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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
一章 トライデント・プレミアム
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問題児vs襲撃者 2

「《閻魔》ですって!? 今回の事件にはあの犯罪者集団が絡んでいるということですか?!」

「いえ。まだ可能性がある、というだけで確たる証拠は見つかっていません。が、前に違う町で似たような事件があり、そこでは犯人は《閻魔》だったという情報を得ているのです」


 ここは魔術師団本部。キャサリンは応接室にて、今回の魔獣侵入事件についての話を聞かされていた。


 話に出てきたのは魔法犯罪組織の一つ《閻魔》だった。

 《閻魔》とは属性主義者が行き着くところまで行き着いてしまった者達の集まりであり、依頼があれば魔獣を町に放つこともあれば、暗殺すら請け負うこともある最悪の組織だ。


 それが今回ヘルベアーを町に放ったとなれば、おそらく何か特別な狙いがあったに違いない。しかし、それが何なのかがわからない。

 故にキャサリンはもう一度魔術師団に呼ばれていたのであった。


「何か思い当たることはないですか? 何でもいいんです」

「……と、言われましてもですね」


 キャサリンは困惑するしか出来なかった。

 魔術師団から言われたのは、この事件はあの場にいた魔術師が狙われた可能性が高いとのことであった。

 そして魔術師団は土属性のヘルベアーを苦手とする水属性のキャサリンが狙われたのではないかと見ているらしい。


 キャサリンも誰にも恨まれてはいない、という自信はない。そもそもそんな自信を持っている人間は少ないだろう。

 しかし、いくら考えても答えは出てこない。


 そんな折、応接室の扉が勢いよく開かれた。


「何事だ!? 今は──」

「魔獣です! しかもAランク相当のアルゴ・リザードが現れました!」

「な、何だと?! 一体どの地区だ!?」


 アルゴ・リザードという名を聞き、キャサリンと話をしていたこの本部の隊長が騒ぎ出す。

 同時にキャサリンも息を飲む。Aランクとは上級魔術師が五人以上で挑まなければ倒せないと言われているほど危険な魔獣である。

 それが町に現れたのだとすれば今ごろ大パニックになっているだろう。

 しかし、次に発せられた言葉を聞き、キャサリンは頭が真っ白になった。


「町ではありませんっ! 現れた場所はミスリル魔法学院です! 講師総出で対処しているそうですが、生徒達の避難が済んでおらず、苦戦しているとのことです!」


 一気に騒がしくなった応接室に一人、頭の中が真っ白になっていたキャサリンは最悪の想像をした。


「まさか、狙われているのは──」


 その想像は奇しくも正しいものであった。


~~~


「おおおおっ!!」

「死ね死ね死ね死ねぇぇ!!」


 旧校舎ではグレイと若い黒服の男が戦闘を行っていた。

 黒服はナイフで的確に首や心臓を狙い、グレイはそれを回避しつつ蹴りで反撃を加える。黒服も負けじと腕でガードし、距離を取る。


「いってえなぁ、この野郎ッ!」

「ナイフ振り回す相手に遠慮する必要はないからな」


 グレイは尚も軽口を飛ばしながら椅子をぶん投げる。黒服は横に回避し、懐から短いナイフを取り出しグレイに向けて放つ。

 姿勢を低くしてナイフをやり過ごし、両手で椅子を掴んで再び投げ飛ばし、それに続くようにグレイも走る。


 黒服は後ろに下がって椅子を躱し、迫るグレイにナイフを突き出す。グレイはナイフを躱し、その突き出した腕を掴み取って背負い投げし、思いきり机に叩き付けた。


「がはっ──!?」

「これで、終わり──」

「止まれっ!!」


 グレイが倒れた黒服にとどめを刺そうとした瞬間、もう一人の体の大きな黒服の怒号が飛び、ピタリと拳を止めた。


 見るともう一人の黒服がミュウを人質に取っていた。グレイは舌打ちし、黒服から離れる。


「ごほっごほっ! や、やりやがったな。クソが……ッ!」

「落ち着け、フー。まずは息を整えろ」

「うるせえ! 余計な真似しやがって! オレっちがこんな奴にとどめを刺されるとでも思ったのかヤンバーク!」


 若い黒服はフーと呼ばれ、ミュウを人質に取った方はヤンバークと呼ばれていた。

 勿論その名に覚えのないグレイはヤンバークを睨み付ける。


「大人げねえなヤンバークとやら。まさか女の子を人質にするなんてな」

「それを言うならお前は愚かだな。妹を一人放っておくとはな。殺されていても可笑しくはないのだぞ?」


 グレイはもう一度舌打ちをする。ミュウの首元にはナイフが突き付けられているせいで迂闊に動くわけにもいかない。

 ヤンバークまでは距離があり、机も散乱しているせいで、ヤンバークに飛び掛かった瞬間にミュウの首は切られてしまうだろう。


 グレイが手を出せずにいるとフーがようやく立ち上がる。


「殺す殺す殺す! ぶっ殺す!!」


 完全に頭に血がのぼっているのか、目はギラギラと血走り、椅子や机を蹴り飛ばす。


「さぁ、フー。さっさとそいつの首を斬れ」

「うるっせえ! そんな一瞬で終わらせてたまるかよ! こいつには苦しんで苦しんで苦しみ抜いてから死んでもらう!!」


 フーは全身から魔力を放出しながらグレイに近付いてくる。

 グレイは最後の手段としてミュウを自身の魔力中枢(エレメンタル・コア)に戻そうとした瞬間、今まで黙っていたミュウがはじめて声を出した。


「マスター。この人達は誰ですか?」

「み、ミュウ……。今そんなことを言ってる場合じゃ……」

「マスター。この人達は誰ですか?」


 まるで状況を理解していないようなミュウにグレイは呆れ声を出したが、それを遮るように同じ台詞を繰り返す。


 そこでグレイは気付いた。ミュウは単純にこの二人が誰なのかを聞いているわけではないことを。ミュウが本当に聞きたいことを。


「……敵だ。この二人は、俺の敵だ!」

「了解しました。マスターの敵はわたしの敵です」


 ミュウはあくまで無表情だった。しかし内に秘めたる力が溢れだしかのような強い光をその二つの眠たげな瞳に宿す。


 ミュウはヤンバークのナイフを持っている方の腕を掴み、そのまま握り潰した。


「ぐあああっ!?」

「なにっ!?」


 ヤンバークは人質のミュウから反撃されるとは微塵も思っていなかったのか、ナイフを動かす暇もなく片腕を潰され、ナイフは床に落ちる。

 ミュウはその腕を掴んだまま、ヤンバークの巨体を小さな体で黒板に叩き付けた。そして更に右の掌をヤンバークの腹部に抉るように打ち込み、ヤンバークは苦悶の声を吐き出す。

 そのまま床に倒れたヤンバークの背に、ミュウは追撃の踵を降り下ろす。


「ごふっ!!」

「ヤンバーク!?」


 口から血を吐き、そのまま沈黙したヤンバーク。それに気を取られたフーの後頭部にグレイは渾身の回し蹴りを食らわせた。


 フーは窓に頭から突き刺さり、そしてそのまま気を失った。


 グレイはふぅ、と一息ついてからミュウを見る。


「ミュウ。お前、めっちゃ強いのな……」


 グレイは意外過ぎるミュウの強さにただただ驚いていた。

 いつもの雰囲気からは想像も出来ないくらいの強さを見せたミュウは、自分がすごいことをしたという自覚は一切なかった。


「そう、でしょうか? でもわたしも一応、アークなので」


 ふとすると忘れてしまいそうになるその事実を再確認した瞬間だった。


~~~


「うわあああっ!?」

「くっ!? 皆さん下がってください! 《バブル・ポンプ》!」

「私も行きます! 《アクア・スプラッシュ》! 」


 《イフリート》校舎前、アルゴ・リザードと交戦中の講師は十人。

 内六人は水の属性を持つ講師だ。その中には《セイレーン》代表講師、イルミナの姿もあった。


 他のクラスの代表講師であるガンド、ファラン、ホークもやや遅れて駆けつけて、皆必死に魔獣の迎撃、生徒の避難誘導や消火活動を行っていた。


 容赦無く全てを焼き尽くそうとするアルゴ・リザードの炎に苦戦する講師陣は水属性の講師を前衛に、土属性の講師を後衛とし、他の者は生徒の避難誘導に努めた。


 その魔獣と講師陣の戦闘から遠く離れた場所に身を隠していた男が通信用の魔道具でどこかと通信していた。


「ち、チームアルファからの連絡がありません! もしかしたらやられてしまったのかも……」


 その発言を聞き、通信の相手が怒鳴り散らす。


『馬鹿言うな!! フーのガキはともかく、ヤンバーク程の男がそう簡単にやられるか!』

「は、はい! すみません!」

「で、でも現に連絡がないんです。何かあったのは確かです」


 通信の相手に怯えながらも事実を報告するのはもう一人の男。そのそばにはもう一人男が立っている。


『……わかった。今旧校舎に向かっているから、俺達が確認してくる。とにかく、お前達は待機だ。もしもの時は──わかっているな?』

「は、はい……」


 それを最後に通信は終わり、三人はお互いの顔を確認しあい、手に持った一つの赤い丸薬を見る。


 最後の手段。出来ればこれを使わずに事が済むことを三人は願った。

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