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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
四章 プレシャス・バケーション
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麗しき狂人 2

「アハッ。やっぱり見間違いでも勘違いでもなかったんじゃないですかぁ。とても不思議ですわ。触れるだけで魔法を消すことができるだなんて。実に興味深いですわぁ」


 レヴェーナの指示で倒れ伏す団員達を狙い撃ちする魔獣。それをグレイは一人で全てを対処しながら現状を把握する。

 現在敵はレヴェーナ一人と魔獣が二体。他の兵や魔獣達は既に引き上げたのか、もしくは兵のほとんどが戦闘不能になったのか姿が見当たらない。

 まだ楽観は出来ないが、敵の数が少ないことは不幸中の幸いだ。だがレヴェーナ一人だけでも十分脅威だというのに、巨大な魔獣が二体いる。

 とにかくこの魔獣が厄介だ。何せグレイは元々魔獣との戦闘を苦手としている。対人戦でならまだしも、魔獣相手にただの格闘が効くわけもない。その魔獣が二十メートルほどの巨体ともなれば尚更だ。もはや話にすらならない。


「なるほど。魔法であれば大きくても小さくても全部消されちゃうのね。なら、これならどうかしら?」


 するとレヴェーナは初めて自らが魔法を放つ。襲い来るは巨大な津波。すかさずグレイは津波を《リバース・ゼロ》で殴る。だが──


「なっ──ごぶっ!?」


 確かに魔法を砕いた音がした。だが、波は消えずにそのままグレイを、そして砂浜にいる団員達を飲み込んだ。


「げほっ! ごほっ! くそ……ッ!」

「うふふ。やっぱり」


 飲み込んだ塩水を吐き出し、悪態を吐く。レヴェーナは魔術師殺しに等しいグレイの攻略法じゃくてんを暴き出した。


「あなたのその不思議な力。どうやら魔法だけ(・ ・)しか消せないみたいねぇ」


 レヴェーナの予想通りグレイは魔法しか消せない。だから今レヴェーナは、ただの海水を彼女の魔法で発生させた水で覆い、それを利用して攻撃してきたのだ。グレイが殴ったのは外側の魔力で出来た津波だけで、中に入っていた自然の津波までは消えずにそのまま飲み込まれたのだった。


 魔力の通っていない海水だったため、ダメージは少ないが自然の力は時に魔法すら凌駕する。純粋に普通の津波に飲み込まれたのと同義で、息も出来ず身動きすら取れないまま大いに体力を持っていかれていた。

 レヴェーナは、息を激しく乱しながらうずくまるグレイを見下ろす。


「ふぅ。流石にもう見飽きましたわ。これ以上は楽しめそうもありませんし」


 すると、グレイの不思議な力にもう興味を無くしたように溜め息を吐き、先程よりも大きな津波を起こす。


「さようなら」


 向かい来る巨大な津波に団員達も全力で魔法をぶつけるも全然押し返すことが出来ない。


「くそ! いけるかっ!?」


 拳を握り、わずかな可能性に賭けて右手に魔力を集める。


「余計なことせず下がってろグレイ!」


 だがそれよりも早く飛び出してきたアシュラが津波を真っ二つに斬り裂き、その切り口に発生した闇の向こうに大量の水が吸い込まれていく。

 グレイはその光景を見上げながら、自分の隣に降り立った男を見る。


「アシュラ!? 何でここに!?」

「ぁ? その台詞、お前にだけは言われたくねえな。ったく、折角相手の隙を突くために隠れて見てたってのに、何死にかけてやがんだよ。お前の体たらくのせいで俺の作戦が全部台無しになっちまったろ!」

「おまっ、見てたならさっさと助けに来いよ! 一人でどんだけ大変だったと思ってんだ!?」

「あぁ~、うるせえうるせえ。結局生きてんだからいいだろ。あと、今のでさっきの借りは返したからな」


 さっきの、というのは恐らくジョージの最後の攻撃の時を言っているのだろうが、今はそんなことはどうでもよかった。そんなことよりも──


「もういい。どうせ出て来たんだったら手伝いやがれ!」

「はっ! 手伝ってくださいお願いします、だろ!」


 絶望的な状況を前に、彼らはいつものように軽口を叩きあう。そんな二人を見ながらレヴェーナはにやりと笑う。まるで新しいおもちゃを見付けたかのように。


「あらあら今度は何です? あの影、いいえ。闇、と言った方が正しいのでしょうか? うふふふふ。ただのついでのつもりでしたが、これは思わぬラッキーでしたわ。あなたは私を楽しませてくれますの?」

「当然だ。あんたほどの美人の頼みだからな。聞いてやんのが男の義務ってもんだろ。だがな、俺はこいつよりよっぽど刺激が強いぜ? あんまり夢中になりすぎっと怪我すんぜ?」

「えぇ、えぇ。では早速。存分に楽しませてくださいまし!」


 レヴェーナは再度魔獣に指示を出し、二体の魔獣が巨体を利用し、グレイ達目掛けて突っ込んでくる。グレイの《リバース・ゼロ》では掻き消せない、純粋な物理攻撃。

 しかし、今まで弱点であった物理攻撃は、今では弱点と呼べるものでは無くなっていた。

 グレイは地を蹴って回転しながら飛び上がり、右手に魔力を集め、襲い来る魔獣に向けて裏拳を放つ。


「全て等しく跳ね返せ。《リフレクト・ゼロ》!!」


 キィン、と何かが弾ける音がしたかと思うと、殴られた魔獣の突進方向が九十度折れ曲がり、同じように砂浜に向かって突進してきていた魔獣に勢いそのままぶつかった。


 まるで想定していなかった味方からの攻撃に全く対応出来なかった魔獣は、そのまま絡み合いながら地面に大きな音を立てて倒れる。


「今度は俺が魔獣の相手をする! アシュラ、お前はあれだけの啖呵切ったんだ! そっちは頼むぜ!」

「おうよ! 食らえ《三日月ノ影》!!」


 二体の魔獣から引き離されたレヴェーナに、アシュラが三日月型の斬撃を飛ばす。

 それをレヴェーナは鋭利な波を発生させて相殺させる。

 相手が海の上に立っているため、得意の近接戦に持ち込めず歯噛みするアシュラ。遠距離攻撃出来ないグレイが苦戦するのも頷ける。


「あら? もうおしまいなのかしら? それなら次はこちらからいきますよ」

「慌てんなっつの! 月影形状変化。《偃月えんげつノ剣》!」


 アシュラの大剣は薙刀のような形の大刀に変化する。その大刀を振り回し、レヴェーナに向かって勢いよく振り下ろす。


「《長月ノ影》!!」

「《スクリュー・ウェーブ》」


 一直線に水面を走る影の斬撃と、高速回転しながら迸る激流が激突し、勢いを殺し合う。だが徐々にアシュラの攻撃が押され始め、蹴散らされてしまう。


「中々に強力な攻撃ですねぇ。油断していたらやられちゃいそうです」

「チッ! よく言うぜこんちくしょう……」


 最高レベルの攻撃力を持つ闇の魔法を、そこまで攻撃力が高くない水の魔法に押し負ける。その原因は一つだ。つまり両者の実力が桁外れなのである。


「まずいな……。やっぱり強すぎる……!」


 グレイはアシュラが完全に押し負けている様子を見て、焦りを見せ始める。

 レヴェーナは遊びのつもりではあるようだが、ジョージの時とは違ってまるで油断していない。挑発にも乗ってこず、決して陸に上がってこようともしない。


 加勢に行こうと思っても、グレイは巨大な魔獣二体を相手にしているため、それも叶わない。


「君! 早く逃げるんだ! あんな化け物相手に勝てるわけがない!」


 魔術師団の一人がグレイ達に向かって大声で叫ぶ。それと同時にグレイの背後から何発もの魔法が飛来し、魔獣二体に着弾する。見ると数人の団員が体勢を整えて攻勢に転じていた。


「あぁ、ちょうど良かった。魔獣の方は任せていいですかね。俺はちょっとあっちを助けに行かなきゃいけないみたいなんで」

「な、何を馬鹿なことを!? 確かに君には特殊な力が宿っているみたいだが、それだけであの《水明の狂人》を倒せるわけが──」


 団員が話をしている最中、起き上がった魔獣が再度突進してくるのを横目に見たグレイは右腕を振り抜き、魔獣の左側頭部を殴り飛ばす。

 すると突進の向きは九十度曲がり、海面に突っ込み、大きな音と水柱を立てた。


「お願いします! 早くしないと手遅れになる!」


 グレイが強く言って団員達に命令する。やがてリーダー格の人物が渋い顔をしながら頷いた。


「……わかった! こちらは我々が引き受ける。一班と三班は私と共に魔獣を討つ。他の者は彼と共に《水明の狂人》を討て!」

「「了解!」」

「おっさん──」

「我々とて誇り高き魔術師の一人だ。君の力は見せてもらった。それに私達は救われた。だから誇りにかけてでもこの恩は返させて貰う! だが、絶対に無理だけはするなよ!」


 と、強く大きな声で言い放たれ、グレイもそれに頷いた。


「わかった。ならこの二体を出来るだけ遠くに追いやってレヴェーナと合流させないようにしてくれ」

「了解だ! 行くぞ!」


 端から見れば大人に指示を出す子供、というある意味異質な光景ではあったが、何故かグレイのその姿は様になっていた。

 グレイはすぐさま、数人の団員と共にアシュラとレヴェーナの元へと戻っていった。

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