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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
一章 トライデント・プレミアム
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問題児達の実力 5

「……納得いきません」

「「「何が?」」」


 グレイ達三人は同時に首を傾げた。ミュウは我関せずといった具合に朝食を食べる。服装は昨日とは違い、女の子らしい服とスカートを着ていた。これも昨日買ったものである。お金は全額グレイが払った。より正確に言えばエルシアが払わせた。

 そしてキャサリンは頬を膨らませながらグレイ達を半目で睨んでいた。その顔には軽く疲労が見られた。

 実はキャサリンは昨日夜遅くに帰ってきて、寝不足なのであった。というのも。


「何が、って、昨日の件のことです。何でヘルベアーを倒したのが私だって言ったんですか?!」


 何だそんなことか。と途端に興味を無くした三人はそれぞれ食事に戻る。


「ちょっと! 何で誰も説明してくれないんですか! 昨日私は貴方達の代わりに夜遅くまで事件の概要を魔術師団の皆さんに説明してきたんですよ」


 それを言われると弱い三人は、代表してグレイが説明をする。


「だって、昨日一番の貢献者はキャシーちゃんだろ? 誰よりも早く行動し、怪我人を治し、魔獣と対峙した。まあ、連続しての回復魔法の無理が祟って途中危なかったけど、そのあとキャシーちゃんが俺達に命令し、その場で魔獣撃退させることに成功した。だからこれら全ては指揮官であるキャシーちゃんのお手柄なわけ。そして、俺らはそのおまけってこと」


 グレイはペラペラと説明、という名の言い訳をした。

 確かに今グレイの言ったことも事実だと他の二人も思っているが、正直魔獣との戦闘で疲れていたので長々と事情を説明するのが面倒くさかったという理由もあった。それはわざわざ口には出さなかったが。

 

「そういうことですか。……でも、だとしても納得は出来ません」

「キャシーちゃん。だから──」

「だって、実際に町を救ったのはまぎれもなく貴方達なんですよ? なら、表彰されるべきは貴方達の方です。これで学校のみんなからも認められるんですよ。それなのに……」


 キャサリンは理不尽に面倒事を押し付けられたことに不服があったわけではなかった。

 むしろ、事情説明をするべきは大人であり、担任である自分だとも思っていた。しかし、グレイ達はあの時、魔術師団の者にこう言った。


「「「魔獣を倒したのはこの人です」」」


 また打ち合わせしたかのような見事なタイミングでキャサリンを指差し、三人の意図が読めないで慌てているキャサリンを置いてグレイとアシュラが魔術師団の者にペラペラとキャサリンがどれだけ華麗に魔獣を倒したのかを騙り、その隙にエルシアがキャサリンに自分達のことを黙っててもらえるように頼んだ。

 キャサリンは最初はその頼みを断ったが、エルシアの真摯な願いを無視することも出来ずに自ら折れた。


 だが、まだ納得はいっていなかったようである。

 キャサリンも《プレミアム》の三人が落ちこぼれの烙印を押されていることは知っている。

 だが勿論それは間違いで、昨日の決闘で、少しはそのレッテルも剥がされているとは思うが、偏見の目はまだ残っているだろう。


 そこに学生でありながらBランクの魔獣を倒したとなれば、周りからの見る目は確実に変わる。それも良い方向に。

 それに魔術師団や町からも表彰されるのである。事実、魔獣を倒したとなっているキャサリンの表彰が決まっている。

 しかし、そのチャンスを自ら捨てようとする三人の心情がわからずにモヤモヤとしているのであった。


 そんなキャサリンの気持ちを察したエルシアはにこりと笑って言った。


「キャシー先生。私たちは別にたったこれっぽっちの名声とかいらないんですよ。それよりも変に目立つ方が後のためにならないですし」

「そうそう。俺らは《プレミアム》なんだし。また変な奴等に狙われでもしたら大変だしな」


 エルシアの言葉に同意しながらアシュラは先月のことを思い出す。

 実は彼らは一度、その《プレミアム》の力を狙われたことがある。キャサリンもその時のことを思い出し、押し黙る。


「そんな落ち込まないでください。結局全員無事だったんですし。それに、私たちが強いってことはいずれ学校中の奴等に見せ付けてやるので安心してください」

「そのためにも、今は力を隠しておく方がいいんすよ。ってなわけで、よろしくお願いしますよキャシーちゃん」


 グレイは両手を合わせて懇願する。

 ようやく、キャサリンも納得したのか、ふぅ、と溜め息を吐く。


「わかりました。そういうことにしておきます。でも約束してください。いずれ、《プレミアム》の真の実力を私やみんなに見せ付けてやること!」


 その言葉に三人は大きく頷く。


「任せとけって。キャシーちゃん」

「当然です。キャシー先生」

「勿論ッスよ。キャシーちゃん」


 ──《プレミアム・レア》

 いずれ彼等が世界をも揺るがし、歴史に大きく名を残す存在になるのだが、それはまだ、誰も知らない。


~~~


「とは言え、まさかまたわざわざ町まで行って昨日の報告をしなければならないとは思ってもみませんでした……」


 キャサリンは一人、学校の門に向かって歩いていた。

 と言うのも、昨日の魔獣騒ぎの件について、まだ色々と聞きたいことがある、とのことで再び魔術師団本部にまで来るようにと言われていたのであった。

 しかし知る限りのことは昨日の内に話しているのだが、更に詳しい話を聞きたいとのことで、断るに断れなかった。

 キャサリンは自身が断れない性格なのを重々理解し、これからはちゃんと断れる女になろうと心で決めていると、門にある人物が立っているのが目に入った。


「あれ? カーティス先生。どうしたんですか、こんな所で?」

「あぁ、キャサリン先生。おはようございます。いやぁ、何でも教材が届くとのことで、ここで待っとるんですよ」

「教材? 何のですか?」

「確か、魔獣に関するものだそうで」


 魔獣、と聞いてビクッと体を小さく震わせるキャサリン。

 昨日、あの三人がいなければ自分は死んでいたかもしれない、という事実を思い出したからだ。


「キャサリン先生、大丈夫ですか?」

「は、はい。大丈夫です。では私はこれで」

「おや? どちらへ?」

「あ~。ちょっと所要で町に」

「そうでしたか。キャサリン先生もお出掛けになられるのですか」

「はい。……えっ? 私も、とは?」


 キャサリンは少し気になったので何の気なしに尋ねた。


「リールリッド学院長も今朝方出掛けていくのを見掛けたのです。おそらく、アレの下見でしょうな」

「あぁ、なるほど。そろそろ時期ですからね」


 キャサリンは少し昔を思い出しながら目を閉じる。懐かしい記憶がよみがえる。


「──ってぇ! 思い出に浸っている場合ではありませんでしたっ! 早く行かないと~!」

「もう行かれるのですか? ではお気を付けて」

「はい。では行ってきます」


 キャサリンは頭を下げ、急いで校門を出た。

 その道中、大きな車とすれ違い、あれがさっき行っていた教材を乗せた車なのかもしれない、とキャサリンは思いながら早歩きで町へと向かっていった。


 一方その頃、旧校舎ではグレイ達が大人しく自習を、しているわけがなかった。


 既に机に突っ伏して寝息をたてているグレイ。

 アイスを舐めながらじっとしているミュウの髪の毛をいじるエルシア。

 アシュラに至っては教室にすらいなかった。


 黒板には大きく自習と書いてあるのだが、全くもって効果はなかった。

 本来なら代理の講師が来るのだが、誰も代理が見つからなかったので、キャサリンは仕方なく自習としたのだが、キャサリンが教室から出て、五分と持たなかった。


 まず、キャサリンが教室から出た数秒後にグレイが眠りに付き、一分後にアシュラは「真実の愛ってやつを探しに行ってくる」などとほざきながら教室を出て、暇になったエルシアはグレイを一度叩き起こしてミュウを呼び出して貰い、ミュウにはアイスを渡す代わりに髪をいじらせて貰っていた。


 そんな時に突然放送が鳴った。


「エルシア=セレナイトさん。至急中央塔まで来てください。繰り返します──」

「何よいきなり? 今は授業中でしょうに」

「授業、していませんけど」

「それはまあ、そうだけど。ったく、せっかくいいところだったのに。じゃ、ちょっと行ってくるわ」

「行ってらっしゃいませ」


 エルシアはミュウに手を振りながら教室を後にした。教室にはグレイとミュウだけになり、やがて静寂が訪れた。


 アイスも食べ終えてしまったミュウはグレイの隣に座り、静かに寝息をたて始めた。


~~~


「これで奴等は全員バラけました。これなら行けるはずです」

「あぁ、それに例のアレも到着した。早速作戦を実行する」

「了解。では貴様達にも手伝って貰うぞ」


 一人の男が旧校舎にのみ放送をしていた通信魔道具を切り、 放送室に集まっていた黒いフードを被った者達を見渡し、意思の疎通を図る。


「《プレミアム・レア》の抹殺。必ず成功させろ。我ら《閻魔》の誇りにかけて」

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