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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
五章 ティターニア・ファミリア
233/237

初めての連続 3

 大会も三日目と佳境に入りつつある今日。ミュウは朝からブリードの生徒が宿泊しているホテル前にある広場でじっとホテルの入り口を見つめ続けていた。

 目的は勿論ティアラともう一度話し合うためなのだが、まるで出てくる気配はない。


 そもそもティアラは既に二種目の競技に参加しており、後は明日の最終競技を残すのみなので、外に出てくるという保証はどこにもなかった。

 しかしミュウにはもうただ待つことしか出来ない。朝食の時、グレイからティアラと直接話す他ないと言われ、現状を打破する手立てがなかったのだ。

 その時グレイは役に立てなくてごめん、と申し訳なさそうに謝ってきてミュウは即座に首を横に振った。だがグレイにはまだ策があるようで、ミュウよりも早くどこかへと出掛けていった。


「…………ふぅ」


 マスターに余計な心労を与え、ティアラには会えない。ミュウは小さく苦悩の息を漏らしながら空を見上げる。

 日は既に高く昇っており、もうじき昼になろうとしていた。


~~~


「わふっ、わんっ!」

「にゃあ~にゃっ!」

「…………うる、さい。引っ張らないで。……もう、戻っててクオン、ケイト……」


 昼間になっても布団を頭まで被って一向に外に出てこようとしないティアラを見かねたクオンとケイトが鳴き喚きながら布団を引っ張るも、ティアラの一言で彼女の《魔力中枢エレメンタル・コア》の中へと戻される。

 部屋にはあとホルスとエポナが残っているが、その二体は無理に布団から引きずり出そうとはしてこなかったので、そのままにしていると、突然窓の方からコンコンと音がした。


「……何? 外に行きたいの? でも今日はそんな気分じゃないから……」


 ティアラは最初その音はホルスかエポナのどちらかが窓を叩いているものだと思ったのだが、二体が同時に警戒体勢に入り魔力を放ち始めたので、すぐに布団をはね除けて窓から距離を取る。


 窓にはカーテンが閉まっており、窓の向こうにいる人物の姿は見えないが、窓越しに感じた魔力でその人物が誰なのかがわかった。


「白い、光の魔力……。エルシア=セレナイト……?」


~~~


「やっと見付けた……」

「おや? 誰かと思えばれーくんではないですか。どうかしたんですか? もしかして昨日お渡しした情報のことですか? それとも残り二件の情報の取引をする気になったとか?」

「例の件については今事実確認してる最中だ。今日は別件でお前に用がある」


 一方その頃。グレイは朝からずっとシュエットを探し回っていた。昼、出店の前で立ち食いをしていたシュエットをようやく見付けた後、取り合えず落ち着ける場所へ行こうと、先日と同じ店へと向かった。

 相変わらず客のいない店内に入って、店員に事情を話して奥へと下がってもらう。


「それで、私に用とは一体何なんです? あっ、もしかして愛の告白ですか? すみません。お気持ちは大変嬉しいのですが私とれーくんはお友逹で……」

「情報が欲しい。報酬は無属性魔法の情報だ」

「私のジョークは完全無視というわけですか、そうですか。それで、わざわざ別件と言うくらいですからあの二件の情報ではないんでしょうが、一体どんな情報をご所望で?」

「──ティアラ=レインフォードについて知っていること全て。特にブリード魔法学園での学園生活や立ち位置、それに対する周囲の反応なんかが知りたい」

「…………へぇ」


 思ってもいなかった展開にシュエットは目を細め口角を吊り上げる。

 何故グレイはティアラ=レインフォードの情報が欲しいのか。あれほど頑なに拒んでいた無属性魔法の情報開示を交換材料として出してくるくらいだ。余程の何かがあるのだろうと思ったシュエットはわざとからかうように返答を濁す。


「えぇ~!? どうしましょうかね~。ティアラさんみたいなうら若き少女の赤裸々な個人情報が欲しいだなんて、とんだ変態さんですねぇ~。れーくんはティアラさんのプライベートを知ってどうするおつもりなんですかぁ~? ハッ!? もしかして私ではなくティアラさんに愛の告白を~?!」

「さてな。そんなことお前に言う必要はないだろ? 知りたいならそっちも何か情報寄越せよ」

「あはは~、生意気でノリの悪い人ですねぇ~。ここは普通『バ、バカ野郎ッ!? べ、別にそんなつもりで聞いたんじゃねえよっ! それにティアラに告白するくらいならしーちゃんに告白するぜ!』って、慌てふためいてからうっかり私に告白する場面じゃないですかぁ~」


 シュエットは不満そうに唇を尖らせるが、そのふざけきった態度と話をめちゃくちゃに掻き乱されることにいい加減嫌気が差したグレイは無視して話を続けた。


「で、どうするんだ? 言っておくがお前と交渉するのはこれで最後だぞ」

「おや? まだシエナさんとフェイトについての情報が残ってますけど?」

「いらねえよ。どうせシエナは何が起きようと自分で解決するだろうし、フェイトについては自分で調べる。あの時見せてもらった映像だけで十分だ」

「またまた強がっちゃってぇ~。れーくん一人でそんなことできるわけ──」

「《シリウス》、なら可能だろうぜ」

「──はい?」


 グレイが呟くように《シリウス》の名を出した、そのほんの一瞬。シュエットはわずかに反応を示したが、すぐにとぼけてみせた。

 普通なら違和感すら感じないほど些細な心の乱れだったため、誰にも気付かれることはなかっただろう。だがグレイにはその一瞬だけで十分だった。疑惑は確信に変わり、今度はグレイがからかうような素振りを見せながら話し始める。


「あのフェイトの映像。あれは恐らく監視用の、それもあのフェイトが見落とすほどの高性能な魔道具で撮られたものだろう。だがそんなものをただの一学生が入手することなんか出来るわけがない。当然ああやって持ち出すこともな。しかもフェイトは全国指名手配されている男だ。そんな奴が映っている映像は重要な手掛かりになり、保管や管理も厳重に行われるはず。それなのにお前は平然とそれを俺に見せた。俺なら必ず食らいつくはずだと考えてな」

「…………」

「おっ? ようやくあの憎たらしい笑みが消えたな。で、話を続けるが、たぶんあの映像は盗んだものじゃないはずだ。もし盗むとしたならそれは証拠隠滅が目的のはず。お前がフェイトの仲間ならあんなものを残しておく必要がない。だとしたら後はどんな可能性があるかと考えた時、一つの答えに行き着いた」


 ピンと人差し指を立てシュエットの反応を伺う。まるで表情を動かさずグレイを見定めるかのような視線を向けるだけだった。しかしグレイには少し焦っているようにも見えた。


「恐らくお前はどこかの組織と関係があり、あの映像を餌に俺個人の情報や戦闘力、そして無属性魔法の能力、有用性と危険性の調査し、それに加えて危険度未知数の俺のことを秘匿扱いとした《シリウス》の内部調査が目的なんだろ。そしてあれほどの貴重な映像を保管や利用を任せられる組織は国家か《王道十二宮ゾディアック》の誰か、あるいは──《シリウス》と同等の権力、規模を持った有力魔術師団だ」


 グレイの回答を聞いたシュエットは俯き小刻みに震えていた。だがばっと顔を上げた時、表情に浮かんでいたのは怒りでも焦りでもなく、喜色満面の笑顔だった。


「大・正・解です! 流石は《シリウス》のグレイ=ノーヴァス! こんな失態は初めてですよ! あははははっ! いやぁ、やっぱりフェイトを餌にするのは危険過ぎましたね。少しでもあなたの動揺を誘えればと思ってのことだったんですが、まさか釣糸を垂らしていたはずの私が逆に海に引きずり落とされるとは思いませんでしたよ。……それで? 実際のところ、どこまでお気付きなんです?」

「…………俺とフェイトの繋がりを知る者はフェイト本人と、もしフェイトに仲間がいるならそいつらも少なからず知っているだろう。あとは《シリウス》に数名と、『あの日』の事件の調査を行った組織だけだ」


 グレイの言う『あの日』とは、グレイがフェイトと完全に袂を分かつきっかけとなった、《シリウス》最大にして最悪の失態を犯した日のことであり、そしてグレイの親友が死んだ日でもある。


 その事件には内部にいる何者かの手引きがあったのではないかと、グレイを含めた《シリウス》全員が疑われたため、《シリウス》以外の魔術師団が事件の調査を請け負った。その魔術師団の名は──。


「つまりお前のバックにいるのは、全天第二位の魔術師団《カノープス》、だろ?」

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