三人の稀少な問題児達 1
第1話
かつてこの世は戦乱で満ちていた。
《精霊戦争》と呼ばれたその戦争は、四体の精霊と、その眷属が世界各地で争いあう凄惨なものだった。
火の精霊《サラマンダー》とその眷属《イフリート》。
水の精霊《ウンディーネ》とその眷属《セイレーン》。
風の精霊《シルフ》とその眷属《ハーピィ》。
土の精霊《ノーム》とその眷属《ドワーフ》。
精霊達の使う魔法は世界を業火で焼き、洪水で飲み込み、暴風で荒し、地震で崩した。
その被害を一番に受けたのは、魔力を持たない非力な《人間》だった。
しかし、《精霊戦争》を終わらせたのもまた、その《人間》であった。
やがて精霊は消え、眷属達も眠りに就いた。
だが、世界は《精霊戦争》の傷痕を深く残し、世界は魔力が満ち溢れるようになった。
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「──で、あるからして。長い時の中で人間は進化し、一部の人間は大気に混ざる魔素、マナを体内に宿すことが可能となり、それにより魔法が使えるように──」
「はい」
黒板の前に立つ初老の講師が、生徒の声に気付き振り返る。
手を上げていたのは白く透き通るような肌と美しく腰まである白い髪、宝石のような青い瞳をした少女── エルシア=セレナイトだった。
「どうしましたかエルシアさん」
質問とは熱心なことだと講師は笑顔でエルシアを名指しする。するとエルシアは律儀に立ち上がって質問をした。
「ちょっと質問なんですが、精霊とは一体何なんですか? そもそもどうやって生まれたんですか? 眷属はどうやって生まれたんですか? それに、そんな精霊達の戦争をどうやって魔力を持っていなかった人間が止めることが出来たんですか? 精霊は消えたとか言ってましたが、一体どうなったんですか? あとそれから──」
「ち、ちょっと待ちなさい。質問は一つずつしなさい。それに、これらのことはまだ解明されていないことばかりだから説明は難しいのです。私の見解でいいなら──」
「はぁ、じゃあもういいですありがとうございました。すみません時間を取らせて」
エルシアの立て続けの質問にたじろぎながら、それでも自分なりの見解を述べようとすると、エルシアは突然手のひらを返したかのように質問を取り消し、淡々と礼を言ってから椅子に座り直し、手元の教科書に視線を戻した。
そんなエルシアの態度に少しだけ苛立ちを覚えた講師だったが、気を取り直して授業を再開しようとすると、エルシアの左隣に座っていた少年が手を上げた。
褐色の肌、ボサボサの黒い髪、目付きは鋭く、血のように赤い瞳を持つ少年──アシュラ=ドルトローゼは真剣な表情で講師に質問した。
「精霊ってのは……女か? 美人か? 胸はあるのか? っつーか、眷属はどうなんだ? 好みの男のタイプとかあんのか? そもそもちゃんとデキるのか? あんたの見解をぜひ聞きたいんだが」
真面目な顔をしながら不純極まりない発言を連発し、あまつさえ講師の見解を求めてきた。
軽く目眩がしてきた講師はアシュラを無視し、授業を続けようとするが、アシュラは食い下がる。
「ちょっ、おい! 無視すんなよ! これ結構重要なことだろ!? 生徒の素朴な疑問にはちゃんと誠意をもって答えろよ!」
言葉使いや態度はともかく、アシュラの言葉も一理あった。
確かに精霊や眷属達の姿には諸説あり、動物のような姿をしていたり、アシュラの言うような女神の姿で表現されていることもある。
しかし、やはり真実は謎のままなのであった。講師は丁寧にそう説明するとアシュラは大きく溜め息を吐き、毒を吐いた。
「はっ! なんだよ、わかんねえことばっかかよ。これなら俺でも講師になれそうだわ」
そう言うとアシュラは机に足を乗せ、退屈そうに窓の外を眺め始めた。
その態度にかなりの苛立ちを覚えたが、ぐっと堪えて再度チョークを握る。
そこに、エルシアの右隣に座る少年が手を上げた。
くすんだ灰色の髪と目をした、他の二人に比べ、まだ一般的な雰囲気を纏う少年──グレイ=ノーヴァスは眠たげな目をしながら言った。
「授業つまらないし、しかもかなり眠いんで帰っていいすか?」
その瞬間、講師の堪忍袋の緒が切れた。講師の怒鳴り声が三人、講師を入れても四人しかいない無駄に広い教室に響いた。