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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
五章 ティターニア・ファミリア
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後期始業式 5

 後期最初の授業が全て終了し、グレイ達は《プレミアム》寮へと戻る。

 キャサリンはまだ《イフリート》校舎で仕事が残っているらしく、先に帰ってきた。


「あぁ~疲れたぁ~!」

「何言ってんのよ。あんた途中から寝てたでしょ」

「授業始まる前から寝てたグレイよりはマシだっつの」

「俺はお前より頭良いから問題ねえんだよ」

「三十一位が何かほざいてるよ」

「おいこら。そのネタいつまでも引っ張り出してくんじゃねえよ! それは実技と筆記を総合した順位だろが!」


 たった三人しかいない小さな寮。そこに、眠たそうに目を半分閉じた小さな少女が帰ってきた。


「あっ、ミュウちゃん。お帰り」

「ただいま、です」


 ミュウ、と呼ばれた少女は灰色の髪と瞳をした、グレイと似た容姿をしていた。何も知らない者が彼女とグレイを見れば兄妹だと勘違いするだろう。現にグレイはミュウのことを『妹』だと周囲に紹介している。

 だが事実は違う。ミュウはグレイの妹ではなく、特殊な魔法鉱石で作られる魔法武器、《エレメンタル・アーク》なのである。

 その事実を知っているのはミュウ本人を除いて六人。グレイ達《プレミアム》とキャサリン。学院長のリールリッド。そして、この国で最強と謳われる魔術師団《シリウス》の南方支部隊長であり、グレイの上司ヴォルグ=アルジェリオだけである。


 生きたアーク。それは前代未聞の存在であるため、良からぬ輩に狙われる恐れがある。そのため、グレイはミュウを『妹』だと偽ることにしたのだった。


 その当事者であるミュウはお腹を押さえながら少し悲しげに目を伏せる。


「お腹、空きました……」


~~~


「それで、特別教室はどうだった?」

「面白かった、です」


 ミュウはグレイが作った夕食を食べながら今日やったことを順番に話していった。

 特別教室、とは後期から学院側がミュウのために開いてくれることになった勉強会のことだ。

 何故そんな話になったかと言うと、ミュウは『家庭の事情』でグレイ達と同じ寮に住んでいる、という設定になっているのだが、本来彼女くらいの子供は基礎学力を養うための学校に通わなくてはならないのである。

 そのことが教員会議で何かと話題になり、特別措置として週三日ではあるが図書館の司書をしている先生が仕事の片手間で勉強を教えてくれることになった。

 今日はその特別教室第一回目の授業があったのだ。


「今日は、魔法歴史学、という授業をしました」

「そうか。ミュウは頭良いからすぐに覚えられるだろうな」

「アシュラはミュウちゃんの爪の垢を煎じて飲めばいいと思うわ。……いや、やっぱり今のなし。ミュウちゃんが汚される」

「どういう意味だおいっ!?」


 見た目幼い少女のミュウは意外なことに物覚えがいい。しかし何故か知識に偏りがあったり、うっかりしがちな面もある。それとかなりの大食らいだったりもする。

 非常に人間らしく、とても武器とは思えない。生まれた当初は無機質な無表情ばかり浮かべていたが、今では微かではあるが色々な表情を見せるようになってきた。

 その変化は本当に些細なものではあったが、ずっとミュウを見てきたグレイ達はその変化に気付くことができた。つまり、少しずつ成長しているのである。

 妹、と言うよりは娘の成長を見守る父親のような気持ちになりながら、ふと我が身を振り返る。


 ──俺は、あれから少しは成長したのだろうか、と。


 確かに使える魔法の数は増えた。だが、それ以外に特に変わったという実感はない。良くてマシになった程度、というのが素直な自己評価だった。


 ミュウを見つめていた視線を横に滑らせエルシアとアシュラを見る。

 二人は入学当初に比べれば格段に成長している。魔法は勿論のことながら、粗削りだった戦い方は今ではすっかり魔術師のそれに変わっていき、学年でも一位二位を争えるほどの実力を持つようになった。


 そこで再び自分を見つめなおす。果たして、自分はどうなのだろうか──


「……ねぇ? ……グレイ? 聞いてるの?」

「ん?」

「ん? じゃないわよ。全く……。この調子だと私の話聞いてなかったわね」

「……何か言ってたのか?」

「言ってたわよ! 目ぇ開けたまま寝てたんじゃないでしょうね?」

「悪い。ちょっと考え事してた。で、何の話してたんだ?」


 エルシアは深く嘆息しながら再度話し始める。


「私達がやることになったエキシビションマッチのことよ。相手は一体誰なのか、あんたも気になるでしょ?」

「あぁ、そんなことか。確かに気にはなるけど」

「でしょ。私達と戦うってことなんだから、それ相応の相手だってことは間違いないわけだし、対策とか──」

「はっ。んなもんいらねぇっての。相手が誰だろうと真正面から叩き伏せるのみだぜ」

「またあんたは……。そんな舐めたこと言ってると返り討ちに会うわよ」

「それは臆病なエリーだけだろ」

「臆病じゃないわよ。これは慎重とか用心深いって言うのよ。勉強になったわね、この底辺馬鹿」

「誰が底辺だこの野郎ッ! ブッ飛ばすぞ!?」

「うるさいのよこの野蛮人。少しは静かにしなさいよ!」


 すごい形相で睨みあう二人を見て、グレイは先程の評価を改めることにした。


 ──こいつら、何一つとして成長してねえ……。


~~~


 ──中央塔最上階、学院長室。その部屋の主であるリールリッドは一枚の資料を手に取り、悩ましげな表情を浮かべていた。


「四人目、か……」


 そう呟くと、既に暗くなった外の景色に視線を滑らせる。

 日が落ちるのが早くなった。これからどんどん寒くなっていくだろう。そんな時期に飛び込んできた四人目の情報。恐らく、情報規制をしていたのだろう。


「あの男なら、その辺りは徹底していそうだな」


 リールリッドはミスリル魔法学院の宿敵ライバル、ブリード魔術学園の学園長のことを思い出しながら眉間にシワを寄せる。

 二人は毎年、この魔競祭でどちらの学校が勝つかを競いあっている。去年はミスリルが勝利を修めたが、その前の年はブリードが優勝していた。


 この魔競祭の主旨は、生徒達の成長具合を大会形式にして把握することの他に、来年の入学希望者数を増やすという目的も含んでいる。


 と、言うのも。ミスリルが推進しているアークと、ブリードが推進している眷獣は、まさに水と油のような関係をしているからである。


 もし仮に、魔法鉱石からアークを製錬すれば、眷獣と契約することは出来なくなる。

 つまり、魔術師はアークか眷獣かのどちらかしか選べない。一度きりのやり直しがきかない人生の重要な選択となる。

 もう一つ、どちらも選ばず、純粋な魔法使いとなる道もあるにはあるが、今ではその数は減少傾向にある。


 《製錬魔術師(アーク・ウィザード)》を育成する有名校、ミスリル。

 《調練魔術師(ロード・ウィザード)》を育成する有名校、ブリード。


 魔術師は総じてプライドが高く、両校とも有名校であるという誇りがある。


 すなわち魔競祭とは、彼ら二種類の魔術師による意地と誇りのぶつかりあいなのである。


 そんな典型的な魔術師であるところのリールリッドは大会二連覇に燃えていた。だがこの資料を読み、その熱が急激に下がるのを感じた。


 四人目の、《プレミアム・レア》の存在。


 本来百年に一度現れるかどうかと言われているほどの稀少度を誇る《プレミアム・レア》が同じ時代に四人現れる。

 思うところがあっても不思議ではない。加えてミスリルはここ最近よく騒動に巻き込まれる。これらが何かの前兆なのだとしたら。そう考えずにはいられない。

 この魔法世界に、何かが起きはじめているのではないのか、と。


「まさか生きている間に四つの奇跡を目にすることになるとはな……」


 表現し難い不安と内から湧き出てくる好奇心を感じながら、静かに夜は更けていった。

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