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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
二章 エレメンタル・トレジャーウォーズ
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《プレミアム》と《イフリート》 4

 あれからようやく休み時間となり、旧校舎の《プレミアム》の教室では問題児達がモップを持って床を掃除していた。


 教室は水浸しで、拭いても拭いても水気が取れず、三人は盛大な溜め息を吐くのであった。


 そして、教室を水浸しにした張本人は現在ここにはいない。なら、どこに行ったのかと言うと、それは授業が終わったすぐ後のこと──


「それでは、三人でちゃんと教室の掃除をやってくださいね。それまでお昼御飯は食べちゃ駄目ですよ?」

「「「教室がこんなに滅茶苦茶になった原因はキャシー先生(ちゃん)でしょうが!」」」


 三人はほぼ同時に同じ台詞を吐く。

 キャサリンは目線を逸らしながら口笛を吹く。


「も、元はと言えばエルシアさんとアシュラ君が喧嘩したのが始まりなんですからね。では、私はこれから用事があるのでこれで……」


「「「うわっ、逃げる気だ!」」」

「ち、違いますよ……。私の授業の仕方についてこれからお説教会議があるんです……」


 語尾がどんどん小さくなり、その時のキャサリンの目は軽く死んでいた。


「「「いってらっしゃいませ!」」」

「皆さんがちゃんとやってくれたらやらなくていい会議なんですけどねっ!!」


 三人揃ってキャサリンに敬礼し、そのキャサリンは半泣きで三人を叱った後、肩を落としながら去っていった。


 ──と、言うことがあり、キャサリンは今は絶賛お説教タイム中なのである。

 流石に悪いことをしたと思ったのか、三人はぶつくさ言いながらも教室を片付けていた。


「な~んか最近キャシーちゃんの機嫌が悪いよな~」

「そりゃそうでしょ。あんなことがあれば私でもムカつくもの」

「だな。まあ、その原因もまた俺達なわけだが……」


 キャサリンの機嫌が悪い理由。それは、この間の事件で半壊した旧校舎の魔法練習場の修理費として、キャサリンの今月の給料が無くなったこと、だけでなく。


 キャサリンは学院から一番近い町、ミーティアで発生した魔獣事件を解決した功績により、金一封をいただいたのだが、それすら修理費として学院に没収されたためであった。

 その時のキャサリンの絶望はおよそ三人に推し測ることは出来なかった。金を没収されたその日の授業は、一日中自習となった。


 だからせめて、教室の掃除くらいはちゃんとしようと思ったのだが。


「これ、昼休み中に終わるのかしらね……?」

「……無理くねぇ? てか、無駄に広いんだよここ……」

「腹へったぁ……」


 三人は次第に無駄口が多くなり、掃除する手も止まりがちになってきていた。


「なら手伝おっか?」

「おう……。手伝ってくれるなら助かる」

「わりぃな」

「ありがとね」

「いやいや。困った時はお互い様って言うし~」


 そこにやって来た癖っ毛が獣の耳みたいになっている少女が何気なく三人に話しかけてきた。

 そして三人はそれぞれナチュラルに返答し、少女に余っていたモップを手渡し、そのまま掃除を再開させた。


「お、おおう……。ここまで何も触れられないとは想像してなかったよ」


 少女はモップを持ったまま、あまりにも華麗すぎる放置プレイに何とも表現し辛い感情に襲われながら口をポカンと開けて立ち尽くした。


「ん? どした? 手伝ってくれるんじゃなかったのか?」

「あ、うん。手伝うけどね。でも何でそんな自然なの?」

「手伝うって言ってくれてる人を警戒するほど人間恐怖症じゃないからよ」

「いやいや。それでも全然知らない人がいきなり来たら普通驚いたり躊躇したりしないかな?」

「美少女だから問題は無い! 欲を言えばあと三年くらい成長していたら尚よろしかった!」


 少女──メイラン=アプリコットは三人の返答に苦笑で返す。

 彼ら三人が問題児であるということは知っている。かなりの実力者であることも。それは今や学院中に広まりつつある。

 しかし、本人達を実際に見て、ついさっきまで抱いていた孤高のイメージは崩れ去った。


 確かに、今の三人の気だるげな表情で床を掃除している姿を見て孤高さを感じる者は、おそらくいないだろう。

 でも、事実として彼らは《イフリート》の生徒と決闘し、勝利している。それも、たった一瞬で。

 メイランはやや警戒しながら、ふと思った提案をしてみた。


「……ボクの炎で床を乾かそうか?」

「「「是非お願いしますっ!!!」」」


 その提案に飛び付くように三人がメイランの手を取る。本当に一瞬の間に自分の手を取った三人に内心かなり驚きながら、それと同時にまた苦笑する。そして更にこうも思った。

 面白い人達だな、と。


~~~


「で、誰だお前?」

「おっそ! 聞くの遅すぎるよ。教室乾かしきっちゃったよ?!」


 メイランの言う通り、教室の床はようやく乾き、今は机を運び込んでいる途中である。

 そこでようやくグレイがメイランに名を尋ねた。


「制服を見たところ《イフリート》の子なのはわかるけど」

「てか、こいつ見覚えあるような……」


 エルシアとアシュラもメイランのことは知らないようで、首をかしげる。アシュラは何やら記憶に引っ掛かるものがあるようだが、結局思い出せなかった。


「ほ、本当に知らないんだね。そんな見ず知らずの人をこき使ったわけか。いや、いいんだけどさ……」


 話を持ちかけたのはメイラン自身だ。だから誰にも文句を言える立場ではない。でも、どこか納得いかない部分も確かにあった。


「じゃ、改めて自己紹介するよ。ボクはメイラン=アプリコットだよ。よろしくね。で、実はボク、君達にちょっと話があって──」

「そか、よろ。ってか俺もマジ腹減ったぁ~。さっさと机並べちまおうぜ」

「そうねぇ。流石に私も限界だわ」

「……やばい。俺、今、空腹と睡魔の両方に襲われてる……」

「人の話を聞いてよ!?」


 どこまでもマイペース過ぎる彼らに振り回されるメイランが大声を張り上げ、三人の注意を引く。


「話があって来たんだってば」

「ふ~ん。その話長い?」


 グレイが腹を押さえながら尋ね。


「長くは、ないと思うけど」

「じゃ、三行で説明して」

「うええっ!?」


 エルシアは無茶ぶりをして。


「うええっ? どこの言語だ?」

「ちがうよっ!!」

「これで二行だな」

「嘘でしょ!?」

「はい終了~。おつかれさん」


 アシュラがほぼ強制的に話を終わらせた。


 そして三人は机をようやく並べ終えて、そのまま教室を出ていった。

 まるで人の話を聞こうとしない《プレミアム》三人に、メイランは頭が痛くなる。これならまだ自分のクラスメイト達の方がよほどマシだと思えるほどに。

 メイランが頭を抱えていると、教室の扉を出てすぐのところからグレイが話しかけてきた。


「あっ、そうそう。お前は俺達に授業中は静かにしてほしい。ってことを言いに来たんだろ? ならまあ、任せろ。俺が起きてたらちゃんとあのバカ二人くらい止めてやるから」

「えっ……?」


 メイランは驚きながらグレイの方を見る。でももうグレイはそこにはおらず、メイランも急いで教室を出る。

 幸いまだすぐ近くにグレイはいた。メイランはその背中に向かって問いかける


「ちょ、ボクが何しに来てたかわかってたの!?」

「ん? あぁ、まあ、だいたい想像付くわ。あんだけ騒がしくしてりゃ《イフリート(おまえら)》から苦情の一言もあるだろう、ってな」


 グレイは振り返りながら平然と答える。確かに誰でも想像できることではある。しかし、こうも的確に言い当てられると、自分の心が読まれているのかと錯覚しそうになる。


「ごめんな。あの二人は仲が悪くていつもああなんだよ。だから《イフリート》がいようがいまいがいつも通りに喧嘩しちまうんだ」

「……まあ、属性が同じでも喧嘩とかしちゃうくらいだし、それが別属性だと尚更だろうね」


 メイランはグレイと並んで歩き出す。


「それに光と闇なんて対極にある存在だからか、そりゃあもうひどいのなんのって。本当問題児だよなぁ~」


 それは君もでしょ。という言葉をなんとか飲み込み苦笑する。


「でもまあ、さっき掃除手伝ってくれた分はちゃんと返すよ。あと数日で《イフリート》の校舎の修繕も終わるわけだしな」


 めんどくさいけど。と小声で付け加えるグレイだったが、メイランは何故かその言葉を素直に信じられた。


「それにしてもお前、俺なんかと一緒にいていいのか? クラスでハブられるぞ?」

「え? あぁ、それなら大丈夫。ボクは今クラスを代表して来てるから」

「あっそ。ならいいけど」


 さりげなくメイランのことを案じたが、心配する必要がないとわかった途端、グレイはメイランに興味がなくなったかのように大きくあくびをし、体を伸ばす。


「それじゃ、俺は行くから。さっきはありがとな。助かったよ」


 そう言ってグレイは先に食堂へ向かった二人の元へと歩いていった。


「あ、うん。…………ってぇ! ちょっと待ってよ! まだ話はそれだけじゃないんだって~!」


 メイランはまだ話が全部終わっていなかったことにやや遅れてから気付き、慌ててグレイを追いかけていった。

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