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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
四章 プレシャス・バケーション
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男の友情 1

第33話

 《ミラージュ・ゼロ》により、メイランの攻撃を透過させたグレイは、カインが戦闘不能になっているのを確かめて、続けて戦況を確認した。


「ナイスだメイラン。あと残るは二人だ」


~~~


「カインまで……。本気でまずいな」


 レオンは更に戦況が悪くなった現状を嘆く。レオンは三人を相手にしており、ウォーロックはソーマに足止めされている。

 それに加えてカインが倒され、グレイがフリーになった。

 二人の戦闘不能者を出したにも関わらず、未だ一人も倒せていないという事実は、精神的にも負担を強いてくる。


 こうなったら、とレオンは今までより強い意志をもってラピスを見る。リーダーであるラピスを倒すことさえ出来れば、逆転は可能なのだ。


「狙いはわかってんで。リーダーはやらせへん!」

「その通りだよ! 絶対勝つんだから!」


 だがレオンの狙いは誰にだって理解出来る。逆の立場なら自分だってそうするはずだからだ。


「グレイ君! 代表はボク達が倒す! だから!」

「貴方はウォーロックさんを!」

「……やれるんだな?」

「やってみせます!」

「そう。なら任せるわ」


 グレイは軽くそう言ってレオンを三人に託し、ウォーロックとソーマの元へと駆け出す。だがすぐに何かを思い出したかのように振り返ってこう言った。


「あっ、そうだ。俺ら男子がウォーロックを倒すのが早いか、お前ら女子がレオンを倒すのが早いか勝負しようぜ。……って、やっぱ勝負にならねえかな。お前ら三人がかりでも苦戦してるようだし。よし、だったら俺らがすぐに向こう片付けて助けに来てやっから。それまで頑張れよ~」

「「「…………えっ?」」」


 質問や反対や怒りを抱く暇すら与えずにグレイは今度こそウォーロック達の元へと走っていってしまった。

 残された女子三人は、レオンさえポカンとした表情をしたが、すぐに女子三人の目が真っ赤に燃え上がった。


「負けないよっ! 代表にもグレイ君にも!!」

「私達も舐められたものです……。逆に私達が彼を助けてさしあげますよ……」

「目に物見せたるわあほんだらぁあ!!」


 負けず嫌いな三人の闘志に、わずかだがレオンは気圧されてしまう。


「参ったな……。さっきまでより一層手強そうになったんだけど……」


 さっきまでは、ようやく見えてきた勝機に浮き足立ち、肩に余計な力が入っていた三人だが、今は余計な緊張が抜けていて、気迫も闘志も十分みなぎっている。

 たったの一瞬で、折角見えた隙を潰されたレオンは悔しそうに苦笑した。


~~~


「よっ。待たせた」

「遅刻だばか……。おれがどんだけ苦労したか一から説明してやろうか?」

「眠くなりそうだから断る」


 グレイは十分に警戒しながらソーマと合流する。視線の先にはウォーロックが立っている。


「『出来るだけ高い場所を飛び回りながら攻撃を加えてウォーロックを牽制しろ。決して仲間と合流させるな』とか、注文多すぎなんだよ!」

「ははっ。そう言いながらちゃんと仕事してんじゃん。偉い偉い」

「バカにしてんのか、あぁ?」

「してねえしてねえ。あっ、あと成り行きで男子対女子でどっちが早く相手を倒すかの勝負することになったから、気張れよ」

「一人でやれ」

「え? お前女だったの? 知らなかった……」

「ちげえよ! てかやっぱバカにしてんだろっ!?」


 グレイは軽口を叩きながらソーマをおちょくる。そんな二人をウォーロックはただ黙って見つめていたが、やがてゆっくり口を開いた。


「グレイ=ノーヴァス」

「あぁ? 何でフルネーム? てか何?」

「…………貴殿は、ここまで読んでいたのか」


 このチーム。ラピスがリーダーを務めているが、実質チームを引っ張っているのは紛れもなくグレイだった。ということは作戦もグレイが考えたということになる。

 だが確かに『リーダー以外が作戦の指示を出してはいけない』なんてルールはない。つまりラピスは囮だったのだ。

 しかし他にもラピスをリーダーにした理由はあった。それが、レオンの注意を引くことである。『リーダーを倒せば勝利』という条件は、彼の視野を狭くし、思考を停止させ、後衛へのカバーを一瞬でも遅らせることが出来るのだ。


 もし、ウォーロックの考える通り、ここまで全てグレイの思惑通りだとしたら、とんでもない戦術眼である。

 グレイはしばし考えるフリをしてからその質問に答えた。


「ま、だいたいはな」

「……そうか」


 今まで。ウォーロックは今までずっと己の強さのみを追い求めてきた。自身を鍛えに鍛えてきた。その結果、学年一位という称号も得た。

 だが、今はどうだ? チームの半分を失い、相手のチームの一人も倒せていない。それどころか、守るべきものを守れず、こうして敵の罠にまんまと嵌まっている。


「……ふっ。我は、傲っていたのかもしれんな」


 自分さえ強くなれれば全てを守れる。何者にも負けることはない。そんな傲りだ。だが実際はなんてことはない。彼はこの試合中ずっと間抜けに間抜けを重ねている愚か者だった。

 アルベローナを討ち取られ、クリムのことを見逃し、グレイを仕留めることも出来ず、ソーマに足止めされて、そのせいでカインすら討ち取られた。


 たった一度、グレイを抑えることが出来なかったために起きた失態。いや、恐らくグレイは見抜いていたのだろう。自分が傲っていたことを。それら全てを計算にいれて動いたのだろう。

 全く、末恐ろしくなる。まるで未来でも見通せているかのようだった。

 だがウォーロックは、自分でもどうかと思ったが、どこか少し嬉しくも感じていた。

 自分よりも強い人間がいることが。自分とは違う強さを持つ者がいることが。


「礼を言う。貴殿のおかげで、我の視野は広がった」

「あっそ。お役に立ったようで何よりだ」

「この礼は、この拳に乗せてお返ししよう」

「全力でお断りするわ」


 もはや作戦も何もない。ただ真正面からウォーロックはグレイに躍りかかった。


~~~


「《フレイム・シュート》!」

「《ロック・シュート》!」


 メイランの放つ炎の弾丸と、クリムの放つ岩の弾丸がレオンを襲う。

 二人はやはりレオンとは距離を詰めようとはしない。一方ラピスは、水が膝まで浸かるほどの場所に一人立ち、魔力を練っている。

 大技が来る。それを何としてでも阻止、もしくは回避しなければならないレオンだが、メイランとクリムがその二つの選択肢を見事に潰すような立ち回りをしていた。


 そして、ラピスがライフルを構えながら、照準をレオンに向ける。冷静に、慎重に狙い済ませる。


「《激流蒼波》!!」

「──ッ!?」


 一際大きな魔力を感じ、レオンの視線はそちらを向く。その視線の先には、轟音を打ち鳴らしながら向かってくる激流。


「オオオォォォッ!《爆裂紅覇斬》!!」


 それに対抗するように放ったレオンの攻撃は、大気を焼き爆裂しながら激流とぶつかり合う。


 ──これを待っていた。レオンが全神経を攻撃に使うこの瞬間を。


「《アース・タワー》」


 クリムが冷静に、レオンの真下から石柱を発生させてレオンの腕を弾く。

 その攻撃は、特に強く打ち込まれたわけではなかった。ただ、予想もしていなかったタイミングでの攻撃だったため、レオンの手に握られていた剣が弾き飛ばされる。

 直後、レオンはラピスの放った激流に飲み込まれ、そのままの勢いで、イルミナ達が観戦している石垣に激突する。


「はぁ…………はぁ……」


 海の中に座り込み、肩で息をするラピス。だがその視線は一点のみを見つめている。

 レオンは、石垣に背を預けながら立っていた。だが、フッと糸が切れたかのようにその場に倒れ伏した。


~~~


 グレイとウォーロックは二人で肉弾戦を繰り広げていた。

 攻撃魔法のないグレイ。魔法を使ってもすぐに掻き消されるウォーロック。その二人の戦闘を、やや離れたところでソーマが眺めていた。ソーマはさっきは無理矢理空元気を見せていたのだが、グレイには見抜かれており、回復に努めるように言い渡されたのだ。


 そのグレイはウォーロックの攻撃をちょこまか動いて躱し続ける。そして隙を見付けては関節部分を狙って攻撃を仕掛ける。


 いくら鎧が頑丈でも、関節部分まで固めてしまっては身動きすらまともに取れない。そのため、鎧を着た相手には関節を狙えばいい。

 だが、その弱点はウォーロックとて理解している。神経を研ぎ澄ませてグレイの攻撃を躱す。


 そんな時、背後に大きな魔力の衝突を感じ取った。ほぼ無意識に、ウォーロックはそちらに意識を向けた。その隙を、グレイは決して見逃さない。

 突如、ウォーロックの膝裏にわずかな衝撃が走り、思わず膝を突く。

 ウォーロックを襲ったのは、灰色の魔導書。グレイのアーク。


「オオォッ!!」


 膝を突き、体勢が低くなっていたウォーロックの頭部を、グレイが真正面から容赦なく蹴り飛ばす。

 思わず仰け反るウォーロックを再度、今度は回転して踵で側頭部を蹴り抜いた。


 二度の頭部への攻撃に、ウォーロックの思考は掻き乱される。グレイも、流石に鎧そのものの硬さはあるため、足に軽い負傷を受ける。


「ぐぅ……おおお……」

「いってぇ~な、くそっ」


 グレイはウォーロックから距離を取り、戦況を再確認する。ラピス達がレオンを撃破したことを確認すると、ソーマに向かって叫ぶ。


「ソーマ! ラピスを風で上空に避難させろ! ウォーロックの攻撃が届かないところまでな!」

「お、おうっ!」


 グレイの指示にソーマは迅速に動く。海に座り込んでいたラピスを風で包み込み、遥か上空に避難させる。


「……まさか、ここまでとはな」


 ウォーロックに残された唯一の逆転の一手。それも今、完全に潰された。


「ならば、せめて!」


 ウォーロックは全ての力を振り絞って立ち上がり、グレイに向かって突進してくる。グレイは、冷静に全員に指示を出す。


「全員、タイミングを合わせろっ!」


 そう言うとグレイもウォーロックに迫る。

 その光景は、この試合が始まった直後にあった、二人の対決に似ていた。


 大きく腕を振りかぶる二人。そして、ウォーロックの拳が放たれた瞬間。グレイは、足から地面に滑り込み、すれ違いざまにウォーロックの鎧に触れた。


 その時、魔力の砕ける音がした。


「《バーニング・ラッシュ》!」

「《アクア・スプラッシュ》!」

「《断ち風》!」

「《岩礫いわつぶて》!」


 それを合図に、四人が一斉にウォーロックに向けて魔法を放った。その四つの魔法全てウォーロックに着弾し、轟音が鳴り響いた。


~~~


 ──砂浜に寝転がった状態で、グレイは済み渡る青空を見上げていた。

 《ミラージュ・ゼロ》を解き、そのままの姿勢で視線を上に向ける。そこには同じように倒れているウォーロックの姿が確認出来た。鎧は消えており、立ち上がる様子も見られなかった。


 そして、試合終了の笛が鳴る。


「か、勝った…………?」

「うちらが、代表らに……?」

「まじか……」

「う、ぅぅ…………。勝ったぁああああっ!!」


 ラピス、クリム、ソーマ、メイランの声がする。この勝利は全員で勝ち取った勝利だった。


「はぁ……。疲れた……」


 はしゃぐチームメイト達の声を聞きながら、グレイは小さく呟き、そのまま静かに目を閉じて眠りに落ちていった。

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