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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
一章 トライデント・プレミアム
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問題児達と灰色の少女 2

 気付けば一時間目は終わっていた。だが、彼らの授業は基本的に全てキャサリンが担当しているので、問題は無い。


「スミマセンスミマセン! 次からこんなことは無いようにしますから。ほんっとに申し訳ありませんでした。あぁ! 減給だけは! お願いします! お願いしますうぅっ!!」


 しかしキャサリンだけは例外だったようだ。どうやら朝の教員会議をすっぽかしてしまったようである。

 さっきから通信用の魔道具で会話しながら、見えもしないのに何度も頭を下げていた。


 旧校舎に着いたのは二時間目の開始とほぼ同時だった。

 とはいえ、やることと言ったらほぼ図書館で借りた本で既に知ったことばかりであるグレイにとって、退屈以外の何物でもない。

 しかし、今日はそんな退屈な授業ではなかった。キャサリンが特別に、ミュウとのコミュニケーションの時間としてくれた。

 他の先生方にはくれぐれも内密に。と強く、それは強く念を押された。

 

「それでは、ミュウちゃんとの親睦会を開催しま~す」

「「「いえ~い!!」」」

「……?」


 キャサリンの号令で親睦会は開始した。

 キャサリンは最初からこうするつもりだったのか、大量の菓子が入った袋を渡してきた。こういうところは本当見た目通り子供っぽい。

 だが、どれだけ騒ごうとこの旧校舎には生徒達は彼らしかおらず、講師もまたキャサリンしかいないので、誰にも迷惑をかけることはないので大抵のことは大丈夫だ。

 最悪、誰か見回りが来たとしてもキャサリンだけが叱られ、減給されるだけだ。


 グレイは早速菓子の袋を開けながら、一番疑問に感じていたことを聞いた。


「なあ、ミュウ。何で昨日はすぐに出てこなかったんだ? あの時結構ショックだったんだが」

「そうね。あの顔は、ほんと、笑えたわ」

「今だから許せるが、あれマジでムカついたんだからな!」

「はいはい。で、何でなのミュウちゃん?」


 エルシアはアークとはいえ、クラスに女の子が増えたのが嬉しいらしく、常にミュウの隣をキープしていた。

 ミュウは口に手を当て昨日のことを思い出そうとした。


「たしか、昨日は、すごく眠たかったので。そのまますぐにコアの中に入って寝てました」

「……確かにこの子はあんたのアークだわ。グレイ」

「そういやさっき親の顔が見たいとか言ってたが、実はグレイが親だったというオチね。ハハッ笑える」


 そんな理由だったのかよ。と思ったグレイだったが、思い返せばあの時、グレイは魔力を全て鉱石に、つまりミュウに注ぎ込んでいた。

 そして、アークを使うには魔力が必要になる。だから、ミュウは出たくても出られなかったのだ。

 だから、元を正せば全てグレイ自身の責任だったというわけだ。


 それで知らない間にグレイのベッドの上に顕現していた理由にも納得がいった。

 アークには最初に名前を付けなければならないからだ。

 だが、出るに出られなかったミュウは、寝ている間に回復した魔力を使って勝手に外に出てきたというわけだ。

 つまり、思い返せばこうなって当然の些細な出来事だったのである。


「馬鹿はあんただったってわけね」

「返す言葉もない……」

「ま、キャシーちゃんもまさか全魔力使ってる癖に平気そうにしてるグレイを見りゃ、原因が魔力不足だとは思わないだろうよ」

「マスター。これはなんですか?」

「ん? それはお菓子だよ。チョコだ。食ってみ?」

「はむ。んむ。おいひい、です」


 小動物を愛でているような感覚になっている三人と、無表情でチョコを食べるミュウを見ていたキャサリンは、誰にも気付かれはしなかったが、かなり驚いた表情をしていた。


 魔力を全て使い切っていた。にも関わらず平然としていた。

 それだけでも充分過ぎるくらいにおかしな話だが、そのことにキャサリン自身は全く気付けなかったのに、エルシアとアシュラは当然のように気付いていたということにも驚いた。

 何故と思わずにはいられない。なんせ、グレイの魔力は誰にも感知出来ないはずのものだった。

 事実、彼女にはあの時グレイがどれ程の魔力を込めていたのかは全くわかっていなかった。


 魔力には色が付いている。それは水晶に現れた色と同じ色だ。赤青緑黄白黒。

 そして、『無色』。グレイの持つ魔力は正に無色透明だった。

 魔術師は無意識的に魔力を心の目で見て、それらを色として知覚する。それ故に無色であるグレイの魔力は見ることが出来ない。

 確かにそこにある。なのに見えない。感じられない。それがグレイの魔力の性質だというのに。

 事も無げにそれがわかるという二人。

 これも同じ《プレミアム・レア》であるが故なのかを判断するには、あまりにも情報が少なすぎだった。


~~~


 あれから一時間、色々とミュウに質問をした。そこでわかったことがある。

 ミュウは本当に産まれたばかりの子供のようなものだった。

 言葉を話し、理解することや、自分で考え、行動を起こすことは出来るが、その他の一般常識等は何もわからないようだった。


 しかし、変な感覚だが、彼女はつい先日まで鉱石だったはずだ。

 鉱石から少女になったのか、鉱石の中に彼女という存在が入っていたのかは不明だが、そんな彼女に一般常識を求めるのも酷な話だ。

 だから、これは不可抗力なのだと、グレイは声を大にして言いたかった。


「どうかしたのですか、マスター」

「い、いや……あの、ミュウさん。何をしているのですか?」


 わずかに声が震えているのを自覚しながらも堪えることは出来ない。

 そんなグレイの心中を察することなく、ミュウは聞かれたことに素直に返答する。


「マスターの、膝の上に座っています」

「うん。確かにその通りだね。でもちょ~っと降りて貰えると助かるな。なんだか白い髪の女の子が身体中バチバチし始めちゃってるから」


 あえて名前は伏せるが、彼女は色んな感情が混ざりあった視線をグレイにぶつけていた。


 グレイは自身が悟い男だと思っている。だからエルシアの感情を理解した。

 エルシアは、ミュウを取られてイライラしているのだと。

 確かにそれも決して間違いではないのだが、本当の意味までは、鈍感なグレイにはわからなかった。


「マスター。もっとチョコ、ください」

「ん? あぁ、よっぽど気に入ったんだな。ほらよ」


 グレイは言われた通りチョコを一つ掴みミュウに食べさせてあげた。

 ミュウはあくまで無表情だったが、喜んでいるのはニュアンスでわかるようになった。なんだか妹というよりは娘みたいな感じだった。

 やはり自分のアークだからだろうか、と適当に結論付けるグレイに、エルシアは絶対零度の視線を向ける。


「……ロリコン」

「ちょっと待て! 今のは聞き捨てならない!」


 グレイは己の名誉のためにエルシアに抗議を申し立てた。


「俺は決してロリコンじゃない! これは、あれだ! 可愛いものを愛でる紳士の心情というか、娘を見守る父性のようなものであって、全然やましい感情なんて抱いていない!」

「ぷぎゃ~! 童貞なのに父性に目覚めたとか、爆笑だな! ぶはははははっ!」

「はっは~。ちょっと表出ろやコラ!!」


 腹を抱えて笑い、床を転がり回るアシュラを睨み付けるグレイ。

 しかし、膝の上にはミュウが座っているので動けなかった。


~~~


 親睦会は二時間目のチャイムと同時に終了した。まだまだ聞きたいことはあったが、別に急ぐことはないと思い、片付けを始めた。


「ではみなさん。次はとうとう、アークを使った授業ですよぉ~」


 手をパンッと鳴らしながら黒板に注目させるキャサリン。黒板には無駄に大きく「はじめてのエレメンタル・アーク」と書かれていた。

 が、それを書いている姿をずっと見ていた三人は何とも微妙な反応を返す。

 本人は何故か無意味にえへんと胸を張っている。

 気分を害するのも躊躇われたので、三人とも「わぁ~、やった~」と乾いた声で喜んでおいた。

 それに、やはり三人とも表には出さないが、とても楽しみにしていたことでもあった。


 そして三時間目と四時間目は続けてアークでの戦闘訓練の時間となった。

 五人は昨日アークを精製した練習場へ移動していた。

 この練習場は魔法で頑丈に守られ、余程の高威力魔法でもない限り破壊されることはない。

 なので、訓練にも適しているのである。


「それではまずは、エルシアさんとアシュラ君が模擬戦闘を行ってください。言っておきますけど、あくまで練習ですから、本気でやり合わないでくださいねぇ~!」


 キャサリンは間延びした声でそう言うと防護結界装置を起動した。


「グレイ君は結界の外で見学しててくださいね。では、はじめ!」

「来やがれ《月影(つきかげ)》!」

「来て《サンライト・フェザー》」


 キャサリンの開始の合図に合わせて二人はアークを召喚する。


 アシュラは漆黒の大剣を右肩に担ぎ、エルシアは純白の二丁拳銃を構える。


「行くぜエリー。手加減してほしけりゃ今のうちに言っときな!」

「はっ、冗談。それはこっちの台詞よ!」


 二人はそう言うのと同時に動いた。

 アシュラはエルシアに向かって。

 それに対してエルシアは後方に跳ぶ。


 エルシアは引き金を引き、《サンライト・フェザー》から二発の雷を帯びた閃光がアシュラに向かって放たれた。


 アシュラは剣の腹で閃光を弾きながらエルシアに迫る。そこに続けて更に八発の閃光が襲い掛かる。

 流石のアシュラも足を止め剣を盾にし、閃光を凌ぐ。

 そこに畳み掛けるようにエルシアは閃光を連射する。


「しゃらくせぇ!!」


 防戦一方だったアシュラは剣を地面に突き立てた。すると地面から黒い影が出現し、エルシアの閃光を防ぐように壁の形へと変形する。


 影の壁に当たる閃光は力を失い消滅する。それを見てエルシアは引き金から指を離す。


「なるほどな。弾切れを待ってたんだが、その銃に弾切れは無いんだな」


 攻撃が止まったのを確認し、影の壁を消したアシュラはエルシアの顔を確認する。

 エルシアは特に隠すつもりもないのか、銃を構えながら答える。


「そうよ。この銃は私の魔力を吸いとって自動的に弾を精製する。だからあんたの言う通り弾切れなんかないわ。あるとしたらそれは私の魔力が切れた時だけね」


 つまり、《サンライト・フェザー》は止まることなき遠距離連続攻撃を繰り出せることであり、近距離攻撃が主な剣とは相性が良いということになる。


 しかし、アシュラにとっては些細なことだった。


「そうかい。それならそれでこっちもやり方を変えるだけだぜ。よい、しょおっ!!」


 アシュラは《月影》を振り下ろし、剣から出た巨大な影の斬撃が飛ぶ。


 咄嗟に迎撃も防御も不可能と悟ったエルシアは横に跳んで斬撃を躱す。

 しかし、そのエルシアの動きに合わせて斬撃が直角に曲がる。

 不意を突かれたエルシアだったが、すぐに冷静になり、魔法を紡ぐ。


「《レイジング・ライカ》!」


 魔法を唱えたエルシアの体は白く光り、次の瞬間には稲妻が走ったようにその場からエルシアの姿が消え、アシュラの後方にまで光速で移動していた。


「《スパーク・ブレッド》!」


 続けて《サンライト・フェザー》から二発の電磁砲を放つエルシア。アシュラは後ろを取られていながらも不敵に笑い、アシュラも魔法を発動する。


「叩き落とせ!《影ノ鞭》」


 エルシアの放った《スパーク・ブレッド》はアシュラの体から伸びてきた二本の《影ノ鞭》に弾かれて地面を穿つ。


 そのまま《影ノ鞭》はエルシアに向かって伸びる。


「穿て!《フラッシュ・スプレッド》」


 次にエルシアが放ったのは光の散弾。《影ノ鞭》もその無数に迫ってくる光弾を全て弾き飛ばすことは出来ずに、何発か光弾を体に受けるアシュラ。

 しかし、そのアシュラの体は空気に溶けるかのように姿を消した。


「ちっ!《幻影》ね。……ッ! そこッ!」

「うおっち! あぶねぇ!」


 己の分身を作り出す《幻影》を発動していたことを見抜き、エルシアはアシュラの気配を探り、真上に向かって一筋の白い雷を放った。

 真上から攻撃しようと企んでいたアシュラはエルシアの反撃にギリギリ対応し、エルシアから少し離れた場所に着地する。


「やっぱやるなエリー。ならこれでどうだ。《暗影咬牙(あんえいこうが)》!!」

「そっちがその気ならこっちだって!《ライトニング・ボルテッカー》!!」


 アシュラの放った混沌の影と、エルシアの放った黎明の光が激しくぶつかり合い、練習場の結界を大きく揺らす。


「やめええっ!! これ以上はだめええええええ!!!」


 キャサリンは二人のとてつもない魔力の衝突で、結界を維持している魔力がすごい勢いで消費されていくことに気付き二人に制止を大声で訴える。


 しかし、二人ともが互いのことしか認識していなかったので、そのキャサリンの叫び声は届かなかった。


 結界に亀裂が走り、万事休すかとキャサリンは目を閉ざす。


「────ッ!」


 衝撃波と轟音に包まれた結界内に、しかし次の瞬間、何かが砕けるような音がしたのを最後に、突然の静寂が訪れた。


「………………あれ?」


 キャサリンは恐る恐る目を開ける。そこには──。


「お、ま、え、ら、なぁ~! いつも言ってるだろ! やりすぎるなって!」

「へいへい。反省してま~す」

「はいはい。わかってるわよ」

「いや、お前ら反省も理解もしてねえだろ。何だその「邪魔しやがって」みたいな顔はっ!」


 怒り心頭のグレイが、むくれるアシュラとエルシアの二人を正座させて説教している姿があった。

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