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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
一章 トライデント・プレミアム
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月影の剣 光翼の銃 無限の拳 4

 ~光翼の銃~


「行くわよ! 《レイジング・ライカ》!」


 エルシアは光速で移動する魔法、《レイジング・ライカ》を使い、ニックの背後を取る。

 一瞬で片を付ける。そう思ってエルシアは己のアーク、《サンライト・フェザー》の引き金を引いた。


 だが、ニックはその動きを読んでいたのか、後ろを向きながらエルシアの腕を蹴り上げ、弾道を逸らし、振り向きざまに回し蹴りを放つ。


「な!?」


 エルシアはその昨日とはまるで違う予想外の動きに対応出来ず、右腕を盾にして蹴りをガードする。が──。


「──きゃあっ!?」


 普通の蹴りとは思えない程の威力を帯びたニックの攻撃はエルシアの細い腕の骨を容易くへし折った。


 エルシアは素早く待避し、《ライフ・ライト》で折れた右腕を回復する。


「何なの、今の蹴りは……?!」


 だが、原因はニックの足下を見てすぐに理解した。ニックはさっきまでとは違い、赤いブーツのようなものを履いていた。さっきの一瞬のうちにアークを呼び出していたのだ。


「そう。それがあんたのアークってわけね」

「あぁ、こいつは《ブースト・ブーツ》だ」

「何それ? 笑えるネーミングセンスね」


 ネーミングセンスについてはエルシアは人のことを言えないのだが、本人は気付かない。《サンライト・フェザー》はグレイ達から奇跡的にまともな名前だ、と言われている。


 エルシアは笑える、と言ったが内心では笑えずにいた。

 腕の回復は既に終えたが、自分の動きが読まれたことに少なからず動揺していた。

 銃という武器を持っていながらも敵に近付きすぎだと、自分で自分に言い聞かせる。


 だが、ニックのアークを確認出来たのは大きい。見る限りニックのアーク、《ブースト・ブーツ》は近接戦闘の武器である。

 これからは一切近付くことなく遠距離で攻撃を加え続ければ難なく倒せると踏んだ。


「相性が悪かったわね。《スパーク・ブレッド》!」

「そうでもないぞ? 《バーニング・ブースト》!」


 エルシアが放った二発の《スパーク・ブレッド》をニックは炎を灯した《ブースト・ブーツ》で蹴り飛ばす。

 そしてそのまま続けて《バーニング・ラッシュ》を唱えて反撃する。


「嘘ッ!? きゃあっ!?」


 何とか炎を回避したエルシアだったが、自分の攻撃を防がれた現実を見て思考を再度改める。


「ふぅ、悪かったわ……。私、まだあんたを舐めてたみたい。慢心は敵ね。いい勉強になった。感謝しとくわ、ニック=タングストン」


 エルシアは服に付いた埃を叩き落とし、冷静にニックを観察する。

 アークはブーツ型の近接用、でも魔法があるから遠距離にも対応可能、炎を纏ったアークの攻撃力は脅威的だ。


「なら、これでどう? 《ホーリー・レイ》!!」


 右手の銃でニックの頭上に向かって光弾を放ち、雨のように打ち降らす。


「続けて行くわよ! 《ストライク・サンダー》!」


 そしてもう片方の銃でニック目掛けて稲妻状に迸る白雷を放つ。


「ぐっ! おおおおぁぁあっ!!」


 上空と真正面からの同時攻撃にニックは両方の攻撃に対処出来ないと悟り、攻撃力の高い《ストライク・サンダー》を回避すべく真上に跳ぶ。


 体中に魔力を纏わせ防御力を高め、降り注ぐ光の雨に耐える。白雷がニックの真下を通りすぎ、光の雨も止んだ瞬間、ニックはブーツの底から炎を噴射させてエルシアに迫る。


「今度はこっちの番だっ! 《ジェット・フレイム》!!」

「悪いけど無駄よ。《レイジング・ライカ》」


 だが、エルシアは光速移動で回避し、さっきまで自分がいた場所に残してきた光を爆発させる。


「しまっ──」

「《ライトニング・ボム》」


 電撃の爆弾に突進したニックは宙に吹き飛び全身が麻痺して動けなくなる。


 勝負あり、と思った次の瞬間。


「うぐっ、あがあああああああ!!」


 ニックの魔力がさらに上昇し、ニックの体に帯電していたエルシアの魔力が焼き尽くされた。


「このタイミングで魔力の暴走!? 勘弁しなさいよっ!」


 驚いたのも束の間、宙からいくつもの炎弾が四方八方に飛び交いながらエルシアに襲い掛かる。


 その炎がグレイやアシュラにも迫っていた。二人とも目の前の敵に集中していて対応しようとしていなかった。

 否、炎が向かっていることには気付いていた。だが、何も心配していなかった。


 エルシアならすべて撃ち落とす。そう心の中で信じているから最初から向かってくる炎に気を取られることはない。


 その二人の信頼に答えるかのように、エルシアは目を閉じ、引き金を引く。


「全て撃ち抜け。《ホーミング・ショット》!」


 両の銃から放たれた小さな光の弾丸は、まるで生き物のような動きで白い軌跡を描きながら自在に飛び回り、地上に迫り来る全て炎の核を正確に撃ち抜き、宙で爆発させる。


 ここまでの精密な魔力操作技術を持つ者は上級魔術師でもそう多くない。それほどのことを仕出かしながらもエルシアはさも当然といったような顔をする。

 全ての炎を撃ち抜いたその光の弾丸はそのままニックへと飛んで行く。


「がああっ!!」


 だが、ニックはブーツを爆発させ、その爆発力を利用して二発の光の弾丸を蹴り砕く。


「暴走してるくせになんて的確な攻撃なのよっ!」


 エルシアは毒づきながら魔力を練る。


 一方、地に降り立ったニックは炎の球を現出させてから、その場で高速回転し、その炎の球を蹴り飛ばす。


「うらぁぁ! 《フレイム・シュート》!!」


 炎を渦を発生させながら一直線に飛んでくる火の球をエルシアは躱すことなく迎え撃つことにした。


「逃げてばっかりいられないのよ! 《ライトニング・ボルテッカー》!!」


 エルシアの放った黎明の光の奔流にニックの火炎球は押しきられ、その全てが掻き消される。


 ニックはすぐさま地面を蹴り上げ、爆風を利用し飛び上がる。


 その瞬間を狙ってエルシアは両の銃の引き金を引きながら交差に降り下ろす。


「私の道の行く末を、 困難を全て打ち晴らし、陽光の如く光り輝け! 《シャイニング・フェザー》!!」


 《サンライト・フェザー》から発せられる眩い光の翼のような光線が刃の如く(くう)を斬り裂きながらニックに迫る。


「うおおおっ!! 《バーニング・ブースト》!!」


 ニックも負けじと《ブースト・ブーツ》に炎を纏わせ、光の交差した部分に渾身の蹴りをかます。

 最初は均衡していた両者の攻撃だが、ニックの魔力が更に暴走し始め、彼の蹴りが光線を徐々に押し返し始めた。

 ニックはこの時、このままいけば勝てる、と油断した。その隙をエルシアは決して見逃さなかった。


「貫け。《ストライク・サンダー》!」


 左の銃から放たれた白雷はちょうど光の交差した場所に直撃し、ニックをわずかに押し返す。


「そろそろ終わらせるわよ。《サウザンド・ライトニング》!」


 次にエルシアは魔力を貯め続けていた右の銃で千の光弾を四方八方に乱れ撃ち、しかしそれは様々な軌道を描きながらもニックの元へと集い来る。


「くうっ、うわあああああ!」


 既に全力を振り絞って迫り来る光線と白雷を受け続けていたニックにその千の攻撃を躱せるわけもなく、全ての攻撃が見事に着弾する。


「とどめよ。光り輝き咲き誇れ! 《サンライト・フラワー》!」


 エルシアは《レイジング・ライカ》でニックの真下まで移動し、真上に向かって両手の純白な拳銃から真っ直ぐにそびえ立つ柱のような光を放ち、ニックを練習場の天井まで打ち上げる。


 そして光はまるで花火のように弾け飛び、白く輝き舞い散った。


 その美しい光景に惚けていると、天井にめり込んでいたニックが重力に引きずられるように落下してきた。

 それを受け止めようとするエルシアだったが、両足が急にかくんっ、と崩れ落ちる。


 最後の攻撃で魔力の限界が来てしまったのだ。その反動で体の自由が効かない。


「まずっ……。あの高さじゃ……」

「大丈夫ですっ 」


 息を切らしながら焦るエルシアの肩に手を置き、落ち着かせたのはキャサリンだった。


 キャサリンは手を上空にかざし、水のクッションを生み出す。


 ドボンッ、と音を立てて水のクッションに落ちたニックをゆっくり地面に下ろし、回復魔法を掛ける。


「お疲れさまですエルシアさん。そしてありがとうございます」

「ふっ。これくらい……余裕、ですよ。でも、あとは、任せていいですか……?」

「はい。大丈夫です。任せてください」


 キャサリンのその言葉を聞いたエルシアは、キャサリンに持たれかかりながら気を失い、《サンライト・フェザー》も役割を終えたかのように静かにエルシアの手の中から消えた。

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