四色の陣 5
「降参ってありだったんだな……」
「っていうか、降参する人が出るとは思ってなかったよ」
「それがうちのクラスの人間だとは……。情けなくてもはや涙も出てきません」
「ん~。ま、ドンマイとしか言われへんわ」
グレイ以外のチームメンバーが次々と呟く。だがグレイは一人座りながら冷静に何かを考えていた。
「…………」
「どうしたの? グレイ君。そんな難しい顔して」
「いや、何でもない。それよりも、だ」
グレイは手招きをしてメンバーを集める。今はまだイルミナがレオン達を回復している最中で、時間がある。
グレイ達は小さく円陣を作り、小さな声で話し合う。
「やっぱ、昼に話した通りの作戦でいく。全員気合い入れろ。特にソーマ。男子は俺ら二人なんだから根性見せろよ。あと女子三人も全員重要だ。一人でも欠けたら負ける。だから誰かがしくじったら必ずフォローすること。いいな?」
全員が強く頷く。
「俺達は勝つ。勝たなきゃお前らの望むものも手に入らねえぞ。だから強くイメージしろ。俺達は絶対に勝つ」
念を押すように繰り返し、意志を強く持つ。そうこうしていると、レオン達の回復が終わったようで、三試合目、グレイ達の出番となった。
「では、貴方達のチームのリーダーは誰がやりますか?」
「はい。私です」
リーダーはラピスが務めることとなった。イルミナはそれを確認し、三度目の泡を放出する。全員アークを顕現し、その泡を見つめる。
一つ、二つ、そして、三つ目の泡が割れた。
それと同時にレオン達は《四色の陣》を組む。
それに対してグレイ達は──
「《サンド・バスター》!」
「《ハリケーン・ツイスト》!」
クリムが持っている鎚を全力で砂浜に降り下ろし、大量の砂を巻き上げたかと思うと、ソーマが即座にその砂を風で更に巻き上げて巨大な砂嵐を発生させてレオンとカインを飲み込んだ。
「なにっ!?」
「目眩ましか!?」
レオンとカインは目を庇うように腕でガードする。即座にカインは砂嵐を吹き飛ばそうと魔力を練る。
「させっかよ!」
「──ッ?!」
だが、それを大鎌を振りかざしてきたソーマに妨害される。
「言っとくが、砂浜放置のこと。忘れてねえかんな!」
「は、はは……。その顔、めちゃくちゃ怖いよソーマ」
その放置してしまった件については申し訳ない気持ちで一杯なカインだったが、今はそのことは忘れて、ソーマと対峙する。ただでさえカインとソーマの実力差は序列一つ分しかない。油断なんて出来なかった。
砂嵐の中での空中戦が始まった。
~~~
一方レオンは、まだ砂嵐の中にいた。
「くそ。こう視界が悪いと砂嵐を焼き斬ることも出来ないな」
もし、下手に魔法を使えばカインにまで被害が出てしまう可能性がある。同士討ちを避けるため、砂嵐の中から脱出する。ようやく砂嵐から抜け出したかと思うと、即座に水の弾丸と炎の爆弾が襲い掛かってきた。
「ハァッ!」
そんな奇襲攻撃にも、レオンは即座に対応し、全てを打ち落とした。そして、その攻撃が飛んできた方向を見ると、メイランとラピスの姿があった。
「メイラン。まさか君が後衛なのか?」
攻撃が専門分野である火属性。それがリーダーであるラピスを守護するように後衛にいる。何かの作戦か? と考えていると、再び二人の攻撃がレオンを襲う。
「でも不用心だな。リーダーを倒せば終わりなんだぞ?」
「何倒せるつもりでいるのさ! そんなことさせないからね!」
メイランは笑いながら吠える。レオンとメイランは序列的に言えば二つも差がある。だが、それは一対一での場合だ。
「それと。私を忘れてもらっては困ります。この前の雪辱、晴らさせてもらいます」
《セイレーン》序列二位、ラピスがメイランと組んでいる。一対二。しかも一人は同じ属性。もう一人は弱点である水属性。
楽観して掛かっていい二人ではないことは明白だ。それに、二人はずっと距離を保って攻撃を仕掛けてくる。接近戦に持ち込まれれば不利になるからだろう。
「なら、何がなんでも接近するのみだ!」
レオンは裂帛の気合と共に地を強く蹴った。
~~~
「ふむ。これでは二人の様子が確認出来んぞ」
ウォーロックは後衛地点にいたため、砂嵐の被害を受けることはなかったが、砂嵐により仲間の二人を視認出来なくなっていた。
まさか、目眩ましというよりも前衛と後衛の分断が目的か? と考え付く。と、そこまで考えた直後、砂嵐の中からグレイが現れた。グレイはそのまま真っ直ぐウォーロックの方へと走ってくる。
「真っ向から挑むつもりか。無謀だな。《ロック・シュート》!」
ウォーロックは手をかざすと、いくつもの岩の弾丸がグレイ目掛けて飛んでいく。
それをグレイは走りながらも紙一重で躱しながら、尚も接近してくる。それなら、と更に弾丸の数を増やす。
「全て等しく無に還れ。《リバース・ゼロ》」
だが、グレイは必要最低限の動きで攻撃を躱し続け、どうしても躱せない攻撃は《リバース・ゼロ》で消し飛ばした。
「そうか。それが例の。ならば!」
魔法は消されるが、アークを消すことは出来ない。作戦会議の時、カインからわずかながら得たグレイの魔法の特性。
つまり、ウォーロックの鎧を纏った拳なら消し飛ばすことは不可能ということ。
腕を大きく振りかぶるウォーロックに対抗するかのようにグレイもまた強く地を蹴って腕を振りかぶる。
両者の拳は同時に放たれ、拳同士がぶつかる──と思った瞬間。
「全て等しく透き通れ。《ミラージュ・ゼロ》」
グレイがそう詠唱したかと思ったら、グレイの拳がウォーロックの拳とぶつかることなくすり抜けた。かと思うと、そのままグレイはウォーロックの体をまるで幽霊がすり抜けるかのように通り抜けた。
頭の中でイメージしていた衝撃がまるで無かったウォーロックは少し勢い余って前のめりになる。
だが、この魔法もカインから聞いていた。全ての攻撃を透過する魔法。まさかこのような使い方をしてくるとは思っていなかったが、すぐに対応してグレイの方を振り返る。
「なっ──?!」
振り返った先にあったのは、眼前にまで迫った何かだった。
次の瞬間、ウォーロックの頭部に重い衝撃が襲う。と言っても頭には鎧の兜を被っているため大きなダメージがあるというわけでもないが、すぐ近くで何かが砕ける音がした。
それは、ウォーロックの鎧が放っていた魔力が消し飛ばされたことを意味している。
ウォーロックの頭部、ちょうど目元に当たる部分を、グレイは的確に狙って蹴りつけたのだ。そしてそのままグレイは強く蹴り返し、反動の勢いを利用して今度はアルベローナに向かって真っ直ぐに跳んだ。
兜をしているとはいえ、急に顔面を狙われれば誰でも怯む。ウォーロックとて例外ではない。それに不意に頭部に強い衝撃を受けたため、即座に行動に移れない。
しかし、ふと気付けばフラついていた思考が回復している。アルベローナの回復魔法だと気付き、すぐにアルベローナのいる方向を見る。
「狙いはアルベローナか!」
戦術の基本、それは支援を断つこと。先程の試合でウォーロック達も狙った戦術だ。だがまさか速攻で、しかも単騎で敵陣に突っ込みアルベローナを狙ってくるとは予想していなかった。
「させん!」
「いんや。やらせてもらうぜ」
「誰だっ!?」
不意に聞こえた声にウォーロックは大声を張り上げる。すると返事代わりといわんばかりに、強烈な暴風が真上から襲い掛かってきた。
ウォーロックは全身の防御を固めて、その攻撃を凌ぎきる。そうして上空を見上げるとそこには──
「……ソーマ=シュヴァインフルト」
「なんでフルネーム? 別に何でもいいけど」
~~~
「狙いはわたくしのようですわね。いいでしょう返り討ちにしてさしあげます!」
アルベローナは羽衣を広げ真っ向勝負を挑んできた。グレイに魔法を放っても無駄だということは、先程のウォーロックとの戦いの一部始終を見ていて理解していたからだ。
そのため、アルベローナは羽衣のみの攻撃を繰り出す。アルベローナの羽衣はグレイの腕に巻き付いた。
「よし、捕まえた!」
「は? 何を言ってますの? 捕まえたのはわたくしで…………ッ?!」
自分の腕を掴まれたにも関わらず、グレイが勝利を確信したかのような目をしているのを見て、何故そんな目をするのか理解出来なかったが、次の瞬間すぐに理解した。
「魔法が、発動しないですわ!?」
アルベローナは追撃のために至近距離からの攻撃をしようと魔力を練り魔法を発動しようとした。だが、魔法は発動しなかった。否、発動はしたのだ。その証拠にアルベローナから魔力が減っている。
なら何故魔法が発動していないように見えたのか。その原因はグレイにある。グレイはアルベローナのアークを掴んだままだったのだ。つまり、間接的にアルベローナに触れているということだ。
それにより、グレイは常に《リバース・ゼロ》を発動状態にして、アルベローナが放った魔法を、発動とほぼ同時に消し飛ばしたのである。
「は、放しなさいっ!」
「やなこった」
すぐに原因がグレイにあることに気付いたアルベローナはグレイを振り払おうとするが、グレイは羽衣を掴んで離そうとしない。そしてグレイは不敵に笑いながらこう問うた。
「ではここでクイズです。俺のアーク、《空虚なる魔導書》はどこにあるでしょう?」
「はぁっ!?」
唐突過ぎるクイズにアルベローナは意味がわからないとグレイを睨む。そのタイミングを見計らってグレイは砂を蹴り上げた。
「きゃっ?!」
咄嗟に目を庇うも、反射的に目を瞑ってしまう。暗くなった視界の中──
「オオラァァアアアアアア!!」
頭上から何者かの大きな叫び声が聞こえた。
「《マンムー・ブレイク》!!」
大地を揺らす凄まじい衝撃が砂浜全体に走り、ようやく砂嵐も止み、全員がその衝撃がした方を見た。そこには──
「残念時間切れ。正解は──お前の遥か頭上でした、っと」
「何言うてんねん。ってかあれ、めっちゃ怖かってんで!?」
「まあまあうまくいったろ。お前すげえよ。よくやった」
不敵に笑うグレイと、そのグレイに突っかかるクリムと、倒れ伏したアルベローナだった。
~~~
皆、アルベローナがたった一撃で戦闘不能となったことに驚きを隠せないようだった。だが、それは無理もないことだった。
何せあの時、アルベローナは魔力による防御がまるで出来なかった。即ち、ほぼ裸の状態で、視界も遮られていて、しかも弱点である土属性の攻撃であり、その上、遥か上空から落下してきたクリムの渾身の一撃だったのだ。いくら序列一位と言えど耐えきれるはずがなかった。
そして、ウォーロックが声を震わせながら言った。
「ク、クリム……だと。一体どういうことだ……?!」
ウォーロックはクリムの存在を完全に見落としていた。と、いうのもクリムは砂嵐の向こうにいるものだと思い込んでいたからだ。
その疑問にはソーマが答えた。
「空だよ空。グレイの空飛ぶ本に乗って奇襲を仕掛けた。おれの風魔法の補助も手伝ってな。あの砂嵐は、クリムの姿をお前ら全員の意識から消すことにあったんだよ」
「……くっ。まさかそんな狙いがあったとはな! 説明感謝する。《アース・タワー》!」
律儀に礼を言ってから、ソーマに向かって攻撃を仕掛ける。だが、ソーマはまるで避けようとしない。そしてそのまま攻撃が直撃すると、つむじ風を残して消えた。
「……分身体か。奴の目的は、我の足止め。くっ、不覚を取った」
悔しげに兜の下の表情を歪ませる。支援を潰された。それは守りの要であるウォーロックにとっての最大最悪の失態だ。本来なら自分の身を呈してでも守らなければならなかったのだ。
「この詫びは、お前達を倒して取る!」
「来るぞクリム。用意よろしく」
「わかっとるわ! 《ロック・ウォール》!」
クリムは鎚を地面に叩きつけ、自分達の前方に三枚の岩壁を出現させる。
ウォーロックはその岩壁を殴って壊し、更に二枚目も壊す。
三枚目、と思ったところ、その三枚目の壁の上からグレイが飛び出してきた。
ウォーロックを無視するかのように頭上を飛び越えて、来た道を引き返すように走り去る。
逃がすわけにはいかない。グレイほど何をするかわからない相手を野放しには出来ない。ウォーロックはすぐに反転してグレイを追い掛ける。
「《特注顕現 蜃気楼の聖衣》」
すると前を走るグレイが突然、おとぎ話で出てきそうな典型的な魔法使いが着るような聖衣と帽子を身に纏った。
「ソーマ! 交替!」
「うへぇ……。来やがったか……」
そう言うとソーマはカインを牽制しつつ、ウォーロックへと迫る。
「どこへ行く気だソーマ?!」
「ちょいとラスボスのとこまでな」
風を蹴って、カインから離れるソーマの背を見つめ、カインは魔力を練る。敵を前にして背を向けるのは愚の骨頂だ。
カインは容赦なくソーマの背に向かって風の刃を放つ。
「させねえよ!」
だがそれは突然現れた灰色の魔術師に阻まれた。
「……グレイ君」
「よう、カイン。いつぞやの借り、ここで返すぜ」
灰色の魔導書に片足を乗せながら飛ぶグレイはカインに向かってそんなことを口にした。
~~~
「選手交替だ、ウォーロック。今度は本物が相手だぜ?」
「貴様にも、借りがあったな。今ここで返させてもらうぞ」
「いや、返さなくていいんで。マジで」
ソーマは本気で首を横に振り、焦ったような顔をする。
「《アース・タワー》!!」
「うおっ!? 危ねぇっ!?」
何本も地面から伸びてくる柱をヒラヒラと躱しながら空へと逃げる。それをウォーロックは柱を足場として追い掛ける。
そんなカインと、ウォーロックの様子を横目に見ながらレオンはメイランとラピスを追い詰めていた。
「ふぅぅ……。代表、強くなりすぎ……」
「大会の時より、遥かに強くなっていますね……」
「どうも。でもそれは二人もだろ。中々接近させてくれないじゃないか」
今メイラン達は海を背にして戦っている。ラピスは水属性で、海に近ければ近いほどより強い魔法を放つことができる。地形をうまく利用した戦術だ。だがそれだけで勝てるほど甘くはなかった。
「それに、どうもこちらの戦況が芳しくない。ラピス、君を倒して一発逆転させてもらうよ! 《ブレイズ・ブレイド》!!」
「メイランさん! 全力防御! 《ウォーター・ウォール》!!」
「了解ッ!! 《ファイア・ウォール》!!」
メイランとラピスは交互に火と水の壁を出現させる。だがレオンの攻撃は、それら全てを貫いて二人に直撃する。
「きゃああっ!?」
ラピスの悲鳴が響き、衝撃で海へと落ちる。だが、ダメージはそこまで大きくない。
すぐに状況を確認すると、砂浜に膝を突いたメイランが見えた。レオンの攻撃を体で受け止めたのだ。
「はぁ……はぁ……」
「メイランさんっ! 待っててください。今すぐ回復を──」
「させないよ!」
ラピスの回復魔法とほぼ同時にレオンがメイランに向かって突進してくる。このままでは回復が間に合わずメイランは倒されてしまう──はずだった。
「《サンド・ホール》!!」
「なにっ!?」
だが、ここまで全部作戦通りだった。
突如砂浜に空いた穴に落下するレオンは、その穴の中から飛び出してきた少女を見た。
「《ロック・ナックル》!!」
全力で振るわれた鎚を食らい、レオンは宙に打ち上げられる。攻撃をもろに受けたレオンだったが、何とか意識は保ったまま、後方へ退避する。
「しくった! 仕留め損なった!」
「大丈夫です。まだチャンスはあります。助かりましたクリムさん」
「あ、ありがと~」
穴の中から現れてレオンの不意を突いたのは、先程アルベローナを倒したクリムだった。
クリムは《ロック・ウォール》発動後、すぐに地中を潜って移動し、レオンの隙をうかがっていたのである。
そしてグレイはあえてウォーロックに無防備な背中を見せることによってクリムのことを意識の外に逸らさせたのだ。
全部、グレイの思惑通りに動いていたが、出来ればレオンはここで倒しておきたかった。唯一作戦通りにいかなかった部分だが、ラピスが試合開始前にグレイが言っていた言葉を思い出す。
「ここにいる全員でフォローします。何としてもレオンさんを倒しますよ!」
「了解!」
「やったるで!」
一対三。流石に厳しくなってきたな、とレオンは静かに冷や汗をかいた。
~~~
一方空中では、グレイとカインの戦闘が行われていた。自由自在に飛び回れるカインとは裏腹に、魔導書を足場代わりとして跳び回るグレイ。戦況としてはグレイが少し押されているように見えた。
「ちょこまかと飛び回るんじゃねえっての」
「それアイデンティティーの否定だぞ。むしろグレイ君の方こそ反則だろ、そんなの」
空中戦において他の追随を許さない風属性だが、このグレイという存在は異質を通り越して異常だ。グレイの聖衣は体を身軽にする効果もあり、もはや飛んでいるのとほぼ同じくらいに宙で動き回っている。
だが空中で体を動かす、というのは案外難しいことなのだ。にも関わらず、グレイは器用に動きまわる。何か特殊な訓練を受けたようにすら感じられた。
「だけど、負けるわけにはいかないんだ! 《礫風》!」
カインは拳ほどの大きさをした風の礫を大量に放つが、グレイはそれらを全て殴って消し飛ばす。
そしてまた魔導書を強く蹴ってカインへと向かって跳んだ。
「何度やっても同じだよ! 《タービュランス──」
カインが槍を振り回し、魔法を放とうとしている最中、グレイは唐突に自分の帽子を掴んでカインの眼前へと放り投げた。
カインは咄嗟に、それを攻撃だと捉えた。攻撃対象を帽子に切り替え、風の刃で切り裂いた。すると帽子は呆気なく消え去り、どこか拍子抜けした。
「油断すんなよ」
「ッ!?」
気付けばグレイがカインの背後に忍び寄っていた。先程の帽子は視線誘導のための罠。カインの意識が帽子に集中している間にグレイはカインの死角に潜り込んだのだ。
背後からヘッドロックされたカインはグレイを振りほどこうとするが、あの、魔法が消える時に聞こえる破砕音がして、すぐに自分の体に纏わせていた魔力が霧散したことを理解した。
それはすなわち、空を飛んでいるのに必要な魔力も掻き消されたことを意味する。
「くそ! 離せ! このままだと二人とも落ちるぞ!」
落下速度が速まっていくに連れて焦りを見せ始めるカイン。そんな彼からは背後にいるグレイの表情を見ることは出来なかったが、その時のグレイは不気味に笑っていた。
「メイラアアアアアアアン!!」
そしてグレイは腹の底から仲間の名を叫ぶ。
それに気付いたメイラン。そして他の者達も落下する二人を見た。それと同時にメイランは即座に動いた。
「《フレイム・バースト》!!」
メイランはグレイ達に向かって、業火球を放つ。レオンは一歩遅れてグレイとメイランの意図を理解した。
「くそっ! 《ジェット──」
「させません。《アクア・スパイラル》!」
レオンがメイランの妨害をしようとするのをラピスが阻止する。そして、メイランの放った業火球はグレイとカインに着弾し、激しい爆発を巻き起こす。
一瞬、その場が静寂に包まれ、爆煙の中から、二つの影が落ちてくる。
その一つはそのまま砂浜に落下し、完全に沈黙した。そしてもう一つは、くるくる回転しながら着地し、いつの間に持っていたのか、灰色の帽子を頭に乗せながら二本指を立ててみせた。
「ナイスだメイラン。残りはあと二人だ」