一年生の部 3
サイドストーリー 《ミスリル・オムニバス》
一年生の部 決勝戦
レオンvsウォーロック
試合開始のゴングが鳴り、レオンとウォーロックは同時に動いた。
開始直後にレオンの剣とウォーロックの拳が激突し、凄まじい衝撃が走る。
その両者の最初の競り合いに勝利したのはレオンだった。レオンは剣から火炎を吐き出し、ウォーロックを後方へと弾き飛ばす。だがウォーロックも負けじとレオンの頭上に岩を落とす。
レオンは上から降ってくる岩を一刀両断し、続けざまに火球を放つ。それに合わせるようにウォーロックも砂球を放ち、両者の攻撃は見事に相殺される。
火煙と砂塵が舞い散る中、レオンとウォーロックは攻撃の手を止めることなかった。レオンは炎の斬撃を飛ばし、ウォーロックは地面から岩を隆起させる。
レオンは飛び上がって攻撃を回避し、ウォーロックはレオンの攻撃を真正面から受け止める。
息つく暇もない攻防に会場にいる観客達は一様に言葉を無くしていた。
というのも、一年生の部の二回戦で《プレミアム》の両者が棄権したため、一年生の決勝戦だけ特別ルールとなり、一対一の試合となってしまったため、見応えが半減したと思っていたのである。
だがその予想は大きく外れており、次の瞬間には歓声が沸いた。
「まさか、こんなに早くまた君と一対一の試合をするとは思っていなかったよウォーロック」
「……そうだな。あの二人が大会を放棄するなど考えもしなかった。あの男が勝ち上がってきたとしたら、先月の大会の続きも出来ただろうが」
レオンとウォーロックの二人は因縁がある。今までに行われた月別大会のうち、クラス対抗戦とトレジャーウォーズの二つの大会で二人は激闘を繰り広げている。後者のトレジャーウォーズでは二人に加えてアシュラも参戦し、三つ巴となった。
そんなことを思い出しながらも、二人は一切気を抜かず、次の手を考える。
動いたのは、意外にもウォーロックだった。
「《アイアン・ロケット》!」
鋼の弾丸を生み出し、それを全力で殴り飛ばす。向かい来る鉄球を、レオンは剣を斜めに構えて受け流す。
そして即座に足元に爆発を生じさせ、その勢いに乗ってウォーロックに迫る。
「《ブレイズ・ブレイド》!!」
レオンは渾身の一撃を振り下ろす。それをウォーロックは交差した腕で受け止める。
その衝撃でリングに亀裂が走る。激しい金属音が鳴り響き、大きな火花が散る。
「うおおおおおおっ!!」
ウォーロックの咆哮が轟き、レオンの剣を押し返す。その衝撃にレオンはわずかに足がもつれさせ、ウォーロックはそこに鋼の拳を突き出す。
ウォーロックの拳がレオンの体を捉えたまさに同じタイミングで、ウォーロックの眼前で爆発が起きる。レオンのカウンターは見事決まったが、代償にレオンも重い一撃を受けてリングギリギリまで吹き飛ばされる。何とか剣をリングに突き立て勢いを殺していなければリングアウトになっていたかもしれない。
「げほっ……げほっ! っつつ……!」
何度も咳き込み、殴られた腹を押さえるレオン。魔力を攻撃に集中させていたため、防御に回す余裕はなかったのだ。
一方ウォーロックは首を振り、煙を払う。幸い鼓膜は破れておらず、また大きなダメージもない。魔力を大きく消費したが、まだまだ戦える状態だった。
「……はぁ、はぁ。全く……手強すぎるな」
「その言葉、そのままお前に返そう」
互いが互いの実力を認めあう中、レオンは考える。この勝負、長引けば自分は負ける。
ウォーロックの鎧は多少の攻撃ではびくともしないのは今までのやり取りで嫌と言うほど想い知らされた。じり貧になれば魔力をいたずらに消費し、決定打を打ち込めなくなる。
勝負を付けるのは、まだ余力の残っている今しかない。幸い、敵はウォーロック一人。これが決勝戦なのだから全てを出しきっても問題ない。全魔力を使い果たせば回復するまで時間がかかる。
だとしても、ここで仕掛けなければ必ず後悔することになる。
「行くぞウォーロック。これが、最後だ!」
「…………来い」
レオンは全魔力を剣に集め、ウォーロックは腰を落として迎え撃つ態勢を取る。
「まさか、真正面から受け止めるつもりか……?」
「貴殿の全力だ。その価値は十分にある」
ウォーロックは決して侮ってなどいない。むしろ最大級の敬意を持って、レオンの全霊の一撃を受け止めるつもりでいるのだ。それを耐えきって勝つ、と。
「光栄だよウォーロック。なら、俺も魔術師の全霊を持って応えよう! はぁあああっ! 《爆裂紅覇斬》!!」
「《巌鉄》!!」
レオンの最強攻撃魔法は大気を焼き、爆裂し続ける紅蓮の斬撃。
ウォーロックの最強防御魔法は鋼鉄の大山の如き不動の堅牢。
その両者が激突した時、凄まじい爆音と衝撃が観客らに容赦なく何度も打ち付けられる。
リングに張られた結界も、衝撃波までは防げない。コロシアムは打ち震え、観客の悲鳴も掻き消すほどの爆音が続く。
そしてようやく爆発が止まったかと思うと、今までとは一転し、一気に会場は静まり返る。
リングには爆裂の際に生じた砂塵と黒煙がもうもうと立ち上ぼり、勝負の結果がまだ確認出来ない。
観客らはただただ、じっとリングを見つめ続けている。するとようやく二人の姿が目視出来るようになった。
レオンは剣を杖代わりにしてなんとか立っており、ウォーロックは腕を眼前で交差した状態で動きを止めていた。
しかし次の瞬間、レオンの剣がフッと姿を消し、支えを失ったレオンはそのままリングに倒れ伏した。
試合終了。ウォーロックはレオンの最強攻撃魔法を防ぎきったのだ。
会場は一挙に沸き立ち、ウォーロックの勝利を告げるアナウンスが聞こえる。
だが、ウォーロックはそれらがどこか遠くで行われているもののように聞こえていた。
そして次の瞬間、彼が纏っていた鎧が姿を消した。それはウォーロックが意図して消したわけではない。魔力の限界が来て強制的に彼のコアの中に戻ったのである。
つまり、あとほんの少し違っていれば、倒れていたのはウォーロックだったかもしれないということを意味していた。
「…………良い、一撃だった」
ウォーロックはそれだけ何とか口から搾り出し、空を見上げた。
──《ミスリル・オムニバス》一年生の部 優勝
《ドワーフ》ウォーロック=レグホーン