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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
五章 ティターニア・ファミリア
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ミスリル VS ブリード 2

 エルシアは姉達と昼食を食べた後、第二競技場へと赴いていた。姉達も見ているとあって気合いは十分だ。


 今回エルシアが行う『クイック・ヒッター』は、円盤のような形をしたターゲットに向かって魔法を当て、得点を稼ぐポイントゲット制の競技だ。

 これだけだと『パワー・ブレイク』と大差ないのだが、『クイック・ヒッター』で使用される円盤には小さな丸い目印がいくつか描かれており、その一つ一つに点数が付いている。その丸い目印をどれだけ正確に撃ち抜けるかを競うのである。

 もし目印以外の箇所、または円盤自体を破壊するとマイナスとなるため、ただやみくもに攻撃を当てればいいというわけではない。加えてその円盤はかなりの速度で飛び回り、中には回転するものまであるため高い魔力操作精度や集中力が必要となってくるのである。


「ふぅ──よし」


 自分の順番が回ってきたエルシアは一度大きく息を吐き出してから、ドーム内へと入る。

 先程、アシュラは歴代最高得点を叩き出したことを知り、自分も負けられないと静かに闘志を燃やしていた。

 スッと空を見上げれば十数個の円盤が飛び交っており、そして試合開始のベルが鳴る。


「穿て! 《フラッシュ・スプレッド》!」


 直後、眩い光を放ちながら白き散弾を上空に向かって撃ち出す。一見、無造作に放たれたかに見えた散弾だが、その一発一発の全てが綺麗な軌跡を描きながら的確に目印のみを貫いた。

 他の選手を見てみると、一発ずつ撃っている者がほとんどで、優秀そうな選手でも五発程度が限界だ。

 だがエルシアは実に十数発もの光弾を同時に操っている。正しく桁違いの実力を見せつけた。そのため一際多くの人目を惹き歓声が上がる。

 だがエルシアは次から次へと飛来してくる円盤全て冷静に、そして的確に撃ち抜いていき、ぐんぐんと得点を伸ばしていく。


「ラスト一発!」


 そして制限時間ギリギリに放った最後の一撃も難なく当てて、タイムアップとなる。結果は文句なしの一位、歴代最高得点を叩き出した。

 エルシアはこれで何とかアシュラにデカイ顔をさせることを阻止出来たと、密かに安堵しながら舞台袖に下がるとちょうど入れ違いでソーマから声を掛けられた。


「おいおい……。あんな馬鹿げた得点出すのやめてくれね? これの後にやるとかプレッシャー半端ねえじゃねえかよ」


 そう言って苦笑するソーマに向かってエルシアは鼻を鳴らす。


「私は手を抜いたりなんかしないのよ。グレイとは違ってね。ほら、あんたもさっさと行きなさい。私の得点を越えるつもりでね」

「んな無茶言うなよ……」


 ソーマは会場に設置されている巨大スコアボードに表示されている得点を指しながら、重い足取りで競技に挑む。

 しかし何だかんだと言いながらもエルシアに次いで二位となり、ミスリルのワンツーフィニッシュで競技は終了した。


~~~


「お~いアシュラ。一年の部が終わったみたいだぞ」

「競技が終わろうと俺の目的は変わらねえ! エリーより速くお姉さん方に会うんだよ!」

「もしエルシアと鉢合わせでもすりゃ命はねえかもな」

「上等ッ! ここで退いてちゃ男が廃るってもんだぜ!」


 アシュラ達は『クイック・ヒッター』を観戦しながらエルシアの姉達を探し回っていた。だが一年生の部が終わってもまだ見付けられずにいた。


「ったく、諦めの悪い奴だな。……って、あれ?」

「どうした!? 見付けたのか!?」

「いや、そうじゃなくて。お前、ミュウがどこ行ったか知らねえか?」

「はぁ……?」


 つい先程までグレイの後ろを着いてきていたはずのミュウがいつの間にかいなくなっており、周囲を見渡してもそれらしい影すら見当たらなかった。

 当然ながらグレイのコアの中に戻ったというわけでも無い。つまり、迷子になってしまったということだった。


「まあ、ミュウちゃんのことだし、何か旨そうな匂いにでも惹かれてどっか行っちまったんじゃねえか?」

「それならそれで構わないんだが……しょうがない。ちょっと心配だし探しに行くか」


 そう言ってグレイは首に下げていた十字の形をしたペンダントを握る。そのペンダントは魔道具で、これと同じ物がミュウの首にもぶら下がっている。

 名称『デュアル・クロス』と呼ばれるそれは、二つで一つの魔道具で、これを着けた片方がペンダントに魔力を流し込むと、もう片方のペンダントの持ち主がいる方角がわかるのである。

 正確な距離まではわからないが、遠くにいればいるほど魔力を必要とする。早速ペンダントに魔力を流し込んでみると、魔力消費は多くなく、そんなに遠くにいるわけではなさそうだった。


「こっちか。それじゃ俺は行くわ。お前も程々にしとけよ」

「へっ、余計なお世話だっての。んなことよりとっとと行けシスコン野郎」


 アシュラの最後の一言には物申したい気持ちもあったが、事実ミュウが心配になって探しにいこうとしている時点で説得力など皆無だったため何も言わずに別れた。

 そしてデュアル・クロスが指し示す方角へと向かう。その方角の先にあるのは──。


「第一競技場……か」


~~~


 ミュウが迷子になる少し前、第一競技場を訪れていたゴーギャンはたった今行われた競技を見て目を丸くしていた。


 第一競技場では『プロテクト・ディフェンス』が行われている。ルールは自身と防衛対象の四本の柱を制限時間まで守り抜くこと。

 その四本の柱と選手にはヒットポイントゲージと属性が設定されており、そのポイント残量で勝敗を決めるのである。そして四種の属性攻撃を仕掛けてくるのは、『グラスパー・ヒール』でも使用されていたポーンの形をした駒だ。駒の攻撃にも属性が付加されているため、どれがどの属性を持った駒か見極めることが重要となる。


 柱はリングの四方、線で結べばちょうど正方形の形となる配置をされており、柱と柱の間は地味に広い。そのため全てを守ることはなかなか困難である。

 そのためなるべく駒を破壊するという作戦もあるが『グラスパー・ヒール』とは違い、いくら駒を破壊しても次々に新たな駒が投入されるため効果的とは言い難い。故に攻撃に魔力を割くよりは防御に徹した方が賢明なのだ。

 それに四本同時に守ろうとすれば魔力も分散させることになり、しかも自分自身も防御しなくてはならないため、どうしても全体的な防御力が低下してしまう。

 だから大抵二本、多くても三本までを集中的に防衛し、一本は最初から捨てて挑む者がほとんどだ。

 現にミスリルの《ドワーフ》序列二位のカナリアも同様の作戦を取っていた。


 その所謂“セオリー”というものを完全に無視したのが、何を隠そう午前の部の『グラスパー・ヒール』で驚異的で型破りな力を見せ付けたあのティアラだった。


「《第四魔楽章シンフォニック・カルテット四色ししきの衣を身に纏いて、妾に仇なす魔を祓え! 《イーリス・ヴェール》!」


 ティアラの虹の魔力は四本の柱と自分自身を包み込む。そのヴェールは触れた魔力を瞬く間に霧散させていく。しかしこのヴェールは四属性全てが練り込まれているのだからどんな攻撃も通らないのだ。

 それは正しく弱点のない絶対防御だ。このまま制限時間まで耐えればティアラの勝利は決まったようなものだ。


「ふむ……。しかしこれではちと盛り上がりに欠けるな。……よし」


 だがティアラはそれで満足せず、自身に纏わせていたヴェールを消し去ると同時に魔法を紡ぐ。


「《第四魔楽章シンフォニック・カルテット》虹彩の輝きよ、あまねく大地に降り注げ《プリズム・レイン》!」


 ティアラが頭上に向かって放った虹彩は、上空で乱反射するように降り注ぎ駒を破壊していく。しかもその虹の雨は先程のヴェールに当たると反射するようで、ドーム全体が虹色に輝いた。


 次々と投入される駒も瞬時に破壊されていき、競技終了するまでに四十七機もの駒がティアラ一人に破壊された。

 如何に量産されているとはいえ、本来なら破壊する必要のない駒まで破壊された運営側は今ごろ裏で頭を抱えていることだろう。

 そんな運営側の苦悩など知る由もないティアラは二度目の最高新記録を叩き出したのだった。


「で、でたらめ過ぎる……」


 それが、会場にいる全員の総意だった。


~~~


 その少し後、ちょうど二年生の部が始まろうとしていた頃。ミュウは一人で第一競技場を訪れていた。

 主であるグレイに何か言われたわけでもなく、それどころか声も掛けず、ただ何となく不思議な感覚に惹かれてこの場を訪れたのだが、何が目的でこの場にやってきたのか自分でもよくわかっていなかった。

 小首を傾げながら廊下を歩いていると、どこからかか細い小さな声が聞こえてきた。


「あぁ、また…………。何でいつも…………なるの?」


 会場から聞こえてくる歓声のせいでハッキリと聞き取れないが、どの方向から聞こえてくるのかはわかった。ミュウはその方向へ向かって歩き、曲がり角を曲がると一人の少女が頭を抱えて踞っていた。


「あの……。大丈夫、ですか?」


 ミュウが心配そうに声を掛けるとその少女はビクッと肩を震わせて、ゆっくりとこちらを振り向いた。

 恐る恐るといった様子でミュウを見上げる少女の左目は眼帯に覆われており、唯一見える右目にはわずかながら涙が溜まっていた。

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