お宝争奪戦 4
場面は変わり、《イフリート》のレオンが《ドワーフ》の生徒を三人撃退しつつ、撤退を試みていた。だが、今度の相手は逃げながら戦えるほど甘い相手ではなく、レオンは覚悟を決めたのか、逃げるのをやめ、迫り来る相手と向かい合った。
「お、おいっレオン!!」
「俺は大丈夫だ。それよりゴーギャンは早く宝箱を持って陣地に戻るんだ。彼とは俺一人でやる!」
レオンはゴーギャンとチームメイト達に向かって叫ぶ。
「わかったッス! 絶対に勝つんスよレオン!」
「ああ、了解! そっちこそ宝箱盗られるんじゃないぞ!」
ゴーギャンはそう言い残し、仲間を引き連れてこの場を離脱した。それを黙って見逃す敵に向かってレオンは問い掛ける。
「何で、すんなりとあいつらを逃がしてくれたんだ?」
「ふむ……。理由としては二つある。一つは貴殿と同じだ。貴殿ともう一度本気で戦うためである」
レオンはごくりと喉を鳴らす。無理もない。レオンは一度彼とクラス対抗戦で戦ったことがあり、その実力を身を持って知っているからである。
《ドワーフ》の序列一位、ウォーロック=レグホーン。常に威風堂々とした態度をしており、細身だが、ガタイはしっかりしており、威厳を感じさせる面持ちをしている。そして、クラス対抗戦でも一位を取ったほどの実力を持つ男である。
レオンがウォーロックと戦った時、善戦もむなしく破れてしまい、苦汁を飲まされた相手なのだ。緊張もする。
「ちなみに、もう一つの理由も聞いていいのか?」
「構わんぞ。そう。もう一つの理由は──」
ウォーロックの台詞の途中でレオンの背後から激しい戦闘音が聞こえてきた。
「我も、一人で来たわけではない、ということだ」
「なるほど……ね」
ウォーロックの言葉を聞き、レオンは嫌な汗をかく。
恐らく、ウォーロックは囮。レオンを、《イフリート》序列一位を抑えるための囮なのだ。
まさか、実質学年一位であるウォーロックが自ら囮を務めるとはレオンは予想していなかった。仲間達のことが気になったレオンだが、すぐにそんな余裕は無くなる。
「《ログレス》!」
ウォーロックがアークの名を呼び、顕現させた。
ウォーロックのアーク、《ログレス》は鎧。鋼色の堅固な甲冑を纏ったウォーロックの姿は、まるで城を護る最強の番人のようだった。
それを見てレオンも即座に自身のアークを呼び出した。
「出ろ! 《ブレイズ》!!」
レオンのアーク、《ブレイズ》は剣。紅の剣は煌々と輝き、それを構えるレオンはまるで聖剣に選ばれた勇者のようだった。
「準備は出来たようだな。では、早速行くぞ! 《ロック・ブラスト》!」
「うおおおっ!! 《噴炎》!」
ウォーロックの放った岩石砲弾を、レオンは火柱で迎撃する。わずかに弾道が上に浮かび上がり、レオンの頭上を通過する。
「ふむ。当然のことではあるが、やはりあの時とは違うな。楽しめそうだ」
「そう言ってもらえると光栄だな。でも、その上から目線はやめてくれよ。次は俺が勝つんだからな!」
腕を組みながら悠然と立つウォーロック。剣を構えながら気合いを入れるレオン。
一瞬の沈黙が場を包み、次に動いたのはレオンだった。
「《フレイム・ブレイド》!!」
レオンは炎を纏わせた剣で上段から斬りかかる。それを腕を構えて受け止めるウォーロック。その衝撃は大地を割り、周囲の空気を一瞬で熱くする。
「はあああっ!!」
「ぬうっ!?」
レオンはそのまま連続でウォーロックを斬りつける。
全身を鎧で守っているため、大きなダメージを与えられてはいない。だが、わずかにレオンがウォーロックを押している。
「舐めるなっ! 《ロック・ナックル》!!」
しかし、ウォーロックとてただやられるだけではなかった。魔力を貯めた右腕を振りかぶり、全体重を乗せて右ストレートを放つ。レオンはその一撃を剣で受け止めるが、激しい金属のぶつかる音と共に勢い良く後方へと吹き飛ばされる。
レオンは宙で回転しながら何とか着地し、剣に纏わせた火炎を斬撃に変えて撃ち出した。
「効かんっ!」
だがウォーロックは冷静に左フックで火炎を殴り散らす。だがレオンは攻撃の手を休めない。
「まだまだぁ!! 《バーニング・ラッシュ》!!」
「《アース・ウォール》!!」
レオンの連続で飛ばした炎弾は、地面から現れた分厚い土の壁に阻まれる。
その場は爆煙に包まれ、二人は距離を取って煙が晴れるのを待つ。
やがて煙は晴れ、ボロボロになった土壁が姿を現す。
「はあ、はあ……。やっぱり強いな……」
「それは、お互い様だ、レオン」
改めてお互いの実力を認め合う二人。レオンは再度剣を構え直し、ウォーロックも腰を落としてどっしりと構える。
攻撃力に特化した火の力。
防御力に特化した土の力。
その力をもっとも使いこなす序列一位である両者がぶつかりあうこの場に、介入しようと思う者など誰もいない。
「うおおおおおっ!!」
「はあああああっ!!」
──ただ一人を除いては。
「「──ッ!?」」
両者の間に突如黒い斬撃が走り、地面を抉り、木々を斬り倒していった。
その攻撃が放たれたであろう方角を見る。そこにいたのは、漆黒の大剣を肩に担いだアシュラだった。
「いやぁ~悪いね。二人っきりの時間を邪魔しちまってよ。でもまあ、この大会は行儀の良い決闘とは違うんだし、問題ねえよな?」
にやりと笑うアシュラを見て、レオンとウォーロックは顔を強張らせる。
そんなことには気も留めないアシュラはお気楽に話を続ける。
「しっかし、我ながらおもしれえところに来ちまったぜ。まさか《イフリート》と《ドワーフ》の序列一位様同士の戦いの場に出くわすとはよ」
アシュラはさも楽しそうに笑い、漆黒の大剣、《月影》を振り回す。
「その喧嘩さ。俺も混ぜてくれよ」
そう言ってアシュラは黒い魔力を迸らせる。彼は先日、最強の魔術師団である《シリウス》に所属するシエナに、少しではあるが本気を出させたほどの男。警戒するのも当然だ。
「参ったな……。悪いゴーギャン。当分戻れそうにない」
「《プレミアム》の、アシュラ=ドルトローゼだな。我も貴殿の力を間近で見てみたいと思っていた」
「かっ。男にモテても嬉しくねえっての。でも、そこまで言うなら仕方ねえ。学年一位、っていう肩書きを貰う代わりに、存分に見せてやるよ。俺の力ってやつをな!!」
生意気にもウォーロックを倒すと吼えたアシュラは《月影》に魔力を集め、横薙ぎに振る。
その攻撃をレオンはジャンプして躱し、ウォーロックは腕を交差させて受け止める。
「ぐ、うおおおお!!」
ウォーロックはその攻撃を何とか受けきり、反撃を開始する。
「《グラウンド・ショック》!!」
「おわわっ!?」
大地が大きく揺れ、その拍子にバランスを乱したアシュラ。そこをウォーロックは見逃さずにもう一発魔法を叩き込む。
「《アース・クエイク》!!」
隆起する地面の波がアシュラに襲いかかる。
「かっ! 当たるかよ。《影ノ鞭》!」
アシュラは腕から影の鞭を伸ばし、木を掴んで引き寄せる。その反動でアシュラの体は宙に浮き、そのまま太い枝の上に乗る。
「なるほど。一筋縄ではいかんようだ」
「はっ、当然! ──って、うおわっ!?」
余裕ぶっていたアシュラだったが、突然自分が乗っていた木が燃え上がり、急いでその木から降りてその場を離れる。
「あっぶねぇ! なにしやがるっ!? 俺の格好良い台詞の途中で邪魔をしやがって」
「今は決闘じゃないんだから、別に問題ないんだろ?」
「こんにゃろ……」
レオンは薄く笑い、アシュラは苦々しく笑う。
三つ巴の戦いに、一瞬たりとも気を抜いていいはずがない。今のはアシュラの気の緩みから来たミスである。
それに気付いているからこそ、アシュラは何も言い返さない。そもそもそれは最初にアシュラ自身が言った言葉なのだから。
「おもしれえ。やっぱ戦闘ってのはこうでなくっちゃな!」
「来い。全霊の力を持って返り討ちにしてやろう」
「早くあいつらを助けに行かないといけないんだ。出来る限り速攻で倒させて貰うぞ、二人とも!」
三人はそれぞれ魔力を練り上げ魔法を放った。
「《波影》!」
「《サンド・ショット》!」
「《ファイア・ブレス》!」
影と砂と火の魔法が衝突し、その衝撃は周囲の大気を激しく揺るがした。