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私とメッシュ

 翌日、目を覚ました私達は母が上がって来ないうちに今日の方針を決めるべく会議を始めた。


「オレとしてはこのまま女として生きていくのもアリだと思っている」


 満面の笑顔で晴れやかにそう告げる姉に迷いはないようだった。

 うむ。安心してほしい。私もそこに異論を挟むつもりはない。

 けれど女の子になっちゃった。テヘペロ。で終わるほど世の中大雑把に出来てはいないのだ。当然そこには様々な問題がある。

 まず戸籍が男の子になっている。しかも姉の通う学校は男子校だ。

 通うだけなら合法とはいえ身体が女の子だとバレてしまった場合どういう事になるかは想像に難くない。けしからん学校だし。

 そもそも同じ学校に通う男子約一名にはすでにバレている。


「武山か……」


 そう。現状最も黒に近い人物だ。

 そもそも私達は起こった現象に対して何の情報も持っていない。

 このままでいられるのか、はたまた自然と元に戻ってしまうのかもわからない。

 今朝目が覚めた時点で元に戻っていた可能性だってあったのだ。

 そうなった時はあられもない兄の姿をデジカメで撮って弱みを握るつもりだったので私としては問題なかったのだが。


「早急に調べないとな……」


 声には出ていなかったはずだけど、私の表情から何かを察したらしい姉が頬を引きつらせて呟いた。

 冗談はさておき、武山君が黒でも白でも話を聞く必要はあると思う。

 犯人であれば戻し方を知っている可能性は高いし、違うとしても姉の事を知っていた理由は気になる。

 まああの変態に話が通じるかという問題はあるけどね……

 昨夜の事を思い出し不安が過ぎった私に姉が優しい笑顔を浮かべる。


「大丈夫だよ。また襲ってきても真夏には手を出させないから」


 不意打ちにそんな事を言われて思わず顔を背けてしまった。

 私はお姉ちゃんの心配をしてるんだよっ!


「う~ん、確かにオレも腕力ではあいつに勝てる気しないな。まずは電話で話してみるか?」


 なるほど。確かに話を聞くだけなら電話だけで十分だ。

 じゃあ調査についてはとりあえずその方向で進めよっか。

 私が言うと姉は「ラジャー」と敬礼を返して早速携帯電話を取り出した。

 そして電話を掛けようとする姉に私は慌てて待ったをかけた。時間はまだ早朝。電話を掛けるには少々非常識な時間帯だ。


「そんな気を遣わなくてもいいと思うけどな~」


 姉は暢気にそんな事を言っているがイニシアチブは向こうが持っているのだ。

 機嫌を損ねるような真似は極力避けた方が良いに決まってる。

 私は携帯を取り上げ、勝手に電話しないようにパジャマのぽっけにしまい込んだ。

 電話で話すだけにしても相手の得体が知れない以上ある程度の準備というか対策はしておいた方が良いと思うんだよ、うん。

 そんなわけで今日は午前中に準備を整え、午後になってから武山君に電話をする事になった。


 さて、方針は決まったし時間はまだまだある。

 時間があって出掛ける予定があるならば、やらなきゃいけない事がある。


 それでは皆様、待ちに待ったあの時間と行きましょう!

 私の、私による、私の為の、お姉ちゃん着せ替えターイム!

 わー、ドンドンドン、パフパフ!

 テンション高く一人盛り上がる私。対照的に姉の表情は暗くなっているが気にしてはいけない。

 昨夜は疲れて眠ってしまったが姉を見た瞬間からずっと私はこの時を待っていたのだ。


「お、お手柔らかにお願いします」


 若干青い顔をした姉が何か言ったような気がしたが私の耳には入って来ない。

 タンスから収納ボックスから、思いつく限りの服を漁ってパーツを床に並べてゆく。

 コーディネイトのコンセプトは『違和感』だ。

 姉が普段着ているようなTシャツYシャツロングパンツの類は排除。

 男の子が絶対に着ないミニスカ、ワンピ、キュロット、オフショル、シースルー、ヘソ出し等を基準に合わせようと思う。

 もちろん早く女の子としての生活に慣れて欲しいと願う妹としての好意を装った羞恥プレイである。


 とはいえ私も鬼ではない。

 おしゃれをするのは楽しいが着せられた衣装では楽しみも半減するというもの。

 故に私は最初のパーツ、基準となるそれだけは姉に選ばせてあげようと思うのである。

 さ、そんなわけなのでこの中からどれか一つ好きなのを選んでくれたまい。

 そう言って私が示したのは先に挙げた6種類のパーツである。

 その一つ一つを手にとって確認した姉が複雑な表情をしていたような気もしたがそんな事はなかったぜ。


 唸りながら悩む事二十分。

 姉が選んだのは唯一上下が繋がっていて出来上がりが想像し易いワンピースだった。

 私はそれを姉の手から恭しく受け取ると綺麗に畳んでタンスの引き出しに戻した。


「おい」


 姉が私に抗議するような声を上げる。

 言い忘れていましたが、消去法です。

 にこやかな笑顔を作りながら言う私に尚も抗議の声を上げる姉。

 けれどこの場のイニシアチブを持っているのは私だ。私こそがルールなのだ。

 そう言い切って改めて残り5種類になったパーツから好きなものを選ぶよう姉に強要した。


 釈然としない表情を浮かべながらも先ほどより時間を短縮して姉が次に選んだのはミニスカートだった。

 私は再び姉の手からそのミニスカートを恭しく受け取ると小脇に置いて、残った4種類をタンスの中へと戻した。


「おいぃぃっ!」


 自分で選んだにも関わらず何故か抗議の声を上げる姉。

 姉があんまり不満そうな表情をするからルールを改めたというのに何が不満なのだろうか。

 私は姉の我侭に付き合っていたら日が暮れる気がしたので心を鬼にして敢えて無視する事にした。


 さて、姉が自らの意思で選んで寄越したのは爽やかな水色を基調とした夏らしいミニスカートだ。

 白いTシャツが一番合うようなカジュアルな奴なのだが、今回はTシャツNGとなっている。

 となるとカジュアル感を抑えてタイトなノースリーブかオフショルとかどうだろう。

 考えながら私は新たにタンスからいくつかのアイテムを取り出してミニスカートと一緒に姉に渡すと着替えるように伝えた。


 ノースリーブは中々良い感じだったが考えてみればただの袖のないTシャツなので没。

 オフショルは肩が露出するところまで襟の開いた服なので違和感という意味ではかなりあると思う。

 けれどそもそも私があまり好きではないので数を持っておらず、純粋な白がなかったので色の組み合わせが微妙だった。

 ん~む。黒のボーダーくらいなら許容範囲かなぁ。でもこのままだと妥協感が半端ないよね。

 

 悪くないまでも今一つ姉の魅力を引き出し切れない組み合わせに頭を悩ませる。

 何か解決出来る様なアイテムがないかと再び収納を漁ってみるが、白は少しでも汚れると目立って着られなくなってしまうので基本的に部屋着に使っているヨレヨレなものがほとんどだった。

 いっそ黒にしようか。

 基本的には白を合わせた方が爽やかさが出て良いのだが黒を合わせるのもネオン調っぽくなって、それはそれで悪くないのだ。

 ああ~、けど姉に着せるならやっぱり爽やかな白の方が~……


「なあ、そっちのハンガーラックは見ないのか?」


 これという答えが出せずタンスと収納BOXの間を行ったり来たりしていた私に暇を持て余したのか姉が声を掛けて来た。

 姉の言っているのは廊下側の壁際に置いてあるハンガーラックの事だが、そこに掛けてあるのは冬用のコートとかブレザーとかの畳めない服ばかりだ。基本冬用なので七月に好んで着るようなものではない。

 けれど私は掛かっている服の9割以上が黒い中に一着だけ白い色が混ざっているのを見つけて眉をひそめた。

 あんなのあったっけ?

 手にとって見るとそれはセーターのような形をした白い網だった。網といっても虫を採るような目の細かいものではなく、カニカマくらいの太さの紐で魚を獲るような大雑把な目を編んであるシースルー以上にスルーな網だ。それが複雑に組み合わされて袖の長い服のような形を作っているのである。

 ふむ。そっか。これがあったか。

 私はハンガーに引っかかってしまいそうなそれを慎重に抜き取ると、チューブトップの見せブラと合わせて姉に手渡し着替えさせた。

 一応ブラをつけるので見えないように後ろを向かされ待つ事しばし。

 声を掛けられてから振り向いて見るとそこには雑誌のモデルのような格好になった姉の姿があった。

 白と水色の組み合わせで爽やかさはそのままに、網目から覗くブラと素肌が幼さと色気を同時にかもし出している。

 その完璧なまでのコーディネイトに私は思わずガッツポーズを決めた。


「え、まさかこれで決まりなのか?」


 姉が焦った声で私に聞いてくるがもはやそれ以外の服を着させるつもりはない。

 まあ、露出が多すぎて日差しが怖くはあるけれどカーテンの外を見る限りでは今日は曇りのようだし大丈夫だよ。

 そう言って励ます私の言葉に姉はどこか諦めたような遠い目をして聞き流したのだった。


章分けというのをやってみましたが上手くいってるんでしょうか?

やってみたかっただけなので不評だったら直します~


ご覧いただきありがとうございました!

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