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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
二章 エレメンタル・トレジャーウォーズ
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月別大会 1

第12話

 グレイは現在、ミュウと二人で魔法練習場にいた。


 シエナにあちこち連れ回された次の日の朝、グレイにしては珍しく朝早くに目覚め、一人で魔法練習場へと来たのだが、ちょうどその時ミュウも起きたのか、自分の力でグレイの(コア)から出てきたのである。


「おはよう、ございます……ますたー」

「あぁ、おはよう」


 グレイはまだ寝ぼけ(まなこ)のミュウに顔を洗ってくるように言い、ミュウはふらふらとした足取りで魔法練習場に設置されている洗面所へと歩いていった。


 相変わらずぽや~っとしているミュウ。だが、一度(ひとたび)戦闘となれば彼女は幼く小さい見た目からは信じられないほどの力を発揮する。それは自分より一回り大きな男を軽々と投げ飛ばし、倒すことができるほど。


 今日は一人でイメージトレーニングでもしようかと思っていたのだが、いい機会だと思い、帰ってきたミュウにこう提案した。


「ミュウ。俺と組手やらないか?」

「組手……?」


 最初は組手のことがわからないのかと思ったが、どうやら何故組手をするのかということが疑問だったらしい。


「ミュウの実力をちょっと見ておきたいと思ったんだよ。こんな時間なら他のクラスの奴等も偵察に来てるはずもないしな」


 ミュウは少し悩んでからこくんと頷いた。


「マスターのお願いなら、やります」

「そっか。ありがとな。あ、そうだ。これ、ミュウの分な」

「これは……昨日の、ですね」


 グレイがミュウに渡したのは昨日シエナから渡されたオーダーメイドのグローブである。

 魔道具開発の魔術師団に特別に作ってもらうよう、《シリウス》経由で依頼を出していたものである。


「これは、マスターのものでは……?」

「いや、それはミュウの分で、ちゃんと俺の分もあるから心配するな」


 そう言ってグレイはもう一組のグローブを懐から取り出した。


「実は二人分作ってもらったんだよ。予備用に、みたいなこと言ってな。まあ、何で片方は小さいんだ? って聞かれたけど、適当に誤魔化した」


 グレイは順に説明していったが、ミュウには半分も理解出来なかった。

 だが取り合えずグローブは二人用ある、ということだけはわかった。


「お揃い、です」

「ん。そう言われりゃそうだな」


 ミュウは嬉しそうに手に填めたグローブを見る。可愛げのない、武骨なグローブではあるのだが、そこまで喜んでもらえるとグレイも何だか心が和らぐ。


「よし。じゃ、そろそろやるか」

「……はい」


 グレイはミュウから少し距離を取り、構える。それに習うようにミュウも構えた。

 ミュウの構えは、グレイの構えを左右反対にした形をしていた。


「ミュウ。簡単にだが、ルールを付けとくぞ。今回は魔法無し、あくまで組手のみだ。勿論アークも無しだからな」

「了解しました」

「よし。ならこのコインが落ちたら始めるからな」


 グレイはそう言ってコインを放る。


 二人はそのコインが落ちる様子を静かに見つめる。

 静寂に包まれたの練習場にキンッと小さく音が響いた。


~~~


 まず動いたのはミュウだった。

 フェイントも何もない真っ直ぐな突進。勢いこそ良かったが、動きが単調過ぎる。グレイはそう評価し、ミュウの左拳を右手で払う。だが、評価は即刻改められた。


「なっ、にぃ!?」


 グレイは確かにミュウの攻撃を受け流すように払った。だが、それでも尚右手には焼けるような痛みが走った。

 グローブを填めていたからこそ、これくらいで済んだが、まともに受け続けると手がもたなくなる可能性もあった。


「大丈夫ですかマスター?」

「ああ。気にせずにどんどん打ち込んでこい」


 グレイは気を引き締めなおし、ミュウもグレイに連続で攻撃を仕掛ける。グレイも負けじと応戦する。

 手数は互角。力はわずかにミュウが上。だが、速度や技術はグレイの方が一枚上手であり、奇妙なまでに均衡が保たれていた。


 均衡が崩れたのはほんの一瞬。グレイがわずかに足を滑らせた時だった。


 その一瞬を的確に狙い撃ち、ミュウは顎を蹴り上げる。が、グレイはギリギリで体を後ろに逸らし、そのまま後ろに跳んで体勢を整える。


 わずかに肩で息をする。未知なるミュウの力。それは何もその存在や魔力だけでなく、その身体能力にも表れている。


 しかもその動きはとても見覚えのあるものだった。


「まさか、とは思ったんだが、やっぱり見間違いじゃないんだな」


 ミュウの動き。それはグレイがかつてシエナから学んだシリウス流の無差別格闘術そのものだった。

 まだ動きは単調で荒削りではあるが、実戦で使えるレベルである。


 だがグレイはミュウにその格闘術を教えたことはない。それどころか、一般常識すらまだ全て教えきっていない。

 にも関わらず彼女は現にこうして格闘術を使っている。これが指し示す意味は何なのか、グレイがそんなことを考えていると突然頭上高く飛び上がったミュウが回転しながら落ちてくる。


 グレイは冷静にバックステップで距離を取る。その直後、ミュウが地面に回転で生じた遠心力を乗せた踵落としを地面に叩きつける。


 地面には亀裂が走り、微かに揺れる。だが怯むことなくグレイは足に力を込めて地を蹴り、落ちてきたミュウ目掛けて駆ける。


「はぁっ!」

「うっ……!」


 今度はグレイが攻撃を繰り出し、ミュウがそれを何とか受け流す。

 ミュウの攻撃は左、右と順番でワンパターンな攻撃なので読みやすいが、グレイの攻撃は無軌道で色んなパターンを練り込み、蹴りも織り混ぜるので、ミュウは混乱しそうになりながらも攻撃を回避し受け流し続けた。

 だが、グレイがミュウの足を狙った攻撃を繰り出し、ミュウは思わずジャンプをしてしまう。


 宙に浮けば身動きは取れない。その隙をグレイが見逃すはずもなかった。

 すぐさまグレイはミュウの足首を掴んで振り回し、三回転した後、横一直線に投げ飛ばす。ミュウは何とか受け身を取りながら地面を転がる。


 転がり終えたミュウはすぐさま立ち上がろうとしたが、ポンッと頭を押さえ付けられた。


「はい。終わり、っと」

「…………負け、ました」


 ミュウは素直に自分の敗けを認めてそのまま地面に座り込む。


「マスターは、やっぱり強い、です」

「んなことねえよ。ミュウだって相当だ。正直言ってマジでびびったよ」


 グレイもミュウの隣に座り、置いたままだった手でミュウの頭を撫でる。

 だが、ミュウはその手を掴み取る。

 撫でられるのが嫌だったのか。と思ったグレイはすぐに手を引っ込めようとしたが、ミュウはそのままグレイの手からグローブを外して、もう一度自分の頭に乗せた。


 撫でろ。ということなのだろうと判断したグレイはもう一度ミュウの頭を撫でる。


「うにゅ……」


 ミュウは気持ちよさそうに目を細め、満足げな表情を浮かべた。

 

 グレイは小動物を愛でるような気持ちになりながら、ミュウが満足するまで頭を撫で続けた。


~~~


「あっ、グレイ。どこ行ってたのよ。もうとっくに朝食出来てるわよ」

「さも自分が作った、みたいな言い方はやめてくんねえかなエリー」


 《プレミアム》の寮まで戻ったグレイとミュウはエルシアとアシュラに出迎えられながらテーブルを見る。

 そこには簡素ながら美味しそうな朝食が並んでおり、軽く運動してきたせいか、かなり空腹になっていた二人は飛び付くように席に着いた。


「いただきますっ!」

「……いただきます」


 手を合わせ朝食を食べ始める二人をエルシアは訝しげな目で見てからミュウに直接尋ねた。


「ねえミュウちゃん。何処行ってたの?」

「もむ? もうむうもうめむ」

「あ、ごめん。口の中の飲み込んでからもう一回言って?」


 エルシアに苦笑されたミュウはパンをゆっくり飲み込んでから口を開いた。


「練習場、です」

「練習場? こんな早くから何やったの?」


 エルシアはどんな練習をしたのか、ということを聞いたのだが、返ってきた答えは少々曖昧なものだった。


「痛いこと、です」


 戦闘訓練でもしたのだろうか、とエルシアは考える。この時点でエルシアは「ミュウちゃんに痛い思いをさせるなんて」という気持ちになっていた。

 そのせいもあるのかは不明だが、次のミュウの一言でエルシアの想像は斜め上方向に暴走を始めた。


「でも、最後は気持ち良かったです」

「「ぶふぅっ!!?」」


 エルシアと二人の話を何気なく聞いていたアシュラが同時に吹き出した。彼らの頭の中では、さっきまでは戦闘訓練の様子を想像していたが、今は描写出来ないものへと変わっていた。ただひとつだけ言えるとしたら、背景はピンク色だった。


 グレイはその問題になった一言を、朝食を食べながら眠気に襲われていたので聞き逃した。

 エルシアはそんなグレイの襟首を掴み、激しく振る。


「何やってんのよあんたはぁぁぁあっ!!」

「えっ、ってぇ!? な、なんのことだぁぁっ!? 離せっ! 吐くっ!」

「あぁ、すんません。警察っすか? 性犯罪者捕まえたんで連行してってください」

「なにっ!? それ、俺のこと言ってんの!? てか何がどうなったらそんな話になるんだよぉぉっ!?」


 何がどうなっているのか全く理解が追い付かないグレイ。

 ピンクな妄想を想像し顔を赤くしながら暴走するエルシア。

 本当に警察に連絡をしているかなり真剣な表情のアシュラ。


 そんな三人をぼ~っと眺めながら、ミュウはもそもそと朝食の続きを食べ始めていた。

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