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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
五章 ティターニア・ファミリア
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魔競祭前夜 1

第40話

 生徒達は自分の参加する競技と平行して『シミュレーション・ストラテジー』の訓練も加わって目まぐるしく日々が経過していき、ついに魔競祭を明日に控えることとなった今日。生徒達は皆ミーティアに集まっていた。


 魔競祭が行われる会場はミスリルとブリードからちょうど中間にある街、サムスで執り行われる。サムスでは様々な魔術競技がほぼ毎日のように開催されており、そのための施設や舞台などが揃っている。そのため毎年サムスで魔競祭をしており、今年も例年通り滞在日数は四日となっている。

 プログラムは、まず初日に開会式とA競技ランキング戦。二日目にB競技。三日目がA競技の個人戦。四日目にC競技と閉会式となっている。


「一日目にランキング戦か。お前ら二人はエキシビションマッチもあるから大変だな」

「そうね。まぁ、手を抜くってわけじゃないけど、魔力は極力温存するつもりだけど」

「それに一瞬で片付ければいいだけの話だしな……っと。おい、あれじゃねえか?」


 アシュラは空に向かって指を指し、それに吊られるようにグレイとエルシアも上空を見上げる。すると空中に小さな点が浮かんでいるのがわかった。その小さな点はだんだんこちらに近付くに連れて大きくなっていき、ようやくその正体がわかった。


「あれが飛行船か。見たことくれえはあったが、まさかあんなに大きいもんだとはなぁ」

「すごい、です」


 関心したように飛行船を見上げるアシュラはどこか年相応に見え、ミュウも初めて見る飛行船に興味津々といった様子だった。

 今回は大勢での移動ということで、陸路ではなく空路を行くことになっている。巨大な飛行船がゆっくりと着陸し、生徒達は順番に船に乗り込んでいく。


 船内は結構な大きさで五百人近い人数を一度に運べるため、生徒全員が余裕で乗り込むことが出来るほどだ。


「それではそろそろ出発しま~す。気をつけてくださ~い!」


 船員の声が響き渡り、その直後に浮遊感がしたかと思うとゆっくりと船体が浮かび上がっていく。

 少しずつ陸地が離れていき、サムスへと向かって前進していく。スムーズにいけば夕刻前には到着するはずだ。しかしそれまでの数時間は特にやることもなく、暇を持て余すことになる。

 今はミュウが窓から見える風景を眺めているので、それに付き合っていると、ふとグレイの肩に手を置かれる。すぐに振り返ると頬に誰かの指が突き刺さった。


「あはは。引っ掛かった」

「……子供かお前は」


 そんなくだらないイタズラが成功しただけだというのに子供のように喜ぶシエナに、グレイは冷たい視線を飛ばす。だがシエナはそんなのどこ吹く風とまるで気にしなかった。


「あっ、皆さん。ここにいたんですね。探しましたよ」

「講師の話し合いは終わったのかキャシーちゃん」

「はい。あ、あと皆さんに言っておきますが、前みたいな勝手な無茶は絶対にやめてくださいね。何かあればすぐに先生達に相談してください。わ・か・り・ま・し・た・か?」

「「「りょ、了解です……」」」


 笑顔のまま圧倒してくるキャサリンに軽くたじろぎながらも、何とか返事をする三人。前科がある分、逆らうわけにもいかなかった。三人共素直に返事をしたので満足したのか普段のキャサリンに戻り、ほっと胸を撫で下ろした。


「あっ。そうそう。れーくんに言っておかないといけないことがあったんだった」

「何だよ?」

「うん。それが──」

「シエナ先生」


 と、シエナの話を切るように話し掛けてきたのはやはりアーノルドだった。


「ん? どうかしたのアーノルド君」

「はい。三年の僕らだけで最終確認を行いたいんですが、どうも不安で。なので一緒に来てアドバイスなどを貰えませんか?」


 そう言われてしまえばシエナの立場上、無視するわけにもいかない。シエナは小さな声でグレイに詫び、アーノルドに着いていった。


「何だかあいつ、最近何かにつけてシエナ先生を呼びつけてねえか? しかも狙ったかのようにグレイに話し掛けに来た時ばっかりよ」

「そうだな。まぁ、害はないし別にいいんけどな」

「でも流石にしつこい気もしなくはないけどね」


 エルシアは噂でアーノルドが告白したことを知っており、少し興味もあった。それにその相手がシエナで、またそのシエナはグレイを溺愛している。気にするなという方が酷だ。だがエルシアの心境とはまるで違うことをグレイは考えていた。


~~~


「君は──シエナ先生のことをどう思っているんだい?」

「……………………は?」


 あまりにも唐突にそんなことを尋ねられたものだから、この時グレイはすごく間抜けな表情をしていた。


「なんすかいきなり。どうと言われても別に」

「はぐらかさないで正直に答えてくれないか?」

「…………答える必要性を感じないし、まず質問の意図がわからないんですが?」

「意図……か。なら先に僕の気持ちをはっきりと言っておこう。僕はね──シエナ先生が好きなんだ」


 アーノルドはまっすぐグレイの目を見てそう宣言した。それに対しグレイは──


「……へぇ。そっすか。勝手に頑張ってください」


 とだけ返し、アーノルドの脇を通り抜けて階段へと向かう。が、すぐにアーノルドに肩を掴まれてしまった。


「ちょ、待ちたまえ! 何でこのままで帰ろうと出来るんだ君はっ!?」

「いや、だって先輩の恋路とか死ぬほど興味ないですし」

「それはそれで酷いなっ!」


 そう言われても、興味ないものはどうしたって興味ないのだから仕方ない。しかしアーノルドは手を離してはくれなかった。


「何ですか? 言っときますけど協力とかめんどくさいんでやりませんよ?」

「僕が望んでいるのはそんなことじゃない。最初から言っているだろ? 君の気持ちを教えて欲しいんだ」

「俺の気持ちとかまるで関係無くないですか? てか、いい加減離してもらえません?」


 それでもやはり手を離してはくれず、むしろ肩を掴む力が少し増したような気さえした。

 いい加減うんざりしてきたので、アーノルドの手を無理矢理に振り払う。


「そんなにシエナが好きなら告白なりなんなり、勝手にやりゃいいでしょ。俺にいちいち絡まないでくださいよ」

「告白……。ふっ、したさ。あっさりと断られてしまったけどね。『私にはれーくんがいるから』と」


 アーノルドは見るからに落ち込んでしまい、地雷を踏んでしまったことに遅まきながら気付く。厄介なこと言いやがって、と心の中でシエナに文句を言った。


「君には失礼だとは思うが、僕が君程度に劣っているとは到底思えないんだよ。だがシエナ先生も愚かではないはずだから、君にもそれなりの魅力があるんだろう」

「俺も大概ですけど、先輩もマジ失礼っすね」

「だから君にもしその気があるのなら、僕は潔く身を退くつもりでいた。しかし君はどうも煮えきらない態度しか取らないじゃないか。そんな優柔不断な君にシエナ先生は渡せない」

「渡すも何も俺のでもあんたのでもないん──」

「だから君は金輪際彼女に近付かないでもらいたい!」


 何と自己中心的で独裁的な態度なのだろうかと呆れることしか出来なかった。これがミスリル最強なのかと思うと嘆かわしいことこの上ない。いや、むしろ最強だからこそのこの横柄な態度が身に付いてしまったのかもしれない。


 だがそれとは別にもう一つ、どうしても気に入らないことがあった。

 グレイは感情の機微に鋭い方だ。それは恋愛感情も然りだ。自分自身に向けられる好意にはとんと気付かないが、他者が他者に向ける好意は大抵わかるつもりでいる。


 そのグレイから見て、アーノルドの方こそどこか曖昧に感じた。シエナに興味を持っているのは確かであろうが、それが純粋な好意だけではない感じがするのである。

 流石にその原因まではわからないが、嫌悪と疑いの目を向けるには十分だった。


「例え先輩であろうと、あんたの言うことを聞く義務も義理もないんでノーコメントってことで。これで話は終わりっすか? なら俺はもう帰りますんで」


 グレイは適当にあしらい、アーノルドがわずかに怒りが混じった声で呼び止めるも、振り返ることなく階段を下りていった。

 その後アーノルドは後を追ってくることはなかったが、競技の練習期間中に何かとアーノルドの視線を感じることがあったり、またシエナと話す機会は大体潰されて、グレイではなくシエナに精神的ストレスが溜まりまくる日々が続いた。

12/8 変更

四日目の休日を大会最終日に変更

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