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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
一章 トライデント・プレミアム
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月影の剣 光翼の銃 無限の拳 1

第5話

 グレイは一人逃走したフーを探し回り、校舎の外にまで出てきていた。

 だが影も形も見つけることが出来ず、苛立ちながら地を蹴った。


「くそっ! くそっ! 一番イカれた奴を逃がしちまった!」


 自分の失態を悔いるグレイの元に、息を切らしながら走ってくる人影があった。思わず身構えたグレイだったが、その人物の姿を見て、構えを解いた。


「なんだ、キャシーちゃんか」

「なんだ、じゃないですよ! 無事なんですか? 怪我してないですか? エルシアさんとアシュラ君は無事ですか?」

「落ち着いてください。割と全員ピンピンしてますから」


 グレイはさっきまでの苛立ちを忘れて目の前で泣きそうな顔で心配しているキャサリンをなだめる。


「今全員練習場にいますよ。襲撃者を捕らえてるんです。キャシーちゃんはそっちを対処してください。俺は逃げたもう一人を追いかけますんで──」

「駄目です! 絶対に許しません!」


 そのキャサリンの声は今まで泣きそうになっていた人と同一人物とは思えないくらいの迫力があった。


「襲撃者がいたんですかっ!? ならそれは先生達に任せて、グレイ君達は避難してください。いえ。一人にしては勝手にその襲撃者を追っ掛けて行っちゃうんでしょうから、私に着いてきてください。練習場に皆さんを迎えに行きますから! わかりましたねっ?」

「は、はい!」


 珍しく有無を言わせない勢いで話すキャサリンはグレイの返事を聞いてから、ズンズン前を歩き始める。

 試しにこそっと離れようかと思ったら、キャサリンはぐるっとグレイの方を振り向いた。


「いや、逃げようとしたわけじゃな──」

「グレイ君伏せて!!」


 焦りに満ちたキャサリンの声とほぼ同時にグレイは背後に迫る魔力に気付く。


 グレイは今は既に《蜃気楼の聖衣(ミラージュ・ローブ)》を解除している。

 この状態でも《ミラージュ・ゼロ》が使えるのかはまだ試していないのでわからない。

 それに例え使えたとしても、グレイの代わりにその攻撃は直線上に立つキャサリンに当たってしまうので使うわけにはいかない。

 そこまでを瞬時に理解し、運任せで振り向きながら魔力を宿した腕を伸ばす。


「《リバース・ゼロ》!!」


 奇跡的にグレイの魔法は襲い掛かってきた魔法を裏拳で掻き消すことに成功した。そのままグレイはキャサリンの隣まで後ろ向きで移動し、敵の姿を確認する。


 フーではない。雰囲気が違った。それにあの黒いフードを被った奴が三人も立っていた。

 さっきエルシア達が通信を盗み聞きして知った他の敵なのだろう、と断定し身構える。


「グレイ君。あれが……?」

「そうです。目の前の三人の他にも既に六人確認してます。そのうち一人を除いて全員捕縛済みですが」


 グレイが戦ったのは計五人だが、アシュラ達も一人仕留めたというのも聞いている。

 キャサリンは、九人もの襲撃者の侵入を許している失態と、それを六人も返り討ちにした三人に驚く。


 だが、驚いている暇はないようだった。先程の奴等とは違い、この三人は魔法を躊躇なく使ってきた。なりふり構っていられなくなったということだろう。

 新たな黒服三人の真ん中に立っていた男が手をかざして魔法を唱える。


「《バーニング・ラッシュ》!」


 それは昨日、決闘の時にギャバルが使った魔法と同じ火の弾を大量に飛ばす火の魔法。


 しかし、その火の量も大きさも威力も桁違いだった。地面や校舎に大きな焦げ痕を残し、残火が生き物のようにグレイ達に襲い掛かる。


「《アクア・スパイラル》!」


 キャサリンは魔力を纏う渦潮を発生させ、二次災害を防ぎながら移動する。


「グレイ君。苦渋の選択ですが、彼らを練習場に誘き寄せます。あの中なら結界を発動させてこれ以上の被害を防ぐことが出来ます」

「わかりました。なら、先行して結界を発動させてきてください!」

「なっ、グレイ君一人でなんて危険ですっ」

「大丈夫です。俺は──」


 その言葉が紡がれる前に、グレイの元に一際巨大な炎が襲い来る。


「マスターに触れるな。《リバース・ゼロ》」


 破砕音と共に地に降り立ったのは灰色の聖衣を纏いし小さき魔女。グレイのアークであり、頼もしい相棒。


「ナイスタイミングだ。ミュウ」

「マスターの魔力を感じたので」


 それだけ言うとミュウはグレイの側に立ち、《空虚なる魔導書エンプティ・グリモワール》を発動させる。

 たちまちグレイはミュウと同じ聖衣を纏い、大きな帽子を指で持ち上げながらキャサリンに笑いかける。


「さぁ、キャシーちゃんは早く行ってください。俺は大丈夫です。俺は、一人じゃないですから」


 次に飛んできた炎をグレイとミュウは鏡に写したかのようにそっくりな動作で殴って消し飛ばす。


 言いたいことも聞きたいことも色々あった。でもキャサリンはそれらをすべて飲み込み今自分がやるべきことをすることにした。


~~~


「ねえ、これ何の音? もしかして爆発?」

「爆発に敏感になりすぎじゃね? 爆発恐怖症になったか?」

「なってないわよ! あんたこそ銃弾恐怖症になったんじゃない?」

「いや、言ってて思ったが爆発も銃弾も普通に怖いよな」

「…………そうね。普通に怖いわね。恐怖症ってほどのものではないけれど」


 そんなくだらないことをエルシアとアシュラは言いあっていた。

 ミュウは一人、グレイを追い掛けるといってから少し経ち。エルシアはミュウを追い掛けたかったが、流石にアシュラ一人に見張りをさせるのも危険かと思って、苦渋の選択として仕方なく残ったのであった。


 そんなときに外から爆発のような音が聞こえてきてエルシアは途端にミュウの心配を始めたのである。やはり一人で行かせるべきでなかったと後悔をしていると、練習場の入り口からキャサリンが駆け込んできた。


「キャシーちゃん? どした? そんなに慌てて」

「アシュラ君! エルシアさん! 無事で良かったです! でも、今はそれどころではありません。結界を起動してください! 今すぐっ!」


 そのキャサリンの言葉にエルシアは素早く対応し、《レイジング・ライカ》で移動し結界の起動ボタンを押す。


「うおおおおおおおおっ!!!」


 それとほぼ同時に今までより大きな爆発音がして、練習場にミュウを右腕に抱えたグレイが爆風の勢いに乗って叫び声を上げながら飛び込んできた。


「アシュラ! パス!」


 グレイは短くそう言ってミュウをアシュラに放り投げる。

 アシュラは突然のことに驚きはしたが、うまく勢いを殺しながらミュウをキャッチする。

 ミュウを投げたグレイはそのまま顔から地面にダイブした。


「お、お~い? だ、大丈夫か?」

「…………」

「ま、大丈夫でしょうよ。てか、さっさとミュウちゃんから離れなさい。撃つわよ?」

「何で助けたのに怒られてんだ俺ァ?」


 ぶつぶつと文句を言いつつも、近くまで戻ってきたエルシアに言われた通りミュウをゆっくり下ろすアシュラ。

 ミュウは頭を下げてお礼を言ってから入り口を見る。それにつられてアシュラとエルシアもそちらを向く。


「誰? お客さん?」

「にしては礼儀のなってねえ客だけどな」

「何を呑気なこと言ってるんですか! 敵ですよ!」


 キャサリンはまるで緊張感のない二人に叱責し、グレイに回復魔法を掛ける。

 そのグレイは体を起こして練習場に入ってきた黒服三人を睨む。


「……エルシア。頼みがある」

「何よ?」

「あいつの、真ん中の奴のフードを脱がしてきてくれないか?」

「あいつ女なのかっ!?」

「……最低」

「ちっげえよ!!」


 アシュラのせいで、神妙な雰囲気が一気に吹き飛んでしまった。グレイはごみを見るかのような冷ややかな目で睨むエルシアに再度頼み込む。


「頼む。あいつの顔を確認したいんだ」

「…………美人だから?」

「違うって。それはアシュラの戯れ言だから。あいつの声は男の声だったから」

「そうかグレイ。お前、そっちの趣味が……」

「えっ? 嘘……でしょ……?」

「アシュラ! お前ちょっと黙ってろ! あとエルシア信じるなっ!!」

「《バーニング・ラッシュ》!!」

 ふざける三人に業を煮やしたのか、黒服の男が《バーニング・ラッシュ》を放つ。


「よっ!」

「ふんっ」

「せい!」

「やぁっ」

「え? って、あわややや!?」


 だが、アシュラは軽く打ち返し、エルシアは容易く撃ち抜き、グレイとミュウは殴って消し飛ばす。

 だがキャサリンは一瞬だけ気を取られてしまい、ギリギリの所で《ウォーター・ウォール》を発動して防ぐ。


「慌てすぎですよキャシーちゃん」

「リラックスリラックス」

「ミュウちゃんですら落ち着いてるんですからキャシー先生も見習ってください」

「うぅ……。面目ないです……」


 生徒三人にダメだしされ、ショボくれるキャサリン。


「まあ、でも動揺する気持ちもわかりますけどね。あとグレイが何であのフードを脱がせって言うのかも」


 と、エルシアが呟いた次の瞬間、エルシアは《レイジング・ライカ》で光速移動し黒服の後ろを取り、フードを脱がす。


 そしてまたすぐにグレイ達の元まで戻り、そのフードの下に隠されていた顔を確認した。


「やっぱりテメエか……。どこかで聞いた声だと思っていたが。んで、そんな格好して何してやがんだ。なぁ、ギャバル=ジェンダー!!」


 グレイは黒いフードを脱がされた男、ギャバルに向かって落胆しつつ怒りを込めて叫んだ。

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