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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
二章 エレメンタル・トレジャーウォーズ
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新任の代表講師 3

「おお~。綺麗になってるじゃん」

「ぴかぴか、です」

「そうね。何でも私達用に結界もかなり強化されてるそうよ」

「なら次の目標はこの結界を壊すことだなっ」

「やめてくださいよっ!! ぜっっったいにやめてくださいよっ!!!」


 その頃、全校集会をサボったグレイ達は修繕工事が終わった旧校舎にある魔法練習場を訪れていた。キャサリンはもう既にやけくそ状態である。


 この魔法練習場は昔は闘技場としても使用されていたのだが、生徒数も増えて少々古くなってきていたこともあり、今では《プレミアム》三人の専用練習場となっていた。

 だが、それも先日の事件で外壁は半壊し、結界は無惨にも消し飛んだ。

 そして、それを行ったのも彼ら問題児三人である。だが、それは故意に破壊したわけでなく、結果的に壊れてしまっただけであり、三人に非は、少ししかない。


 そして、その責任を取るためにキャサリンは今月の給料と特別ボーナス(金一封)を生け贄に捧げられた。そのため、今のアシュラの物騒な発言はとても看過出来るものではなかった。


 アシュラもやや引きぎみに「じょ、冗談だって……」と言っていたが、本当かどうかはわからない。


 ともあれ、ようやく練習場の修繕工事が終わったのだ。今までずっと実戦練習をおあずけされていた三人は嬉々として練習場に散らばった。


「よし。早速やろうぜ。ミュウの力も試したいしな。なぁ、ミュウ」

「はい」

「なら俺が全力で相手にやってやるぜっ!」

「私もこの一週間分の鬱憤を晴らしてやるわっ!」

「だから! 大切に扱ってくださいって!」


 キャサリンは何だか無償に嫌な予感に掻き立てられたので、生徒達を全力で制した。


~~~


「じゃあ、まずはこの前出来なかったグレイ君の練習から始めましょうか」


 キャサリンがそう言うとエルシアとアシュラがぶ~ぶ~文句を言ったが、グレイに半目で睨まれ仕方なしに黙り込む。

 実のところ、アークをはじめて手に入れた時、エルシアとアシュラが模擬戦闘を行い、結界の魔力を大幅に削ったため、グレイは今までまともにアークの練習をしていなかった。しかし、実戦で少々使ってはいるので、何となくの能力までは知っている。

 とは言ってもまだまだ謎の多いグレイのアーク(つまりはミュウのことだが)のことだ。じっくりと色々試してみたいとグレイはずっと思っていた。その機会がようやく来たのである。

 グレイはシュタッと立ち上がり、ミュウもふわあ、と小さくあくびしながらゆっくり立ち上がった。


「じゃミュウ。早速頼むな」

「はい、マスター」

「今回は模擬戦闘ではなくアークの力の把握のみにしましょう。この前みたいに暴れられても困りますし」


 そう言ってキャサリンは座っている二人を見下ろす。その二人は目線を逸らし、口笛を吹いたり知らんぷりしたりしていた。


「では、まずどうします?」


 そんな二人は置いておくことにしたキャサリンは、とりあえずグレイの好きにさせることにした。


「そうっすね……。それなら、ミュウ。『アレ』出してくれ」

「……アレ?」


 ミュウは眠たげな目をしながら小首を傾げ、ハッと何かを思い出したかのようにポケットに手を入れ何かを取り出した。


「はい。マスター」

「…………なに、これ?」

「チョコです、マスター」

「いや。それは知ってる。これ今朝エルシアから貰ってたやつだろ」


 ミュウがポケットから取り出したのは小さなコインチョコだった。

 エルシアは無類の可愛いもの好きで、ミュウを溺愛しており、今朝も大量にチョコを与えていたのだが、マスター兼保護者であるグレイがそれを咎め、一個だけにしなさいと言って選んだチョコが今ミュウの小さな手の上に置かれていた。


「……うん。ごめん。俺の説明が足りなかった。そりゃそうだな。『アレ』でわかるわけないもんな」


 グレイは反省する。ミュウは世間知らずの天然系なのだということを失念していた。

 ミュウが世間知らずで天然なのは彼女がまだ生まれて間もないからである。なので仕方ない。

 グレイはミュウにそのチョコを返す。


「俺が出してほしいって言ったのは《空虚なる魔導書エンプティ・グリモワール》のことだ。出来るか?」


 そう言われてミュウはようやく気付いたように頷いた。

 ミュウは一度目を瞑る。次に瞼を開くとミュウの目は不思議な光を宿していた。

 ミュウの突き出した手の辺りに無色透明な無属性の魔力が集まり始めた。

 しかし、それを見ることができるのはミュウとグレイだけである。エルシアとアシュラにはなんとなくの感覚で感じることができる。だが、キャサリンには一切何も見ることも感じることすら出来ずにいた。


「顕現せよ。《空虚なる魔導書》」


 その彼女の《キーワード》に反応し、ミュウはアークを顕現させた。

 そう。自分もアークであるはずのミュウが、である。


 そして顕現されたアークは灰色の魔導書。ミュウの手のひらの上にページが閉じた状態でふわふわと浮かんでいる。


「ふぅ~ん。それがミュウちゃんのアークなのね。ちょっと見せて」

「あっ、俺も見てえ!」


 するとさっきまで静かに座っていた二人が魔導書を手に取りページをパラパラとめくる。だが──


「……何も書いてないじゃない」

「白紙のページばっかだな。何だよ。メモ帳なのか、これは?」


 二人の言う通り、《空虚なる魔導書》はほぼ全てのページが白紙だった。何かが書いてあったような形跡もなく、メモ帳と言われても仕方ないかもしれない。


「確かにな。でも最初のページには文字が書いてるだろ?」

「ええっと~。…………いや。書いてないけど」

「え? 嘘だろ!?」


 グレイは慌ててエルシアから魔導書を受け取りページをパラパラとめくる。

 だが、しっかりと最初のページに文字が書かれている。


「な、なんだよ。焦らせんなよ。ちゃんと書いてあるじゃねえか」

「え? ……いや、書いてないけど」

「ああ、俺にも見えん」


 どうやらエルシアもアシュラも書かれている文字が見えないらしかった。どういうことかミュウに尋ねると。


「その本は、無属性の魔力を持つものにしか、読むことが出来ません」


 と、すぐに教えてくれた。というのも、彼女は《空虚なる魔導書》のマスターであり半身でもあるのだ。名を無限目録と言い、《空虚なる魔導書》の能力と仕組みを完全把握しており、またその能力を行使出来るのである。


「へえ、そうなのか。でもそれは都合がいいな。ここには色々と書かれてるし、敵に見られちゃ不利になるかもしれないしな」


 グレイはパタンと本を閉じる。手を離せば魔導書は今度はグレイの周りを浮かびはじめる。そこでグレイはふと思ったことを口にした。


「ミュウを呼び出さずに魔導書だけを呼び出せたらいいんだがなぁ。それならミュウの姿を晒すことなくアークが使えるのに」


 グレイにとっては何気なく発した言葉だった。だが、ミュウはそれを質問と捉えた。


「出来ますよ」

「なんだ。出来るのか…………って、出来るのかよっ!!?」

「二回言ったわね」

「それほど重要なことだったんだろ」


 グレイの悩みが予期せぬタイミングで解決された瞬間だった。


~~~


「そういやここ最近はミュウに一般常識を教えるばかりでミュウからは何も聞いてなかったな」

「あ、グレイ。次は私に絵本の読み聞かせさせてよね」

「あぁはいはい」

「で、その次は俺が大人の保健体育を教え──」

「「そんなことしたら殺すぞ?」」

「うわぁ……二人ともこえぇ~」


 アシュラの冗談にマジギレするグレイとエルシア。ミュウは小首を傾げ、キャサリンは苦笑していた。


「あのぅ、グレイ君。試してみなくていいんですか?」

「あ、そうでした。じゃミュウ。一回戻ってみてくれ」

「はい」


 ミュウは魔導書を消してから空気に溶けるかのように自身も姿を消し、グレイの魔力中枢(エレメンタル・コア)に戻る。それからグレイは一度深呼吸する。


「よし。いくぞ……。顕現せよ。《空虚なる魔導書》」


 すると、本当に魔導書のみが顕現された。


「……俺の苦労はいったい……」


 グレイは、これが出来ることを知っていればメイランとの決闘の時、わざと負けると決めていたとしてもあそこまでボロボロにならずに済んだのに。と落ち込んだ。そんなグレイを心配するかのような声が聞こえた。


『大丈夫ですか、マスター?』


 ──《空虚なる魔導書》から。


「うわっ! びっくりした! って、その声、ミュウか?」

『はい。魔導書のみを顕現された場合、わたしの意識はこちらに移ります』


 どういう仕組みなのかは判然としなかったが、そもそも《空虚なる魔導書》はミュウのアークであり、半身でもあるのだから、こういうこともあるのだろうと納得する他なかった。

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