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開幕 前期総集戦 1

第21話

「しっかり反省するんですよ。わかりましたかっ!?」

「へ~い」

「返事は「はい」ですよ! 本当に反省してるんですかっ!? まったく……。先生はこれから会議なので、グレイ君は寮で大人しくしてるんですよ」


 ミーティアで発生した放火事件の翌日。夜遅く帰ってきてすぐに眠りに就いたキャサリンがようやく目覚め、グレイに長々と説教を終えた後、昼からまた大会に関しての会議があると言って寮から出ていった。


 やっと説教から解放されたグレイは組んでいた正座をほどき、足を伸ばす。すると階段からアシュラとエルシアが降りてきた。二人は今回無罪なのでそれぞれの部屋に避難していたのだ。


「キャシーちゃんの説教は終わったようだな」

「ん? あぁ……終わったよ。はぁ~疲れた」

「何言ってんのよ。どっちかと言うとキャシー先生の方が疲れてるでしょうよ。昨日もあんたのせいで寝るの遅かったのに昼からまた会議だなんて」


 それを言われると罪悪感で何も言い返せないグレイは咄嗟に話を変える。


「それよりも。どうやら今日の会議で大会を開催するかどうか決めるらしいな」

「いやぁほんとマジで頼むぜキャシーちゃん。何としてでも大会を開催されるように頑張ってくれ~」

「いや、キャシー先生はまだ新人なんだからそこまで発言力ないんじゃない?」


 キャサリンの説教の中には仕事の愚痴も混ざっており、昨日の夜中に行われた緊急会議の話も聞かされていた。

 しかし、結局昨日のうちでは結論は出ず、今日他のクラスの代表講師も交えての会議を開くことになったのだと言っていた。

 そしてエルシアの言う通り、キャサリンも一講師ではあるが、まだ講師になって間もない新人であり、学院長に反論出来るほどの権力は持ち合わせていない。反論出来る者がいるとすれば、長年講師をしているカーティスや《ドワーフ》代表講師くらいしかいないだろう。


「ま、なるようになるだろ。そんなことより俺はこの一週間をどう生きるかの方が問題だ」


 一週間の寮内謹慎を受けたグレイは本気で何をやって暇を潰そうか考えていた。


「あぁ~あ。せめて図書館くらいは行かせてもらいたいもんだぜ。今借りてる本は全部読んじまったし」

「俺のエロ本でよければ貸すぜ?」

「んなもん貸してんじゃないわよ。てか女の子がいる前で平然とそんな話をするんじゃないっての」

「女の、子……?」

「……何が言いたいのかしら?」

「いや、すぐに銃をぶっぱなす危険人物のことを女の子と呼称するとは夢にも思わなかったからよ」

「ふふ、面白いこと言うのね。ちょっと表出なさいよこのガングロ変態!」

「はっ! 言ったそばからこれからよ。本当に血の気の多い奴だな!」

「おいおい。こんなとこで喧嘩すんなよ。今問題起こせば大会出場停止処分にされるかもしれねえぞ?」


 グレイの一言でエルシアとアシュラはピタリと止まる。こんなつまらないことで大会出場停止なんてことになるのは二人とも望んでいない。エルシアは長く息を吐いて落ち着きを取り戻す。


「それもそうね。こんなアホのせいで私までとばっちりを受けるなんて御免だもの」

「先に仕掛けようとしてきたのはお前だけどな」


 アシュラも浮かしていた腰を下ろしながら嫌味を口にするが、エルシアは拳を震わしながらもなんとか耐えた。


「そういや、前期総集戦ってどんなルールなんだよ? お前ら昨日説明会があったんだろ」


 グレイは場の雰囲気を変えるため、今大会である前期総集戦の内容がどんなものなのか二人に尋ねた。


「そうね。まず大会参加者は三十人なのは知ってるでしょ。それで、その三十人をそれぞれ十人ずつのブロックに分けるの。そして各ブロックでバトルロイヤル形式で戦闘を行って、最後まで立っていた二人が二日目に行われる二回戦に勝ち上がれるの。そして二回戦に勝ち上がった計六人が、ランダムで選ばれた相手と一対一の勝負を行い、そこで勝利した三人が決勝で戦い、そこで優勝者を決めるのよ」

「いやぁ、何度聞いてもめんどくさいルールだよな。いっそのこと三十人全員でバトルロイヤルすりゃいいのによ」

「そんなの無理に決まってるでしょ。それじゃただの混沌とした大会になるわよ」

「だな。それにこの大会はどこか発表会のような側面もあるからな。たった一回の戦いだけで終わらせるわけにもいかないんだろ」

「発表会だぁ? ったく、何だよそれ。ガキかってんだ」


 アシュラはグレイの発した「発表会」というあまり魔術大会に似合わないワードに疑問を抱いた。


「まあ、発表会って言うのは流石にちょっとアレだったけどな。でもアシュラ。この大会が何でミーティアで行われるか、お前わかってるのか?」

「はっ? そりゃ……目立つし、盛り上がるからじゃねえのか?」

「まあ、有り体に言えばその通りだな。ミーティアで大会を行えばそれだけで大々的なイベントになる。加えてミーティアのコロシアムは学院のものより遥かに大きいし、入場料を取ればそれなりに儲かる。それにかこつけて屋台なんかも出るしな。んでもってうちは一応名門校だからな。そこに在籍する生徒達の実力を見るために様々な職種の人達や他の学校関係者が視察しに来ることになる。一年の俺らには少し早い話だが、二年や三年にとっては自分の実力をアピールするにはもってこいなんだ。この大会で良い成績を出せば色んな所から推薦が届いたり、将来の就職選択なんかにも有利になるからな」


 話を聞いたアシュラはなるほどな、と頷く。エルシアが補足して説明を加える。


「そういう視察を目的とした人達のためだけでなく、純粋にイベントとして楽しみにしている人達のためにも一度の戦いだけで一気に終わらせるより、いくつかのブロックに分けて、日程も予選と本選みたいに二日に分けて行われるのよ。その方が盛り上がるし、一人一人の実力をじっくり見られるからね。わかったかしら?」

「何となくな。つまり大会のルールがめんどくせえのはそういう外部の奴等の都合であって俺には関係ない。んでもって俺が優勝するにはライバル全員薙ぎ倒せばいいだけって話だろ? それだけわかってりゃ十分だ」


 何か話が噛み合っていないような気もしたが、間違ってもいないような気もしたので二人はそのまま聞き流した。


「でも、これはまた魔術師らしいルールだな」

「どういうことよ?」

「わからないか? この大会に参加出来る人数は各クラス違ってる。今回で言えば《イフリート》の生徒が一番多く九人。《プレミアム》なんてたった二人だけだ」


 誰かさんが三十一位なんていう成績だったせいでな、というアシュラの皮肉を辛うじて受け流し、話を続ける。


「そして予選。十人ずつの三ブロックに分かれてのバトルロイヤル。恐らくお前ら二人は同じブロックにはならないだろうな。だから孤立無縁状態になる。それに対して《イフリート》は一つのブロックで一人だけになるようなことにはまずないだろう。少なくても同じブロックに二人か三人はいるはずだ。つまり協力して他のクラスの生徒と戦うことが出来るってことさ。加えて参加者はもれなく全員実力者だ。相当苦戦を強いられることになる」


 魔術師はとことん実力主義だ。そして実戦主義でもある。そのため一対三というような状況になったとしても誰も文句を言うことは許されない。


「もちろん二人が強いってのは俺も知ってる。でも、各クラスの序列上位者達も同じくらい強いっていうことも知っている。一対一の状況ならまだしも多対一で、しかも乱戦となると話はまた変わってくる。十分注意しろよ」

「誰に言ってんだっつーの」

「言われなくてもわかってるわよ」


 グレイの忠告を不敵な笑みで返す二人。態度だけを見れば少々調子に乗っているようにも見えるが、内心では今の忠告をしっかりと心に刻んでいるようだった。


「それに、逆に仲間に遠慮することなく暴れられるってことにもなるだろ」

「でもあんまりやり過ぎると次の本選に影響が出るでしょうからほどほどにしないと駄目でしょうけどね」

「まあ、お前らの好きにやればいいさ。俺は高みの見物でもさせてもらうさ」

「高みじゃねえだろ。三十一位」

「あぁ?! いっそここで暴れてお前も道連れにしてやろうか三十位?!」


 再度嫌味を言ってきたアシュラにさすがのグレイもとうとうキレ、二人が睨みあっていると、その二人の間に目を覚ましたミュウが自らの力で姿を現した。


「くぁ……。おはよう、ございます……」

「あっ、ミュウちゃん。おはよ~!」

「「ぶほっ!?」」


 すると今まで我関せずの態度をとっていたエルシアが、グレイとアシュラを突き飛ばし、まだ寝ぼけ眼のミュウに飛び付いた。


「「いってえな! 何すんじゃボケぇ!」」

「うっさい! あんまり大きい声出すんじゃないわよ。ミュウちゃんに迷惑でしょ!」

「あの……苦しい、です……」


 ミュウに一番迷惑をかけているのはミュウを強く抱き締めているエルシアなのだが、エルシア本人は全く気付くことなくそのまま三人のくだらない口喧嘩が始まってしまい、ミュウはその間に挟まれてしまうのであった。

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