して。

 彼女──リールリッドは《虚言の魔女》と呼ばれている。その二つ名自体を知っている者は少ないが、生徒達からは嘘つき学院長と認知されているため、ほとんどの者が疑問を持つことなく、すんなりその嘘を信じた。


 しかし今回はその嘘を真実だと思っている方が幸せである。つまり、全部やらせだったと。そう思わせることにより、死を間際にしたという消しきれない恐怖をわずかでも拭うことが出来たからだ。


 だが、その体験自体は決して悪いものではないとリールリッドは思っている。

 恐怖とは生物にとって大切な感情だ。恐怖を感じない方が良いと考える者は多くいるが、それは裏を返せばただただ無謀なだけとも取れる。

 相手に恐怖するからこそどう戦うべきか、もしくは撤退すべきかの戦略を練ることができ、恐怖するからこそ何としても生き残ろうと足掻くのである。

 だからこそ、今回はむしろ貴重な体験だったといえるかもしれない。だが無論、それはただの結果論に過ぎない。

 中には消えないトラウマを生んでしまったかもしれない。最悪、その生徒の人生を大きく変えたことになったかもしれない。

 でも、それをマイナスと捉えるか、プラスと捉えるかはどこまで行っても最終的には本人次第である、と思っていた。非情かもしれないが、魔術師の世界は実力主義の世界なのだからと割り切った。

 だからこそ、リールリッドはその魔獣を放置したのだ。


「しかしまあ、イレギュラーとして投入したBランクを全て撃退されるとは思っていなかったよ。優秀な生徒が育っているようで私も鼻が高い」


 嬉しそうに、そして高らかに笑うリールリッドだが、とある一人の生徒からは鋭い目付きで睨まれていた。それを承知で無視し、誤魔化すように話を続けた。


「では次に、今大会のMVPを発表しよう」


 MVPという単語に、生徒全員がざわつき出し、集中して耳を傾けた。


 今回の大会は宝探しであり、宝を多く集めたクラスの勝ち、というわけではないが、一番多く宝を獲得した者、もしくは一番の活躍をした者は特別に表彰されることになっていた。


 しかし、リールリッドはそれをわざと黙っていた。生徒達の驚く顔を見たいがためだけに。


「こほん。では先に各クラスの宝箱獲得数から発表しよう。ちなみに宝箱は全部で二十五個だ。それでは発表する。

《イフリート》の獲得数は五個。

《セイレーン》の獲得数は四個。

《ハーピィ》の獲得数は四個。

《ドワーフ》の獲得数は七個。

《プレミアム》の獲得数は五個だ」


 その発表に一同騒然となった。学年一位のウォーロック率いる《ドワーフ》が一番多く宝箱を得た、ということに驚いたわけではない。

 たった三人・ ・しかいない《プレミアム》が同率で二番目に多く宝箱を獲得しているということに皆驚いたのだ。


 一体どんな戦術を組めばそのような結果を出すことができるのか。生徒達は一斉に《プレミアム》を見る。


「眠い……」

「シャワー浴びたい……」

「腹減ったぁ……」


 本当に、こんなので一体どうやれば……。と生徒全員がそう思った。


「で、とうとうMVPの発表だ。今回のMVPは──」


 ごくり、と喉を鳴らす。リールリッドは一拍置いてからゆっくりと口を開いた。


「《プレミアム》グレイ=ノーヴァス……と、いうことにしておこう」


 リールリッドが口にしたのは、問題児の名前だった。


 生徒達は予想外の名前にどよめき出す。MVPは宝箱を一番多く集めた《ドワーフ》から選ばれると思っていた生徒達、特にその《ドワーフ》の生徒達は何故自分達ではなく、《プレミアム》の者がMVPを取ったのかという疑問を持った。


 それを見越していたのか、リールリッドはグレイをMVPにした理由を述べた。それを聞いた全員は、納得せざるを得なかった。


「彼は一人・ ・で五つの宝箱を手に入れた。それが彼がMVPに選ばれた理由だが、これ以上の理由がいるかね?」


 すると全員が一斉に黙り込んだ。当然だ。そんなこと、他の誰にも出来はしなかったのだから。


 そしてMVPに選ばれたグレイはと言うと──


「………………ぐぅ」


 完全に眠りに落ちていた。


「はぁ……。誰かその問題児を叩き起こしてくれ」


~~~


「ん、ん~! 眠い……」

「普通そこは『よく寝た』って言うところではないのかね?」


 壇上に半ば無理矢理連れてこられたグレイは、まるで緊張している様子もなく体を伸ばして欠伸をしていた。


 グレイは視線を座っている生徒達に向ける。見ると《プレミアム》の一角ではアシュラとエルシアが恨みがましい目でこちらを睨み付けていた。


 グレイはやや苦笑しながら今のは見なかったことにした。

 そして視線をリールリッドに戻す。


「おめでとう。グレイ君」

「ども」


 グレイはリールリッドから小さなトロフィーを受けとる。ちょうどその瞬間にグレイは小声でリールリッドに話し掛けた。


「何があった?」

「何もなかった」


 リールリッドは即座にそれだけ言って返した。

 たったこれだけの短い会話。その会話を交わした後、グレイはまばらな拍手を受けながら、そのまま壇上から降りていった。

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