三人の稀少な問題児達 4
「──そもそも講師になってすぐに担任に任命するだけでもアレなのに、こんな大変なクラスだなんて聞いてないですぅ~! って、あぁ! 時間がぁっ!?」
長々と愚痴を溢し続けていたキャサリンは時計を見てようやく自分が授業時間を二十分も無駄にしたことに気付いた。
そして生徒三人を見ると。
「………………」
「うへへ。ほら、もっとこっち来いよ」
「ぐ~。んん、もう寝れないって……」
耳栓をしながら我関せずといった態度で自習するエルシア。
妄想が口から漏れだし、だらしない顔をしているアシュラ。
寝言で寝れないとかふざけたことをほざいているグレイ。
その三人に向かい、キャサリンは水魔法《アクア・スプラッシュ》を放った。しかし──
エルシアは白い雷で。アシュラは黒い影で《アクア・スプラッシュ》を苦もなく弾く。
一人、眠っていたグレイだけは「ぶふぉわ?!」と悲鳴をあげて飛び起きた。
「……キャシー先生。何で自習してる私にまで攻撃するんですか?」
「おいおいキャシーちゃ~ん。妄想の自由は法律で確立されてるはずなんだが?」
「うぅ……。キャシーちゃん。睡眠は人間が人間であるために必要不可欠なことだと思うんですけど、それを邪魔していいんですか?」
「だまらっしゃい!」
エルシア一人、「納得いかない……」と文句を言っていたが、確かにエルシアには魔法使わなくても良かったかもと思わないでもないキャサリンだった。
その後、わずかしか残っていなかった授業時間を早々に切り上げて、キャサリンは三人を旧校舎にある魔法練習場に連れて来ていた。
「じゃ、皆さん整列してくださ~い」
小さな子供に言うような口調だったが、何故か嫌な感じはしない三人は素直に横一列に並ぶ。
するとキャサリンは布がかかった台車を押して来てこほん、とわざとらしく一つ咳払いをした
「では。皆さん長らくお待たせしました。パンパカパーン! これが皆さんの属性と同じエレメンタル・アークの原石でぇ~す!」
何故かテンションの高いキャサリンは、勢いよく布を取り去った。
おお~っ、と感嘆の声を出す三人の目の前には、純白の鉱石、漆黒の鉱石、灰色の鉱石が台車の上に鎮座していた。
おお~? と、グレイ一人だけ声のトーンが低くなっていく。
灰色の鉱石、とは見た目ただの石なのだからそうなるのも仕方なかった。
「いやぁ~。ほんっとに大変だったのですよ。君達みたいな特殊な子達専用の魔法鉱石を探すのは。いろんな人にお願いして探してもらったのですから」
キャサリンは鼻高々に胸を張っている。見付けたのはキャサリンではなく、その業者さんなのだが、聞くところその人はキャサリンとは同期の友達なのだそうだ。
ちなみに今日、朝からこれを受け取りにいっていたのでカーティスに代理を頼んだのだった。
「特にグレイ君用の鉱石がなかなか見付からなかったらしくて。でも先に二人だけアーク作っちゃうのもアレでしたのでこんな遅くになっちゃったのですよ」
何だか申し訳ない気持ちになるグレイだったが、別に自分は悪くないのだし気にする必要もないかなと思った。
「ま、何はともあれ。ようやくだな。じゃ早速俺から──」
「ちょ、待ちなさいよ!」
アークの作り方は既に授業で聞いていたので、アシュラはエルシアの制止の言葉を振りきり、漆黒の鉱石を手に持って全力で鉱石に魔力を注ぎ込む。
アシュラの黒い魔力が漆黒の鉱石の形を変えていく。一際大きな魔力の奔流が起き、思わず目を閉じる。
そして目を開くと、アシュラの手には黒い大剣が握られていた。
「よっしゃ! 出来たぜ! これが、俺のアークか」
珍しくアシュラが女のこと以外で興奮しており、大剣を軽々と振り回していた。そのアシュラの黒い大剣は夥しい量の魔力を帯びていた。
キャサリンはその魔力量に驚愕した。しかし、エルシアはそんなキャサリンを気にも止めずに、純白の鉱石を両手で持つ。
「ったく。抜け駆けとか最低ね。ここは普通レディーファーストでしょ。ってことで、次は私がやるからね」
エルシアはグレイに向かってそう言うと、グレイはやれやれという風に首を縦に振った。
エルシアも、純白の鉱石に全霊の魔力を注ぐ。
眩い魔力の奔流を純白の鉱石は受け止める。やがて弾けるように光の柱が立ち上り、気付くとエルシアの両手に二丁の純白の銃が乗っていた。
「ふうん。銃、ねえ。……うん。いいじゃない。それにすごく綺麗」
エルシアは色んな方向から銃を眺めて、嬉しそうに笑う。
キャサリンはまたしても驚愕する。エルシアの銃もまた、アシュラの大剣とほぼ同等の魔力量を保持していたからだ。
(これが、《プレミアム・レア》のアークなのですか……?)
キャサリンは《プレミアム・レア》のことについては全くといっていいほど無知だった。
しかしこの学院、いや、それどころかこの世界のほとんどの人間は《プレミアム・レア》の存在すら知らないだろう。
だが、若くしてミスリル魔法学院に講師として雇われるだけあって、その他の知識は並の魔術師のそれを上回っている。
その彼女の知識を持ってしても、初期からこれほどまでの魔力量を持つアークは見たことも聞いたこともなかった。
言葉を無くしながら二人を見て、そのままグレイへと視線を移す。
彼もまた《プレミアム・レア》である。もしかしたら彼のアークもまた、とてつもないものになるのではないだろうか。
キャサリンは講師としてではなく、一人の魔術師として、グレイのアークに並々ならぬ興味を抱いた。
「はあ、俺がトリかぁ~。これでショボいのが出来たら恥ずかしいな」
そう言いながらただの石としか思えない灰色の鉱石を持ち、グレイは持てる全ての魔力を注ぎ込んだ。
だが、先程の二人とは違い、目に見える変化は何も起こらず、そのまま全ての魔力を注ぎ終えると、灰色の鉱石は音も無く砕け散り、グレイの手には──何も残らなかった。
「「「「…………は?」」」」
四人の声が綺麗に重なり、痛いくらいの沈黙が世界を包んだ。
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「ギャハハハハハハッ!! マ、マジかよ!? 消えちまったぞ! ア、アークはどうしたんだよグレイ! アッハハハハ!」
「わ、笑っちゃ悪いわよアシュラ……、プフッ……クックク、駄目、その顔は駄目、笑っちゃう……」
「お・ま・え・ら・なぁぁあ! 少しは俺の悲しみを癒す努力をしろ! くっそおぉ!!」
結局、何故かグレイのアークは出来なかった。
グレイはキャサリンにどういうわけか問い詰めると半泣きで原因はわからないとだけ言って、この鉱石を見付けた友人に連絡を取ってみると練習場をあとにした。
その時ちょうど今日最後の授業が終了したことを知らせるベルが鳴り、そのまま三人も練習場を出た。
意気消沈していたグレイは、もしかしたらあの鉱石は魔法鉱石ではなく、本当にただの石ころだったのでないかと考え始めた。正直まだそちらの方が救いはある。
だが、もし本物であったとしたら。そしてそれが砕けたということは。
「『無属性』だから、アークも『無』なのかもな。ハハハ」
グレイの後ろを着いてくるアシュラは笑いながらそう言ったが、グレイは全く笑えない。なんせ、あり得ない話ではないからだ。
ここ二ヶ月間、グレイは学院の図書館で様々な書物を漁ったが、無属性魔法のことについて書かれた書物は未だ一冊たりとも見付かっていないという、まだまだ謎の多い無属性魔法のことだ。
アークを消し去る魔法や、そもそも無属性にはアークを作り出すことすら出来ないなんてこともあるかもしれない。
グレイはそこまで考えて、ますます肩を落としながらとぼとぼと歩く。
流石に可哀想になってきたのか、アシュラとエルシアはそれぞれグレイの横に並んで歩く。
「まあ? まだアークが持てないって決まったわけじゃないだろ。そう落ち込むなよ」
「そうよ。可能性はまだあるわ」
「そうは言うがなぁ……。あぁ、そういや二人はアークの名前、どんなのにしたんだ?」
アークはそれぞれ持ち主が名前をつけるのが通例となっている。そしてその名前がアークを呼び出すための《キーワード》となる。
そもそもアークは鉱石からアークの形になると、持ち主の体内にある魔力中枢と呼ばれる器官と同化するようになるのである。
今二人がアークを持っていないのはそういう理由であった。
そしてアシュラとエルシアはそれぞれ、アークの名を呼ぶ。
「《月影》」
「《サンライト・フェザー》」
名を呼んだ次の瞬間、アシュラは漆黒の大剣を、エルシアは純白の二丁拳銃を手にしていた。
「……やっぱ羨ましいわぁ~」
「やらねえぞ?」
「私も嫌よ?」
「いや、何も言ってねえだろ」
三人は雑談を繰り返しながら、寮へと戻っていった。