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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
一章 トライデント・プレミアム
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問題児達の実力 2

「決闘、開始!」


 ファランの声と、それと同じタイミングでファランの放った小さな火の玉が空中で弾け、パンッと高い音が闘技場に鳴り響く。


「舐め腐りやがって落ちこぼれ共がッ! さっきの礼も込めて、これでぶっ飛ばしてやる!! 《フレイム・バースト》!!」


 先制したのはギャバルだった。それに続き残りの二人もギャバルと同じ魔法を放つ。


 三発の炎の爆弾が棒立ちだったグレイ達の直前で爆裂する。火柱と爆煙が立ち上ぼり、グレイ達はそれに巻き込まれた。


 観客はあぁ~あ、と、落胆の声を上げる。所詮は落ちこぼれのクラスか、と。


 しかし煙が晴れてグレイ達の姿が確認出来るようになった時、観客達は一様に声を失った。

 煙の中から現れたのは、黒いドーム状の影だった。

 炎が完全に消えるのと同時にその影も消え、その中にはグレイ達三人が無傷で立っていた。


 そして三人は、観客達以上に落胆していた。


「弱っ。嘘だろ……」

「あぁ~あ。ほんと時間の無駄だわ。考えてた作戦も全部必要無さそうね」

「俺、帰りてえ……そして寝てえ」


 《フレイム・バースト》は中級の炎魔法である。

 魔法を覚えてから二ヶ月しか経っていないにも関わらず、既に中級魔法を使えるというのは、優秀な部類に入る。

 通常なら中級魔法はもっと後に習うものなのである。しかし、貴族ならではの英才教育により、ギャバル達は既に基礎だけなら覚えてしまっていたのだ。

 しかしギャバル達の攻撃はアシュラの影に傷一つすら付けられなかった。

 これにはギャバル達も、ファランも驚く。


 だが難なく攻撃を防いだアシュラは事も無げに炎の中級魔法を弱いと吐き捨て、エルシアは右手で頭を抱え、グレイは大きくあくびした。


「じゃ、次は俺らの番だな。で、どいつとやる?」

「私汚物以下とやるの嫌よ? あれに魔法ぶつけると何だか(けが)れるような気がするのよ」

「そんなん俺だって嫌だわ。てか、さっき直接足で触れてたろ。はぁ、しょうがない。じゃんけんすっか」


 グレイの提案にエルシアとアシュラは乗った。

 三人がじゃんけんであいこを連続している間、ギャバル達は自分達の魔法があっさりと防がれたことが信じられずに唖然としていた。

 七回のあいこを繰り返し、ようやくじゃんけんの決着が着いた。


「やりぃ。私が腰巾着一号ね」

「危ねぇ~。じゃ俺は金魚の糞一号な」

「最悪だ……。じゃんけんなんか提案するんじゃなかった……」


 結果、エルシアがニックを。アシュラがサブを。そしてグレイがギャバルを倒すことになった。


「そうと決まれば、ガンガン行くぜぇ~! 押し潰されろ《影鎚(かげつち)》!」


 アシュラは腕からハンマーのような形をした長く巨大な影をサブ目掛けて振り下ろす。


「なっ、う、うわあああっ?! ふ、《ファイア・ブレス》!」


 サブは悲鳴を上げながら炎を影にぶつけるが、影は微動だにせずにアシュラはそのまま《影鎚》でサブを宣言通り押し潰した。

 影が消え、サブの姿が確認出来たが、サブはピクリとも動かなかった。


「あぁ?! じょ、冗談だろ? もう終いか?」

「サブッ!?」

「ねぇあんた、よそ見とか余裕過ぎない? 貫け《ストライク・サンダー》」


 サブが《影鎚》に押し潰され、一撃でやられたという事実に意識が削がれてしまったニックの体を、稲妻状に迸る白い雷が容赦なく貫いた。


「がはっ!?」


 ニックは自分がどうなったかすら理解する間もなく意識を失った。

 エルシアはニックが倒れるのを確認してから右手の人指し指にフッと息を吹きかけた。


「手加減は、一応しておいてあげたわ」

「お、おいっ! サブ! ニック!? くそっ! 何がどうなってるんだよ!?」


 ほんの一瞬で二人の仲間が倒されたギャバルは錯乱し、慌てふためく。

 そのギャバルの前方には、走ってギャバルに向かってくるグレイの姿があった。

 ギャバルはわずかに残っていた冷静さと貴族のプライドを総動員してグレイに魔法を放つ。


「うわああああっ!! 《バーニング・ラッシュ》!!」


 球状の炎の塊が連続でグレイに襲い掛かる。だが、グレイはそのすべてを紙一重で躱し続けながら尚もギャバルに接近する。


 そしてついにギャバルの眼前にまで辿り着き、グレイは小さな声で呟いた。


「もう一発食らっとけ」


 グレイは右腕を振りかぶり、ギャバルは先程の一撃がフラッシュバックし思わず目を瞑った。

 

 次にギャバルを襲ったのは額に走ったわずかな痛みだけだった。

 しかし、過剰に怯えていたギャバルの脳は、その痛みが拳で殴られた衝撃だと勝手に誤認し、ギャバルは白目を剥いて仰向けに倒れた。


 ギャバルにとどめを差したグレイは、デコピンしたままの体勢で固まっていた。


「おいおい、ビビりすぎだろ。……えっ? 嘘、もしかしてマジで気絶してる? おい、本当にこれで決闘終わりなのか? 期待外れすぎるんだが……」


 グレイは泡を吹いて倒れているギャバルを見て、本当に終わったんだと悟り、呆れ果てながら中指を服で拭った。


 そして決闘終了の合図が鳴った。


~~~


 観客達は、ファランも、彼らをよく知る担任のキャサリンですら絶句していた。

 ギャバル達は決して弱いわけではない。確かに傲慢で非常にプライドの高いところがある彼らではあるが、長く続く貴族出身であるため非常に優秀な生徒でもあった。

 特にギャバルはランキングでこそ今はクラスの中間くらいだが、まだ伸び代はあるとファランは評価していた。

 そんな彼らが、二人は一瞬で、ギャバルに至っては魔法すら使われずにただのデコピンで倒された。

 若くして代表講師を任され、使命と責任に燃えていたファランからすれば、その事実は全くもって受け入れがたいものだった。


 そんな呆然としているファランに気付き、代わりにキャサリンが決闘終了の合図を鳴らす。


「け、決闘終了です。勝者は《プレミアム》ですっ!」


 その言葉に観客達は我に返り、次の瞬間には大歓声が上がった。


「「「はぁ~」」」


 だが《プレミアム》三人は嬉しくともなんともなかった。


「ねえ? あれでほんとに二十二位? 四十二位とかじゃなくて?」

「嘘ならファランせんせーが注意すんじゃねえの。「嘘吐くんじゃありませんっ!」ってな」

「でもその気持ちもわかるけどな。なんせ俺が一番驚いてるからな。だって、ただのデコピンだぜ? 魔法使ってないんだぜ?」


 この決闘は彼らにとってはじめての他クラスとの試合だった。

 今まではクラスの三人とキャサリンを含めて四人としかほとんど戦ったことがなく、自分達がどれほどの実力を持っているのかは全然理解していなかった。


 しかし、講師や生徒達はその試合を見て確信した。


 《プレミアム》の実力は同学年の中でも桁違いに強いということを。


「ほんっっとに時間の無駄だったわ。これならミュウちゃんと遊んでた方が百倍、いや千倍有意義だったわ」

「こらこら。ミュウをおもちゃみたいに言うなよ」

「おっ。そうだ。いいこと思い付いたぜ。今からミュウちゃんの服買いに行かねえか? いつまでもキャシーちゃんのおさがりってのもあれだしよ」

「アシュラ。それナイスアイデアよ! あんなに可愛いんだもの。きっと何着ても似合うわ。早速行きましょ! キャシー先生も」

「ふえっ!? あっ、えと、私は後で行きます。まずこちらを片付けてから」


 もはやギャバル達に微塵の興味も無くしたのか、エルシアとアシュラによってミュウの服選びをすることになったグレイ達は颯爽と闘技場を後にした。

 それに合わせて観客達もぞろぞろと闘技場を出始める。

 そのざわめきの中から《イフリート》三人に向けられた嘲笑と、《プレミアム》三人に向けられた称賛が、ファランの鼓膜を震わせた。


 やがて残ったのは未だに気を失っている三人の生徒と、立ち尽くしたままのファラン。そしてキャサリンだけだった。


 キャサリンは水魔法《ウォーター・ヒール》で三人を完全回復させてから、ファランに向かって頭を下げ、静かにその場を去った。


 その時、キャサリンは気付いていた。ファランの強く握られた拳が微かに震えていたことを。

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