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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
一章 トライデント・プレミアム
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月影の剣 光翼の銃 無限の拳 3

 ~月影(つきかげ)(つるぎ)


「行くぜサブ。もう一回潰れろや!! 《影鎚(かげつち)》!!」


 アシュラはサブに向かい、昨日と全く同じように《影鎚》を振り下ろす。

 だが、昨日とは違い、サブは禍々しい魔力を纏って魔法を放つ。


「《ファイア・ブレス》!!」


 暴力的なまでの火炎が《影鎚》を押し返し、焼き尽くす。

 アシュラはそれには目もくれず、自身のアークである漆黒の大剣、《月影》を構えながらサブに接近する。


「近寄るな! 《ファイア・ブレス》!」


 サブは今度はアシュラに向けて火炎を放つ。


「ぶった斬れ!! 《三日月ノ影》!!」


 アシュラは《ファイア・ブレス》に向かって影の斬撃を飛ばし、炎を縦に真っ二つに両断した。そして尚も勢いの止まらない斬撃はサブに襲い掛かる。だが。


「《バーンシール》!」


 サブが吼え、腕には炎を灯した盾が顕現し、アシュラの斬撃を防ぎきった。


「ひゅ~。ドーピングしてるとはいえ、まさか今のを防ぐとはな。盾のアークか」


 アシュラはサブの腕に現れた盾を見て称賛する。紛い物の力とはいえ、その盾のアークの防御力には目を見張るものがあった。


 アシュラは続いて、魔力を纏わせた《月影》で連続攻撃を繰り出す。


「オラオラオラオラッ!!」

「ぐっ!?」


 一切隙を見せないアシュラの連撃を全て防ぐサブ。防戦一方になるかと思った次の瞬間。


「《バーン・ナックル》!!」

「なっ!? ぐあぁっ!?」


 盾からいきなり熱量の塊が飛び出し、アシュラの腹に激突、そのままアシュラの体を吹き飛ばし、大爆発を起こした。


「どうだ。アシュラ!! これがオレの力だぁ!!」


 サブは高笑いを上げ、煙の中にいるだろうアシュラに向かって《バーニング・ラッシュ》を叩き込む。


「どこ狙ってやがる? 俺はこっちだぜ?」

「はっ?」


 その声はサブの背後から聞こえてきた。盾でガードしようと即座に振り向いたが、そこには誰もいなかった。

 不意に自分に影がかかったと思ったサブは視線を上に逸らす。


「噛み砕け! 《牙影(きばかげ)》!」


 アシュラの体重を乗せた全力の刃を何とか盾で受け止めるが、勢いが強すぎて足が地面にめり込み体中が痺れた。


 アシュラはそこをすかさず地面に《月影》を突き立てる。


「《荊ノ影》!」


 剣で出来た影から無数の荊が伸び、サブの周りを取り囲む。


「いくら防御力の高い盾でも全方位からの攻撃には対応出来ねえだろ!」


 サブを取り囲んだ荊が今度はサブ目掛けて矢のように迫り来る。普段のサブならば、ここで決着がついただろう。

 だが、今魔薬の力によって魔力を無理矢理底上げしているサブは自身の体から魔力をでたらめに放出した。


「うおおおああああっっ! 《バーン・バースト》!!」


 影の荊を一瞬で焼き尽くしたサブの炎がアシュラをも飲み込もうと襲い掛かる。


「ちっ! 《影ノ盾》!」


 アシュラは地面に手を置き、前方に影の盾を作り出す。


 炎はその影に飲まれ、消えていく。が、許容量を上回るほどの炎を飲み込んだ盾は弾けるように霧散した。


「はぁ、はぁ。クソッ。やりやがる……」


 苛立ちを抑えながらアシュラは《月影》を地面から抜く。


「なら、これでどうだっ!! 《角影》!」


 アシュラはサブの影からいきなり歪な形の角が生えさせ、サブを大きく真上に突き飛ばす。

 その高さから落ちれば無傷では済まない。即死はしないだろうが、かなり危険な賭けだった。

 だが、アシュラの心配は無駄に終わる。サブは盾から炎を噴射し、落下の勢いを殺したのだ。


 難なく着地するサブを見て、アシュラは舌打ちする。


「これも駄目か。てか、本当にお前、昨日と同じサブか? 《影鎚》にビビってた時とはまるで別人──ッ!?」


 アシュラが無駄口を叩いているその隙に、サブが盾を構えて突進してくる。

 その突然の動きに対応しきれず、剣でガードするも突進の勢いそのままに壁に激突した。


「がはっ!? くっ、そがぁ!!」


 壁に激闘した直後にアシュラはでたらめに剣を振り回したが、サブは後ろに跳んで攻撃を躱す。


「ちっ! 今のは少し効いたぞ。この野郎……!」


 アシュラは剣を杖代わりにして体を起こす。頭を打ったせいか、若干ふらつく。


「やりづれえな。盾のアークは……」


 しかし、何故同じアークであるはずの《月影》の攻撃が《バーンシール》に防がれるのか。

 霞む頭で必死に考え、一つの答えを得た。

 それは考えれば単純な話。経験の差である。


 アシュラ達はつい先日アークを手にしたばかりだ。だが、サブ達はもう随分と前からアークを持っていて、その力も、それを使った戦闘訓練もたくさん積んでいる。

 比べてアシュラは、エルシアと一度戦っただけで、まだまだアークの使い方を知らないし、慣れてもいない。


「参ったねこりゃ……。どうするよ……」


 アシュラは自問自答を繰り返す。

 経験の差など一朝一夕で埋められる差ではない。しかし、他にどうすることも出来ない。

 アシュラは思わず笑ってしまった。


「経験の差なんざ、経験して埋めるしかねえわな。だから、俺の経験値になってもらうぜ、サブ!!」


 アシュラは両手で《月影》を構え、目を閉じ、魔力を練り上げる。


 その隙だらけな行動に、ともすれば一瞬で仕留められそうなその無防備な姿を見て、逆にサブは警戒心を強めた。


 そしてアシュラの人影が、ゆらゆら不気味に揺らめき出して、アシュラの体を這うように登ってきて、やがて《月影》に絡み付く。


「…………行くぜ。《月影》」


 ゆっくりと目を開け、眼前に立つ相手を睨み付けるアシュラ。

 その瞳は血のように赤く、月のような鋭さと冷たさを放っていた。


「──ッ!?」


 その目を見た瞬間、サブは大きく後ろに跳んだ。

 別にアシュラは微動だにしていなかった。だが、それでもサブは何かに引っ張られたかのように跳んだのだ。


 サブはその目を見た時、こう感じた。


 ──殺される、と。


 当のアシュラは何故サブがいきなり飛び退いたのか分かりかねていたが、構わず《月影》に魔力を集中させる。


「影に決まった形はなく、月は日に日に姿を変える。《月影》形状変化。《上弦ノ(つるぎ)》!!」


 アシュラの《キーワード》を認証し、《月影》はその姿を大きく変える。

 元々アシュラの身長ほどの大きさの《月影》がみるみる巨大化していき、五メートルほどの長さの巨大剣に変化した。


「これで、どうだああああっっ!!」


 アシュラは高く飛び、《月影》を大きく振りかぶってサブに目掛けて振り下ろす。


「う、うおおおおおおああっっ!!」


 全魔力を盾に集中したサブはアシュラの渾身の一撃を受け止める。


 《牙影》の時とは比べ物にもならない強く重い衝撃に堪らず片膝を折る。

 全身に走る激痛。腕の骨も足の骨も共に悲鳴を上げている。


 だが一瞬でも気を抜けばこのまま潰される。指を一ミリたりとも動かすことは出来ない。


 それほどまでの強烈な衝撃が、次の瞬間に消え失せた。


「《月影》形状変化。《下弦ノ剣》」


 アシュラは巨大剣を脇差しのような大きさの刀に姿を変えて、サブの懐に潜り込む。


「その盾、固すぎだぜ。今の俺には斬れそうにねえ。だが、いずれたたっ斬ってやるから覚悟しとけ、サブ=ヘンリー」


 それは刹那の間だったが、アシュラがサブを認めた瞬間だった。


「《十六夜ノ月影》!」


 アシュラは竜巻のように回転しながら《月影》を振るい、サブの体を斬り刻む。

 その勢いは凄まじく、サブの体はまるで旋風に巻き上げられたかのように宙を舞う。


「これでとどめだ。《月影》形状変化。《月影ノ剣》」


 アシュラは《月影》を普段の大きさに戻し、渾身の魔力を込めた一撃を放つ。


「食らいやがれ! 《暗影咬牙(あんえいこうが)》!!」


 黒き影の(あぎと)が鋭い牙を剥き出しにしながらサブを噛み砕かんと襲い掛かる。


 宙にいるサブはさっきのように炎を噴射して躱そうとするが、今までの反動が来たのか、魔力が尽きてアークも消えた。

 サブはその混沌の牙を回避することも防ぐことも出来ないまま影に飲み込まれ、練習場の観客席に激突し、瓦礫と轟音を撒き散らした。


 観客席には巨大な傷が残り、サブもピクリとも動かずに倒れていた。


「はは、疲れたわ……。マジ、で……」


 そしてアシュラも体力と魔力の限界が来たのか、持っていた《月影》が消えたのと同時にそのまま地面に倒れ込んだ。

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