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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
四章 プレシャス・バケーション
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四色の陣 1

第32話

 何度かのじゃんけんを繰り返し、ようやく各チームのメンバーが決まった。


「よし。それじゃ頑張ろうな、二人とも」

「ふん。言われずともやるからには勝ちにいくさ」

「くっそ……。何でむさ苦しい男ばっかのチームに……」


 第一チームはレオン、クロード、アシュラの三人。


「あんまし足引っ張んないでねぇ~」

「それはこっちの台詞だよ。裏切りとかやめてよね?」

「まあまあ、二人とも落ち着いて……」


 第二チームはカイン、エコー、メイランの三人。


「絶対に勝ちますわよ! いいですわね!」

「あいよ。勝負事にゃ手を抜かないよ」

「…………はぁ」


 第三チームはアルベローナ、ラピス、カナリアの三人。


「あんの馬鹿レオンがぁ……。ギッタンギッタンにしてやるわ……!」

「何であの子あんなにおっそろしい表情してんの?」

「たぶん、じゃんけんで一番最初に勝ったくせにレオンが自分を選ばなかったからッスよ」


 そして最後、第四チームはグレイ、アスカ、ゴーギャンの三人だ。


 全体的に上手くバラけているが、グレイとアルベローナのチームには同じ属性が二人いる。しかし、こればっかりは人数的にどうしようもないことなので、妥協することにした。


「それじゃ、ルール確認しとくぞ。まず、魔法は禁止な。これはあくまで遊びなんだから怪我して訓練に支障をきたすわけにはいかないからな。当然身体強化もなしだ。勝敗は五点先取した方の勝利とする。他のルールは基本のビーチバレーと同じってことにしよう。これ以外で何か質問ある奴いるか?」


 そのグレイの問いかけに、アルベローナが手を上げた。


「審査員はどうしますの?」

「審査……? 審判のことか? なら、そうだな。そこの見学してる《ハーピィ》の二人に任せよう。頼むわ」

「ふぇえっ!?」


 完全に不意打ちだったせいか、コノハは飛び上がるほど驚く。 


「別に気負う必要ねえって。さっきも言ったけどただの遊びなんだから。簡単に点数数えておくことと、ラインだけ見ててくれりゃいいから」

「そ、それくらいなら。シャルちゃんも手伝ってね?」

「うむ。心得た」


 これでアルベローナの要求した審判は用意した。それでは早速、と思ったのだが、再度アルベローナが手をあげる。


「ちなみに、どんな基準で点数が入るんですの?」

「…………はっ? いや、普通にやってりゃ点数入るだろ」

「ですが、五点先取という特殊なルールではないですの」

「…………いや待て。何の話だ?」

「何って。ビーチバレエをするのでしょう?」

「そうだな。うん間違っちゃいない……が、何かが決定的に間違っている気がする」


 言い表せない奇妙な感覚。話がまるで噛み合っていないむずがゆい感覚。それを解消してくれたのは、アルベローナをよく知るラピスだった。


「…………アル。ちなみにビーチバレーとはどのようなものかちゃんと理解していますか?」

「当然ですわ。ビーチでバレエをするのでしょう? わたくし、踊りには自信がありますの」


 その発言を聞いた全員が沈黙した。


「あ、あれ? どうなさいましたの、皆さん。そんな珍妙な表情をなさって」


 むしろ珍妙なのはあんたの頭だ、と誰もが言いたかっただろうが、それは何とか堪えた。

 ようやく合点がいったグレイは、一応確認のために尋ねた。


「つまり、スポーツのバレーと、ダンスのバレエとを勘違いしてた、ってわけか?」

「どうやらそのようです。これで私達のチームの負けはほぼ確定したようなものです……」

「な、何故ですの!? やる前から諦めていてはいけませんわよラピス!」


 この場にいた全員がラピスに同情したが、ただ一人、訳の分かっていないアルベローナだけはずっとラピスにわめきたてていた。


~~~


 一応、念のために全員に確認を取ったが、ビーチバレーのルールをまるで理解していなかったのはアルベローナだけだった。

 なので、初心者どころの騒ぎではないアルベローナのチームは抜いて、他の三チームの代表がじゃんけんをして、一回戦に出るチームを決めた。これでビーチバレーの一通りの流れをアルベローナに見せることにしたのである。

 最初は棄権すればいいのでは、という意見もあったが、それは当の本人であるアルベローナが頑として拒否した。曰く、《セイレーン》の名折れなのだそうだ。

 色々とツッコミたいところはあったが、どうにか我慢した。

 そしてじゃんけんの結果、レオンチームとカインチームが一回戦。グレイチームとアルベローナチームが二回戦を戦い、勝ったチーム同士が決勝を行うこととなった。


「そ、それでは。一回戦を始めますっ」


 コノハの拙い宣言で試合は開始した。


「食らえ俺の必殺サーブ!!」


 サーブはアシュラ。如何にもな掛け声と共に放たれた強烈なサーブをカインが何とか受ける。するとボールはうまくエコーの方へと跳んでいく。


「へいへいト~ス」


 メイランはそれに合わせてスパイクの準備をする。だがエコーはメイランの動きを見て、口の端を吊り上げる。


「そぉ~れ、っと」

「えっ? ちょっ、高っ!?」


 エコーのトスと共にジャンプするメイランだったが、そのトスが予想以上に高く、メイランの手は空を切る。

 まずい、と思うメイランだったが、カインがすぐにフォローに入り、相手コートへと打ち込む。


 カインのスパイクはレオンが受け、クロードがトスを待つことなく、そのままダイレクトに打ち返す。

 クロードが打ったスパイクは真っ直ぐエコーへと向かう。これならエコーは動かずともボールを拾えるはずだ。と、メイランとカインは次の動きを予想して身構える──のだが。


「ひゃあっ。こっわ~い」


 エコーはわざとらしく怯えたフリをしながらピョンと飛んであろうことかボールを避けた。当然ボールはそのまま地面に落ち、点数がレオンチームに入る。


「ちょっと!? なにやってるのさ?!」

「えぇ~。だって怖かったんだも~ん」

「別に普通のビーチボールでしょ!?」

「たかがビーチボール。されどビーチボールって言うじゃ~ん? それがエコーの可愛い顔に激突して怪我しちゃったらどうすんの? 人類の損失だよ?」

「どこがっ!?」

「まあまあ、まだ一点だからさ。切り替えていこう。な?」


 どうにも、メイランとエコーは相性が悪そうだ。属性的にも相容れない間柄とはいえ、それ以前に両者の性格に問題があるように思えた。


 試合は終始そんな感じで、エコーとメイランが絶望的なまでに噛み合わず、カインのフォローも虚しく、五対三でレオンチームが勝利した。


「悔しいぃ……」

「あぁ~あ。負けちったぁ~」

「は、はは……。ドンマイドンマイ」


 メイランは本気で悔しがっていたが、エコーはどこ吹く風と特に気にしていなさそうだ。カインはそんな両者を見ながら苦笑していた。


「次は見物だぜ。何せあのアルベローナとカナリアがいるんだからよ」

「何の話だ?」

「あぁ? 何すっとぼけてんだ眼鏡。男ならわからねえとは言わせねえ」

「いや、俺もわからないんだが……?」

「はぁあ!? マジかよ!? これこそビーチバレーの醍醐味だろうが!! 俺はこれを見るためにわざわざ参加したと言っていい!」


 アシュラはアルベローナとカナリアを交互に指しながら力説する。


「いいか。ビーチバレーっつーのは飛んで跳ねて揺れるんだよ。そして、あの二人はこのメンバーの中で一番胸がデカ──ぶふぉっ!?」

「破廉恥ですわっ!!」


 アシュラの力説は、途中で顔面に飛来したビーチボールに遮られ、そのまま仰向けに倒れる。その様子を見ていたグレイは頭を抱えた。


~~~


「二回戦、始めるでござるよ」


 シャルルの海に来ても外さないマフラー越しから聞こえてくるくぐもった声が試合開始を告げる。

 それを受け、即座にラピスがサーブを打つが、グレイは難なくそのサーブを拾い上げる。


「ゴーギャン! トス!」

「ウス! 了解ッス、アスカ!」


 鬼気迫る、という表現がしっくりくるアスカの怒声に、ゴーギャンは素早く受け答えて、トスを上げる。

 そして間髪いれずにアスカがスパイクを放つ。ボールは勢い良く地面に向かって落ちていく。だが、寸でのところでカナリアが滑り込んでボールを打ち上げる。


「アル。いけますか?」

「当然ですわ!」


 ラピスはアルベローナに確認を取り、アルベローナは力強く答えた。

 それを信じ、ラピスがアルベローナの方へとボールを丁寧にトスする。


「《セイレーン》の力、特と思い知るといいですわ!」


 そう叫びながら跳ぶアルベローナは、落ちてきたボールを強く叩きつける。そしてボールは勢い良く飛んで──そしてネットに突き刺さった。


 シュルシュルと音を立てながら回転するボールだったが、やがてその勢いもなくなり、音もなく砂浜の上に落ちる。この間、誰も、一言も発することが出来なかった。


 何ともいたたまれない沈黙。誰もが何を言っていいのかわからずにいる中、最初に声を発したのは元凶であるアルベローナ本人だった。


「ドンマイですわっ!」


 親指を立ててそう言うアルベローナを見た全員の脳裏に、「それお前が使っていい台詞じゃねえよ!」と言うツッコミが浮かんだが、誰も声には出さなかった。だがアルベローナ本人はまるで恥ずかしがっている素振りもなく、次こそ決めますわ等と呟いている。

 そのスーパーポジティブにはもはや感服しそうになる。


 しかし、ポジティブだけではどうにもならなかったのか、アルベローナがさんざん足を引っ張ったせいで五対一の大差でグレイチームが勝利した。


「納得いきませんわ……」

「まあ、順当な結果だと思いますが」

「あちゃあ……。負けちまったかぁ~」


 アルベローナは敗北が相当悔しいらしく、恨みがましい目でグレイ達を睨んでいたが、ラピスやカナリアは随分あっさりとしていた。


「次も全部アタシにボール回しなさい。あの馬鹿に嫌ってほど後悔させてあげるから」

「まあまあ、許してやれよ。あいつはちゃんと属性混合チームを作ろうとしただけなんだから」

「そうッスよ」


 一方、勝利したグレイチームはアスカのワンマンプレーが目立つものの、実力は中々のものだった。


~~~


 そしてついに決勝戦。レオンチームとグレイチームがコートに立つ。


「おいおい。何だこの決勝戦。男ばっかじゃねえかよ。やる気出ねえ~」

「待ちなさい! アタシがいるでしょうが!」

「あっ……。いや、そうだったな。わりぃ……」

「何胸見ながら謝ってんのよ!! レオンもろとも燃やすわよ!?」

「俺もかっ!?」

「野蛮な女だ……」

「聞こえてるわよ眼鏡!! あぁもうっ! めんどくさい! 三人まとめて消し炭にしてやるわっ!」

「……お前らも毎日大変だな、ゴーギャン」

「もう、慣れたッスよ……」


 両チームは火花を散らしながら、というよりかはアスカ一人燃え盛りながら試合開始の宣言が下された。


 最初のサーブはクロードが打った。クロードは危なげなく確実に相手コートまでボールを飛ばす。それをパターン化した動きでグレイが受け、ゴーギャンがトスし、アスカがスパイクを打つ。


 だが、先程の試合からずっと同じパターンだったためか、レオンに動きを先読みされており、アスカのスパイクはブロックされる。

 咄嗟にゴーギャンが飛び込むも、ギリギリで間に合わず、レオンチームが先制した。


「アスカ。頭に血がのぼってるよ。リラックスしないと」

「うっさいわね。敵に助言とかしてんじゃないわよ」


 レオンの優しい忠告を掃いて捨てるアスカ。その様子をグレイは静かに観察していた。


 仕切り直して再度クロードのサーブから始まる。


「ゴーギャン! グレイ! もう一回アタシにボール回しなさい! 今度こそ決めるわ!」


 アスカの怒声が飛び、グレイとゴーギャンは言われた通り、再びアスカへボールを回す。そしてアスカは先程よりも高くジャンプし、より強いスパイクを放った。


 それを受け止めるクロードだが、ボールの勢いが強すぎてあらぬ方向へとボールが飛んでいき、それにはアシュラもレオンも追い付けなかった。


「これで一対一よ!」

「ごり押しかよ。こえぇ……」

「でもアスカらしいと言えばらしいかな」

「あんなのが『らしい』で済まされるのか……?」


 アスカの執念にも似た気迫に、レオンチーム三人は苦笑を浮かべることしか出来ない。だが、だからといって怯むようなことはなく、一進一退の攻防が続く。


 アスカが点を入れれば、すかさずアシュラやクロードが点を取り返してくる。かと思えばまたアスカが食らいつくように点を取る。


 しかし、二回戦、決勝と連続で動き続けたアスカの体力が先に尽き、五対四という結果でレオンチームが勝利するという形でビーチバレーは終了した。


「くっは~。惜しかったッスねぇ~」

「一回戦で、体力ある状態だったら、アタシが、勝ってたんだから!」

「わかったわかった。だから落ち着け」

「これ優勝チームには何かねえのかよ?」

「別にそんなものいらん」

「そうだな。今回そういうのは無しでいいじゃないか。楽しかったんだしさ」


 各クラスの皆がそれぞれ楽しんだり悔しがっている様子を遠くで眺めていたイルミナは、ちょうど時間も来たことなので、笛を鳴らす。


「はい。皆さん自由時間はおしまいです。すぐに着替えて食堂の方へ向かってください」


 それを聞いた生徒の中からいくつかブーイングが上がったが、本気で抗議する気はないようで大人しく全員更衣室へと戻っていった。


 そんな時、グレイが薄く笑っていたことに気付いた人物は、一人もいなかった。


~~~


「ふぅ。海の方は安全みたいですね。あれ? 皆は……あっ、お昼ですね。わたしも早く戻らないと」


 近海の調査から戻ったキャサリンは砂浜に誰もいなくなっていることに一瞬驚くが、時計を見ると自由時間が終了していることに気が付いた。


 自分も早く着替えて食堂へ向かおうと砂浜を歩いていると、砂浜に一つ大きめな砂山があったので、何の気なしにそれを見つめていると──


「……ん? って、ソ、ソーマ君っ!? どうしたのですかっ!?」

「すんま、せん……。助けて、くだ、さ、い…………」

「し、しっかりしてくださぁぁあい!?」


 砂山の下には、干からびて今にもくたばりそうなソーマの顔だけが露出していた。

 ソーマは砂山に埋められたまま、誰にも気付かれることなく放置されてしまっていたのだ。

 ソーマは薄れゆく意識の中で、薄情な友人達に向かって恨み言を呟くのだった。

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