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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
一章 トライデント・プレミアム
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問題児達の実力 1

第3話

「さて。何か申し開きはあるかね、君達?」


 昼休み。グレイ、エルシア、アシュラ、ミュウ、そしてキャサリンは学院長室に呼び出されていた。

 理由は明白。先程の騒ぎの件についてだ。


 リールリッド学院長は椅子に座りながら三人を見る。そして三人はふてぶてしい態度で同時に口を開いた。


「「「反省はしていない。後悔もしていない。ついでに言うなら謝罪する気も毛頭ない」」」

「……ない」


 一言一句違わずタイミングまでバッチリ揃ったその台詞は、逆にとても清々しく感じるほどだった。

 ミュウだけは最後の言葉だけを続けて言った。


「ななななっ!? 何でそんな息ぴったりなんですか!? いつ!? いつ打ち合わせしたんです!? 先生の見ていない間に打ち合わせしたんでしょ!」


 キャサリンは慌てて手を振り学院長と生徒の間に滑り込む。


「違うんです学院長。この子達もちゃんと反省しているんです。今はちょっと、そう! 噛んじゃっただけなんです!」

「「「いえ。噛んでません。本心です」」」

「もうっ! 何で言っちゃうの! ここは上部(うわべ)だけ取り繕っておけばいいの! そうすれば面倒なことにならずに済むのに!」


 そのキャサリンの考えもどうかといった感じだった。キャサリンは自分の失言に気付き、ばっと口を手で塞ぐが時既に遅しである。


「ふはは。ほんと面白いね君達は。ついでにキャサリン先生も」


 減給される。そう悟ったキャサリンだった。

 しかし、リールリッドはそんなキャサリンの落胆には目もくれず、生徒三人と、見慣れぬ少女を見る。


「彼女は?」

「俺の妹です」


 リールリッドの質問にグレイは即答する。リールリッドはふうん、と言いながらミュウを見つめたが、特に何も言わずに本題に入った。


「今回の騒動、非は向こうにあるとはいえ、君達が先に手を出してしまったことには代わりない。だから君達にも非はあるということはわかるね?」

「いんや、わかんねえっすね。ならあんたは黙ってミュウちゃんがひっぱたかれるのを見ておけば良かったとでも?」


 アシュラは苛立ちを覚えながら、乱暴な口調で返す。


「ふむ。確かに君の言うこともわかる。そればかりは私とて看過できるものではない」


 リールリッドは頷きながら、ミュウを見る。

 見た感じでは彼女はまだ子供。子供に手を上げることをただただ見ていろとは到底言えないし、言わない。


「だがやり返し方が良くない。過剰防衛というものもあるのだよ。君達なら彼の手を止めるだけにとどめることも出来たのではないか?」

「過剰、ですか、あれが。むしろあれぐらいで済んで感謝してもらいたいくらいですが」


 エルシアは睨むような目付きをしながら口答えする。

 あれぐらい、というのは顔と腹部を全力で蹴り、不意打ち気味にアッパーしたことを指している。ついでに床に落ちた時に軽く頭も打っている。

 幸い、骨や内臓に損傷はなかったが、気絶してしまい、現在ギャバルは保健室にて魔道具による治療を受けている。おそらくすぐに回復するだろう。


「君の中ではそうでも、世間一般で言えば、あれはやり過ぎな部類に入るんだよ。すべての事柄を自分の物差しで測るのはやめたまえ。共通認識を持つことだ」

「はぁ。なら俺達が『落ちこぼれ』だというこの学院、つまり小さな世間の中で共通認識となりつつある偏見は容認すると? 仮にも学院の長ともあろう御方が?」


 グレイは半目で座っているリールリッドを見下した。仮にも学院の長である彼女をだ。


 一切の反省の気持ちのない三人をオロオロしながら見守っていたキャサリンだが、反抗的に過ぎる三人の態度に気を失いそうだった。

 だが、リールリッドはさも愉快そうに笑う。


「横柄で生意気で反抗的な子達だね、全く。カーティス先生やキャサリン先生が苦労するのも頷けるというものだ。私に対してこんな態度を取れる生徒は他にいないだろうな。おそらく、講師であってもそうはいない」


 手で口元を隠しながら笑うリールリッド。だが、次の瞬間には部屋の中の空気がいきなり重みを増したかのような重圧感に襲われた。


「だが、あまり調子に乗るなよガキ共」


 低く重い声が響き、その場にいる全員が硬直する。これは魔法ではなく、リールリッドの放つ威圧と覇気によるものだった。

 そう。このリールリッドは仮でも何でもなく、正真正銘のミスリル魔法学院の長である。

 決して一生徒が生意気な態度で接して良い人間ではない。


 グレイ達は体中から汗を噴き出し、目の前のリールリッドを見つめる。否、目を逸らすことすら出来ずにいた。


 そんな一瞬とも一分とも一時間とも感じられる重圧は、しかし急に無くなり、グレイ達は膝を屈しそうになりながら、なんとか耐える。


「ほう。耐えたか。有能有能」


 リールリッドは子供をあやすかのように拍手する。

 その態度にムカつく余裕すらない三人とキャサリンがリールリッドを見つめる中、ミュウだけが平然と立っていた。

 どうやらリールリッドはミュウにだけは威圧していなかったらしい。威圧する相手を選べる。それがどれだけの技術なのかわからないほど三人は愚かではない。


「これを耐えるとは確かに君達は落ちこぼれなんかじゃないようだ。なら、こうしようではないか」


 リールリッドは周りを気にする素振りもないまま、さも名案を思い付いたと言わんばかりに提案してきた。


「君達、彼らと決闘したまえ。勝てば謝らずに済むし、逆に向こうに謝らせることにすればいい。そして勝てば落ちこぼれだなんだというくだらん噂は消えるだろう。しかし、負ければ君達が彼らに謝る。どうだ?」


 返事をする余裕はまだ無かった。が、文句も無かった。


~~~


 決闘は本日の六時間目となった。今は五時間目の時間で、グレイ達は旧校舎に戻っていた。


 この学院では些細な争いが頻繁的に起こる。

 そうした場合の解決方法として、決闘というシステムを推奨している。

 決闘は原則、講師一人以上の承認を必要とし、両者が認めた条件の下、講師の監視付きで行われるものである。

 しかし今回はリールリッドの独断で、両者アーク無しでの三対三のチーム戦という決闘方式となった。

 アークを無しとした理由は《プレミアム・レア》の三人がまだアークに慣れていないからという理由だ。


 グレイ達自身は別にアークありでも構わないと思っていたが、ミュウのこともあるので、とやかく言うことはしなかった。

 ちなみに今ミュウはグレイのエレメンタル・コアに戻っている。不思議なことに着ている服ごと。


 まだ誰にもバレてはいないとはいえ、ミュウはグレイのアークであり、アークが顕現されている時、持ち主の魔力は上昇する。

 なので後々バレた時に変なケチを付けられたくはないので、ミュウにはエレメンタル・コアに戻ってもらったのだ。


 グレイ達は一通り作戦を考えていると、五時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。


~~~


 決闘の場所は闘技場となった。

 グレイ達が闘技場に着くと、そこには既に例の三人と、《イフリート》の代表講師であるファラン、そして多くの野次馬の生徒達が客席に座っていた。

 《イフリート》の生徒だけでなく、他のクラスの生徒や、先輩、講師達の姿もあった。

 全員、未だ知らぬ《プレミアム》の実力を確かめたいがために、この闘技場に訪れたのである。


 そしてこの闘技場では、魔法大会なども行われる。

 現在、行われた大会は「クラス内ランキング戦」と、その上位者達による「クラス対抗戦」の二つだ。

 ちなみにクラス対抗戦に《プレミアム》の面々は参加していない。

 何故なら、その大会はアークの使用許可が出ていたからだ。

 グレイ達はハンデありでもいい、と言っていたが、結局危険だと判断され大会に参加することは出来なかった。

 そのクラス対抗戦に出なかったが故に、《プレミアム》はアークも持っていないような落ちこぼれ達のクラスなどと呼ばれるようになったのであった。


「来ましたね。では、早速始めましょう。こんなくだらない決闘で時間を無駄にしたくないので」


 ファランは《プレミアム》の三人が到着するや否や決闘を始めさせようとした。


 慌ててキャサリンがファランをなだめる。


「ま、まずはちゃんと今回のルール説明と勝者への権利の確認からでは……」

「それくらいわかっています。いちいち口を挟まないでください」

「ご、ごめんなさいっ!」


 ファランにギロッと睨まれたキャサリンは萎縮してしまい、大人しくなる。その姿はまるで子供が怯えているように見えた。


「おいおい、ファランせんせ~。うちのキャシーちゃんを苛めないで貰えます?」

「静かにしなさい。それでは決闘のルールを説明します。アーク無しの三対三の勝負。ギブアップか三人とも戦闘不能になるかで決闘は終了。敗者は勝者に自らの非を認め謝罪すること。よろしいですね?」


 六人は全員無言のまま頷いた。アシュラだけが生意気な態度だったが、ファランは無視した。


「では、それぞれ名乗りを上げなさい。まず《イフリート》から」


 決闘を行う場合、自らの名とクラス内ランキングを言うのが決まりとなっている。

 ファランから促された《イフリート》の三人が順に名乗りを上げた。


「《イフリート》序列二十二位。ギャバル=ジェンダー」

「《イフリート》序列二十八位。サブ=ヘンリー」

「《イフリート》序列三十五位。ニック=タングストン」


 《イフリート》の三人の名乗りを聞き終えた《プレミアム》の三人は、何故か全員が溜め息を吐いた。


「微妙だな、おい。こんなんで俺らの強さとか示せねえだろ」

「たしか一クラスだいたい五十人いるんだっけか?」

「そうね。ってことはあの中で一番強い汚物以下もクラス内序列は半分よりちょっと上程度ってことね。ショボすぎにも程があるわ」


 三人は更にもう一つ溜め息を吐いた後、ファランとギャバル達がギロリと睨み、キャサリンに注意されたのでグレイ達も順番にやる気の無さそうな声で名乗りを上げた。


「《プレミアム》闇属性 序列一位。アシュラ=ドルトローゼ」

「《プレミアム》光属性 序列一位。エルシア=セレナイト」

「《プレミアム》無属性 序列一位。グレイ=ノーヴァス」


 その名乗りを聞いた観客から笑い声が響いた。

 全員が一位を名乗れるのは、他に同じ属性の者がいないからという理由の癖にそれをさも自慢するかのような口振りが可笑しかったのだ。

 だが、本人達は周りの声を気にすることはなく、目の前の三人を見据える。


 決闘前の名乗りが終わり、ファランが魔法を上空に向けて放つ。それが空中にて弾けた瞬間、それが決闘開始の合図となった。


「決闘、開始!」

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