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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
四章 プレシャス・バケーション
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全ては母のために 1

第35話

 《調練魔術師ロード・ウィザード》。魔獣を使役して戦う魔術師の総称であり、その種類は二つある。

 魔獣を調教し育てる《調教師テイマー》と、魔獣と契約し眷獣とする《契約者コントラクター》。

 この二種類の《調練魔術師ロード・ウィザード》の戦闘スタイルは大きく分けて三つある。


 一つ目は、魔獣を前衛、主は後衛でサポートするスタイル。

 二つ目は、主が前衛、魔獣が後衛でサポートするスタイル。

 そして三つ目。ジョージが使う戦闘スタイルは、主と魔獣が連携して戦うスタイルだ。


 特に《契約者コントラクター》には《調教師テイマー》にはない、様々な制約が存在している。

 例えば一つ目の戦闘スタイルを取る時、主は一定の体の動きを。二つ目の戦闘スタイルはその逆で、眷獣の体の動きが制約される。

 だが三つ目の戦闘スタイルでは、両者がその制約や魔力を半分ずつに分けるため、同時に動くことが出来るのである。


~~~


「その胴体を真っ二つにしてやる! 《アクア・ソーサー》!!」


 ジョージは円盤型の水の刃を何発もグレイ目掛けて放つ。だがグレイはそれら全てを紙一重で回避する。

 グレイは今まで、一撃食らうことが死に直結するという、尋常ではない死線を何度も潜り抜けてきた。その時に身に付いた回避術は、今も尚健在だ。


「ハァァッ!」


 攻撃を躱し続け、ジョージに肉薄するグレイは拳を大きく振りかざす。


「んな攻撃が! 俺に届くわけねえだろうがぁあ!!」


 だがジョージは自身の周囲に水壁を発生させ、防御する。


「邪魔だ!」


 しかしグレイはその水壁を殴って消し飛ばし、殴った時の勢いを利用して回転し、踵でジョージのこめかみを蹴り抜いた。


「ガッ!?」


 続けざまにグレイは地面に両手を突いて体重を支え、そのまま腕の力だけで飛び上がり、両足で顎を蹴り飛ばす。


 立て続けに二ヶ所の急所に攻撃を受けたジョージは、グラグラと揺れる頭でがむしゃらに魔法を放つ。だが集中力の欠いた魔法はどこが雑で、狙いも定まらない。

 グレイはヒラリとその攻撃を躱し、強く地を蹴り、回転蹴りをジョージの顔面に叩き込んだ。


 そのグレイの体術は、シリウス流無差別戦闘術とは別に、陸戦遊戯アクロバットと呼ばれる戦闘技術を混合させた、彼だけが会得している特別なものであり、陸戦遊戯とは、かつてグレイの師だった者がグレイに叩き込んだ技術の一つだった。


「例え無能なガキだろうと魔術師に一杯食わせることは出来るんだぜ? 人生の勉強になったな、おっさん」


 挑発するようにわざと先程ジョージが使った言葉を織り混ぜて激情を煽る。

 そのジョージは吐き気を催しそうなほどの頭痛を覚えながらも、異変に気付く。


 自分はずっと身体強化魔法を使用しているはず。にも関わらず、グレイに攻撃を受ける度に、その身体強化魔法が消えている。同時に、すぐ近くで何かが砕ける音がする。この音は、この謎の現象と関わりがあるのだろうと仮定するが、原因まではわからない。

 だが無理もない。ジョージからすれば、グレイは魔力を持たないただの子供にしか見えないのだ。身体能力は高いため、騎士見習いなのかもしれないと勘繰るが、それだとミスリル魔法学院の生徒と一緒にいる理由が皆目見当がつかない。

 そして身に纏うは、物語に出てくる典型的な魔術師が着るような灰色の聖衣ローブ帽子ハット。訳のわからないことだらけだ。


 だが、そんな(・ ・ ・)こと(・ ・)は全くもってどうでもいい。ただ一つハッキリとしているのは、今自分がただの子供に一方的に押し負かされているという、あってはならない現状だけだ。


「……調子、乗ってんじゃねえええぞぉおおおおお!! 糞ガキがぁぁぁあああああっ!!」


 ジョージは全身から驚異的なほど膨大な魔力を放つ。思わず身を竦ませるほどの圧倒的な魔力。


 ──そう。それでいい。


 それを見て、しかしグレイは不気味に笑う。

 これほどの魔力を見せ付けられ、それを全身で浴びて尚、笑みを浮かべるグレイを見て、ジョージの顔に微かな恐怖の色が浮かぶ。


「一体なにもんだ、てめえは……?」

「さあな。一体俺は何者なんだろうな……」


 そう言って自嘲気味に笑うグレイの灰色の瞳を見て、ジョージは悟る。このガキを生かしておくのは危険だと。


「てめえはここで死んどけ!! 《虐流瀑布ぎゃくりゅうばくふ》!!」


 ジョージはホークに向けた時よりも威力の大きい《虐流瀑布》をグレイに放つ。


「全て等しく無に還れ。《リバース・ゼロ》」


 それをグレイは、ただの裏拳で弾いて消し去った。


「な、なにぃぃい!?」

「迂闊だぜ、おっさん。《契約者コントラクター》のあんたが一気に大量の魔力を使えば──」


 そのツケは、眷獣が払うことになる。


 眷獣と主は魔力を共有している。片方が魔力を大量に使用すれば、もう片方の魔力が著しく低下してしまうのである。


「うぉおおおおあらぁぁぁあああっ!!」


 アシュラの叫ぶ声が聞こえ、ジョージを警戒しながら横目でちらりと見る。


「《噛月こうづきノ影》!!」


 大剣を連続で斬りつけて、鮫肌を削り続けるアシュラ。ザギラの方はどうにも動きが鈍く、防戦一方だった。

 それを見たジョージは苦渋の選択をする。


「くっ。てめえら如きに使いたくはなかったが。《進化》だ、ザギラ!!」

「─────────!!」


 ジョージの発した《キーワード》に呼応するように、ザギラはけたたましい咆哮を上げ、凄まじい勢いで魔力を膨張させていく。ザギラの体が更に大きくなり、より凶悪な姿へと変貌していく。


 《進化》。魔術師と契約した眷獣のみが使えるワンランク上の力。《進化》した眷獣は、通常より何倍もの能力を発現し、中には姿形まで変える個体もあり、一定の間、全ての制約を無視出来るのである。


「きやがったか……。踏ん張れよアシュラ!! これが《契約者コントラクター》と眷獣の最大の切り札だ。だがこいつには時間制限があるっ! それまで耐えきればこっちの勝ちだ!」

「抜かせ! 言ったろ!? タイムアップなんかより早くこいつを倒してやるよっ!」


 依然闘争本能バリバリのアシュラは、むしろ嬉々として犬歯を覗かせる。その血よりも赤い彼の瞳は、まるで捕食者のそれだった。


「ったく。あの馬鹿……。まあ放っといても大丈夫だろ。さて、んじゃ俺は──」

「今度こそ殺すぜ糞ガキ」

「時間切れまで殺し屋の接待か」


 ジョージの魔力も、眷獣と同様に膨れ上がっている。《進化》による能力向上は主の方にも現れる。制約が一時的に消え、先程よりも手強くなったジョージを相手に、グレイは気を引き締め直した。


~~~


 グレイとアシュラがジョージ達を抑えている間、エルシア達は海からの襲撃者と相対していた。


「皆、一人にならないで二人から三人のチームを組んで! 特に《イフリート》の皆は他のクラスと連携! 来るわよ!」


 エルシアはホークとイルミナを背に、広い視野を生かして指示を飛ばす。

 海からの襲撃者は、何も魔獣だけではなかった。先程は気付かなかったが魔術師も何人か混ざっている。


「まずは、出来る限り頭数を減らす! 皆、海には近付かないでよ! 《スパーク・ボルト》!」


 エルシアは魔獣ではなく、海に電撃を落とす。すると電流が海を走り、海中にいる魔獣全てにダメージを与えた。下級の魔獣なら今ので既に倒せたはずだ。


 だが、そう簡単に全滅させられるはずもなく、すぐに魔獣達は海から避難するために自ら水泡を作り、そちらへと移る。

 こうなってしまえば各個撃ち落とす他ない。


「あまり舐めないで貰えるかしら。その程度のこと、予想の範囲内よ! 《サウザンド・ライトニング》!!」


 続けてエルシアが放ったのは千発もの電光の弾丸。それら全てが敵に命中し、更に敵の数を減らし、高ランクの魔獣にもそこそこのダメージを与えた。


「今よ! 各自攻撃開始! アルベローナとエコーは下がって後方支援。カナリアは二人の防衛に当たって。シャルルは分身で海からの新手を警戒。ウォーロック、カインは魔術師の相手をお願い! 全員焦らず確実に仕止めて敵の数を減らして!」


 エルシアは戦場全体を把握し、適格に指示を飛ばす。そして皆、その指示通りに動き、少しずつだが着実に魔獣を減らしていく。


 エルシアは昨日の大敗、その後に行われた反省会でのグレイの説明と分析、各クラスの人物の長所や短所、それら全ての経験や情報を昨日の今日で最大限に活用している。確かに経験や情報を得たとしても、それをすぐに最大限に活用するなど容易なことではない。

 それは天賦の才と呼べる代物だ。エルシアは今までの努力と経験を、最大限かつ有効に扱える才能を持っている。


 そんなエルシアの背を見るイルミナは、《プレミアム》の底知れない可能性を感じた。

 現在、この戦闘で中心となっているのは紛れもなく、《プレミアム》の三人だ。


 グレイがジョージを食い止めて、アシュラがその眷獣を相手取り、エルシアが生徒全員を指揮して魔獣の群れと交戦している。


 これなら、とイルミナも自分の役割を果たすことに更に集中することが出来る。

 今、ホークの切断された足を縫合させる段階になっている。これは回復魔法の中でもかなり難しい魔術だ。それこそ、全神経を集中させる必要がある。


「お願い《アクアリウム》」


 イルミナは水晶型のアークを顕現し、魔力を増幅。より強力で精密な回復を施していく。


 そんな時だった。ジョージが眷獣を《進化》させ、その魔力が跳ね上がった。

 そのとてつもない魔力の波動はエルシア達の動きを萎縮させる。


「な、なによあれ……?」

「くそっ! あんなのを相手にグレイ君達だけなんて危険だ……」

「でもこっちだってこれ以上人数減らせられるほど余裕ないよ!?」


 脅威的な魔力を受け、皆焦りから浮き足立つ。そこにいきなり銃声が鳴り響き、空に向かって一筋の光の柱が立ち上る。


「全員集中! 私達のやるべきことは魔獣の群れの掃討よ! あの二人のことは私に任せて自分達のやるべきことをしっかりやって! 助けに行きたいなら、まずやるべきことをやってからよ!」


 エルシアの青く輝く瞳を見て、全員冷静さを取り戻す。


「そうだな。その通りだ! 皆で協力してこの危機を乗り越えるんだ!」

「「「オォォォッ!」」」


 レオンは士気を高めるために大きな声で皆を鼓舞し、握った剣を振り上げる。

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