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開幕 前期総集戦 3

 あれから一週間経ち、ミスリル魔法学院の月別大会が開かれる当日となった。

 本日は世間的に休日であるため、ミーティアにあるコロシアムの観客席には多くの人で埋め尽くされつつあった。

 そして今大会の出場者に選ばれたミスリル魔法学院の生徒達は既にコロシアムの控え室に集まっている。だが大会が始まるまでまだ時間があった。


 ちなみに代表選手以外の生徒達は本日は休日扱いとなっており、外出許可も与えられている。その多くの生徒達はミーティアを訪れている。

 当然ミーティアにはグレイとミュウの姿もあり、二人はコロシアムの周辺で開かれている出店を見て回っていた。


 グレイ自身はようやく謹慎が解かれ、久し振りの外出となる。だが今まで町の様子はミュウからいくらか聞かせてもらっていたので全く知らなかったというわけではない。

 しかし実際に感じてみると、祭特有の陽気な雰囲気は、今までの暗くピリピリとした雰囲気を知っているだけに、どこか違和感を感じずにはいられなかった。


「──にしても、何だかんだで賑わってるんすね。最近色々と魔術師に対して反発運動とかがあったのに」

「そうだな。あの《天神衆》って奴等が来てからは色々と騒がしかったな。でもまあ、《天神衆》の奴等、ここ数日は目立ったことはしてねえみてぇだし、この町にゃ魔術師に助けてもらった奴等も大勢いるし、《コモン》の全員が全員魔術師を嫌ってるってわけでもねえからな」

「……なるほど。確かにそうですね。ってことは一時の流れに乗せられただけってことっすかね」

「だろうな。時期に今まで通りの町に戻るだろう。……とは言っても、今年は例年に比べりゃいまひとつ盛り上がりに欠けてるんだがよ。っと、ほれ出来たぞ」

「ありがとう、ございます」


 気さくな綿菓子屋のおじさんはグレイと話しながらも器用に綿菓子を作り終え、その作業行程をじっと見つめていたミュウに出来上がった綿菓子を手渡した。

 ミュウは不思議なものを見るように色んな角度から眺め、パクリとかじりつく。


「……これが綿菓子。ふわふわで、あまくて、美味しいです」

「そりゃ良かったな。じゃおじさん。色々話聞かせてもらってありがとうございました。これお代です」

「あいよ。こちらこそ毎度あり」


 グレイは屋台のおじさんに礼を言ってから歩きだし、今まで集めた情報を整理する。


「ん~。やっぱり俺の考えすぎなのか? 《天神衆》の宣教活動も三日前くらいから見かけなくなったって情報もあるし……。でも、今週はずっとハイドアウトは閉まったままだってのも気になる……」


 聞くところによると、ハイドアウトはこの一週間ずっと閉店したままの状態で、店長含め、店員達全員の行方も知れないらしい。当然、チェルシーもだ。


「せめて、一人でもハイドアウトの店員を見付けられれば話を聞けるんだが……。どうだミュウ。誰か見知った顔は見付かったか?」

「……マスター。あのお店……」

「おっ?! 見付けたのか?」

「とても、美味しそうです」

「あっ、うん……。買ってあげるから俺の頼みも聞いてくれな……」


 見ると綿菓子は既に無く、今はもう次の食べ物に夢中になっている。

 グレイは無表情ながら無邪気にはしゃぐミュウを見て、肩から余計な力が抜けたような気がした。綿菓子でベタベタになっているミュウの口元をハンカチで拭ってやり、ミュウのリクエストしたリンゴ飴を買って与える。


 ふと、視線がコロシアムの方を向いた。ミーティアのコロシアムは町のほぼ中心に存在し、大きな円形をしている。東西南北の四ヶ所に入り口があり、今グレイは南口付近にいる。

 この町で一番大きな建造物で、観光名所の一つであり、普段は魔術師や騎士による魔術大会や剣闘大会、決闘などが行われる場となっている。

 そして今回のようにミスリル魔法学院のイベントが開かれることもある。


「こんなでっけえとこで戦うとなると、すぐに噂になるだろうなあの二人は」


 グレイは《プレミアム・レア》のエルシアとアシュラのことを思う。

 今まではずっと学院内に留められていた彼らの力が、とうとう今日世間に広く知られることになる。そのことについては当然本人達は了承済みであるのだが、騒ぎになることは火を見るよりも明らかだ。


 百年に一人生まれるかどうかとまで言われるほどの稀少な存在が同時期に二人、しかも同じ学院に在籍しているなど、これ以上無いほどの衝撃だろう。嫌というほどの注目と好奇の目にさらされることになる。

 実際はグレイも《プレミアム・レア》であり、グレイは前代未聞の生きたアーク、ミュウを顕現させたという、もっと衝撃的な事実があるのだが、幸か不幸かグレイは今回大会に出られない。だからグレイの存在は世間に知られることはない。

 ミュウのことを考えるとそれで良かったのだと自分を納得させたが、やはりどこか悔しさはあった。


「マスター」

「っとと、何だ?」


 グレイがコロシアムをぼ~っと見上げていると、不意にミュウに服の裾を引っ張られた。どうしたのかと思っていると、ミュウがコロシアムの入り口付近を指差した。

 そこにはミュウの、そしてグレイも見たことがある人物が立っていた。


「あの人、魔術師団の人、です」

「ほんとだ。何かと縁のある人だなぁ」


 ミュウの示した先にいたのは、この間の事件の際に世話になった団員だった。


~~~


「おや? 君達、また会ったね」


 ミーティアの魔術師団、《アトリア》に所属する若き魔術師、ランバック=レクタードは見知った顔の少年少女が近付いてきたことに気付く。


「ども、お疲れ様っす」

「……どうも、です」


 グレイは軽く手を上げて、ミュウはペコリと頭を下げて挨拶する。


「兄妹揃って観戦かい? 仲良さそうで羨ましいよ。二人とも同じアクセサリーを掛けてるしね。しかもそれってかなりレアな魔道具じゃないかい?」

「そうっすよ。先月の月別大会で手に入れたんです」


 グレイは首にかけた十字架のアクセサリーを手に乗せてランバックに見せる。ランバックは「流石はミスリル。豪華だなぁ」と驚嘆した。

 グレイの持つアクセサリーはシンプルな作りをしており、十字の交差している部分に小さな灰色の魔石が填まっている。

 これは先月に行われた月別大会、《トレジャー・ウォーズ》で手に入れた宝の一つだった。


「それよりランバックさんはコロシアムの警備ですか?」

「そうなんだ。今日は学院の生徒さん達や他の町の人達も大勢町に来ているからね。もしものことがないよう、総力を上げて警備に当たっているんだ」

「大変っすね。うちの担任も警備に駆り出されてますよ」

「ん? あぁ、キャサリンさんだね。彼女も警備に当たってくれるのは助かるよ。彼女は先月の騒ぎの時も我々を助けてくれて、町の方でもちょっとした有名人だよ」


 キャサリンのその功績もあったためか、魔術師に対する反感を覚える者はあまり多くは現れなかったとランバックは言う。

 そういえば、とグレイはキャサリンがハイドアウトで働き出した頃から店が繁盛し始めたことを思い出す。つまり、町を救った救世主がメイドをやっているという噂が町中に広まり、その姿を一目見ようと人が沢山集まったのだ。


「それでも、やはり《天神衆》に触発された人達も確かに存在する。最終的に二十や三十くらいの人達は《天神衆》に加わったんじゃないかな」

「結構多いですね……」


 そこでグレイはふとチェルシーのことを思い出す。

 チェルシーも《天神衆》の演説を聞いていた。ハイドアウトにリビュラが何度も訪れていたという話もあった。と言うことは──


「まさか、な……」


 グレイは浮かんだ思考を振り払うように首を振り、話を逸らす。


「と、ところでこの前の事件の犯人は見付かったんですか?」

「うっ、いやぁ、それが……。お恥ずかしながらまだなんだ。目撃情報も錯綜としているし、何より目的が不明なんだ」


 詳しいことは守秘義務があるからと教えてはもらえなかったが、火災が発生した建物は特に重要施設というわけではない、ただの集合住宅であり、そこに住む者達は誰も放火されるような覚えはないという。

 

「誰しも放火される覚えはない、って言うと思いますけどね」

「はは。そりゃそうだ。だから我々は愉快犯か無差別犯の犯行とみて現在捜査しているんだけど、犯人が一般人コモン魔術師レアかもわからない。ローブを被っていたために男か女かもわからない。と、言う風にわからないことばかりで捜査は既に行き詰まっているんだ」

「そうですか……まだ……」


 事件から一週間経つものの、一向に犯人の足取りは掴めず、夜中だったために情報も集まらないのだというランバック。グレイもあの夜のことを思い返してみると、一つ思い出すことがあった。


「そういえば、あの時誰か魔法を使っているのを見たって叫んでた人がいましたよね」

「あぁ、確かにいた。我々もその者を探したんだが、どうもその人物は火災が発生した付近の家に住んでいる、というわけではなかったようなんだ。君の言う通り、その者は確実に犯人を見ているはず。詳しく話を聞きたいと思っているんだけどね……」

「というか、その人は自分から証言しようとしに来ないんですね」

「まあ、彼の口ぶりから典型的な魔術師嫌いなところがあるように見受けられたから、我々のところに来るのを躊躇っているのかもしれないね」


 果たして本当にそうなのだろうか。仮にその目撃者がただの魔術師嫌いなのだとしたら、その犯罪を犯した魔術師を捕まえてもらうために情報を開示してもおかしくないはず。もし直接魔術師団に出向くのが嫌なら投書なりすれば済む話だ。

 しかしどれだけ疑って考えてみても、どれが真実なのかはわからない。捜査を余計混乱させるだけに終わることもあり得る。なので、グレイはその思い浮かんだ可能性をランバックに話すことはなかった。


「マスター。そろそろ、時間では?」

「おっと。そうか。もうすぐ開会式か」

「悪かったねグレイ君。時間を取らせて。あっ、あと犯人は必ず捕まえてみせるから、安心してくれ」

「はい。それじゃよろしくお願いします。行くぞミュウ」

「はい」


 グレイはミュウを連れてコロシアムへと向かっていった。

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