定期テスト開始 5
「では本日は実技テストです。皆さん準備はいいですか?」
グレイ達はキャサリンに連れられて旧校舎の練習場へと赴いた。するとそこには見慣れぬ器具が色々と並べられていた。
「おお~。色んなのがあるんだな。で、どれからやるんだキャシーちゃん?」
「まずは、これですね。マジックパワーポインターです。読んで字の如く、魔法の攻撃力を測定する機械です」
「本当にそのまんまなネーミングですね……」
「まあ、そうですね。でもシンプルな方がわかりやすくていいじゃないですか。はい。では誰からやりますか?」
三人は顔を見合わせ、アシュラがまず前に出た。
「そんじゃ俺からやるぜ! んで、どうすりゃいいんだ?」
「別に難しいことはありませんよ。あの丸い的に全力で魔法をぶつけるだけです。あ、あとアークは使わないでくださいね。皆さんの地力を測定しますので」
「はっ! 測定方法もシンプルたぁ気が利いてるな! んじゃ遠慮なく。喰らえ《暗影咬牙》!!」
アシュラの右腕から放たれた黒き影の顎は鋭い牙を剥き出しにしながら丸い的を飲み込み咬み砕く。
「あっ、勢い余って的壊しちまった」
「ななな、なぁ~っ!?」
「あぁ~あ。これってまたキャシーちゃんの給料から差っ引かれるのかね」
「キャシー先生。御愁傷様です」
「嘘っ!? そんなことない……はずですよ。嫌ですよ、払いたくないですよ!?」
「それを俺達に言われてもなぁ……」
なんてことを話しているとアシュラの得点がポインターの上に浮かび上がった。
「そんな……。ご、507ポイント……!?」
「基準がわからんからどうも反応に困るな」
「そうね。高いのか低いのかわからないもの」
「それでキャシーちゃん。どれくらいの点数が出りゃ合格なんだ?」
「そ、そうですね。皆さんはまだ一年生ですし、100ポイントを越えたら十分過ぎなんですが」
そう言いながらキャサリンは細目でアシュラを見る。それを聞いたアシュラは無駄に胸を張りどや顔をした。
「なんせ俺は天才だからなっ!」
「だから災いの方の天災でしょあんたは……。それじゃ次は私がやるわ」
エルシアが肩を竦めながら新たに用意された的の前に立ち、深呼吸する。
「ふぅ。……行きますっ! 《ライトニング・ボルテッカー》!!」
エルシアの放った黎明の光の奔流は的を練習場の端まで吹き飛ばした。
「ひゅ~。相変わらずおっかねえ威力ですなぁ~」
「なに? 挑発してんの? 自分は的を消滅させたくせによく言うわ」
「まあまあ喧嘩しないでください。それで得点は……472ポイントですね。エルシアさんも十分すごいですよ」
「ちっ」
「おいおい、舌打ちはやめろよエリー。小者っぽさが増すぜ」
「あぁっ?!」
「数秒前に喧嘩しないでください。って言いませんでしたかっ!?」
「今更ッスよキャシーちゃん。んじゃ、最後俺行きますよ」
火花を散らすアシュラとエルシアを無視しながらグレイは更に新しく用意された的を睨む。だが、グレイはふと思い出す。
「よく考えたら俺、攻撃魔法なんてないような……一体どうすれば?」
「普通に《リバース・ゼロ》でいいんじゃない?」
「他の魔法はマジでこのテストにゃ使えないしな」
「まあ、そうなるわな。じゃいくぞ。全て等しく無に還れ。《リバース・ゼロ》!」
グレイは右手に無色の魔力を纏わせて、全力で的を殴りつけた。
「「しょぼ」」
「うっせえ! 用はポイントが高けりゃいいんだよ。で、ポイントはっ!?」
エルシアとアシュラの小馬鹿にしたような言葉を無視しポイントを見る。そこには──
「0ポイント、ですね……」
無慈悲なポイントが表示されていた。
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「ぶはははははっ! 0とか、0とかマジかよっ!? なぁ~にが「ポイント高けりゃいいんだよ」だっつ~の! そのポイントにも見放されてんじゃねえかよ。無様~っ!! 《リバース・ゼロ》だからポイントもゼロってか。よく出来てらぁ! ぎゃ~ははははっ!!」
「あ、アシュラ! 笑っちゃ駄目よ。くくっ。グ、グレイだって、気にして、ぶふっ、あははっ!」
「笑ってんじゃねえよ二人とも!! って、おいいっ!? 0って、そりゃないだろ!? 俺、今全力で殴ったんだけど!?」
「あ、いえ。あれは魔力のみを測定するので、腕力は関係ないんですよ……」
アシュラとエルシアに爆笑され、少し赤くなるグレイはキャサリンに詰め寄るが、キャサリンにはどうすることもできない。
結論としてグレイの魔法、《リバース・ゼロ》に攻撃力は全くなかったということだった。
その他のテストでもアシュラとエルシアは好成績を出したのだが、グレイだけ、測定不能や0ポイントが続いた。
しかし流石にそれだとグレイが不憫だということでキャサリンがリールリッドに事情を説明すると。
「なら、全クラスの平均点と同じ点数、ということにしておこう。確かに無属性だからといって成績の点数まで無にしてしまうのはあんまりだからな」
と笑いながら提案し、それに従うことになった。
「ずりぃなおい。ただで平均点ゲットしたようなもんじゃねえか」
「いいだろ別に。俺の《リバース・ゼロ》がありゃお前の攻撃すら消し飛ばせるんだぞ。むしろ最高得点と同じ点数が欲しいところだっての」
「でも助かったわね。これでこのまま点数貰えなかったらその時点で大会出場は出来なかったでしょうから」
「まあ、そうだな。それどころか進級すら危ういし。ほんと、ありがとうございましたキャシーちゃん」
「いえ。いいんですよこれくらい~」
そういうキャサリンは今は若干機嫌がいい。と、言うのも破壊された的の弁償はしないでいい、とのことだったからだ。
何でも、他のクラスでも的がいくつか破壊されたらしく、学院側の経費で補充するそうだ。
その話を聞き、グレイ達は他のクラスの序列上位者達を思い浮かべた。
《イフリート》の一位、レオン=バーミリアン。
《セイレーン》の一位、アルベローナ=アラベスク。
《ハーピィ》の一位、カイン=スプリング。
《ドワーフ》の一位、ウォーロック=レグホーン。
《プレミアム》の三人に全く引けを取らない、本物の実力者達。十中八九彼らも大会へと出場してくることだろう。
「先月は途中で邪魔が入りやがったからな」
「今度こそはきっちり決着を付けてやるわ」
アシュラとエルシアの闘志がメラメラと燃え上がる。そこにグレイは小声で「エルシアはともかく俺とアシュラは大会出れるかすら怪しいがな」と呟いたが、二人の耳には届いていないようだった。
そして実技テスト二日目。だが、この日は《プレミアム》にとってはほぼ意味のない日である。何せ、一日目の測定テスト結果を元に実力の近いクラスメイトと決闘を行う実戦形式のテストなのだ。
その結果次第ではクラス内順位なども少々変動したりする、序列下位の生徒達からすれば序列を上げるチャンスなのである。
だが《プレミアム》の生徒は三人。同じクラスの所属ではあるがそれぞれ属性が違うため、三人ともが序列一位となっている。そのため順位変動も起こらない。
更に彼らの実戦能力の高さはここ数ヵ月の彼らを見ていれば余裕で合格点に達していることがわかる。
なので二日目は普段の彼らの練習とさほど変わらない三つ巴の戦闘訓練をするだけだった。
当然、三人ともが余裕で合格点を叩き出し、ようやく彼らの定期テストは終了した。
そしてその二日後、全クラスの成績が出て、それぞれ筆記、実技、総合点が発表されることになる。
「さて皆さん。心の準備は出来てますか。もう一度言っておきますが、今回の月別大会は総合学年順位が三十位以内の者しか出場出来ません。敗者復活戦もないですよ。泣いても笑っても変動はありませんからね」
キャサリンは念を押すように再度説明する。三人とも神妙に頷き、キャサリンからそれぞれの結果の書かれた紙を手渡された。
「じゃ、一斉に発表するか」
「ま、私は余裕だろうけど」
「めんどくせえな、ったく」
そう言って三人はせーの、で互いの点数を見せあった。




