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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
五章 ティターニア・ファミリア
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初めての連続 2

 ──目覚めてから初めて目にしたのは、静かに眠っている主の顔だった。


 グレイの武器アークであるミュウにとって、グレイとは自分の命より大切なマスターであり、それでいて優しい兄ような存在だ。そのグレイの友人であるアシュラとエルシアも、ミュウにとっては兄や姉のように感じており、また二人もミュウを妹のように可愛がっていた。キャサリンは一番身近な頼れる大人であり、色んなことを教えてくれる先生だ。

 そしてそれ以外のミスリル魔法学院の生徒や講師達、ミーティアにいる知り合いはグレイの友人、講師といった認識で、これがミュウにとっての交友関係の全てだった。


 世界で他に類を見ない、生きたアークであるミュウには真に友人と呼べる者が一人もいなかった。

 そんなミュウにとって、初めてグレイと関わりなく、ミュウ自身から声を掛けて初めて友人となったのがティアラだった。


 だからティアラが人とどう触れ合えばいいのかわからないのと同様、ミュウも友人とはどういうものなのかよくわかっていなかったのだ。

 加えてミュウはまだこの世に生まれて一年も経っていない。その割にはとても聡い子であるためよく勘違いされてしまうが、まだまだ知らないこと、わからないことの方が多い真っ白な幼子のようなものなのだ。


 そしてそれをティアラは知らない。ミュウには裏など全くなく、ただ純粋に友人になりたかっただけなのだが、ティアラにはグレイに命令されて自分の弱点やブリードの内情を探るために自分に近付いたのだと勘違いしてしまった。


 初めての友人に裏切られ、もう誰も信じられなくなったティアラはホテルの部屋の端で踞る。その傍らには四体の眷獣、ケイト、クオン、ホルス、エポナが心配そうにティアラの背を見詰めていた。


~~~


 あれからミュウはティアラを探し回ったが見付けられず、恐らくはホテルへと戻ってしまったのだろうと落胆する。

 もう少し早く動き出していれば追い付けたかもしれない。今更後悔しても仕方ないことだが、落ち込まずにはいられない。

 ホテルの中に忍び込もうかとも考えたが、他の誰かに見付かればそれこそ自分がスパイをしているように見えてしまうだろうと思ってやめた。


 とぼとばと肩を落として歩くミュウの姿は珍しく一目見て落ち込んでいるとわかる。


「まったく。どこで何してたのか知らないけど、また随分と沈んでるな」

「……ッ!? マ、マスター……?」


 ミュウは自分が思っているほど気落ちしているらしく、声を掛けられるまでグレイの接近に気付いていなかった。

 目を丸くして驚いているミュウを見て、グレイは薄く微笑する。


「今日は何してたんだ? もしかしてまた秘密か?」

「………………」


 グレイに問われ、ミュウは気まずそうに視線を逸らす。本来ならグレイのモノであるミュウは主の質問に必ず答えなければならないのだろうが、どうしてか言葉が出なかった。

 主の命令なのだから答えなければならないと思う一方で、友人であるティアラとの約束を守らなければいけないとも思う。そして、ミュウ自身、グレイに相談したいと考えてもいた。何を行えば正しいのか、間違いなのかわからない。人としても、武器としても未熟な一人の少女は初めて──。


「……えっ? あ、れ……?」


 ポタ、ポタと、自分の瞳から滴が落ち、地面に小さな染みを作り出す。

 今までずっと無表情、無感情だったミュウが初めてこぼした涙。最初自分が泣いているということにも気付いていなかった。

 ミュウの涙を見て、グレイは心底驚いたが取り乱すことはなく、ミュウと視線を合わせ優しく頭を撫でた。


「言いたくないなら言わなくていい。聞いてほしいならいくらでも聞く。我慢なんかしなくていい。迷惑だなんて思わなくていい。全部受け止めてやるから、好きなだけ泣いていい」

「ます、たー……」


 ミュウの声は震えており、涙は堰を切ったようにとめどなく溢れだしてくる。何の冗談でもなく、生まれて初めて流した涙に戸惑いながらグレイの胸に顔を押し付けた。


「わ、わたし……とも、だち……うぅっ……」


 ミュウの途切れ途切れになっている言葉を、グレイは急かすことなくミュウの背中を撫でながら最後まで聞き取る。

 どういう経緯で知り合ったかはわからないが、ミュウはティアラと出会い、友人になった。初めて友達が出来てとても嬉しかった。でも、傷付けてしまった。そのまま逃げられてしまい、探しても見付からなかった。このままもう会えないなんて嫌だ、と。

 泣きながら今の感情全てを吐き出したミュウは泣き疲れたのか、それとも主の側にいて安心したのか、小さく寝息を立て始めた。

 守るべき主を前にして眠りこけるなど武器としては失格だが、ミュウを人として育て接していくと決めていたグレイにとって、このミュウの成長・ ・はとても喜ばしいことだった。

 後は、主としてではなく兄として。初めての友達と初めての喧嘩をしたミュウに、初めての仲直りの仕方を教えるだけだと、軽いミュウの体を背負い、暗くなり始めた道をゆっくり歩き始めた。


~~~


「と、言うわけだから何か良い仲直りの方法はないか?」

「ちょ、ちょっと待って!? ミュウちゃん、いつの間に向こうの《プレミアム》の子と仲良くなったのよ?」

「昨日偶然知り合ったらしい」


 ホテルへと戻ったグレイはミュウをベッドに寝かせた後、談話室にエルシアとアシュラを呼び出し、簡単に経緯の説明をした。

 まさかティアラと友達になっていたとは夢にも思っていなかった二人は、最初冗談かと疑ったが、グレイの真剣な様子を見て状況を理解した。


「──んでもって、最終的にグレイが原因で喧嘩別れしたってわけか」

「まあ、そうよね。向こうからして見ればミュウちゃんはグレイの妹。スパイだと疑われても不思議じゃないわ……」

「そういうことだ。勿論俺はそんなこと命じてないし、ミュウもそんなつもりは一切なかった。が、結局のところミュウはティアラを深く傷付けてしまった。ミュウ自身もこのことを悔いている。でも仲直りしたくともその方法がわからないんだと」

「そっか……。ミュウちゃん、今まで喧嘩なんてしたことないんだから仲直りの仕方がわからないのも当然よね」

「つーか、喧嘩ってほどのことでもねえんだし、ほっときゃいいんじゃ──」


 そうアシュラがぼそりと呟くとエルシアはテーブルをバンッと叩き立ち上がる。


「はぁ? 何言ってんのよ! ミュウちゃんが悩んでるんだから私達がしっかり協力してあげないとダメでしょ! 本当馬鹿で薄情な奴ね!」

「おいこら! 何でそこまでボロカスに言われなきゃならないんですかねぇ!? 俺ら部外者が保護者面して仲直りの仲介か? そういうのを余計なお世話っつーんだよ。過保護な親かてめえは!」


 ミュウとティアラのやり取りとは似ても似つかない乱暴な口喧嘩を繰り広げるエルシアとアシュラ。二人に仲直りの方法を聞こうと思っていたグレイだったが、タイプが違いすぎている気がしてきていた。

 グレイはひとまず二人を落ち着かせてから、話を元に戻す。


「取り合えず、まずはティアラの誤解を解かないと話は前に進まないわけだが、何かいい案ないか?」

「はぁ? 誤解を解くって言っても証明のしようがねえだろ。スパイをしろだなんて命じてませ~ん、って言ったら素直に信じるほど向こうも単純馬鹿じゃねえだろ」

「だから、それをわかった上で何か妙案はないかって話でしょ。それくらい言わなくても理解しなさいよ」

「あぁ~はいはい。そうですね~! でも俺どうせ馬鹿だから妙案とか浮かばないんで超絶天才(笑)のエリーさんがバッチリ仲直り出来る妙案とやらを考えてくださ~い!」

「別に私、自分のこと天才だなんて言ってないし、妙案があるとも言ってないんですけど? 物覚えも悪ければ物忘れも酷いわね。ここまで来るともう目も当てられない。いっそ哀れよね!」


 バチバチバチッ、と再び火花を散らす二人。人選を間違えたとそろそろ本気で後悔し始めていた。

 だが一番頼りになりそうなキャサリンは今は用事で別行動中。他の者に訊ねようにも時間が時間なので自重した。だから気兼ねする必要のないこの二人を呼んだというのだが、結果はこの様だ。

 結局、まずは一度会って話すしかないというあまりにも不甲斐ない結論しか出すことが出来なかった。

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