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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
一章 トライデント・プレミアム
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消えゆく炎と虚言と氷河 1

第6話

 ギャバル=ジェンダーは火の属性を継承してきた由緒ある貴族の家系に生を受けた。

 ジェンダー家は多くの有能な魔術師を輩出し、彼の父もまた有名な魔術師であり、それと同時に彼もまた属性主義者であった。

 ギャバルは幼い頃からそんな父の厳しい教育を受けて育った。

 だからか、まだ魔力を宿していない小さな頃から他の属性の者と付き合うことは少なかった。

 そんな中でサブとニックはジェンダー家の傘下にある火の属性を持つ貴族の息子であり、少ない友人でもあったので、よくつるむ間柄だった。

 彼らは幼い頃に、いずれは父のような立派な魔術師になりたいなどと夢を語り合っていた。

 そして、とうとう念願の魔法学院に入学し、《イフリート》の制服に身を包んだ時には誇りと使命に熱く燃えたのをまだ覚えている。

 だが、現実はそう簡単ではなかった。

 ジェンダーという名は確かに有名だ。クラス内でも少しは囁かれたものだ。しかし、同年代に《プレミアム・レア》などという、自分など遥かに凌ぐほどの驚異的で目の引く者達の存在があり、ジェンダー家の名はすぐに霞んでしまった。


 ムカついた。納得がいかなかった。いつか見返してやる。そう思っていた。


 そしてその機会がやってきた。クラスでの順位を決める大会、クラス内ランキング戦である。

 ギャバルは幼い頃から魔法を勉強してきた。もちろん幼い頃に魔法を使えたわけではない。そればかりは、周りにいる生徒と同じである。

 だが、それでも確実にギャバルにはアドバンテージはある。負けるわけがないと、そう思っていた。

 でも、蓋を開ければ二十二位などという不甲斐ない結果に終わった。

 運が無かったといえば確かにそうだった。ギャバルは後に《イフリート》一位になる男と戦って敗れたのである。

 もしかしたらもう少しばかり順位は上だったかもしれない。それは今更言っても仕方のないことではあるが。


 ギャバルはそれが恥ずかしかった。悔しかった。サブもニックも、同様に結果を出せず、ふて腐れる日々を送った。


 次に行われたクラス内順位が高い者達のみで行われたクラス対抗戦を見ては、「自分の方がもっと有利に立ち回れた」、「そこでそんなミスをするんじゃない。出来損ないが」、「偶然勝てたようなものではないか」などと、心の中で黒い感情がふつふつと沸き上がっていた。

 実際にその場に立てば、おそらく上手くはいかないだろうと、心の片隅で思っても、そんな思考は振り払い、尊大な態度をとって周りに、特に自分より下位のクラスメイトに威張り倒していた。


 そんなある日、今まで黙っていた自分の順位が父の耳に入ったのか、ジェンダー家の誇りを汚すな。といった類いの手紙が届いた。


 腹が立った。何も知らぬ無神経な父に。そして弱い自分自身にも。


 そんな苛立ちを覚えながら食堂へ行くと、目の上のたんこぶである《プレミアム・レア》の面々が騒いでいるのが視界に入った。


 彼らはアークを持っていない。クラス対抗戦に出場すら出来なかった落ちこぼれ達のクラス。自分より劣っている奴等を見ると、少しだけ気分が晴れたような気がした。


 だから軽い気持ちでちょっかいを出した。彼らを馬鹿にして辱しめれば、もう少し気が晴れるかもと思ったから。


 だが、まさか顔面と腹を蹴られて、不意打ちで顎を殴り飛ばされ、無様に気絶するとは思ってもみなかった。


 恥をかかせるつもりが、逆に恥をかかされた。それがギャバルの怒りのボルテージを更にあげた。


 保健室で目覚めたギャバルの元にリールリッドが訪れ、軽い説教の後、彼らと決闘をするように、と言われた。

 アークの使用許可は降りなかったが、多くの生徒の前で自分の実力を示せて、尚かつ《プレミアム》に仕返しができ、辱しめることができる。

 そう考えてギャバルは決闘を承諾した。

 どうやらサブとニックの元にも家からギャバルと似たような手紙が届いており、むしゃくしゃしているということで、いい憂さ晴らしになる。そう思った。


 だが、そうはならなかった。


 サブはアシュラに、ニックはエルシアに一撃で、しかも一瞬で倒されてしまい、ギャバルに至ってはグレイのデコピン一発に脳が勝手に勘違いして気絶してしまった。


 いずれ目覚めた彼らはその事実を聞かされ、これほどまでの屈辱を味わったことは今までなかったと、血が滲むのではないかと思うほど強く拳を握りしめた。


 そんな彼らにある人物が接触してきた。その人物は彼らの代わりに《プレミアム》の面々を潰してやると言った。

 彼らは正直戸惑った。これは何かがヤバイと心のどこかで感付いていた

 だが、彼らは知らなかったが、部屋には軽い催眠効果を及ぼす魔薬の香が焚かれており、冷静な判断が下せない状況で思わず、それを願ってしまった。


 作戦は町に魔獣を放ち、事故に見せ掛けて殺害するというものだった。

 しかし、ギャバル達はそれを直前まで知らされていなかった。


 サブとニックはそこでようやく自分達が取り返しのつかないところまで来てしまったということに気付いた。


 だが、ギャバルは違った。彼は人より薬が効きやすい体質なのか、その話を聞かされて尚、現状を理解できていなかった。

 そんな彼を突き動かしているのは、グレイ=ノーヴァスに対する怒りと殺意だけだったのだ。

 だから作戦が失敗したと聞かされた時、安堵した二人とは違い、悔しそうに唇を噛んだ。


 次の作戦が言い渡された。そして、それにはギャバル達三人が中継の連絡部隊として組み込まれていた。

 ギャバルは進んで志願したが、残りの二人は《閻魔》のフーに作戦に参加しなければ殺すと脅された。

 これは《閻魔》が彼らを共犯にしようと画策したことであった。

 そして最悪の場合は、最後の手段として全ての罪を彼らに背負わせ、《プレミアム》や《閻魔》の姿を見た者全てを燃やし尽くすように命令していた。

 それには捕まった《閻魔》のメンバーを焼くことも含まれている。


 そんな恐ろしい命令も、脅されて実行せざるを得ない精神状況にまで陥ってしまい、必死に作戦の成功を祈った。


 それならまだ、自分達の命は助かり、手は汚れない。そう思ったのである。


 しかし、またもやそうはならなかった。


 実行部隊六人全員がやられ、五人が捕らえられ、一人が逃走した。


 フーから命令を受け、サブは手が震えた。歯もカタカタと鳴り、心臓の鼓動はうるさいくらいに脈打った。

 ニックも体が震えだし、恐怖を感じた。


 そしてそんなとき、作戦前に渡されてずっと握りしめていた赤い丸薬、イビルフェアを見て、これを渡された時に言われた言葉を思い出す。


「これを飲めば恐怖なんて感じなくなる」


 藁にもすがりたい気持ちではあったが、その丸薬の恐ろしさは授業で習っていた。しかし、既に狂ってしまっていたギャバルはその丸薬を飲んだ。


 途端、ギャバルの魔力が上がり、その魔力にあてられてしまった彼らは恐らくほとんど無意識だったのだろうが、思わずイビルフェアを飲んでしまう。


 そこで彼ら二人も魔力の上昇に酔いしれてしまい、冷静さを欠いてしまった。

 この力でエルシアを、アシュラを倒したいと思うようになった。


 ちょうどその時にキャサリンが現れ、彼らはその後を追った。

 旧校舎に到着した彼らの目に、グレイの姿が映る。

 ギャバルは思わず、作戦など何も考えずにただただ野蛮に炎を放った。


 そこから練習場で正体がばれ、《プレミアム》三人との決闘となった。


 今度こそ。今度こそ勝つ。そして殺す。三人はそんな強い意志を持って挑む。

 でも、途中で魔力の暴走が起き、そんな意志さえも消え去り、ただ目の前の敵を殺すためだけに動いていた。

 そこまでしても勝てなかった。サブとニックは倒れ、ギャバルも既に意識が朦朧としていた。


 だが、ギャバルだけは他の二人と違い、薬の相性が悪い意味で良かったらしく、更に魔力が上昇してしまった。


 その時、ギャバルは己の死を悟った。

 そう理解したギャバルの頭は一気に冷静になっていった。


 そして遠い昔を思い出す。所謂走馬灯というものだろうか。

 幼き頃、サブとニックと共に語り合った父のような魔術師になりたいという夢。

 その夢を、今の自分は体現出来ているのか? いや、出来ていない。出来ているはずがないと断ずる。

 こんな小さな男が、父のような偉大な魔術師と呼べるわけがない。

 死を間際にした今だからこそだろうか、今までの愚かだった自分を恥じた。


 後悔するのが遅すぎる。ギャバルは自身の体内にある魔力中枢(エレメンタル・コア)が軋み出したことを感じ、もういっそ潔く死のうか、と思った。


 その時、どこか懐かしくすら感じる声が、荒れ狂う暴風雨のような炎の魔力の中からギャバルの耳に届いた。


「もう一発食らっとけ!」


 それは、決闘の際に聞いた最後の言葉。

 まさか人生の最期の瞬間にも同じ言葉を聞くとは思ってもみなかった。


 でも何故か、涙が出そうになった。


 そして次の瞬間、顔に強い衝撃が走り、薄れ行く意識の中で強烈な破砕音が轟いたのを聞いた。

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