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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
四章 プレシャス・バケーション
172/237

男の友情 2

「ふわぁ……眠い。あの、起きて早々反省会って、鬼スケジュールじゃありません? もう少し休憩とか……」

「むしろグレイ君が起きるのを待って、スケジュール押してるくらいなのですよ。それまでは休憩時間があったのですがね」

「うへぇ、マジっすか……。ふわぁあ……」


 グレイ特有の魔力を大量使用した反動で激しい眠気に襲われながらも、グレイはキャサリンの後を追う。話を聞いたところ、あの後グレイは宿舎に運ばれ、今までずっと眠っており、その間他の者達は休憩を取っていたらしい。

 その休憩自体は予定に入っていたのだが、それを過ぎてもグレイが起きてこないため、キャサリンがこうして迎えに来たらしかった。


「つか、俺らのチーム勝ったんですし、反省会しなくても……」

「駄目です。むしろグレイ君には色々と説明やら解説やらしてもらいたいくらいですよ」


 ここでまた、めんどくさいだのキャラじゃないだのと言っても結局は無駄なんだろうな、とグレイは諦めの境地に達した。

 そうしてる間に着いたのは、宿舎内にある小さな多目的ホール。小さいとは言っても、簡単なスポーツが出来るくらいの広さはある。

 そこには講師、生徒全員が揃っており、グレイが入ってきた瞬間全員の視線がグレイに突き刺さった。


 ちょっと遅れたくらいで嫌に注目されるな、と思っていると、メイランが満面の笑みでこちらに近寄ってきた。


「すごいすごい! 本当にグレイ君の言う通りボク達勝っちゃったよ!」

「んあ? いや、最初に言ったろ。勝てるって」

「そうだけど! そうなんだけどさ!」


 寝起きだからか、メイランのハイテンションについていけずにいたグレイの元に、先程のチームメンバーが集まってくる。


「いや、メイランの言う通りだぜ。よくもまあ、あんな短い時間であれほどの作戦を考えられたもんだわ」

「そうですね。少し感心しました」

「まあ、一対一サ シではうちの代表には勝たれへんやろうけど、まあまあやるやん」


 次々と称賛を浴びるグレイ。だが当のグレイはキョトンとした顔をする。


「何言ってんだよ。俺は作戦を立てただけだ。実際に勝てたのはお前らの実力あってのもんだ」


 グレイの言う通り、グレイは誰一人として撃破していない。あくまでグレイは作戦を考え、そのサポートに徹していた。


 メイラン達から言わせれば、サポートなんてレベルを遥かに越えているのだが、グレイは何でもないことのように言った。


 そして、チームごとに集まって座る様子を見て、グレイもそれに倣うようにチームメイトと固まって座る。それを見てイルミナが笑顔でこう言った。


「ようやく今回の主役が登場したようなので、先程の試合の反省点を話し合いましょう」

「………………んん?」


 一瞬、聞き間違いかと思ったが、全員の視線がグレイの方へ向き、グレイの背筋に嫌な汗が流れ落ちる。


「えっと……。イルミナ先生? 今なんと?」

「主役は遅れて登場する、だったかしら?」


 全然違う。しかし一番重要なワードだけはしっかり残っていた。


「はい。では主役のグレイ君にそれぞれのチームの動きの解説、分析、改善点などを聞きましょう」

「丁重にお断り致します」

「ダメだ。イルミナ先生の言う通りにしろ。彼女に迷惑がかかる」

「ホーク先生っ!? 俺に迷惑がかかってますけど!?」

「これは君達生徒のための合宿だ。その中でイルミナ先生が今回は君が一番相応しい人物だと感じたのだ。むしろ光栄に思いたまえ」

「いらないですってマジで!」

「グレイ君。やってください」

「キャシーちゃんまで!? 俺寝起きなんですけど!? まだ疲れてるんですけどっ!?」


 そんなグレイの必死の抗議も虚しく、結局一人だけ皆の前に立たされることになってしまった。


「はぁ……めんどくさ」

「やる気無さすぎでしょあんた」

「やる気ねえなら引っ込め~!」

「うっさいぞ負け犬」

「「はぁあっ!?」」


 エルシアとアシュラが今にも噛みついてきそうになっていたが、三人の講師の鋭い視線を受け、何とか押しとどまる。何故かそのあとグレイも睨まれてしまい、再度溜め息を一つ吐きながら目を閉じる。

 次に目を開くと、少しだけグレイの目付きが変わっているような気がした。


「んじゃまず。今回の訓練試合。一位チーム以外の三チーム、めんどくせえから、白、黒、灰、って呼ぶけど、その三チーム全てにおいて共通することがある。何か分かるか?」

「何って、人数とかか?」

「だからバカなんだよアシュラ」

「あぁ?!」

「はいはい。いちいち噛みつくな。つか、色々思い付くだろ。まず、三チームとも全体的に実力差はほとんどないこと」

「えっ? そうなの?!」


 メイランが驚くような表情を見せる。他にも何人か似たような表情をしている。


「黒チーム。序列一位アシュラ、二位カナリア、三位クロード、四位ゴーギャンとコノハ。

 次に白チーム。序列一位エルシア、二位アスカ、三位シャルルとマルコシウス、四位エコー。

 最後に灰色チーム。序列一位俺、二位ラピスとソーマ、三位メイラン、四位クリム。と、こう並べると分かりやすいだろ」


 グレイはボードにそれぞれのチームメンバーの名前と序列を書いていく。

 確かに、こうして見ればほとんど差はないように思う。


「だがよ。お前のチームだけ序列二位が二人じゃねえか。俺のチームは四位が二人だぜ?」

「アホ。《プレミアム》全員の単純な力だけを見ればお前がトップで俺がビリだろ。バランスは取れてる」


 その発言にエルシアが文句を挟みこんできたが、今は無視することにした。それに、今のは事実だが、あくまで単純な力のみでの判断だ。


「次に同じなのが、敵とそれに対する基本戦術だ。今回の試合で敵は四人。数ではこちらが有利だが敵全員が序列一位かくうえ。そんな奴等が連携を取ればこちらの勝率はかなり低くなる。だから絶対に連携させてはいけない。分断し、各個撃破が一番効率が良く、基本となる戦術だ」

「それが出来りゃ苦労しないっつの」

「いや、アシュラ。お前のチームでだって勝つ方法はあったぞ?」

「あぁ?! どうやって!?」


 どうもまだ機嫌が悪いらしいアシュラだったが、仕方ないとグレイは説明を始める。


「んじゃ、お前ら黒チームの反省点を上げてくぞ。文句がありゃ説明終わってからにしろ。で、まず作戦を考えてない。アホか。そりゃ速攻で負けるわって話だ。あと連携もまるでなってない。作戦会議の時に喧嘩してたが、あれがわざと(・ ・ ・)なら作戦として機能もしただろうが、別にそんなことないんだろ? つまりはチームとして、始まる前から終わってる」


 かなり辛辣な評価だが、誰一人言い返せない。すべて事実だからだ。グレイはそこに更に追い討ちをかける。


「次に個人評価だ。まずアシュラ。お前、レオンと戦ってたのに急にカインの方に行ったろ。あれだとレオンにどうぞリーダーを仕留めてくださいって言ってるようなもんだ。独断専行も目立つ。作戦も命令もなくただ突っ込むだけじゃ無駄死にするだけだぞ」

「けっ! うっせえよ」

「次、クロード。指示を出そうとする姿勢は認めるが、実力不足過ぎる。あと、戦場で気を弛めるな。それが命取りになる」

「…………」

「次、コノハ。指示待ちの全てが悪いとは言わねえが、言われてからしか動かないのは駄目だ。それと、援護射撃を弾かれたからといって一回で止めるってのは感心しないな。もっと動けたはずだ。あと最後、回復に集中し過ぎだった。言ったはずだぜ? 常に周囲に気を配れってな」

「あぅ……」

「次、カナリア。全体的には悪くない。が、チーム二番手のお前はもう少しチームのことに気を向けるべきだった」

「それは、そうだねぇ……」

「最後、ゴーギャン。お前も全体的に悪くはない。強いて言えば作戦会議中、もっと強く意見してメンバーの仲を取り持つ努力をすべきだった」

「ウッス」

「総評、ぐっだぐだの反面教師チーム。以上だ。反論あんなら聞くぜ?」


 だが、やはり誰も何も言わない。皆の表情は暗かった。その代わりなのか、キャサリンが小さく手を上げる。


「それで、どうやったら黒チームは勝てたのですか?」

「勝てる確率が一番高い戦術です。確実に勝てる方法なんてないっすよ。戦いには運も必要ですし」

「へっ? でもグレイ君。昼の時、ボクらには『確実に勝てる』って言わなかった?」

「あれはお前らに俺の話に興味を持たせるために使った嘘だ。ま、実際勝ったんだからいいだろ?」


 さらっと嘘を吐いたことを暴露するグレイだったが、実績を残した今となってはどうにも強く言い返せなかった。


「話が逸れたな。で、黒チームの勝つための戦術ね。じゃ仮に俺が黒チーム五人に指示を出すとしたら、まずリーダーはカナリアじゃなくてコノハにする」

「え、えええっ!? わ、わたしっ!?」

「そんで、アシュラ。お前が彼女の護衛役な」

「なっ!? ふざけんなっ! 何で俺が──」

「アシュラ。突然なんだが、コノハのことどう思う?」

「ふぇえっ!?」

「あぁ? どう、って……。守ってやりたくなる系美少女」


 そのアシュラの発言にコノハが顔を真っ赤にしているが、それは今は置いておく。


「あぁ、俺もそう思う」

「はぁっ?」


 何故か、エルシアまで反応を示したが、それも今は置いておくことにした。


「お前はその美少女を守る戦士だ。お前にとって美少女は守るべき存在だろ? 少しでも傷付けたりしてみろ。男として一生の恥だぞ」

「俺がそんなヘマするわきゃねえだろ!」

「……と、まあ、これでアシュラがコノハを守ることが決まったな」


 アシュラの性格をよく知るグレイに上手く使われてアシュラはまんまと乗せられたことを自覚する。


「んで、アシュラとコノハでカイン。クロードとゴーギャンでレオンと対峙。カナリアは後衛のウォーロック、アルベローナを全力で牽制。ここで絶対に邪魔をさせちゃいけない。特にアルベローナの回復支援だけは絶対に防げ。カナリアはウォーロックと同じ属性で、アルベローナの苦手な土属性だ。序列も二位だし、そう簡単にやられはしないはずだから任せていい」

「いや、待て。カナリアや、僕とゴーギャンはまだ分かるが、カインを倒すために後衛のコノハを引っ張り出してどうする!? 彼女がリーダーなのだろう!?」

「コノハには風の補助魔法でアシュラの空中戦をサポートしてもらう。お前らのチームの鬼門は空中のカインだからな。あと、アシュラはああ見えて守るもんはしっかり守る。多少離れても十分カバー出来る。それにお前らが他を抑えられれば問題ない話だしな。で、お前ら二人の仕事はレオンの隙を作ること。その隙をアシュラ、お前が突く」

「どうやってだよ?」

「お前の得意技があるだろ」

「……なるほど。《幻影》か」


 《幻影》。自分の分身を作り出す魔法。これを上手く利用しさえすれば、レオンの不意を突いて倒すことが出来る。


「レオン撃破後、クロードはカナリアの回復とサポート。ゴーギャンはコノハ、アシュラと協力してカインを撃破。カインさえ倒せれば、あとはアシュラにウォーロックを任せて四人でアルベローナを倒せばいい。あとは数の暴力で押しきる」

「最後ごり押しかよ……」

「そうは言うがな。ウォーロックの倒し方は現状、それしかない。学年一位は伊達じゃねえんだよ」


 ぶつぶつと文句を溢すアシュラだが、確かに悪くはない作戦だと思えた。アシュラ自身、暴れ足りなくなることもなく、美少女を守る、というシチュエーションも結構ありだと思った。


「納得したようで何よりだ。他に《幻影》を使ってアルベローナから先に潰す作戦もあるが、それはもういいだろ。次、白チームな」


 白チーム、エルシア達は少し気を引き締め直す。グレイの言葉を聞くのに一考の価値があると思ったからである。


「まずチーム全体としての評価だが、チームワークの練習をしています、って感じのままごとチームだな。指示は飛んでいたし黒チームよりはマシだが」


 そのグレイの評価にアスカとエルシアが顔をしかめる。だが、黙って次のグレイの言葉を待つ。


「個人評価として、まずエルシア。お前がリーダーで指示を出すというのは悪くない。だが経験不足だな。アスカが先攻し過ぎているのに気付けなかった。あと、主力のお前がほいほいと移動するな。お前は前衛と後衛の間に立って両方をサポートしなきゃいけなかった」

「……反省してるわ」

「次、アスカ。さっきも言ったが先攻し過ぎだ。前衛が潰されては元も子もない。押し返す程度にしておくべきだった。深追いは禁物だ」

「わかってるわよ……」

「次、シャルル。悪くはない。が、もっと距離を取って戦え。風の利点は遠距離攻撃だ」

「……うぬ」

「次、マルコシウス。お前は防御が薄い。硬さがないなら手数を増やせ。盾だけでウォーロックを止められると思うな。あと簡単にカインに抜かれるな」

「うん……」

「最後、エコー。……特になし。強いて言うならチームワークをもうちょい重視しろ」

「あ~い」

「ちょっと待ちなさいよ!!」


 グレイが総評に入る前に、アスカが怒髪天を突いたように立ち上がった。


「なんでこいつの反省点が特になしなのよ!? こいつ、自分から降参したのよ!?」


 アスカの言いたいこともわかる。だがグレイは冷静に答えた。


「お前とエルシアはレオンの罠の中にいた。敵は序列一位三人。この状況で打開する策はない。お前らが駆けつける前に試合は終わったろう。降参か撃破の違いだけだ。主に悪いのはお前ら二人だ」

「ぐっ……。で、でも何も反省がないなんて!」

「何を言ってる。こいつは唯一自分の仕事を徹底した奴だ。支援に回復。こいつは魔力全てを支援それに回していた。絶対に反撃することなくな」


 そう言われてシャルルとマルコシウスは思い出す。確かに、エコーがカインに襲われていた時にも、ずっと支援魔法と回復魔法を二人に掛け続けていた。


「あの状況、アルベローナの乱入が無ければ持ちこたえられた可能性は大きい。一番適格な動きだったと思うぜ」

「いやぁ~。そこまでべた褒めされると照れるな~」

「まあ、コミュ力と空気を読む力が足りないという欠点はあったが」

「……その一言マジ余計~」


 あまり図に乗らせるのも考えものだったので、グレイはエコーに釘を刺す。


「で、だ。白チームが勝つ確率の高い戦術だが。まずリーダーはエルシアでいい。エルシアはウォーロック、アルベローナの牽制。アスカはレオンを。当然押し返す程度まで。残りの三人でカインを撹乱させろ。そしてカインをアスカ、もしくはエルシアが倒す」

「簡単に言ってくれてるけど、どうやるのよ?」

「エルシア。お前には魔力精密操作に長けてる。ウォーロック達を足止めしながらカインを倒す、もしくはレオンを牽制することが出来る。レオンを抑え込んだらその一瞬でアスカ、お前がカインを倒すんだ。風には火が有効だ。十分に可能性がある。出来るよな?」

「と、当然よっ!」

「で、カイン撃破後、シャルルとエコーはエルシアと合流。マルコシウスとアスカでレオンと対峙──するように見せてレオンの油断を誘ってから、エコーがその不意を突け。倒せなくていい。レオンの邪魔をするだけで十分だ。気を削がれたレオンをアスカ、マルコシウス、必要ならエルシアも加えて攻め立てろ。ここでレオンを仕留める。そうすりゃ後は黒チームと同じ。アルベローナを先に倒して、ウォーロックをごり押し」

「やっぱり最後雑なんじゃない」


 やや冷たい目でグレイを見るエルシアだったが、確かに自分達の考えていた作戦よりも勝率が高そうに思えた。


 ようやく長い説明を終え、グレイはあっけらかんとしながら言った。


「…………まぁ、今言った二つの作戦。もう二度と使えないけどな」

「「「「…………はぁ?!」」」」


 その場にいたほぼ全員が怒り混じりの声を上げた。


「いや、何驚いてんだよ。今の話はレオン達も聞いてたんだぞ? 作戦筒抜けじゃねえか。使えるわけがねえ。この作戦に一番重要な『奇襲』のタイミングと方法までバレてて勝てるわけがねえ」


 あっ、と全員が思い出し、恥ずかしさで押し黙る。グレイは一つ息を吐き、話を続ける。


「で、俺ら灰色チームは今言った『奇襲』を主軸にして戦った。相手は紛れもない格上だ。だから真正面からぶつかるだけじゃ勝てねえ。だからこその作戦だった。そして結果俺らが勝った、っつーわけだ。はい、終わり。質問は?」


 しばらくの沈黙のあと、エルシアが手を上げた。


「その作戦、あの昼だけに思い付いたの?」

「あぁ。ちなみに、試合の順番も考慮に入れてたぜ」

「え? でもあの時『どっちでもいい』って?」

「俺の意図を読まれないためにな。俺達の理想は三番目。つまり最後だ。理由は二つ。一つ目は、一位チームの動きを見るため。二つ目は、相手の油断を誘うため」

「油断?」

「あぁ。二連続で勝利すれば、一位チームも多少油断するだろ。『やっぱり一位四人の俺達に勝てるわけがない』ってな。俺はお前らのチームは一位チームにゃ勝てないことを知ってたからな。見事にそこを突かせてもらった」

「はぁ?! 知ってた、ってどういうことだよ!」

「言ったままの意味だ。お前ら昼食時のことを思い出せ。作戦会議とは名ばかりの口喧嘩祭りだったじゃねえか。そんなチームワークもへったくれもねえチームが勝てるわけがない。少しは自覚しろ」


 真正面から叩き伏せられたような感覚だった。その通りだ。チームワーク。今回の合宿の一番重要なこと。それを彼らは疎かにしていた。


「チーム全員の意志を一つにしなけりゃ勝てるもんも勝てねえ。作戦のありなし以前の問題だ」

「そ、それなら。あんたはどうやって意志を統一したっていうのよ」


 ほとんど交流なんてない他のクラスのメンバーを、どのようにまとめ上げたのか。それは全員が気になっていることだった。


「……それくらいわかってほしいが、仕方ない。まず、この試合には勝者に何の特典もない。モチベーションが上がらないんだ。だからお前らはどこか本気ではなかった。だからモチベーションを上げるようなことを言ったんだよ」

「それって?」

「言わねえ。聞きたきゃ本人に聞きな」

「なにそれ。ズルくな~い?」


 グレイが口を閉ざしているとエコーが挑発してきた。なら、とグレイはエコーを見る。


「エコー。お前、アイドルになりたいんだっけか?」

「急になぁに? ってか、なりたい、じゃなくてもう既にアイドルなんだけどね」

「だが初ライブは先月の《ミスリル・オムニバス》だった。違うか?」

「うっ、ま、まあ? そう言ったような気もしないでもないけど~?」

「でも残念だったなぁ~。その初ライブは見事無様に敗北で終わってる」

「ぐ、ぐぬぬ……」

「と、そこで提案なんだが、俺の知り合いで喫茶店のマスターやってる人がいるんだが、その人に頼み込んでお前のライブ舞台を用意してやろうかと思う」

「ほんとっ!?」

「あぁ、ちゃんと合宿で活躍すりゃあな」

「よぉ~っし! エコーちゃん張り切っちゃうよぉお!」

「……ま、こんなとこだ。似たようなことを他の仲間にも言った。勝てば得する。それでチーム全体の意識を向上させたってわけだ。あっ、ちなみに今のは嘘な」

「ぶっ飛ばしていいかな?!」


 エコーは一人笑顔のまま怒りを露にしていたが、他の者達は驚愕していた。

 まず間違いなく、このメンバーの中でも一、二を争うほどにめんどくさい性格をしているエコーをこうも容易く手玉にとった。


「すご……」

「すごくはねえよ。こんなのよく観察してればわかることだ。先月の《ミスリル・オムニバス》を見りゃ、お前らの基本的な戦闘スタイルはわかるし、バスの中や自由時間にやったビーチボールなんかで、お前らの素の性格だって読み取れる。それを少し利用させてもらっただけだ」


 人それぞれの異なる性格、癖、戦闘スタイル。それら全てを見抜き、分析し、考慮し、計算に加え、作戦を練る。


 その類い稀なる観察眼と洞察力。未来予知にも似た予測と計算。それは余程、子供のそれとは思えないほど洗練されていた。


 それがグレイが《シリウス》南方支部の中で五本の指に入る実力と認められた由縁の一つでもあった。

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