表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/237

祭りの夜 5

 リビュラは幹部の四人のみを連れて表向きに滞在する場所として選んだ宿屋へと戻る。他の二人にはそれぞれ仲間の元へ戻り準備を進めるよう命じた。


 リビュラを含めた五人だけしかいない部屋で、彼らは最後の打ち合わせを始めた。


「予想通り、あの魔女は大会を決行させました。そしてこちらに必要な駒は揃えた。それと先程不測の事態を招いた失態については作戦の完遂をもって償うことを誓います。では明日、私達は魔女と悪魔を駆逐する。全ては天神様が説く世界の平和と《コモン》の安寧のために。……では明日の作戦の最終確認を行います」


~~~


「え? いなかったんですか、あの馬鹿」

「そうなんですよぉぉ……。どこに行ったか心当たりはないですか?」

「と、言われましても……。あいつ、変に秘密主義なとこありますから。ハイドアウト以外に心当たりらしいものはないですね」


 もう深夜と呼べる時間帯にエルシアの部屋へとやってきたのはキャサリンとアシュラだ。アシュラはそうでもなかったが、キャサリンは今にも泣き出しそうな顔をしていたので何事かと思ったら、グレイの姿がどこにも見当たらないということだった。


「心配しすぎなんだよキャシーちゃんは。男なんだから朝帰りの一つもあっていいんじゃねえか? 帰ってきたら俺と一緒にあいつをボコボコにしてやろうぜ」

「アシュラの馬鹿な発言はさておき、心配しすぎなところはあるかもしれませんよ。あいつなら何かトラブルに巻き込まれても飄々と戻ってきそうですし」

「うぅぅ……。で、でもですよ。彼の場合、トラブルに巻き込まれているという可能性もありますけど、巻き込まれに行ってる可能性すらあり得るんですよ……」

「「……あぁ、なるほど。確かにあり得る」」


 実際、グレイは火災現場に駆け付けたり、そこから少女を救うために燃える建物の中に無謀にも飛び込んだりする人間だ。

 もし今何か本当にトラブルが起きているなら、それに首を突っ込んでいる可能性は大いに考えられる。


「でもまあ、そうと決まったわけでもあるめえし、そこまで気に病む必要はねえって」

「そうですよ。それにキャシー先生は今日散々動き回って疲れてるんですから、早く休んでください。それに明日も警備なんですよね。尚更寝ておかないと」

「で、ですけど……」

「寝・て・く・だ・さ・い」


 尚も食い下がろうとするキャサリンを無理矢理なだめ、エルシアはキャサリンを部屋に放り込む。


 ふう、と一息ついてから、アシュラの方を振り返る。


「ちょっと付き合いなさい」

「え? 何? 愛の告白? 確かにお前は美少女だが性格が──」

「ふざけてないで、さっさと来る!」

「……へいへい、っと」


 エルシアはアシュラを連れて自分の部屋に戻る。扉を閉め、アシュラの方へと振り返るエルシアの顔は真剣そのものだった。


「それで、実際のところどう思う?」

「何が?」

「何が、って……。決まってるでしょ。グレイのことよ。何で学院にも戻らず、連絡も寄越さないのか、って話よ」


 わざわざ説明させるな、と文句を言うエルシアを見て、アシュラは興味無さそうに返事する。


「だから、夜遊び」

「ふざけんな、って言ったでしょ」


 いつになく低いトーンで話すエルシアを見て、アシュラはやれやれと肩をすくめる。


「連絡寄越さねえってことは別に大変な目にあってるってことはないんじゃねえの。やべえことに手ぇ出して既にくたばってたりしねえ限りはな」

「なに縁起でもないこと言ってんのよ! そんなことになってたりしたら、ミュウちゃんはどうなるのよ!?」

「おっと、心配事はそっちかよ。だが、それは確かに重要事項だ。グレイの生死よりも。少し考えてみる必要があるかもな」


 何とも薄情な物言いの二人ではあるが、これはただの言い訳だ。二人とも、面倒くさいほど素直ではないのである。


「一番怪しいのは、あいつと最後にあった時に一緒にいた《天神衆》だな」

「そいつと一緒に放火犯を捜してるとか?」

「あり得なくはねえが、別に夜通し捜査しないといけないわけじゃねえし、所詮手伝い程度でしかねえあいつが帰ってこねえ理由にはならねえな」

「なら、《天神衆》と何かあったとか?」

「確かにそれもあり得る。グレイは無属性とはいえ魔術師だ。何かあった可能性は十分あるが、大きな騒ぎにはなってねえぞ?」

「騒ぎを隠蔽しているのかしら。それとも人目のつかない所での犯行かも」

「だが、あいつがそう簡単にやられるか?」

「理由があるとしたら?」

「人質とかか……。しかも遠くの、すぐに助けにいけないところに監禁されている可能性とか。いや、どこかに罠なんかを仕掛けているとかも」

「罠なんかどこに仕掛けるってのよ。今はこの町は厳戒態勢をしいてるのよ。すぐに見付かって御用よ」

「なら監禁か? でも誰を?」

「さあ? ミーティアの知り合いと言えば……」


 思い付くのは、一人だけ。


「チェルシー、くらいかしら……」

「……おい。待てよ? ハイドアウトは最近ずっと閉まってるって話だったよな?」

「……嘘でしょ? まさかそんな」

「だがもしそうなら、わざわざグレイが首を突っ込む理由が見付かったな」

「確信が持てないけど、十分あり得る話ね……」


 しかし、今話したのは全て仮定の話だ。もしかしたら本当にただ夜遊びしているだけの可能性だってある。

 それに彼らには明日の大会が控えている。もし今からグレイ捜索に走ったとして、無駄骨だった場合。そしてそのせいで大会に遅れた場合のことを考える。


「どうすんだ?」


 アシュラのその質問は、大会を取るか。友を取るか。の選択を迫るものだ。


「あんたこそ、どうするつもりなの?」


 エルシアは答えず、先にアシュラの意思を尋ねた。


「大会に出る。どうせグレイが一人で勝手した結果だろ。あいつだって自分のケツくらい自分で拭くさ」


 迷うことなく即決したアシュラ。それはグレイに対する信頼からか、それとも自分自身のためにしか動かない魔術師のさがのせいか。

 それだけ言い残すとアシュラはそのままエルシアの部屋を出ていこうとする。


「ちょっと! どこ行くのよ?! 話はまだ──」

「終わったろ? 俺は寝る。エリーもとっとと寝るんだな。寝不足で負けました~、なんて情けねえ言い訳するんじゃねえぞ」

「なっ──!? 誰がっ!!」


 エルシアの怒りが爆発させる前に、アシュラはさっさと部屋を出て扉を閉める。エルシアは今更追い掛けてまで怒鳴り散らす気にもなれず、ベッドに寝転がって目を閉じる。


 だが一向に眠れる気はしない。だから一人で考える。後悔しない方を選ぶために。

 いや、より正確に言うなら、どちらの後悔をした方がマシなのかを選ぶために──


~~~


「──あんた、もう寝るんじゃなかったの?」

「夜遊びだよ。折角の祭りの夜だから楽しまねえとな。そっちこそ、寝るんじゃなかったのか?」

「私そんなこと言った覚え、全くないですけど?」

「けっ。はいはいそうでしたそうでした。で、てめえはこんな夜中に何してんだよ?」

「夜の散歩よ」

「不良まっしぐらだなエリー」

「犯罪者まっしぐらなあんたにとやかく言われたかないわよ」


 あれからしばらくして。エルシアが宿屋を出て町を散策していると、見慣れた馬鹿面をしたアシュラと出くわした。


 二人とも、超が付くほど面倒くさく、呆れ果てるほど素直ではなかった。


~~~


 結局、大会が始まる前まではグレイの捜索することに決めた二人は町を端から散策していく。

 深夜ともなれば明かりも少なくなり、見通しが悪くなる。だが、アシュラは夜目が利き、エルシアにはサテライト・リングがあるので、それほど苦労することはない。

 しかし全くと言っていいほど手掛かりがなく、正直だれてきていた。


 そんな時だった。エルシアがふと立ち止まり、アシュラもそれに気付き振り返る。


「どうしたよ? もうおねむか?」

「しっ! 静かにして……」


 からかうアシュラを厳しく咎め、周囲を警戒する。エルシアはサテライト・リングに魔力を集中し、視界を広め耳を澄ませる。


 すると水の跳ねる音が聞こえてきた。近くには町を流れる水路があり、水の音がするのは当然なのだが、どうにもその音がまるで水の中を誰かが歩いているような音だったのだ。


「誰か、いる……?」

「こんな夜中に水遊び、なわけもねえわな」


 警戒心を強める二人は身を隠しながら水路を凝視する。するとうっすらと人影が確認出来た。その人影は橋の下にある下水路の穴の中へと入っていった。


「不審者ね」

「不審者だな」


 彼らの目的はグレイを見付けること。不審者を捜すことではない。だが、彼らにはその不審者が何故か、グレイを見付ける手掛かりになるような気がした。


 二人は無言で目配せし、物音を立てないよう慎重にその下水路へと近付く。そしてアシュラが穴の中を覗き込んだ。

 途端、中から飛び出してきた人影に殴り掛かられた。アシュラはそれを寸でのところで躱して後方へ飛び退く。


「エリー! 明かり!」

「わかってる!」


 エルシアはすぐに手のひらに光の球を出し、暗い橋の下を照らす。暗闇からの急激に明るい光を見た不審者は思わずたたらを踏む。

 その隙を狙い、あらかじめエルシアの光を見ないよう目を閉じていたアシュラが不審者に飛びかかる。


「うらぁ! 観念しやが──ぐおぁっ!?」


 だが寸前のところで何故かエルシアに蹴り飛ばされた。アシュラは水路を転がり全身びしょ濡れになった。


「おいこらぁあ!? なにしやがんだ!!」

「落ち着きなさい! よく見て!」


 理不尽な不意討ちを受け、怒り狂うアシュラだが、エルシアの驚愕に満ちた声に、怒りが一気に引いていく。そして、エルシアが何に驚いているのかをすぐに理解した。


 エルシアはサテライト・リングであの明かりの中で不審者の顔を確認していたのだ。そしてその不審者の正体を、彼女はよく知っていた。当然、アシュラも。


「て、店長……?」

「……お前達、だったか。すまん、勘違いし、た……」

「えっ、ちょっ、店長さんっ!?」


 不審者の正体。それはハイドアウトの店長だったのだ。彼はアシュラ達に気付くと、糸が切れたように倒れ込んだ。

 急いでエルシアは店長に回復魔法をかける。見ると体中に火傷や裂傷といったかなりの重傷を負っていた。

 突然のことだらけで何がなんだかわからなかったが、由々しき事態になっていることは、嫌というほど理解した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ