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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
二章 エレメンタル・トレジャーウォーズ
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魔獣襲来 1

第15話

 森の中に魔獣を解き放った不審者達は急いで森から離れていく。

 数は十人。その全員が黒いフードを深く被っているため、性別も満足に確認出来ない。そんな彼らの動きは迅速であり、かつ無駄がない。かなり訓練された集団であることが伺えた。


 そんな彼らの進行方向に、いきなり火の玉の雨が降り注いだ。


 黒いフードを被ってた一人が後方を確認すると、かなり遠くにシエナ=ソレイユが魔法二輪に乗って向かってきていることに気付いた。

 風の魔法ならまだしも、火の魔法を超遠距離に飛ばし、正確に目標に当てることなど、相当な魔術師でなければ出来ない芸当だ。これだけでもシエナの実力がわかる。

 

「怯むな。急げ」


 しかし、リーダー格の男の低い声が響き、全員が気を引き締め直した。


 その後、十人は遠方より飛んでくる火の玉を回避しながら目的の場所まで走った。


~~~


「あと、二人」


 グレイはVサインを見せ付けるように突き出す。ギリッ、と歯を食いしばるソーマの肩をカインが叩き、一歩前に出てきた。


「油断していたのは、こっちだったみたいだね。四人で一斉にかかれば簡単に倒せる、って驕ってたみたいだよ」

「そりゃあな。最強四人でかかれば大抵の奴等は怯えて逃げ腰になるし、そこを突けばチームワークがてんでバラバラでも軽く敵は倒せるんだからな。でも今回は相手が悪すぎるぜ?」


 ことグレイは多対一の戦闘に関してはそれなりの経験がある。加えて冷静な判断力、分析力、相手の力量を見抜く能力に長けるグレイには彼らがまだチームとして上手く機能していないことを見抜いていた。


「参ったな。そこまでバレてたのか」

「当然だ。お前ら、仲間を意識し過ぎて本気で攻撃してねえじゃねえか。巻き込まれる危険があるのはわかるが、そんな半端な覚悟で俺と戦えると思うなよ」


 カインは自分の心が読まれているのかという錯覚に襲われる。それはまさにカインが感じていたことだったからだ。


「…………ソーマ」

「……わかったよ。下がってりゃいいんだな」


 ソーマはカインの表情を見て、言いたいことが伝わったのか、大人しく後ろに下がる。


「なら、改めて。《ハーピィ》序列一位。カイン=スプリング。全力で行かせてもらう」

「何でお前らはいちいち律儀に名乗りを上げるのかね。それだと俺も名乗らねえと空気読めねえ奴みてえじゃねえかよ。ったく……。《プレミアム》無属性 序列一位。グレイ=ノーヴァス」


 頭を掻き、息を吐いてから名乗って構えるグレイ。


 一陣の風に吹かれて舞い上がった一枚の葉が、かさりと地面に落ちた。


「《ストーム・チャージ》!!」


 先に動いたのはカインだった。体に風を纏い、槍を構えてグレイに向かって真っ直ぐに突進してくる。

 グレイの魔法ではアークまでは消せない、という弱点をカインは見抜いていた。そして、例え魔法は消せても、魔法によって生じさせたスピードまでは消せないということも。


 故に彼は魔法ではなく、アークによる戦闘を選んだ。

 対してグレイは両手を握り締め、迎え撃つ。

 連続で突き出される槍の攻撃を手の甲で弾き防ぎ続ける。一瞬たりとも気を抜けない状況の中、グレイは魔導書を盾代わりとして槍の攻撃を受け止めさせる。

 本とはいえ、アークであるその魔導書は槍に貫かれることなく拮抗している。


 その隙に槍を下から裏拳で殴り上げ、蹴りを放つ。

 カインはわずかに風を起こして距離を取り、その蹴りを回避する。そして即座に槍に風を纏わせ降り下ろす。


 縦一閃の風の斬撃が飛ぶ。ほぼゼロ距離だったその攻撃をグレイはわずかに右に移動して躱し、飛び蹴りを繰り出す。

 カインも負けじと槍を縦に構えてグレイの攻撃をガードし、弾き返す。

 瞬時に宙にいるグレイに横薙ぎに振るわれた槍が襲い掛かる。だが、再び魔導書を足場代わりに使って跳び、宙返りしながらカインとの距離を取って着地する。


「《エア・カッター》!」


 カインは手をかざし、休むことなく畳み掛ける。カインの手から放たれた四つの風の刃は前方と後方から二つずつ同時にグレイ目掛けて飛来する。


 普通なら回避か迎撃を行うはずの場面にグレイはまさかの突進を選択した。

 地を思いきり蹴り、カインに向かって一直線に飛ぶ。前方から襲い来る風の刃をすり抜けて。


 《ミラージュ・ゼロ》には発動している際、その場から動くことが出来ないという制約がある。しかし空中にいる場合には体の動きが制限されることはない。その特性を上手く利用し、グレイはカインへと向かって飛ぶ。


 そのグレイを迎撃するためカインは回転を加えて槍を降り下ろす。

 しかし、いつの間にかグレイの頭上には魔導書が浮かんでおり、カインの槍を受け止める。


「なっ!?」

「食らえっ!!」


 グレイは左手に《リバース・ゼロ》を発動させてカインの腕に触れ、右腕の肘をカインのみぞおちに突き入れた。渾身の一撃だった。カインは咳き込みながらたたらを踏み、木に背を預けた。


 ここで一気に畳み掛けたかったグレイだが、《蜃気楼の聖衣(ミラージュ・ローブ)》が消えてしまい、身体能力も下がり、反動で体が重くなったように感じ、攻めきれなかった。


「げほっ、ごほっ……。くっ……。強い、な。魔法を消されるのが、こんなに戦い辛いなんてな……。しかも、最初の一撃以来一度も攻撃を入れられないなんて……」

「そっちこそ、めちゃくちゃタフだなおい……。今の、渾身の一撃だったんだが?」


 二人とも肩で息をする。その様子をソーマが遠目に見ているこの状況。それはグレイにとっては危機的状況以外の何物でもない。


 グレイはわざと本気のカインとの一対一の状況を作り出し、ソーマの介入が入る前にカインを仕留めるつもりでいた。そうなれば恐らくリーダーであるカインを倒し、ルールによってソーマも同時に強制返還されるだろうと踏んでいたのだ。


 そして、四人同時に攻撃を行う場合、仲間への被害が大きくなってしまわないように無意識のうちに手加減をしてしまう。

 だが気に掛けるべき仲間が一人だけだったなら。そうなると、今度こそグレイにとって厳しい戦いになっていただろう。

 だからこそ、カインが本気になるというデメリットを押してまで一対一に持ち込んだというのに。予想以上にカインが耐えるので、先にこちらの限界が近付いてきてしまった。


 この状況、今の状態でソーマに狙われれば上手く対処出来る可能性は極めて低い。逃げに徹するにしても何か相手の意識を別に移さなければならない。


 ──一瞬だけでいい。何かないか……?!


 グレイは頭の中ですごい勢いで策を練る。そんなグレイに向かってソーマがゆっくりと歩みだした。


 まさにその時。上空を巨大な影が通過し彼方へと飛び去っていった。それ(・ ・)はあまりにも一瞬の出来事だったがその影は魔獣のようだった。

 その影が彼らの頭上を通りすぎた数秒後、凄まじい風が辺り一帯に吹き荒れた。

 それには思わずカインもソーマも目を瞑った。


 そしてグレイはそのタイミングを決して逃さなかった。


~~~


「な、何だったんだ今の?」


 ソーマはぼやきながら何もない空を見上げる。


 ほんの一瞬だけ発生した嵐はすぐに収まり、辺りは静けさを取り戻す。ふとソーマは視線を地上に戻した。だが、視線の先にいたはずのグレイの姿が忽然と無くなっていた。


「なにっ!? あいつ、どこ行きやがった!?」

「そんな……。まさか、あの一瞬で逃げたっていうのか……?」


 二人は辺りをくまなく見渡したが、どこにもグレイの姿は確認出来なかった。


「くそ、逃がしたっ! あいつ、足速すぎだろ」

「だね。風属性の十八番の速さで遅れを取るとは、不覚だよ。でも、今日のソーマはいつにも増して感情的だな。いつもはめんどくせえ、とか言ってるのに」

「……んだよ。別にどうでもいいだろ」

「あぁ、うん。大丈夫。わかってる。やっぱりソーマも仲間想いなんだってことはさ」

「…………お前、やっぱめんどくせえわ」


 カインの笑顔を横目で睨み、頭の後ろで両手を組む。


「で、どうする? あいつを探しに行くか?」

「……いや。まずは一度陣地に戻る。ついでに少し休もうか。結構疲れたしね。その後でまた四人で行動を──」


 カインがそう提案し、自分達の陣地へと戻ろうかと話していた。

 そんな彼らの元に、大きな衝撃音と悲鳴が聞こえてきた。


 弾かれるようにその方角を見ると、空に何人もの生徒が自分達の陣地へと飛んでいくのが見えた。

 よく見るとそのほとんどの生徒が《ハーピィ》の者達だった。


「な、なんだっ!? あそこで何が起こってる?!」

「わからない。けど急ごう! 何かすごく嫌な予感がするんだ!」


 カインはソーマと共に今の衝撃音のした方角へと飛び去っていった。

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