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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
四章 プレシャス・バケーション
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麗しき狂人 4

 レヴェーナが腕を振るうと、海面から鞭のようにしなる細い水の触手が現れて、グレイ達へと襲い掛かる。


 それをグレイは紙一重で躱し、アシュラは向かい来る触手全てを斬り捨て、エルシアは攻撃の届かないところまでキャサリンと共に退避する。


「先生。お願いがあります」

「な、何ですか?」


 そしてエルシアはキャサリンの耳元で一つグレイから聞かされた作戦をキャサリンに伝え、キャサリンはしばらく考えてからこくりと頷いた。


「わかりました。ではもう少しだけ回復に専念します」

「了解です。なら、その間は私が全力で守りますよ」


 頼もしい表情をしたエルシアの顔を見て、キャサリンは先程感じた不安が消え去ったことを自覚する。何があったのかはわからないが、エルシアにとっての何か大きな壁を乗り越えたのだと理解した。


 だが安心ばかりしてはいられない。何せ、今も尚大きな壁、脅威が自分達に襲い掛かって来ているのだから。


 レヴェーナの注意を引くグレイとアシュラの心配をしながらも、キャサリンは魔力回復に専念した。


「何を企んでいるのかしらねぇ。特にあの白い髪の子。一瞬だけしか見えなかったけれどあれは恐らく光魔法。一体どんな力があるのかしら」


 レヴェーナは新たに現れた三人目の《プレミアム・レア》のエルシアを警戒していた。


 当然、同じ《プレミアム・レア》のグレイとアシュラも警戒しているが、ある程度の魔法は既に見ているため、まだ未知数の力を持つエルシアを最大限警戒しているのである。

 そしてその背後で回復に専念している自分と同じ属性の魔術師、キャサリンも警戒していた。


 何故なら、レヴェーナはキャサリンのことを知っていたからだ。しかし直接的な面識はない。ただ噂を聞いたことがあるだけだ。

 《氷河鬼ダイアモンド・オーガ》。まさかあんな少女のような姿をしているとは予想もしていなかったが、船で兵達の帰りを待っている時に、いきなりリュウグウノツカイの魔獣の体が凍り付けになって粉々に砕け散る様子を見て確信した。とんでもない化け物がいることを。

 実を言うとレヴェーナはそのキャサリンをスカウト、もしくは直接その姿を見てみたい、という理由だけでわざわざ総督自らが浅瀬まで来たのである。


 するとそのキャサリンがゆっくりと立ち上がると、エルシアがキャサリンを抱えて光速で波打ち際まで移動してきた。


「なにを──」

「先生っ!」

「はい! 《アイス・エリア》!」


 そしてキャサリンは海の中に手を突っ込み、海面を凍り付けにしていく。

 レヴェーナは間一髪飛び上がり、凍り付けにならずに済んだが、この周辺の海だけは完全に凍りついた。


「いよっし! 流石キャシーちゃん!」

「ナイスだエルシア!」

「当然ッ!」


 その氷の大地を問題児三人が駆ける。これがグレイが考えてた状況を打破する作戦だった。

 レヴェーナを海から切り離す。今周囲の海はキャサリンの魔力の支配下にあり、レヴェーナはその恩恵を受けられないのだ。

 レヴェーナはすぐに氷の大地から抜け出そうと後方へ下がる。


「《レイジング・ライカ》!」


 だが、エルシアが光速移動で背後に回り込んでレヴェーナへと魔法を放つ。

 すかさず水の壁を発生させて防御するも、今度はアシュラがレヴェーナに向かって大剣を振り下ろす。

 それも何とかくるりと回って回避するが、間髪入れずにグレイの拳がレヴェーナを捉え、殴り飛ばす。すると纏っていた身体強化魔法は消し飛び、破砕音が鳴る。

 その音を合図に、エルシアとアシュラが同時に魔法を叩き込む。


「《角影》!」

「《ホーリー・ランス》!」


 氷の大地から生える歪な影の角と、空から飛来する閃光を放つ槍が体を掠め、今日初めてレヴェーナは自分の体に回復魔法を掛ける。


「ようやく一発入ったな」

「ついでに俺とエリーも入れたから三発だ」

「ま、すぐ回復されちゃったみたいだけど」


 アプカルコの魔術師団の団員数人掛かりでもかすり傷一つ負わせることが出来なかったレヴェーナに、わずかではあるが確実に攻撃を当てた三人。もはやただの子供、という評価は改めなければならない。

 《プレミアム・レア》は確かに稀少で強力な力だ。だがそれだけでレヴェーナと渡り合えるわけがない。それはひとえに彼らの実力が同年代の者達とかけ離れていることに他ならない。


「顕現せよ。《空虚なる魔導書エンプティ・グリモワール》」


 グレイは魔導書型のアークを顕現し、それで口許を隠し、アシュラとエルシアに作戦を伝える。その作戦を聞いた二人は一様に驚く。


「はぁ?! そんなの危険よ!」

「下手すりゃ死ぬぞお前!」

「だがこれが今、俺達が取れる唯一の方法だ。これ以外にあいつを倒す方法は残念ながら思い付かない」


 作戦の内容は口許を隠されていたためよくわからないが、グレイに命の危険が付きまとう作戦であることは何となく察した。

 レヴェーナに先程までの笑みはなく、冷静な眼差しでグレイ達を見つめ、魔法を放つ。強烈な放水だが、ただの魔法はグレイには効かない。レヴェーナの攻撃は全て等しく無に還る。

 海を凍らされているため、海の水を攻撃に利用することも出来ず、今のグレイを倒すには隙を突くか、直接攻撃するしかない。

 だがその隙は中々生まれず、また左右に分かれたアシュラとエルシアにも意識を向けなければならないため、むしろレヴェーナの方が隙だらけになってしまう。


「はぁぁっ!!」


 氷の大地でも機敏に動き回り、打撃技を繰り出してくるグレイに対し、レヴェーナは極力魔力を使わないようにしながら防御する。グレイに対してだけは、どれほど強力な魔法も意味を為さない。なら使うだけ無駄である。レヴェーナはちらりと海岸付近にいるはずの魔獣二体を横目で確認する。

 しかし内一体は既に海面に浮かんだまま絶命しており、もう一体も未だ交戦中だった。呼び戻そうにも魔術師団の者達がそれを許さないだろう。


 どうするか、とレヴェーナが一瞬躊躇ったその瞬間。


「させるかよ」

「──!?」


 まるで心を読まれたかのようなタイミングでグレイの意味深な言葉が走り、動揺した隙を狙い、腹部に掌底をめり込ませてそのまま突き飛ばす。

 飛ばされた先。その左右ではアシュラとエルシアが大量の魔力をアークに流し込んでいた。


「《トワイライト・スペクトル》!!」

「《暁ノ影》!!」


 輝きながら炸裂する黄昏の光と、蠢きながら侵食する暁の闇が、両サイドからレヴェーナへと向かい来る。その威力は今までの比ではなく、紛うことなき最大にして最強、全てをかけた最後の一撃だと瞬時に理解する。

 グレイに殴られた時にバランスを崩されていたため、レヴェーナは咄嗟に足元から水を噴き上げさせ、斜め上方向に飛んだ。


「顕現せよ──」


 だがそれすらグレイは読んでいた。そして、グレイはここで切り札を切った。


「──《無限目録ミュウ》!!」


 グレイの求めに応じ顕現したのは、灰色の目と髪をした小さな少女アーク。それを見たレヴェーナは自身の目を疑い、今ある自分の状況が頭から抜け落ちた。


「《特注顕現オーダーメイド反射の籠手リフレクト・ガントレット》!」

受諾アクセプト。顕現せよ《反射の籠手》」


 グレイの命令に忠実に聞くミュウは、グレイの右腕と自分の左腕に新たなアークである灰色の籠手を顕現させる。


 そして二人はそれぞれ、エルシアとアシュラの放った魔法を同時に籠手を嵌めた腕で殴り飛ばす。


「「全て等しく跳ね返せ。《リフレクト・ゼロ》!」」


 《リフレクト・ゼロ》の効果は反射。そして《反射の籠手》の能力は、籠手で触れた全てのモノや攻撃の威力、速度をにして跳ね返す、というもの。

 すなわち──アシュラとエルシアの最大最強の攻撃を、更に倍の威力にしてレヴェーナへと跳ね返したのだ。加えてグレイはアークを三つ同時に顕現しており、威力はさらに跳ね上がっている。

 正真正銘、問題児三人が持てる全てを掛けて放った最後の一撃。


「────ッ!」


 レヴェーナはその凄まじい魔力を前にすぐに回避しようと足から水を噴出させる。だが瞬時にその水が凍りつき、空中で身動きが取れなくなる。

 そしてレヴェーナは膨大な光と闇の奔流に飲み込まれた。その攻撃はそのままの勢いで沖合いに停泊していた《水賊艦隊》の巨大船まで貫き、完膚無きまで破壊した。


 沈んでいく船を遠目に見ながらグレイとミュウはすぐに氷の大地に倒れ込んでいるアシュラとエルシアを砂浜まで運び、座り込む。

 それとほぼ同時にキャサリンの魔力もまた限界に達し、氷の大地が割れて海に消えていった。


「はぁ……はぁ……。ギリギリセーフ……」

「あぁ……もう疲れたぁ……」

「今度こそ終わりだよな……?」

「その、はずなのですよ……」


 もう体力も限界なのか、起き上がる気力もない四人をミュウが心配そうに見下ろす。

 周囲を見渡すと、魔術師団の者達もリュウグウノツカイを二体とも討伐したようで、勝鬨を上げていた。


 そして──それを嘲笑うかのように、沖合いで超巨大な水柱が上がった。

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