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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
二章 エレメンタル・トレジャーウォーズ
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月別大会 5

 トレジャーウォーズ当日。朝早くから一年の生徒達は校門前にクラス別で整列していた。


「ねむい……。やばい、無理かも……」

「なら一人で学校に残ってなさいよ」

「安心しろ。お前の分まで暴れてきてやっからよ」


 その中にはグレイ達の姿も当然あった。グレイはいつもより早く起こされたためか、立ったまま半分意識を飛ばしていた。


「いや、それ辛すぎだろ。わかったよ。起きときゃいいんだろ起きときゃ」

「てか何で軽くキレ気味なのよ」


 朝早いせいかグレイの機嫌が少し悪かった。エルシアは小さく溜め息を吐き、グレイのことを完全に無視することに決めたようだ。


 しばらくそのまま待っていると、ようやく大きな車が何台もやって来た。


 生徒達が騒ぎ出す中、グレイは完全に立ったまま寝ており、エルシアは座り込んで自分の髪の毛をいじっており、アシュラはうろちょろと他のクラスの女子達を見て回っていた。


「……まあ、大人しく整列して待っているとは思ってはいませんでしたから全然構わないんですがね」

「あ、キャシー先生。どこ行ってたんですか? 遅刻ですよ」

「遅刻じゃないです。用事があったんです。ほらグレイ君は早く起きてください。アシュラ君も早く戻って来なさ~い!」


 キャサリンの声に気付いた男二人はそれぞれ不満げな顔で整列する。


「くっそ眠い……」

「折角可愛い子見つけたってのに……」

「はいはい。文句を言わない」


 グレイは眠い目をこすりながら周囲を見渡す。そしてようやく車が来ていることに気付いた。


 ちなみにこの車は正式には魔法四輪と呼ばれ、風の魔力を原動力とした乗り物である。大きさは様々で、今グレイの視線の先にある魔法四輪はその中でも大きい部類に入る。この乗り物は開発された当初は、貴族御用達の乗り物とされていたが、今ではかなり一般化してきている。


 そんな魔法四輪に、他の生徒達はそれぞれクラス別に乗り込んでいく。


「ん? あれ? 俺らはどれに乗ればいいんだ?」


 見ると車は四台しか来ておらず、その四台にはそれぞれのクラスが既に乗り込んでいる。


「あぁ、私達はこっちです」


 そう言ってキャサリンが指差した先を見ると、そこには他の四台とは一回りも小さな魔法四輪があった。乗れるのはせいぜい五人くらいだろう。自家用車として使われるものである。


「ちっさ! 何で俺らこんなのなんだよっ!?」

「生徒は三人しかいないのでわざわざバスを呼ぶ必要もない、と学院長が。だからレンタルしてきました。運転も私がするように、だそうです」

「私達の扱いだけ雑すぎじゃない?」

「別に何でもいいだろ。さっさと乗ろう。そして寝よう」

「それしか頭にないんですか、グレイ君は……?」


 グレイは大きくあくびをしながら後部座席に乗り込み早速寝息を立て始める。キャサリンもやれやれと言いながら運転席に座る。

 ぶつぶつと文句を言いながらもアシュラも後部座席へ、エルシアは補助席に乗り込んだ。


「では行きましょうか。全員ちゃんとシートベルトしてくださいよ~」


 キャサリンはそう言って車のエネルギーを起動する。ゆっくりと走り始めた頃、グレイとアシュラの間にちょこんとミュウが姿を現した。


「……ふわぁ~。……みなさん、おはようごじゃあます」

「あ、ミュウちゃん。おはよう。アシュラ、さっさと席代わりなさい」

「無茶言うなよ。走り出してんだろ」


 エルシアが目を輝かせながら補助席から後ろを振り向き、ミュウを見る。そしてすぐにアシュラを半目で睨んで命令する。


 エルシアの無茶ぶりに苦笑しながら断りを入れるアシュラは、そのエルシアの隣に座るキャサリンの表情がいつもと違うことに気付いた。


「キャシーちゃん、どうしたんだ?」

「え? あ、あぁ、運転するの久し振りでして、少し緊張してるんですかね」

「やめてくださいよ。不安になるじゃないですか」

「だ、大丈夫です。今まで事故を起こしたことはないので」


 そうは言うが、先程から全然スピードが出ておらず、他のクラスの大型車はもうだいぶ先に進んでいた。


「会場に到着したら全部終わってました~、ってことにはならないっすよね?」

「ば、バカにしないでくださいっ。これでもちゃんと免許は持ってるんですから」

「いやいや。それ当然ですから。持ってなかったら逆に問題ですからっ」


 珍しく天然発言するキャサリンにどこか不安を覚えながらも車は進む。


 安全運転を心掛けるキャサリンの車の中、生徒達はなんだかんだ言いながら楽しんでいた。


「ミュウちゃん。お菓子食べる? 私色々持ってきたのよ。ほら」

「おぉ。サンキュー」

「ちょっ! あんたにやったわけじゃないわよ!」

「ケチくせえこと言うなよ。なぁ、ミュウちゃん」


 ミュウは少し悩んだ後、こくんと頷く。大義を得たり、というような顔をするアシュラをエルシアは悔しそうに睨み付ける。


「でも、マスターがお菓子ばかり食べるのは駄目だと」

「いいのよ今日くらい。それにグレイの奴今は寝てるし、バレないわよ」


 エルシアはミュウをお菓子で誘惑する。ミュウは恐る恐る隣で眠るグレイを見て、プルプルと首を横に振った。


「やっぱり我慢、します」

「や~い。フラれてやんの~」

「うっさい! フラれ続けて十五年のあんたにとやかく言われたくないわよ」

「うぐぁっ!! 最悪なこと言いやがる。鬼だなお前はっ!」


 がやがやと騒がしい車内だが、グレイは一向に起きる気配は無かった。


 だが、その平穏は唐突に終わりを迎えた。


 突然、車が急ブレーキし、全員がガクンッと揺れ、シートベルトをしていなかったミュウが、後ろを向いていたエルシアとぶつかる。


「あいったぁぁっ!? な、何ですか急に!? ていうか、ミュウちゃん、すごい石頭っ」

「つつ……。すげえ勢いで鼻打ったんだけど……」

「うえっ、シートベルトがめっちゃ食い込んだ……」


 エルシアは頭をさすり、アシュラは前の座席に顔面からぶつかり、グレイはシートベルトで腹部を締め付けられた。ミュウは何事もなく元の場所に座りなおしていた。


「キャシー先生。何が──」


 エルシアが隣のキャサリンを見ると、何故か暗い表情をしていた。


「ふ、ふふふ。舐めた真似してくれます……」

「キャ、キャシーちゃん……? どうしたんだ?」

「……あれが原因じゃねえのか?」


 グレイが前方を走っている車を指差す。その車は道を右へ左へとちょこまか動き、それはまるで挑発しているかのようだった。


「何あれ? 頭おかしいんじゃないの?」

「潰してくるか?」

「何物騒なこと言ってんだよ。あんなのほっときゃいいんごぶぅっ!?」


 グレイの言葉は途中で中断された。車が急に曲がり、遠心力によってミュウの頭突きが飛んできたからだった。


「うおおっ!? キャシーちゃん! どうしたんだよ!?」

「わわわわっ!? せ、先生!!」


 アシュラとエルシアもパニックになりキャサリンを見る。


「安心してください。さっさとあの舐めた車をぶち抜きますから」

「「「全然まったく安心出来ないんですけどっ!?」」」


 キャサリンの口調は至って普通だった。だが、目はまったく笑っていなかった。いや正しく表現するならキャサリンは確かに笑っていた。ただその表情が、完全に危ない人のソレだったのだ。


 キャサリンがずっとゆっくり安全運転を心掛けていた理由がこれである。彼女は一度スイッチが入ってしまえば、何も考えずひたすらアクセルを踏み続ける走り屋に変貌してしまうのだ。


「うらうらうらぁぁあ!! 私の前を走ってんじゃないですよおおお!!」

「「「うわあああああああっっ!?」」」

「おお~」


 キャサリンはもはや誰の声も届かない。ひたすら前を走る車を追いかけ続ける。

 生徒達三人は悲鳴をあげながら、無事に車から降りられますようにと必死で祈り続ける。

 ミュウは一人、呑気な声を出しながら揺れ動く車内でグレイとアシュラに頭突きをかまし続けていた。


~~~


「ぐおおお…………。酔ったぁぁ……」

「いてぇ……ミュウちゃんの頭突き、マジいてぇぇ……」

「うぷ……。気持ち悪い……」

「マスター。大丈夫ですか?」


 グレイ、アシュラ、エルシアは車から降りた直後に地面に倒れ伏した。


 平然としているのはグレイの背中をさするミュウと、生徒三人に向かって無言で全力の土下座しているキャサリンのみだった。


「何やってるんだね、君達は……。皆もう先に行って待っているんだが?」


 そんな様子をリールリッドが頭を抱えながら見下ろしていた。

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