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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
一章 トライデント・プレミアム
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問題児vs襲撃者 1

第4話

 ミスリル魔法学院校門前に一台の大きな車が到着した。

 その車の荷台から大きな荷物が校内に運び込まれ、それを運び終えた者達はそれぞれ目的地に向かっていった。


 それと同時刻、アシュラは一人食堂でふて腐れていた。


「くっそ……。昨日の活躍があったから一人くらい捕まえられると思ったんだけどなぁ~」


 ミスリル魔法学院では一年生は基本毎日講義があるが、上級生ともなると講義を取捨選択でき、暇な時間を食堂や遊戯場で過ごす者が多くいた。

 基本的に歳上好きのアシュラにとって今は最高のタイミングで、昨日の決闘での活躍もあり、誰か一人くらい仲良くできる相手が見付かるかもと期待してあちこち出回っていたのだが、結果は惨敗。

 やはり日頃の行いが悪いせいか、声をかけた十数人全員に断られた。


「帰るか、それとも町に繰り出すか。そこが問題だ」


 今帰ればあの二人に馬鹿にされることは確実だが、だからといって町に出てまで結果が出なかった場合、精神が自爆してしまう可能性もあった。


 傷が浅いうちに帰るか、恐れず突き進むか、悩みに悩んだ結果。


「……帰るか」


 昔似たようなことがあって、その時も見事に玉砕したトラウマを思い出してしまったので、馬鹿にされるのを覚悟で旧校舎へ戻ることにした。


 アシュラは立ち上がり食器を片付けた後、食堂を出た。そこで、見慣れぬ服装をした集団が中央塔に入っていったのを遠目で見た。

 何なのか少し気にはなったが、そこまで興味も無かったのでアシュラはせめてあと一人だけアタックしようかなどと無謀なことを考えていた。


 ちょうどその時、どこかで爆発が起きた。


「なんだ? どっかの馬鹿が決闘でもしてんのか?」


 つい昨日馬鹿みたいな理由で決闘したアシュラが自分のことを棚に上げて推測をたてる。

 しかし、どうやら違うようだ。あちこちから悲鳴が聞こえ始め、爆発も多発していた。


 ただごとではない状況だと理解したアシュラはまず爆発音がした方角に向かって走った。


「な、なんじゃこりゃ……?!」


 爆発現場は《イフリート》の校舎。燃え盛る火炎とドス黒い煙が立ち上ぼり、生徒達が逃げ惑っていた。


「に、逃げろぉぉお! 魔獣だぁぁ!」

「魔獣だと……? どういうことだっ!?」

「皆さん! こっちです! 早く走って!」


 ミスリル魔法学院には町と同じように魔獣避けの結界が張られている。

 高ランクの魔獣は侵入するどころか学校に接近することすら不可能であるはずのに、何故か今は結界の中にまで入り込まれており、暴れ回っている魔獣を見て更に驚愕する。


「アルゴ・リザード!? Aランクの魔獣が何でこんな所まで入り込んでやがる!?」


 口から火を吐き、長い尻尾で建物を破壊するアルゴ・リザードは講師数人と交戦中だった。

 しかし、生徒の避難もまともに済んでいない状況で、生徒達を庇いながら戦っているせいか、講師達はかなり苦戦していた。


 アシュラは瞬時に閃く。ここで活躍すればモテる! と。

 そんな浅はかな考えが先に走ったが、アシュラもそこまで愚かではない。

 ただ純粋に講師の手助けをしようとアルゴ・リザードへと攻撃を加えようとした。


 しかし、突如何処からか飛来した弾丸に頭を撃ち抜かれ、体に纏った影が霧散する。


「がっ──ッ!?」


 突然過ぎる襲撃に全く対応出来ず、アシュラは仰向けで地面に倒れ伏し、そのまま動かなくなった。


~~~


 エルシアは旧校舎から中央塔へと続く道を歩いていた。

 まさか放送で呼び出されるとは思ってもみなかったエルシアは、自分が何かやらかしたのかと心当たりを探っていたが、やはり何も思い付かなかった。


「あぁ~、もう。アシュラやグレイならともかく、何で私が呼び出されるのよ……」


 一人ぶつくさと文句を言いながら道を歩く最中、ふと黒煙が立ち上ぼっていることに気が付いた。


「えっ? なにアレ……火事?」


 黒煙の立ち上っている方角には《イフリート》の校舎があるはずだとすぐに気付く。

 火の魔力を司る生徒の集う校舎であり、一際火に関係のある校舎ではある。

 だが、それ故にどの校舎よりも火の扱いに気をつけているはずの校舎でもあった。

 しかしそこから黒い煙が発生しているという非常事態にエルシアは慌てた。


「ちょっと。何が起こってるって言うのよ!」


 思わず駆け出したエルシア。ふと頭に過ったのは先に教室を出て行ったアシュラのことだった。

 だが別にあの黒煙の現場に巻き込まれたのではないかということを心配したわけではない。むしろ逆だった。

 あの黒煙の原因がアシュラなのではないかという心配だ。無論、エルシアとて本気でそう思っているわけでもなかったが、あり得ないと断じることも出来なかったのである。


「──ッ!?」


 黒煙に向かって駆けるエルシアだったが、突然エルシアの足下から光が漏れ出し、直後に強烈な爆発が生じた。


 それも一度ではなく、続けて五回もの爆発が起き、エルシアの姿は爆風によって生じた煙と砂埃で完全に見えなくなった。


~~~


「こちらチームベータ。目標2、罠に掛かりました。姿は現在確認出来ませんが、確実に爆発に巻き込まれました」

「こちらチームガンマ。目標3、射殺完了。脳天をぶち抜いた。確実に死んだよ」

「了解。ベータ、ガンマはアルファと共に目標1を消せ。目標1を抹殺を確認した後、デルタ以外の全員は即座に学院から撤退せよ。」


 二つの抹殺報告を受け、すぐさま次の指令を出した人物は放送室を離れ、《イフリート》校舎で暴れているアルゴ・リザードの元へと向かった。


~~~


 場所は代わり旧校舎の一室。ここまでは爆音も届かず、眠っているせいで窓の外に見える黒煙にも気付かないグレイとミュウがいた。

 そしてもう二人、黒いフードを被った者達の姿があった。


「ま~、無防備に寝てやがるもんだぜ。お友だちが無惨に殺されたってのによ」

「無駄口を叩くな。奴等が来る前にさっさと始末してここから去るぞ。お前は男を()れ。私は女を殺る」

「へいへい、っと。でも然り気無く女の方を取る辺り、あんたも大概ゲスだよなぁ~」


 若い声をした男と体の大きな男は手に持ったナイフを逆手に構え、グレイ達の前に立つ。


「眠りながら逝けるってのはありがたいだろうな。オレっち的には拷問とかしてえんだけど?」

「やめておけ。任務はあくまで抹殺。いくら我らを侮辱した者とはいえ、命で遊ぶようなことはするな」

「暗殺者が何言ってんだか。まあ、いいけどよ。じゃあな。あっちでお友だちと仲良くな!」


 二人は同時にグレイとミュウに向かってナイフを振り下ろした。


「悪いが、それはお断りだ」


 その声と共に即座に起き上がったグレイは机を蹴り上げ、黒服二人の意表を突く。

 それと同時にミュウを抱え上げ後方へと跳んだ。


「……ちっ。起きてやがったのかよ。運の無い奴だな。寝てりゃ苦しまずに逝けたのによ」

「それはそれは。お心遣い痛みいるね。でも生憎こちとらまだまだ死ねねえんだわ」


 グレイはミュウを起こし、二人の侵入者と対峙する。


「ところでお前ら誰だ? まさか転入生と新任講師か? だとしたら挨拶の仕方がなってねえな」

「はっ。そんなわけねえっての。こんな気持ち悪いクラスに誰が入るかっての」

「全くだ。冗談でもやめてもらいたい」

「お~こわっ。こっちもお前らみたいなのはお断りだわ」


 二人の敵を前に軽口を叩くグレイだが、一切の隙を見せずに二人を睨む。

 黒いフードのせいではっきりとわからないが、二人とも怒りを帯びた表情をしているように思えた。

 それに先程侮辱といったが、何のことを指しているのか検討もつかない。少なくともグレイはこんな奴等と知り合った覚えはなかった。

 そしてもう一つ気になったことがある。エルシアとアシュラのことだ。


「ちなみに、俺のダチがどうしたって?」

「はっ。そこから起きてたってわけね。いいぜ。教えといてやるよ。テメエのお友だちで男の方は射殺。女の方は爆殺したってよ! 次はテメエが刺殺されればコンプリートだっ!」

「…………そうか」


 グレイは俯きながらそれだけ呟くと、二人に向かって飛び掛かった。


「なら、あいつらの敵討ちをさせて貰うぞッ!!」

「はっ! 来いよ! ぶっ殺してやるぜ!!」


~~~


 旧校舎でグレイと黒服の激突があった頃、未だ爆煙が晴れない中央塔付近にいた黒服二人は苛立ちを覚えていた。


「爆弾埋めすぎたんじゃないか? これではいつまでたっても死体が確認出来ない」

「いや、だがこの爆発だ。おそらく体は吹き飛んでいるに違いない。いくら待っても無駄かもしれんぞ」


 先程チームベータと呼ばれた二人の男が言い争っていると、背後に更に二人の黒服が現れた。


「そうだ。爆弾などという魔道具に頼るから面倒になる。自分の実力でスマートに殺せ。私のこの銃のようにな」

「体つきまでスマートなお前が言うと説得力がちが──ぐぼぉっ!?」


 チームガンマと呼ばれている二人組だ。一人は銃を持った女、一人はその場にうずくまった男。

 黒服四人は命令を実行すべく、ガンマの男を一人死亡確認役として残し、三人は旧校舎へと向かった。


「くっそ。あのやろ……可愛げのねえ……」


 男は一人殴られた腹を押さえつつ、煙を見つめ続ける。


 早くしないとこちらにも誰か講師がやって来るかもしれない。

 魔獣アルゴ・リザードに講師総出で掛かりきりとはいえ、全員が全員そちらばかりを対応するとも限らない。


「煙よ早く晴れろ~。で、さっさと女の死亡を確認させろ~」


 念じるように呟く男の言葉に、予想もしていなかった答えが返ってきた。


「死亡確認はいくら待っても出来ないでしょうね。何せ誰も死んでないし」

「──ッ!?」


 心臓が飛び出るかと思うくらいに驚いた男は、咄嗟に後ろを振り向く。

 するとそこには少し服と髪が乱れているだけで体はピンピンしている、写真で見たターゲットの一人であるエルシアの姿があった。


「お前……どうして?!」

「どうしてもなにも、地面が光った瞬間に光速移動しただけよ。不思議なことは何一つとしてないわ」


 さらっと言ってのけるエルシア。

 だが、今回使用された爆弾は光が見えてから一秒と経たずに爆発する仕組みになっている。

 だが、エルシアはその光を視認したあとに魔法を発動して回避したというのである。

 尋常ではない直感力と魔力操作の技量。ただの学生とは到底思えなかった。

 だが黒服の男は深呼吸をして冷静になる。不測の事態ではあるが、まだ任務は失敗したわけではない。

 ここでエルシアを自分が仕止めればいいだけのことだと。

 男はエルシアを女とも学生とも思わず、歴戦の戦士と戦うつもりで魔力を練り始める。


 その男を、否。その男の頭上を見ながらエルシアは一言だけ忠告した。


「殺すんじゃないわよ?」


 その突然発せられた謎の台詞の意味を、男が理解することはなかった。

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