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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
二章 エレメンタル・トレジャーウォーズ
74/237

魔獣襲来 4

「うらうらうらあああっ!!」

「ぐっ……! これしきのこと……! はあっ!」

「がはっ!?」


 アシュラの連続の斬撃を全て鎧で受け止めたウォーロックは、攻撃の合間に滑り込ませるように拳を放ち、アシュラの横腹を殴り飛ばす。


「今だ! 燃え上がれ! 《噴炎》!」

「ぬおおっ!?」


 ウォーロックはアシュラを殴り飛ばした直後に突然地面から吹き出てきた炎に飲み込まれた。

 レオンの放ったその炎攻撃は剣による攻撃と違い、鎧はどんどん熱を帯びていくため、今のウォーロックに対しては一番有効な攻撃手段である。


「こんちくしょうがっ! 突き上げろ! 《角影》!」

「しまっ──うわああっ!?」


 ウォーロックに会心の一撃を食らわせたレオンの不意を突くために、アシュラは吹き飛ばされながらもレオンの真下から歪な形をした影の角を出現させレオンを高く突き上げた。

 直後アシュラは木に勢いよくぶつかり、肺の中にある空気を全て吐き出す。

 そのアシュラの頭上からは巨大な岩が重力に従って落下し、凄まじい轟音と衝撃が生じた。今のはウォーロックの放った《ロック・フォール》である。

 まともに食らったかと思われたが、次の瞬間、その巨大な岩は真っ二つに割れ、そこには剣を振り上げながらウォーロックを鋭く睨むアシュラの姿があった。どうやらわずかなダメージで済んでいるようだった。


 この序列一位の三人による対決は、誰一人として一歩も引かない接戦となっていた。

 辺り一面には薙ぎ倒され、切り裂かれ、燃やし尽くされた木々が散乱している。その光景を見るだけでどれだけ激しい戦闘が行われていたのかを察することが出来る。


「《フレイム・ブレイド》!!」


 アシュラに突き飛ばされたレオンが地上にいる二人に向かって炎の斬撃を飛ばす。それをウォーロックは鎧で受け止め、アシュラは渾身の力で弾き返す。

 しかし今の攻撃は牽制の意味が強く、レオンは着地した後、二人を同時に視界に捉えられる場所まで移動した。


「こんなに大変な三つ巴の戦いはしたことないな……。目が回りそうだ」

「そりゃ経験が足りねえんじゃねえか。俺は飽きるほどよくやってんぜ? こういう点に関しちゃあ《プレミアム》様々だ」

「ふむ。毎日序列一位を同時に二人相手にしている、ということだな。なるほど確かに鍛えるという意味では良い環境かもしれんな」


 三人とも一切気を緩ませず、互いに牽制しあいながら無駄口を叩く。

 こんな些細な会話程度では彼らの集中力は乱せない。

 しかし、そんな三人をもってしても全員が同じものに対して少なからず警戒を示していた。

 それはついさっき、彼らが戦っていた場所以外の所から激しい戦闘音が聞こえてきたのだ。


 その音は今は止んでいる。それはつまりその戦闘が終結していることを意味している。

 誰と誰が戦い、誰が勝ったのか。そして勝った奴はこちらに向かって来ているのか離れているのか。

 同時に二人も相手にしなければならない現状にもう一人混ざられると、致命的なミスをしてしまう可能性が高まる。


 三人とも平静を装ってはいるが、今でも一瞬たりとも気を抜けない。援軍でない限りはこちらには来てほしくないというのが全員の本音だった。


 奇妙な沈黙が数秒続き、緊張が走る。最初に動いたのはアシュラだった。


「《三日月ノ影》!」


 大剣を振り上げ、三日月型の斬撃をウォーロックに向かって放ち、続けて大剣を振り下ろして同じような斬撃をレオンに向かって飛ばす。

 そしてアシュラ自身は斬撃の後ろに着いていくように走りレオンへと迫る。


 ウォーロックは腕を交差させてその攻撃を防ぎ、レオンは炎を纏わせた剣で焼き斬った。

 アシュラはすかさずレオンの懐に潜り込み、全力を込めて横薙ぎに払った。レオンは何とか間に剣を滑り込ませて直撃は避けたが、激しくバランスを崩した。

 ようやく生まれた一瞬の隙。そこを的確に突くべくアシュラは魔力を練った。

 しかしそのアシュラの背後をウォーロックが鎧を纏った体で全体重を乗せたタックルで突き飛ばした。

 重く固い一撃を受けたアシュラは限界に達し──空気に溶けて消えた。


「なにっ!?」


 非常に珍しくウォーロックが目を見開いて驚く。そのウォーロックの背後から不敵な笑い声が聞こえてきた。


「油断大敵だぜ、第一位。喰らいやがれ! 《暗影咬牙あんえいこうが》!!」


 アシュラ最大の一撃、《暗影咬牙》が炸裂し、直線上にいたウォーロックとレオンが鋭い牙を剥き出しにした黒き影の(あぎと)に飲み込まれ、森の木々を巻き込みながら大地を抉り取った。


 アシュラはさっきのウォーロックの攻撃、《ロック・フォール》に潰される寸前に《潜影》により影の中に潜み、それと同時に自らの分身を作り出して、次はその分身が放った《三日月ノ影》の中に潜り込み、ウォーロックの影へと移動した。

 そしてウォーロックが分身に集中した瞬間を見計らってウォーロックの更に背後から攻撃を繰り出したのだ。


 黒い影の奔流が収まりはじめた、その直後、一筋の光が見えたかと思うと、アシュラに向かって一直線に飛んでくる火炎が視界に飛び込んできた。


「まずい──って、なにぃっ!?」


 最大威力で魔法を放った反動のせいで迎撃は不可能と早々に判断したアシュラは火炎を回避しようとしたのだが、突然アシュラの左右後方に土の壁が出現し、身動きが取れなくなってしまった。

 そして前方から向かってくる火炎を回避することが出来ずに、アシュラは大剣を盾代わりにしながら攻撃を受け止めた。だが、密封された場所での火炎は威力が高まり、連続で起きた爆発にも巻き込まれた。


「げほっ! ごほっ、ごほっ! くそっ、二人協力プレイとかズルくね!?」

「……俺に言わせるとその反則的なまでのタフさの方がズルいと思うけどね」

「中々やるな、アシュラ。流石、ソレイユ教諭とやりあえる実力があるだけのことはあるな」

「その上から目線やめろっての!」


 ウォーロックとレオンは肩で息をし、確実にダメージを負ってはいるが、限界にまでは達していないらしく、魔石は発動せず、それどころか二人がかりでアシュラに反撃してきた。


 確かにこの二人は強い。それは今までの戦闘で嫌というほど理解した。だからこそ。


「負けるわけにゃいかねえよなぁ!!」


 アシュラは嬉々として再び魔力を練り始めた。

 だがその表情はすぐに驚愕へと変わり、視線を上空へと向ける。


「なんだ、この魔力は……!?」

「魔獣……か?」


 続いてレオンとウォーロックも上空へと視線を移す。すると太陽の光の中に一点の黒い影が見えた。

 その影はだんだんと大きくなり、ようやく姿が確認出来たかと思えば、その影は高速で回転しながらこちらに向かって急速落下してきていた。


「なんかすげえ勢いで落ちてきてやがんぞっ!?」

「まずい。あんなの食らえば一発で終わりだ!」

「くっ! 何だと言うのだ!?」


 三人は一斉にその場から離脱する。直後、謎の影が先程三人が戦っていた場所に凄まじい風を巻き上げながら落下した。


「うおおっ!?」

「なんて強い風だ……っ!」


 砂煙が立ち上ぼり、視界が悪くなる。が、その砂煙の奥にいる影が大きく羽ばたいたかと思うと、砂煙は一瞬にして散らされ、謎の影の正体が現れた。


「鳥……か? でけえなおい……」


 アシュラの言う通り、そこにいたのは人間二人分はあるかと思うくらいの大きな鳥が翼を広げながら立っていた。その足元には大きな穴が空いている。

 そして、長く鋭いクチバシを持つその鳥の魔獣を見たレオンは、まず自分の目を疑った。が、残念ながら間違いなく、彼の思っている通りの最悪の事態だった。


「ウッドベルガー……だって?! Bランク魔獣が何故ここに!?」


 どっと嫌な汗が出てきたレオンは、しかし後ずさることはせずウッドベルガーに対峙する。ウォーロックも同様にウッドベルガーを睨み付けた。


 その二人の方を振り向き、ウッドベルガーは広げていた翼で強烈な風を巻き起こす。

 すると、二人ともその突風に問答無用で吹き飛ばされた。何とか木や地面に掴まり、彼方まで吹き飛ばされることにはならなかったが、そのあまりにも強力な突風に流石の二人も少し怯んでしまう。


 大人しくなった二人を睨んだ後、ウッドベルガーはアシュラの方へと振り向いた。


 そのアシュラは俯きながらわずかに震えていた。無理もない。いくらアシュラが強いとはいえ、Bランクを前にしては誰であろうと恐怖を抱くに決まっている。

 事実、たった一度吹き飛ばされただけで自分は怯んでしまったのだから。

 レオンはそう思い、何とかウッドベルガーの気をこちらに引こうと剣を強く握った。


 が、その必要は皆無だった。何故ならアシュラは恐怖で震えていたわけではない。怒りで震えていたからだ。


「てめえ……邪魔すんじゃねえよくそがっ!!」

「……へっ?」


 レオンは予想外の反応を示したアシュラを見て、思わず間抜けな顔をしてしまった。だが構うことなくアシュラはウッドベルガーに大剣を突きつけて言った。


「俺の成り上がり計画の邪魔してんじゃねえって言ってんだよ!! 俺が、ここで、この二人をぶっ倒して、学年最強になる予定なんだよ! それをいきなりやって来て掻き乱しやがってよぉ! ほんと、いい度胸してんなこのくそ鳥が! ぶった斬ってやる! 《牙影》!!」


 アシュラは地を蹴り、噛みつくように大剣を振り下ろす。ウッドベルガーはその長いクチバシでそれを受け止める。そのまま続けて大剣の連続攻撃もクチバシで受け続ける。


「ああっ! 抵抗してんじゃねえ! てめえをさっさと片付けてさっきの続きをすんだよ! 大人しく斬られろ!」


 あまりにもめちゃくちゃな言い様だった。そもそもお前も最初俺達の戦いの邪魔したろ。とレオンは内心でツッコミをいれる。そんな呑気なことをしてしまうくらい、レオンは呆けていた。


 恐怖など微塵も感じていないかのようなアシュラの重い連撃を受け続けたウッドベルガーも、とうとう耐えきれなくなったのか翼をはためかせ空を飛んだ。


「逃がすかっての!! 《羽影(はねかげ)》!」


 アシュラの左腕に纏わせた影を禍々しい形の翼に変え、その翼を大きく羽ばたかせた。とはいえ、片翼なので自由に空を飛べるわけではない。

 しかし、跳躍力は格段に上昇し、すぐさまウッドベルガーの上を取った。


「ぶっ潰れろ! 《影鎚》!!」


 続けざまにアシュラは大剣に影を纏わせ、鎚のような形に変えてウッドベルガーの頭部目掛けて振り下ろす。


 しかし、相手は鳥である。つまり空中戦で片翼のアシュラがそう簡単に勝てる相手ではない。

 アシュラの攻撃が直撃するほんの寸でのところでウッドベルガーはヒラリと舞い、攻撃を回避すると即座に見せ付けるようにアシュラの上を取り、大きな翼でアシュラを殴り付けた。


 そのまま地面に落下したアシュラに、ウッドベルガーは最初に現れたようにクチバシを突きだしながら回転し、アシュラ目掛けて突進してきた。


「ちっ! やっべ!」


 あの攻撃が当たればいくらアシュラでも防ぎきれるわけもない。加えて今は地面に叩きつけられたせいで頭がふらついている。

 防御も回避もままならない。ウッドベルガーのクチバシが寸前まで迫っていた。


「《メタル・フィスト》!!」


 だが、ウッドベルガーは横からの奇襲に全く対処出来ずにまともにその攻撃を食らう。

 しかし、絶命には至らなかったようで、もう一度空へと退避した。


 それを確認したウォーロックは地面に仰向けになっているアシュラを見下ろした。


「どうした? さっさとあやつを倒して我をも倒すのだろう? ならいつまでも寝ておらずに立ち上がったらどうだ?」

「あぁ? うっせえな! 今立とうと思ってたんだっての! お前が邪魔しなかったら今ごろ華麗にカウンター決まってるところだったっての! つか、何だ今のはよ!?」


 アシュラは跳ねるように立ち上がり、難癖つけながらウォーロックに詰め寄った。


「別段珍しい技ではない。鉄属性の魔力で殴っただけだ」

「鉄だぁ?! お前さっきまでその魔力使ってなかったろ! 舐めプしてましたってか?! あぁん?!」

「そういうわけではない。あまり多用せんだけだ。扱いにまだ慣れておらんのでな」


 鉄属性は土属性の派生型である。ウォーロックはそれの使い手だったのだ。


 アシュラがウォーロックに詰め寄っているのを空から見ていたウッドベルガーは、二人から少し離れた場所にいるレオンを見た。


 そのレオンの瞳がウッドベルガーを見据えている。その時、突然自身の中にある野生の勘が告げた。もっと高く飛べ、と。だが、遅かった。

 次の瞬間。ウッドベルガーは灼熱の炎に包まれた。

 火を苦手としているウッドベルガーは悲鳴を上げながら暴れ狂い、地面に落下したかと思うと、体を燃やしている火を消そうと地面を転がった。


「うおっ!? 何だ今の!?」

「ん? あぁ、ごめん。驚かせたか?」

「……上級魔法。それを詠唱破棄か。それであの威力とはやはり流石だな」

「いや、まだまだだよ。威力は半分もない。やっぱり先生のように上手く制御出来ていないな。それに無駄に多くの魔力を使った」


 レオンは反省しながらようやく体についた火を消火させたウッドベルガーを見た。

 やっぱり、まだ少し恐怖は感じる。しかし、先程よりはマシになっていた。それは勇ましく、とは程遠いが果敢に魔獣に立ち向かうアシュラを見たお陰かもしれない。当然口には出さない。負けた気がするから。

 そんなことを思いながらレオンはアシュラの横に並んで立つ。


「というかアシュラ。さっきの計画うんぬんのやつ、本気か? だったらお前、俺達のこと舐めすぎだろ。人生はそんな甘くねえぞ」

「ソレイユ教諭にわずかだが本気を出させたことで天狗になっておるのだろう。放っておけ。いずれ無様に折れる鼻だ」

「あんだとゴラァ! おめえらこそ吹っ飛ばされた時ビビってたくせしてよく言うぜ!」


 魔獣を完全にそっちのけで喧嘩腰になるアシュラ。それを見て楽しそうな笑顔を浮かべるレオン。腕を組みながら悠然と立つ意外と毒舌なウォーロック。


 そんな異色な三人を相手に喧嘩を売ったことをウッドベルガーは後悔していた。

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