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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
二章 エレメンタル・トレジャーウォーズ
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新任の代表講師 4

「はい。そこまで~。今日はこれで終了で~す」


 キャサリンがパンッと手を叩き三人の注意を引く。それに気付いた三人はえ~っ!? と不満の声を漏らす。


「今日はもう十分やったじゃないですか。今度からはいつでも練習できるんですから今日は休んでください」


 キャサリンはそう言って宥め、グレイ達は渋々と模擬戦闘を終了させ、アークを戻した。


「ふぅ……。今日は引き分けだな」

「仕方ないわね。勝負はまた次に持ち越しね」

「命拾いしたな、二人とも」

「それはこっちの台詞よ」


 またエルシアとアシュラは飽きもせず些細な言い争いを始める。が、別に喧嘩になるほどのものでもないのでグレイは放置した。


「先帰ってるぞ~」


 そう言ってグレイは一人で先に練習場を出ようと扉へ向かう。

 すると何故か勝手に扉が開いたかと思うと次の瞬間、扉の向こうから炎弾が高速で飛来してきた。


 突然の奇襲にグレイは一瞬で意識を切り替える。

 今ここで攻撃を躱すことも可能だったが、そうすると背後にいる三人に被害が及ぶ可能性があると瞬時に判断し、グレイはほぼ同時に飛来してくる四つの炎弾を、右手の裏拳で弾き、左手の手刀で切り裂き、右足で踏み潰し、左足を上げて受け止めた。


 なんとか全て《リバース・ゼロ》で消し飛ばすことには成功したが、両手足を防御に使い、片足も上げたままの状態では、最後にグレイに向かって飛んできたものの対処までは出来なかった。


 しかもそれは炎弾ではなく、一人の人間であった。


「れぇぇぇくぅぅぅぅんっ!!」

「ごぶはっ!?」


 炎弾とほぼ同じぐらいの速度で飛んできた侵入者はグレイの腹部に激突した。正しくは抱きついた。

 そしてバランスを大きく崩したグレイはそのまま地面に倒れ込み頭を地面に強く打ち付ける。


 そんな、一瞬の出来事をただただ呆然と眺めていたエルシア、アシュラ、キャサリンの三人が恐る恐るグレイと侵入者に近付く。すると。


「もぉ~! れーくんったら最近全く連絡寄越さないんだから! 私がどれだけ心配してたかわかってるの? ちゃんと勉強頑張ってる? 栄養はしっかり摂ってるの? 夜更かしばっかりしてない? 学校は楽しい? 友達百人出来た? それにこの前事件に巻き込まれたって聞いたけど無事だったの? 婿入り前の体に怪我とかしなかった?」


 頭を打ったせいか、軽く頭上に星が舞っているグレイの体をブンブンと乱暴に振りながらマシンガンのように話し掛けるその女性は改造した赤い軍服を着こなしていた。

 その軍服に刻まれた紋章を見てキャサリンは息を飲む。


 七芒星の紋章。それは魔術師団の階級を示したものであり、七は最高ランクの証である。


「な、七芒星の魔術師団……。それにその軍服は……まさか、《シリウス》?」


 そしてキャサリンはようやくその侵入者が誰なのか気付いた。

 彼女が、《シリウス》の南方支部副隊長のシエナ=ソレイユであることを。


「《シリウス》……。あっ、私も見たことあるわ。この人」


 キャサリンの呟きを聞き、エルシアもやっとシエナのことを以前に目にした情報紙に書かれたいたことを思い出し。


「どストラァァァイクッ!! めっちゃ好みのタイプだっ!!」


 アシュラは全力でガッツポーズを取っていた。


「な、なんでそんなすごい人がこんなところに……。ま、まさか、新任の代表講師って」

「あ、ごめんなさい。挨拶が遅れちゃいまして。私はシエナ=ソレイユです。本日付けでこの学校の先生になりました。よろしくお願いします」


 シエナはようやくキャサリン達に気が付いたのか、丁寧に挨拶をした。未だ目を回しているグレイを抱き締めながら。


~~~


「何で、お前が、ここに来たっ?!」

「隊長命令だから~」

「もっと他にいなかったのか?! 副隊長様がわざわざ来なくてもいいんじゃないのか?! てか来んなよ!」

「いやぁ、なんか他にも候補はいたっぽいことは言ってたけど、私、れーくんに会いたかったからね。全然連絡寄越さないしさ」

「くっそ! 定期的に連絡取ってりゃ良かった!」


 グレイは頭を抱えながら全力で後悔し、不満を全開にする。そんなグレイをニコニコしながら見つめるシエナ。まるでグレイの悪口を気にしていないかのようだ。


「つーかなんでいきなり攻撃してきたんだよ!」

「本物かどうか確かめるためかな。本物なら絶対全弾撃ち落とせるだろうな、って思って」

「危うく死にかけたわ! このバカ!」

「れーくん。実はね……。バカって言う方がバカなんだよ?」

「やかましいわっ!」

「でもバカな子ほど可愛いって言うよね」

「心底どうでもいいわそんなことっ!!」


 真面目な表情で何を言うのかと思ったら別にどうでもいいことだったので、なんかすごい騙された感じがしたグレイは頭を掻きむしる。


「あの、それで、グレイ君。そろそろ私達にも説明してもらえると助かるんだけどな……」


 その二人の会話に、キャサリンがおずおずと手を上げながら入り込む。


「あ、あぁ、はい。えと、なんつーかこいつは「俺の彼女」なんです、っておいっ!! 声色真似てとんでもねえ嘘吐くんじゃねえよ!」


 グレイの説明のちょうど一番重要なところでシエナが冗談を挟み、他の三人には聞き取れなかった。


「……その人、あんたの、彼女なの?」

「違うって言ってんじゃん! てか、何でそんな怖い顔してんの!?」


 エルシアは白い雷を放ちながら虚ろな目でグレイを見つめ。


「てめえ……。そんな美人と付き合ってるとか、リア充爆発四散しろ」

「あぁ、もうっ!! ほんっと人の話を聞かねえなお前らっ!!」


 アシュラも黒い影を纏わせながら鋭い目でグレイを睨み付けていた。


 人の話を聞かないのは君もだよ。と内心で溜め息を吐くキャサリンはぎゃいぎゃいと騒ぐ三人を遠くに見ながらシエナに直接聞いてみた。


「それで、結局シエナさんとグレイ君の関係ってなんなんです?」

「ん~。一言で説明するなら、あの子は《シリウス(う ち)》の秘蔵っ子、かな」

「は、はぁ……?」


 グレイが《シリウス》の関係者であることはわかったが、シエナはそれ以上のことは何も話してはくれなかった。


 何故なら。


「さあ、れーくん! 感動の再会のハグも済ませたし、次はデートに行こ~」

「誰が行くかっ!! てか、あれのどこが感動の再会だよ! あれだとただの悲劇の再来だわ! あと曲がりなりにも講師になったんなら公序良俗ってもんを守りやがれ!」

「グレイ。やっぱあんた……」

「リア充許すまじ!!」

「あぁ~! ほんとめんどくせええええ!!」


 再びシエナが暴走し、エルシアとアシュラが嫉妬に狂い、グレイが頭を掻きむしりながら絶叫してしまっていたからだった。

 キャサリンは一人、遠くからグレイに同情の念を送っていた。


~~~


 時間は昼休みとなり、普段なら学食へ向かうはずのグレイは一人、《プレミアム》の生徒のみが暮らしている小さな寮に戻ってきていた。


 理由は二つ。学食に行けばシエナに遭遇して面倒なことになる可能性が大きいからであり、もう一つはあるところへ連絡を取るためであった。


 グレイは寮にある通信用魔道具を起動させる。その数秒後に向こうから反応が返ってきた。


『あぁ~。こちら《シリウス》南方支部──』

「くたばれっ!!」


 グレイは大きな声でそれだけ吐き捨てるとすぐに通信を切った。その数秒後に今度はグレイの方に通信が掛かってきたので、渋々と起動させる。


『ったく、久し振りに連絡寄越したと思ったらこれか。グレイ』

「うっせぇ。まさかその仕打ちがアレか? いい性格してやがるな」

『あのな……。一応俺、上司にあたるんだが?』

「今俺は《シリウス》じゃなくミスリル魔法学院に所属してるんだ。だから今は別に上司じゃないだろ」

『おいおい。あんだけ面倒見てやったってのにそれはないだろ』


 通信相手の男がわざとらしく溜め息を吐く。


「で、なんの用だよ?」

『いや。先に連絡したのお前だったよな?』

「俺の用はもう済んだだろ」

『俺に暴言吐くのだけなのかよお前の用事は……。何でシエナを寄越したとか聞かねえのか?』

「《閻魔》絡みだろ。それくらい聞かんでもわかるわ。確かにシエナほどの実力者がいりゃあ、何かあったときにすぐに対応出来るだろうな」


 グレイはさも当然と言う風に答える。その後すぐに講師としては心配が残るがな、と付け加えたが。


『……まあ、その通りだが。お前もシエナもどうしてそう察しがいいかね』

「察しがいいのは良いことだろ。で、何か情報は掴んでるのか?」


 グレイはようやく本題へと入った。勿論文句を言うのも目的の一つではあったのだが。


『悪いが、奴等、今はなりを潜めてやがる。いつ報復に訪れるかはわからねえ』

「そうか。わかった。ま、最初からあんま期待もしてなかったし気にすんな」


 グレイは皮肉を言い、男は言い返す言葉もなく苦笑する。


『ったく、ほんと相変わらずだな、お前は』

「人間そうそう変わるもんじゃねえよ。じゃあな、ヴォルグ」


 そう言ってグレイは通信を終わらせる。


 男──ヴォルグ=アルジェリオはグレイと初めて会った時のことを思い出す。


「人はそうそう変わらない、か。その通りかもしれねえな。でも、お前は気付いてるのか知らねえが、あの時よりかはマシになってるんだぜ……」


 静かになった執務室で一人、ヴォルグは大きな椅子に背を預けるのだった。

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