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私と応急処置

「安心しろ。峰打ちだ」

「ハク兄それ言いたいだけっしょ」


 自体が飲み込めずただ立ち尽くしていた私に場違いなほど茶らけた声がかけられた。見ると部屋の入り口のから階下で芋虫にされているはずの一組の男女の姿が覗いている。

 峰打ちか。安心した。なんて返せるほど私の心は穏やかではない。

 ほとんどへたり込むように座って武山さんの髪を搔き上げ出血元の患部を探る。幸い傷は耳の上の方の髪に隠れたの部分のようで目立つ位置ではないけれど、出血はかなりのものだった。

 慌ててそこらにあった布を押し当て圧迫止血を行う。すると白い生地が生々しい赤に染まりはしたものの、それ以上どんどん広がっていくという事はなく確かに傷は浅いようだった。一応ちゃんと脈があるかどうか彼女の胸に耳を押し当てて確認したが、暖かくて柔らかかった。

 ほっとすると同時に怒りがこみ上げてくる。


 なんて事すんだ! 傷でも残ったらどうするの? 責任とって……嫁にはやらんぞ!


 患部を押さえる両手は固定したまま首だけで振り返って喚き散らす。自分でも何を言ってるかはよくわからない。とにかく、なんかもう、叩く代わりに叫んだような感じだった。

 その憤怒を体言したような私の様子に恐れをなしたのか、ハクさんはおもちゃの銃を構えたまま黙り、ハルネ先輩も一歩後ずさった。


「泣かんでも…………」


 おい、誤解を生むような事言うな。泣いてなんかないやい。ちょっと驚いて涙腺がちびっただけだ。何言ってんだ私。


 喋りながら意味不明な事に気付き自分で突っ込みを入れて冷静になるよう努める。

 言葉を重ねると自滅するのがわかったので代わりに二人を非難するように睨み付ける事にした。


「自分の置かれた立場がわかってないようだね」


 その視線をさらりと受け流してハルネ先輩が言う。

 身体はハクさんに……というよりおもちゃの銃を展示する為のマネキン的なものに絡みつくような感じで熱い視線を銃に固定したままエロい動きを見せつけながら続ける。


「このエアガンはちょ~っと違法に改造してあってね。当たり所が悪ければそいつみたいに怪我じゃ済まない場合もあるんだ。目に突きつけられた時は本当に…………本当に怖かったよう……」


 その時の事を思い出したのか、一転して青ざめた表情で言いながら傍らのハクさんにすがりつくハルネ先輩。

 くっ、こんな時でもカワイイとか思ってしまう自分の性癖が憎いっ。

 ハクさんはやれやれといった表情を浮かべ空いてる方の手でハルネ先輩の背中をぽんぽん叩きながら話の続きを引き取った。


「傷つけたのは悪かったがそっちの子は油断ならないからな。なるべく目立たない位置を狙ったんだ、勘弁してくれ」


 するか。

 どんな理由があろうと配慮されていようと女の子を傷つける男を許せるほど私の心は広くない。

 すぐにでも引っぱたいてやりたいところだけど、今は武山さんの止血が優先だ。時間稼ぎの意味も含めて少し話してみる事にする。


 割ときつく縛ったつもりだったんだけど、どうやって抜け出したの?


「どんなきつく縛ったってモノがコードじゃ時間の問題さ。せめてもう少し摩擦係数の高いもん選ぶんだね」


 答えたのはハルネ先輩だった。他にも縛られた経験がおありなんですかねぇ。

 丈夫なひも状のものという条件で真っ先に思いついたのがコードだったのだけど、今思えば確かに結ぶ時からつるつるして結びにくいとは思っていた。とはいえ指が届く場所で結ぶわけもなく抜けられるとはこれっぽっちも思っていなかった。

 その結果がこれか。

 視線を再び落とすと武山さんの血で濡れた自分の手が目に入り、じくりと胸が痛んだ。


「そんな事より随分興味深い話を聞かせてもらった。今ひとつ理解できない部分もあったが、要するにデータを保管してるのは武山さんの方だったわけだ」


 私の悔恨はしかしすぐにハクさんの言葉で中断させられる。視線を移すと彼は私の下でぐったりしている武山さんを見ていた。

 深く考えていなかったけどそういえばそうだ。白金の記憶を追体験するというのはつまりデータ上の彼の人生を再生するという事なのだ。それが出来るという事はデータを保管しているというのに他ならない。

 その事を私が理解すると同時にハクさんは部屋の中に踏み込んできた。

 ――――――――まずい。

 正直な話、データに関して何の情報も有していない私は彼等にとってすでに不要な人間。彼等の所業を知っている分だけ邪魔ですらあるだろう。となると武山さんだけ連れてこの廃屋から逃げるのが彼等にとって一番良い選択だ。

 そうなると私はいつ帰れるのかわからなくなる。いや、それ以前に私のせいで怪我をしたといってもいい武山さんを放っておけるほど私も図太くない。

 私はとっさに身体を反転させ、武山さんを背に庇うように立ち上がった。

 頭一個分高いハクさんの身体が間近に迫る。


「どいてくれないか。悪いが遊びじゃないんだ」


 そんな事は最初からわかってます。けど、こんな状態の彼女をあなた方には任せられません。


 きっぱりと言ってハクさんの目を睨みつける。内心はどっきどきである。いや甘酸っぱい意味じゃなくてね。

 立ちふさがったまま微動だにせず、ハルネ先輩に嘲笑されても無視して睨み続ける私に対し、ハクさんもらちが明かないと思ったのかやがて強硬手段に出てきた。

 何をされたかはわからなかったのだが、手をとられたかと思うと突然ふわっとした浮遊感があって気付けばソファの上に横たえられていたのである。世界がぐるっと回った気もするので投げられたのかもしれない。

 とにかく何だかわからないうちに私はソファに横になっていて目の前にはハクさんの顔と、そしてその喉元にカッターナイフを突きつける武山さんの姿があった。


こんな喋り方だったっけ? ま、まあいっか。

ご覧いただきありがとうございました!

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