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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
一章 トライデント・プレミアム
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問題児達と灰色の少女 1

第2話

「ええっと……。今見たことをそのまま説明すると。死にかけだったグレイ君にとどめを刺そうとしていたエルシアさんを、アシュラ君がなんとか抑えようとしていたけれど、誰かわからない女の子が、グレイ君のことを「ますたー」と呼んだことにより、エルシアさんがアシュラ君もろともグレイ君に電撃を浴びせていた。よくわからないとは思うけど、先生にもよくわからない」


 誰に対しての説明なのか、もしくは変な独り言なのかはわからないが、青いフリフリのパジャマを着たキャサリンが、階下で発生した尋常ならない雷鳴に飛び起きて、すぐさま音のした男子エリアに降りて来てみると、今のような光景が繰り広げられたのであった。

 

 部屋にはピクリとも動かないグレイとアシュラの形をした何かが転がっていて、その他にエルシアと灰色の少女がたたずんでいた。


 それ以外、部屋の様子は特に何も変わった様子は無かった。彼らを黒焦げにするほどの魔力が放たれたにも関わらず、だ。


 グレイやアシュラが接していた床すら、焦げの一つもついていない。それほどまでに彼女の魔法操作はずば抜けて優秀であることが伺い知れる。

 だが、それなら何故アシュラにも攻撃したかと言うと。


「やめろエリー。自分がロリじゃないからって全てを諦めて無理心中とかヤンデ……」

「お前も死ね!!!」


 といったやりとりがあったからだった。幸か不幸か、最初の一撃でほぼ意識を失いかけていたグレイにはそのやりとりは聞かれていなかった。


「まあ、とりあえず、落ち着きましょう。それとそこの女の子はちょっと着いてきてください。わたしの服を貸しますから」


 流石に大人であるキャサリンは、一つずつ冷静に対処していった。

 キャサリンの貸した淡い水色の服が灰色の少女の丈にぴったりだったことに軽く絶望したりしたが、それは今は特に関係のない話である。


「胸元、ぶかぶかします」


 その一言だけが唯一の救いだったことも、今は関係無かった。


~~~


「──と、言うことなんですが」

「異議ありです裁判長。グレイは嘘を言ってます。そんな馬鹿げた話があるわけがありません」

「そうか? もしかしたらそこな幼女ちゃんがグレイに逆夜這いをかけたのかもしれねえだろ? な、キャシー裁判長」

「わたしはいつの間に講師から裁判長にジョブチェンジしたんでしょうか……」


 朝の食卓にはトーストと目玉焼きが並び、五人で朝食を食べる。

 ちなみにキャサリンとグレイが向かい合う形で座り、エルシアとアシュラが向かい合いながら座っている。

 件の灰色の少女はキャサリンとエルシアの間でモソモソとトーストを頬張っていた。

 何だか、さながら裁判所みたいな席順だった。


「エルシア。俺が言うのもおかしい話なんだけど、当事者でなかったなら俺もそう思う。でも事実なんだ! 信じてくれ!」

「信じるに足る根拠がありません」

「俺の目を見てもか?」

「腐り濁った灰色の目を見てどうしろと?」


 今の一言はかなりグレイの心を抉った。しかも口調が丁寧になっているのが更にキツい。

 確かに腐り濁っているのは認めるが、灰色なのは元からなのでどうしようもない。


「では、被害者さん。被告人に何か言いたいこととかありますか?」

「キャシーちゃん。なんだかんだ言ってノリノリだな。ってか、被害者はむしろ俺だから。襲われてはいないけど」

「むしろ襲いそうになってたけど、ってか? ははは」

「笑ってんじゃねえよ!!!」


 いつもは無気力至上主義のグレイだが、未来がかかってるとなったら必死にもなる。

 軽い冗談にも本気で切れるグレイにアシュラもわずかに苦笑する。


 そして話を振られたにも関わらずまだモソモソとトーストをかじっていた少女は、自分に視線が集まっていることに気付き、口の中にあるものをゆっくり飲み込んでから、ようやく口を開いた。


「ごちそうさまでした」


 四人は盛大にズッコケた。


「あたた……。まあ、とりあえず、あなたのお名前を教えてください」


 額を押さえつつ、キャサリンが代表して少女に問う。

 しかし少女はグレイの方を見ながらこう言った。


「名前は、まだありません」

「名前が無い、って。どういうこと?」


 エルシアが少女に問いかけた。


「まだ、貰っていないので」


 と、少女は続ける。それを聞いたキャサリンは何かを考え始めた。


「まだ、って。親は一体何をしてるのよ? 親の顔が見てみたいわ」

「んじゃ、俺からしつも~ん。何で君はグレイの部屋なんかにいたんだ?」


 エルシアと代わり、次にアシュラが質問する。そして返ってきたのは、爆弾発言だった。


「私は、マスターの下僕(げぼく)なので」

「《サンライト・フェザー》!!」

「落ち着いてくださいお願いしますエルシア様!!」


 エルシアは己のアークを顕現し、その銃口をグレイの眉間に当てた。

 グレイは即座に両手を上げ、全力で制止を懇願した。

 アシュラは何のプレイなんだよ、と妄想を膨らませた。


 そんな中一人、キャサリンだけは一つの可能性を思い付いた。今の少女の発言も、これなら一応の説明もつく。

 だが、本当にそんなことがあり得るのだろうか。そんな話は今まで聞いたことがない。

 だから、キャサリンは恐る恐る尋ねた。


「まさか、とは、思いますけど……。あなたって、エレメンタル・アーク、なんですか?」

「はい。そうですが……。言って、ませんでしたか?」


 何の躊躇いもなく即答した少女。

 その発言を聞いて四人はポカ~ンと口を開けることしかできなかった。


~~~


「人型のアーク? そんなの聞いたことありません! この子の冗談なんじゃ……」

「では、試してみましょう」


 と、いうエルシアとキャサリンのやりとりがあったので、グレイは彼女の名前を考えることとなった。


 名前を決めれば、アークを出すのも戻すのも自在となる。それで、その名を呼んで彼女がグレイのエレメンタル・コアに戻ったなら、それは彼女の言葉が真実であるという証明になる。


 と、言われても、中々すぐに決められるものではない。

 実のところ、グレイは前々から自分のアークを持った時に付ける名前を決めていた。が、それはあくまで武器としての名前であり、少なくとも女の子に付ける名前ではなかった。

 なので、今もなお悩み続けていた。その間、エルシアとアシュラが色々と名前の案を出していた。


「やっぱり女の子なんだから可愛い感じの名前がいいわよね。だから、ラグナロクとかどう?」

「エリー。お前のネーミングセンスにはガッカリだ。じゃ、次は俺の番な。そうだな~。将来美人になるようにとの願いを込めて、ヴィーナスってのはどうだ? そして、成長したヴィーナスに俺はこう言うんだ。お前の名は俺が付けてやったんだぜ。だから、ファミリーネームも、俺色に染めてやるぜ、ってな」

「キモいのよこのガングローゼ!!」

「キモい言うな! あとガングローゼとも言うな!」


 賑やかな二人の間にちょこんと座るまだ名の無い少女。

 グレイは彼女に関連するような名前を付けようかなと思い、色々と単語を思い浮かべる。


(灰色。少女。裸、は違う! えと、無属性。無。む……)

「決まりましたか? マスター」


 心の声を聞かれたのかと錯覚するほどに、絶妙なタイミングで少女が話し掛けてきた。


「あぁ。まあな。気に入るかは、わからないけど」


 グレイがそう言うと他の三人も静かになり、グレイの言葉を待つ。


「《ミュウ》ってのはどう、だ?」


 ただ単に無からむ、むゅう、みゅう、となっただけの単純な名前。

 だが、その名を聞いた時、今までずっと無表情だった少女は──否、ミュウは初めて笑った。


「気に、入りました。わたしの名前は、《ミュウ》です」


 その笑顔にドキッとしたグレイだったが、慌てて頭を振る。そして、言われてたことを早速実行することにした。


「それじゃあ、ミュウ。俺の中に戻ってみてくれないか」

「わかりました。マスター」


 そういうとミュウの姿がふっと消えたと思うと、グレイはわずかに体の中に、正確にはエレメンタル・コアに暖かい力が宿ったように感じた。


「これは、疑いようがなくなっちゃいましたね……」


 誰もが今見た光景を信じられずにいる中、キャサリンだけなんとか口を開くことが出来た。

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