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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
二章 エレメンタル・トレジャーウォーズ
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月別大会 3

「それでは、今日はトレジャーウォーズについての説明をしますから、グレイ君は寝ないでください。エルシアさんは自習する手を止めてください。アシュラ君はえっちぃ本を読むのを止めなさいっ!」

「何で俺の時だけ語調が厳しいんだ?」

「いや当然でしょ」


 アシュラが「へいへい」と言いながら持ってきていた本を乱暴に机の中に放り込む。


 旧校舎の教室で彼らはキャサリンから今回の大会、トレジャーウォーズのルール説明を受けていた。黒板にも目一杯大きな字で「トレジャーウォーズ」と丸い字で書かれている。


「では今週末に行われるトレジャーウォーズについて──」

「え? 今週末なんすか? 今初めて聞きましたけど」


 グレイのその発言にキャサリンはビクッと体を震わせる。

 その反応を見た三人は半目でキャサリンを睨む。


「べ、別に忘れてたわけじゃないですよ? この前の全校集会で説明されたみたいですけど、それは皆が大聖堂に行かなかったのが悪いんですし」

「でも先生なら学校行事くらい覚えててもいいと思いますけど?」


 とエルシアにツッコまれたがキャサリンは聞き流すことにした。


「説明を始めますっ!」

「「「誤魔化したっ!?」」」


 キャサリンは三人の声を聞き流し、宣言通り説明を始めた。


「今回のトレジャーウォーズ、別名はお宝争奪戦は学外にある学院長の私有地で行われます。そこは広大な森となっており、様々な魔獣が住んでいます。

 その森の中には大小様々な宝箱がいくつも置いてあります。皆さんはその宝箱を自分達の陣地まで運ぶ。それが大雑把な概要です」


 今回ばかりは真面目に話を聞く三人。その中でエルシアが手を挙げた。


「そのお宝って勘で探すんですか? それとも地図か何かあるんですか?」

「いい質問ですね。それが今回の鍵となります。ではまず、これを見てください」


 そう言ってキャサリンが出したのは白紙の紙。三人が首を傾げているのを見ながらキャサリンは話を続ける。


「この紙には今は何も書かれていませんが、実はこれ、宝の地図なんです。魔獣を倒すと千マスに分割された地図の姿がランダムで少しずつ見えるようになります。そして宝がある場所にはバツ印が付いてるんです。この地図はチームに一枚配られます。ですが、うちはチームが一つしか作れないので特別に一人一枚貰えます」


 この紙は魔法を受けると色が変色するという不思議な魔法の木を材料にして作られた魔法道具の一つで、密書などによく使用されるものである。


 それを改良して作られたこの地図は、倒した魔獣の魔力を吸いとり、地図が浮かび上がる仕掛けとなっているのである。


「千マスか。多いな……。ちなみに魔獣を倒したらいくつのマスが解放されるんです?」

「今回行く場所には魔獣はFからDランクの魔獣が出てきて、Fは一、Eは二、Dは三マスです」

「おいおい、途方もねえな。ちまちま倒してらんねえぞ」

「そういう人のためにもう一つの方法がありますよ」


 アシュラのその言葉を待っていたとばかりにキャサリンは説明を加えた。


「今回の大会はチーム戦。一チーム三人から五人のメンバーを組むのですが、その敵チームの一人を倒せば五マス、リーダーを倒せば十マスの地図が解放されるようになってます」

「倒す、っていってもどうやってそれを判断するんですか?」

「それは、これです」


 キャサリンは首にかけていたネックレスのようなものを指差す。普段ネックレスなんてかけないから何事かと思っていたが、別に彼氏からのプレゼントとかではないらしい。

 そのネックレスには緑の石と黄色の石が填められていた。


「このネックレスが皆さんの魔力や体力の消費率を測定し、魔力や体力、意識が途切れた時、もしくは致命傷になりかねない一撃に自動で反応して皆さんの命を守ります。その後、続けて魔法が発動し、自分の陣地まで強制的に飛ばされます」


 黄色の石は防御力に優れた土の魔石で所有者を守り、緑の石は速力に優れた風の魔石で所有者を速やかに陣地に飛ばす、一度きりの使い捨ての魔道具である。


「なるほど。地図はその魔石の魔力にも反応するんだな。でも、間違って他のチームの地図に刻まれたりはしないのか」

「その点も抜かりありません。その地図には事前に所有者の魔力を認識させておくんです。そして魔石は最後に衝撃を加えた魔力に反応しますから、同じ魔力を持った地図にのみに反応が出るようになってます。それは例え地図がどれだけ遠くにあっても同じです。ちなみにその地図を見れるのも、認識させた人のみなんですよ」


 ほう。とグレイが感嘆の息をもらし、地図とネックレスを交互に見る。


「なるほど。だいたいわかりました。そういや、一度強制返還されたらもう大会脱落ってことになるんですか?」

「いいえ。チームの一人だけが倒されたとしてもチームとしては終わりませんし、チームの誰かが陣地に戻り、チームメンバーと合流すればその人も再度大会に参加することが出来ます。ですが、リーダーが倒された場合はチームメンバー全員が陣地に強制返還され、ペナルティとして十分間、陣地から出ることが出来なくなりますので注意してください」


 そうなると、下手に弱い者をリーダーにするわけにもいかず、必然的にチームの中で一番強い者がリーダーとなる。


「そして、リーダーを倒したチームにはリーダーの分である十マスに加えて残りのメンバーの数に応じて更にマスが解放されます。

 なので最大で考えると、五人チームを相手にして一番最初にリーダーを倒すことが出来れば、リーダー分の十マス+メンバー四人×五マス、合計三十マスを一気に解放させることが出来ます」


 ほう、と三人は感嘆する。三十マスも一気に解放されればかなり有利になる。


「あと回復は自然回復か自分達の回復魔法のみで行ってください。私達講師は手も口も出しません。ですが、重傷者が出た場合はその時にこちらが判断し、対処します。その場合、その生徒は棄権扱いになります」


 そうなると彼ら《プレミアム》で回復魔法を使えるのはエルシアだけなので少々不利かもしれない。が、彼らはそれくらいのハンデは気にも留めない。


「では注意事項を説明しますよ。まず、あまりに悪質な行為を行えば即刻講師が止めに入り、そのチームのクラス全部が失格となります。スポーツマンシップ、とは少し違いますけど、ちゃんとルールを守ってくださいね」


 キャサリンは真剣な表情で願う。三人も神妙に頷く。


「よろしい。じゃあ、次。陣地に運び込まれたお宝はもうそのクラスの物になります。陣地にあるお宝を強奪すれば反則行為となり、これもまた失格になりますから十分気を付けてください。陣地にいる生徒に危害を加えるのも禁止です」

「そりゃいいな。宝の番とかしなくていいってのは楽だ」


 アシュラの言葉に二人も同意する。三人は全員、留守番だけはごめんだと思っていたので心配事が一つ減った。


「と、まあそれくらいですかね。あ、あとちなみにですが、お宝はバツ印の場所にありますが、それは初期位置であって、もう既に取られている場合でもバツ印は消えませんので注意してください。

 そして解放される地図のマスもランダムですし、偶然地図に載っていないけど宝箱を見つけることもあります。かなり運も必要になってくる大会なのです」

「なんともゲーム性の高い大会だな、今回」


 グレイは何か作戦でも考えているのか、白紙の地図を見つめながら言った。


「そういやキャシーちゃん。宝の中身ってなんなんだ?」

「不明です。開けてみてからのお楽しみ、だそうですよ。でも種類は様々で、クラス全員用の物もあれば個人用の物もあります。個人用だった場合はその宝箱を運んだチームの中で自分達で所有者を決めることになります。通常なら一番その宝箱を運ぶ際に貢献したメンバーを皆で選びますね」

「でも、用は早い者勝ちか。ふむ……」


 今、グレイの頭の中では色んな作戦を思案しているのだろう。どの作戦が一番有効か、ということを。


「では皆さん。今日から四日間は全部戦闘訓練としましょうか。皆さんがどれだけ強いと言ってもまだアークを持ってから数日なんですから。少しでも慣れておきましょう」

「おっしゃ! んじゃ早速この前の決着から付けようぜ!」

「負けるのはあんたなのにやけに張り切るわね」

「はあ? なに寝惚けてんだ。負けんのはお前らだっての。《シリウス》の副隊長とやりあえる俺にお前らが勝てるわけねえじゃん」

「あんたこそ寝ぼけてんの? 私達の戦績はほぼ同点でしょうが。それに私ならもっと上手く戦えたわよ。少なくともあんたよりはね。もしかしたら勝てたかもね」

「ん~。いや。エルシアでも勝てなかっただろうな。それにお前すぐ頭に血がのぼるし、そんな奴たぶん瞬殺されるぞ?」

「決めたわ。今日はまずあんたから倒すわグレイ」

「うわ、一瞬で頭に血がのぼってやがる……」


 そんな些細な言い争いをしながら三人は教室を後にする。キャサリンはそんな彼らの背中を追いながら三人の顔を見る。


 三人とも、なんだかんだ言いながらとても楽しそうだった。


 普段の彼らを見ているとつい忘れそうになることだが、彼らはどれだけ稀少で特殊な存在であっても、まだまだ年端もいかない少年少女なのである。

 そんな彼らを今までずっと我慢させてきた。それが普段の問題行動や喧嘩に繋がっている。


 キャサリンはそんな彼らをずっと見てきた。そしてとうとう学生らしくイベントを楽しむことが出来る彼らを見て、心が穏やかになる。


 だが──


「ならやってやんよ!! 練習場ぶっ潰す勢いでなっ!!」

「やってみなさいよ!! 旧校舎潰す勢いで返り討ちにしてやるわっ!」

「なら俺はその魔法を叩き潰してお前らのプライドも叩き潰してやるよ!」

「絶対止めてくださいよそんなことっ!!」


 そんな穏やかな気持ちは五秒と持たなかった。

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