私とタネ明かし
私は真夏だよ。篠宮真夏。白金でも真冬でもない。
自分としてはかなり酷い事を言ったつもりになっていたのだけど、彼女はそれを予期していたかのように答えた。
「そうだね。これはオレの希望なのかもしれない。願望かな。けど確信してる。君こそがあっちの世界における白金真冬の魂を持つ者だ」
どうしてそうなるかな。
理解し難い言い分だった。本人に理解させる気も説明する気もないのだから当然だ。武山さん自身理解できない感覚的なものなのだろう。何かを期待するような熱い眼差しが私に向けられている。
美少女に言い寄られるというシチュエーションは私的にまんざらでもないのだけど、この若さで道を踏み外すつもりはないのでガチユリ展開はご勘弁願いたい。いやそれどころかもし元の世界に戻れたとしたらあの残念な変態イケメソになってしまうんだった。これは早いトコ誤解をといておかなければ私の貞操が危うい。
いや、なんでそんな風に思ったのか知らないけど無理があるでしょ。そもそもちゃんと真冬は真冬でいるんだし。
「そんな事ないっ!」
思いの外、強い言葉が返って来た。否定というより拒絶に近いような。
その勢いにびっくりして身を竦ませると武山さんはごめんと呟いて自省するように前髪をかき上げた。うひぃ、色っぽい。
「この四日ずっと考えてたんだ」
そうして武山さんはその結論に至った経緯を語ってくれた。
出会った時はもちろん私を真冬だと思っていたわけだけれど、最初からいつもより白金に近い感じはしていたらしい。
そしてその理由を確かめる為に私に近づき心のままに暴走を始めたところで本物の真冬が現れた。そこで彼は混乱しているのを取り繕おうとして咄嗟に目の前から消え去るという演出を思いついたそうだ。
って、あれ思いつきだったんかい。どうやったら咄嗟の思いつきでテレポート出来るようになるのさ。
「テレポートって。あれは別に大した事じゃなくてブランコが目線を遮るのに合わせて視界の外まで移動してうずくまってただけだよ。だから君等が抱き合った格好のまま面白い走り方で帰っていったのも見てたし」
マジでぇっ!?
お恥ずかしいところをお見せしていたようである。いや実際どうだったかは自分ではわかんないんだけどね。
しかし実情を聞いてみると武山君は武山君でかなり情けない格好だったみたいなのでお互い様という事にしておこう。
その後一晩悶々と考えた武山君は、この時点ですでに私が白金である可能性を見出して翌日から早速接触を試みたというわけだった。
やたら絡んで来てたのはそういう理由だったのね。
「いや? 絡んでいったのはまなっちゃんが好きだからだよ?」
この流れで言われても嬉しくないし!
空気読めと言いたい。まったく……
それから話したりしてるうちにだんだんと疑惑を深めてゆき、今日こちらの世界に来たのが私だと知って確信に至ったらしい。
なんでこっちの世界に来たら私が白金さんだって事になるのさ?
「さっきも言ったけど当初の予定では真夏Bが来るはずだったんだよ。その過程で身体と魂が引き合って真冬が来る可能性も高かった。君が来る可能性は一番低かったんだよ」
え、でも真夏Bが何かしたからこっちに飛ばされたんじゃないの?
「そりゃあもちろん。術式を展開しないと来られないからね。ただ真夏Bの身体に真冬が入ってる時点でどちらが来るかはわからなくなってた。世界の因果に引かれて真夏Bが来るか、身体に引かれて真冬が来るか。結果、来たのは君だった」
私はそこがわからないんだけど、どうして私が来るハメになったの? 私が白金さんだったとしてら余計こっちの世界には来らんなくない?
「真夏Bが行った術のせいだろうね。彼女は当然、白金真冬に対応する魂を送るよう術式を組んだはずだからね」
白金真冬に対応する魂を送る…………? でも、だとしたら、あれは? あの、昨夜眠る直前に言われた『よい旅を』っていう真夏Bの台詞はなんだったの?
あの台詞がこちらの世界に向かう私に向けられたものだとしたら考えられる可能性は二つ。
一つは白金真冬の魂を持つのが私だと思っていたという可能性。
もう一つがそもそも私を送るつもりだった可能性だ。
私をこちらの世界に送ってしまえば向こうに残された私の身体は真夏Bの自由に出来る。住む世界にこだわらなければそのまま向こうで生きていく事だって可能なのだ。
その点について武山さんに聞いてみると顎に指を当てて考え始めた。
「そうか。君が白金だって決めつけてたから気付かなかったけど君をターゲットにしたって事も考えられるのか」
まったく思いもしなかったという様子で呟く。
まあ彼女が考えつかなかったのも無理はない。私だって話を聞いて日記を見ただけだけどそれだけでも真夏Bが白金真冬の復活にかける執念的なものは感じている。そんな彼女が途中で目的を放棄するのも考え難いし、現段階で放棄するのは彼女にとってデメリットしか残らない。
それでも敢えて言ったのは武山さんにちょっと冷静になってもらって、もっと他の可能性がないかを考えてもらう為だった。
何か魔術師の視点から他に思いつく可能性ってないかね?
「う~ん、彼女が向こうの世界に残るメリットって特に思い当たらないけど…………逆に君をこちらに来させる事に意味があるとか?」
意味って?
「いや、そこまではわからないけど……旅ってのは帰る場所がある事が前提だからさ。放逐するなら別れの言葉になるはずだろう?」
そんなに深く考えてないんじゃない?
「彼女が魔術師じゃなければそれも考えられるけど魔術師である以上、言霊ってのは大事だからね」
さいですか。
ということは私が向こうの世界に戻るのは真夏Bの予定のうちにあるわけだ。
私がターゲットだった場合、その理由はこちらで何かをさせたいか、もしくは向こうの世界から一時的に遠ざけたかったかの二択。
とすると武山さんに聞いておかなければならない事がある。
一つ聞きたいのだけど、私って元の世界に戻れるんだよね?
武山さんの話では多少の準備は必要だけど魂を戻すのは比較的簡単という話だった。
なのであまり心配はしてなかったのだけど、こうなってくるとその『多少の準備』というところに鍵がある気がしてくる。真夏Bから何をしろというような指示がなかった以上、元の世界に戻るまでに私が必ずしなければならない行動こそが彼女の目的、もしくは彼女が稼ぎたいだけの時間を稼ぐ方法だと考えられるからだ。
「もちろん戻れるよ。オレが協力すれば、ね」
ん?
なんか言い方が引っかかった。まさか協力しないって選択肢があるとか思ってないだろうな。
けれど考えてみれば彼女にとって現状は望ましいもののはずだ。それは本人も言っているし、こちらの世界に来てからこっちの武山さんの態度にも露骨に表れている。
とするとこれは…………先手を打っておかねばなるまい。
今私、精神的にすごおぉい参ってるから、協力してもらえたらクラっと来ちゃうかもな~。
「くっ…………そんな露骨な釣り針に引っかかるオレだと思っているのか」
言葉ではカッコイイ事を言う武山さんだったが、目が泳いで頭の中でいろんな計算が走っているのが見て取れた。
うむ。大丈夫そうである。
これ以上深追いするとヘソを曲げられる可能性があるのでひとまずこれで良い。そんな事をしなくても心に植えた種はすぐに芽吹いてくれるだろう。
私は表情を引き締めると先ほどの私の考えを武山さんに話し、意見を求める事にした。
幽霊の正体見たり枯れ尾花
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