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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
二章 エレメンタル・トレジャーウォーズ
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《プレミアム》と《イフリート》 2

 ミスリル魔法学院旧校舎。その中の一室にある彼らの教室では、いつものように授業が中断されていた。


「うらあああっ!!」

「はああああっ!!」

「やめてくださいぃぃ!」


 褐色の肌、ボサボサの漆黒の髪、血のように赤い瞳の少年──アシュラ=ドルトローゼと対峙しているのは、色白な肌と腰まで伸ばした純白の髪、宝石のような青い瞳の少女──エルシア=セレナイトだ。

 そしてその二人の喧嘩を止めようと慌てふためいているのが、このクラスの担任であるキャサリン=ラバーという頭脳と背丈はまるで子供、だけど胸だけは大人以上というなんともアンバランスな女性である。


 そのアシュラは黒い剣をエルシアに突きつけているのに対し、エルシアは白い二丁の銃をアシュラに突きつけていた。


「何事ですか騒々しい!!!」


 そんな彼らの教室に、他の講師が乱入してきた。


 それに気を取られたのか、アシュラとエルシアは魔力を収め、その講師をじぃっと見つめてこう呟いた。


「「……誰?」」

「《イフリート》の先生ですよ! 何で知らないんですかっ!?」

「「興味なかったから」」

「失礼なのですよ!! いくら目立たない先生だとはいえ、そんな言い方良くないのです!」

「キャサリン先生……。貴方も大概失礼ですよ」


 《イフリート》の講師が額に青筋を立てながらキャサリンを睨む。自分の失言に気付き、慌てて両手で口を塞ぐが全てが遅すぎる。


「まあ、今の失言は置いておくとして、何の騒ぎなんですかこれは」

「ええと……ですね……」


 キャサリンは言葉を濁しながら何があったのかをゆっくり説明し始めた。


~~~


「──つまり。四属性はそれぞれ特出した力があります。ではエルシアさん。四属性はそれぞれ何に特出していますか?」


 問題を当てられたエルシアは椅子から立ち上がり、すらすらと答える。


「火は攻撃力。水は回復力。風は速力。土は防御力です」

「はい。正解です」


 キャサリンは小さく拍手し、エルシアは軽く礼をしてから椅子に座り直す。


「そう、エルシアさんの言う通り、火は攻撃力。水は回復力。風は速力。土は防御力に優れています。と言った具合に四属性はそれぞれ戦闘スタイルも違ってきます。そしてこれは性格、人格にも大きく影響が出ます。では次はアシュラ君。四属性はそれぞれどんな性格をした者が多いか答えてみてください」


 そう言われてアシュラは立ち上がり、自信満々に答えた。


「火はツンデレ系美少女。水はお嬢様系美少女。風はマイペース系美少女。土はパワフル系美少女だっ! 間違いないっ!!」


 あまりの力説だったので、数秒間沈黙が続いたが、ようやく我に返ったキャサリンが軽く頭を悩ませながら返す。


「何で美少女限定なんですか。男の人は無視ですか? ……でも、あながち間違ってないので返答に困ります」


 キャサリンの求めていた答えではないが、テストで言うと三角くらいの点数は上げられる答えだったので、どうにも叱るわけにもいかず、小さく溜め息を吐くしかなかった。


「まあ、いいです。本当の正しい答えとして、火は熱血。水は冷静。風は穏健。土は堅実な人が多いですね。もちろんこれはあくまでも例えなので、絶対にこうなる、というわけではないんですけどね」

「でも俺の答えも間違ってねえわけだろ。やっぱ俺って天才だわ~」


 そう調子に乗るアシュラ。だが、本来ならこの程度は魔術師になる前。つまり魔法学院に入る前には誰しもが得ているはずの知識なのである。

 それこそ、魔力を持たない一般人すら知っている常識だ。


 なら何故アシュラはこうも偉そうにしているのかと言うと、少し複雑な理由があり、彼は幼い頃に学校に通ってはいなかったからである。

 そもそもこの世界では魔法は思春期にあたる十四~十五歳にならなければ使うことが出来ないのである。

 だから魔力を持つ者も、持たない者も初めは同じ一般校に通うことになっている。


 でも貴族なら、幼い頃から魔法の勉強のみをする貴族学校に入学することもある。


 そして、その貴族学校に途中(・ ・)まで在籍していたエルシアは、隣で偉そうにふんぞり返りながら笑うアシュラを冷めた目で見る。


「なぁ~にが天才よ。誰でも知ってる常識でしょ。それを自慢するとか、馬鹿じゃないの?」

「はは。なに言ってんだエリー。キャシーちゃんが間違ってないって言ってんだろうが。このツンデレ系美少女めがっ!」


 アシュラは煽るようにエルシアに言う。ちなみにエリーとはアシュラがエルシアに付けたあだ名で、キャシーちゃんとはこのクラスの全員が付けたキャサリンのあだ名である。


「だ、誰がツンデレよ!? いつ、誰が、誰にデレたってのよ!」


 顔を真っ赤にして机を叩きながら立ち上がるエルシアをアシュラは鼻で笑う。


「なんだ? 言ってもいいのか? それじゃあ、こほん。ええっと、確かあれは──」

「《サンライト・フェザー》!」


 アシュラがいくつか思い付く例を挙げようとすると、エルシアは己の魔法武器、《エレメンタル・アーク》の名を呼び、顕現させる。

 エルシアのアークは彼女の髪の色と同じ、純白の二丁拳銃。その二つの銃口をアシュラの額に向けたエルシアは何の躊躇いも容赦なもく引き金を引いた。


「って、うおおおおおっ!? あっぶねえぇっ!! お、おまっ、頭狙いやがったな!!」


 アシュラは体を目一杯反らし何とかギリギリ弾丸を回避する。逆さまになった視界の端に、窓ガラスが割れているのが見えた。


「乙女のプライバシーを侵害しようとする変態のあんたなんかに容赦する必要なんかないわ! この女の敵!!」

「だからって人のトラウマ抉りにかかるかよ! 光属性はヤンデレ系かよっ!?」

「誰がヤンデレよ!! 誰が!!」


 そう言ってエルシアは再び引き金を引く。


「くっそ! 《月影つきかげ》!」


 その瞬間にアシュラも自身のアークを顕現させる。彼のアークは漆黒の大剣である。

 その剣の腹で銃弾を防ぎ、机を蹴飛ばしながら後ろに跳んで距離を取る。


「ちょっ!? 二人とも喧嘩はやめてくださいよ! 今はただでさえ──」

「これは喧嘩じゃありません。制裁です」

「これは喧嘩じゃねえ。戦争だっ!」

「余計駄目じゃないですかあああっ!!」


 キャサリンの慌てた声で放った制止の言葉も聞かず、二人はそれぞれ魔法を練り始める。その二つの膨大な魔力は旧校舎をわずかに震わせる。


「うらあああっ!!」

「はああああっ!!」

「やめてくださいぃぃ!」


~~~


「──と、言うことでして……」

「はあ?」


 キャサリンは包み隠さず事実のみを述べたのだが、どうやら講師はそんなアホみたいな理由で教室で魔法を使った喧嘩が行われていたという非常識な現実を信じられないようだった。


「まさか、とは思いますが。いつもこんな感じなのではないですよね?」

「そう、ですね。静かな時は静かなんですが、うるさいときはもう少し──もうかなり、うるさいですかね……ははは」


 遠い目をしながら乾いた笑いを溢すキャサリンを見て講師は更に絶句する。

 まさかの、いつもはこれ以上に酷いというキャサリンの発言に《イフリート》の講師は頭を抱える。


 流石は二百年以上の歴史を持つミスリル魔法学院においても初めて起きた異例であり、学院が始まって以来の超問題児のみで構成されたクラス、《プレミアム》の生徒達だな、と悪い意味で感心した。


 ──《プレミアム》。正式には《プレミアム・レア》と呼ばれるそれは、この世界における異質な魔力のことを総称している言葉である。


 というのも、この世界には魔法属性は四つのみとされているのが常識となっている。


 火。水。風。土。これらはかつてこの世に存在し、この世に混乱と戦乱をもたらした精霊達とその眷属と同じ属性なのである。


 火の精霊《サラマンダー》とその眷属《イフリート》。

 水の精霊《ウンディーネ》とその眷属《セイレーン》。

 風の精霊《シルフ》とその眷属《ハーピィ》。

 土の精霊《ノーム》とその眷属《ドワーフ》。


 眷属は妖精とも呼ばれ、ミスリル魔法学院ではその名をクラスの名称として使っている。


 しかし、極々稀にその四属性以外の属性を持つ者が現れる。


 それがエルシアの光属性やアシュラの闇属性などである。

 そして今年度に特別に編成されたクラス、通称《プレミアム》にはそんな特殊な魔力を持つ者達のみが在籍しているのであった。


 だが、魔術師とは自分と違う属性の者に対して強い反発を覚えることがある。

 成長し、大人になればいくらかマシになるのだが、初めて魔法に触れる彼らにとって、些細な争いが絶えず発生する。


 故に学院はクラスを属性で分けているのだが、ただでさえ少ない《プレミアム》の彼らをわざわざ一人ずつのクラスに分けるわけにもいかず、一つの教室に集めており、こういったくだらない喧嘩はもはやこのクラスでは日常茶飯事となっている。


 だが、その日常を知らない《イフリート》の講師にとってここは、さながら、無法地帯のように見えていた。

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